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南部辺境遠征編

096 カナタ、混成軍で出陣する

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 ライジニアで獣車を止められる宿をとると、サキにクヮァの世話とアリバイを任せて、カナタとニクは早速グラスヒルの屋敷へと転移で帰った。

「ただいまー」

「「お帰りなさい(ませ)。ご主人さま」」

 屋敷ではカリナとキキョウが夕食を作っているところだった。
丁度そこにガチャ屋を閉めた面々が屋敷へと戻って来る。

「ご主人さま、帰ってたんだ」

「「「おみやげは~?」」」

「ごめん、間の街には寄らなかったんだ。
とりあえずこれでも食べて」

 ヨーコとララ、そしてレナといった食いしん坊のために、カナタはアイテムガチャで出た高級ミノタウロス肉と高級メロンを取り出した。
この高級ミノ肉がガチャから出る限り、カンザスミノ肉なんか要らなかったとカナタは再認識した。
いかにカンザスで無駄な時間を過ごしたのか、カナタは後悔するのだった。
所詮偽物は偽物、本物を超えることは無いのだ。

「わーい、カリナ、ミノ肉のステーキ追加ね」

コクコク←頷く外野

 夕食のおかずが一品増えた。


 皆で楽しく食事をして、食後には高級メロンが出た。

「ミノ肉と高級メロンはサキにも食べさせたいから包んでね」

「かしこまりました」

 カナタは食後の紅茶を啜りながら雑談をし、頃合いかなと皆に報告をすることにした。

「皆に良い報告が二つと悪い報告が一つあります。
まず良い方。
今日、国境の領地であるライジン辺境伯領の領都ライジニアに到着しました」

「「「「「おぉ!」」」」 ぱちぱちぱち

 皆が感嘆の声をあげ、お祝いの拍手をする。

「そして、転移のレベルが上がって携行人数が3人になりました」

「「「「「おぉ!」」」」 ぱちぱちぱち

「はい、はい! ご主人さま、今度は私を連れて行って!」

 ララが元気よく手を挙げた。

「ごめん。それは出来ないんだ」

 しかし、カナタは事情によりララを連れて行くわけにはいかなかった。
一方的に断られて落ち込むララにカナタは優しく語りかけた。

「ごめん、ララの件にも関係があるので先に悪い報告をさせてもらうよ。
ライジニアの冒険者ギルドで緊急招集に巻き込まれました。
なので、安全上これ以上のメンバーを一緒に連れて行くわけにはいきません」

「なら、せめて護衛としてレナを連れて行ってください」

 キキョウがカナタを心配して言う。
確かに戦闘職のレナが同行すればカナタの身の安全は増々保障されるだろう。

「でも、それではお店の護りが手薄になる。
それは出来ない」

「そうでした……」

 キキョウもそれは理解しているので、折れるしかなかった。

「大丈夫、ニクとサキがいれば心配ない。
それにDランク冒険者に望む仕事なんて大したことないから」

 事実そうだった。
Dランクなんて後方の荷物運び程度にしか期待されてはいないのだ。

「わかりました。ご武運をお祈りします」

「よし、そろそろライジニアに帰るからね」

 悪い空気を一掃するために、カナタは早々にライジニアへと戻ることにした。

「それじゃ、行軍中は戻れないかもしれないけど、これだけあれば大丈夫かな?」

 カナタは【ロッカー】からアイテムガチャで出たアイテムを大量に出した。
あの1000連ガチャで出した余り分なので、これでアイテム販売も数日は持つだろう。 

「じゃあ、行ってくるね」

 カナタとニクはライジニアの宿に転移で帰った。

「む? 美味しそうな肉とメロンの匂い!」

 宿の部屋に到着早々、サキに夕食のメニューを嗅ぎつけられた。

「大丈夫、ここに……あ、忘れて来ちゃった」

 サキのミノ肉ステーキと高級メロンは屋敷のキッチンに置きっぱなしだった。
カナタはサキへのお土産をもう一度屋敷に戻って取って来るのだった。
こんなに無駄に転移出来るのも大量にある魔力と回復力の賜物だった。

 カナタはこの感じなら転移で実家に戻れるのではないかと気付いたが、実家で最大級の呪いの影響を受けてしまったら、グラスヒルの屋敷に戻って来れないと気付き、実家に戻ることを保留にしていた。
転移で戻るなら、全員を連れて行けるまでレベルを上げて、グラスヒルの屋敷に戻って来ないぐらいの覚悟が必要だった。
雇った奴隷に――いや新しい家族に対する責任がカナタにはあったのだ。


◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 翌朝、カナタはクヮァの獣車に乗って南門の混成軍の集合場所にやって来た。
そこには既に領軍と冒険者が集まって来ていた。
装備を見る限り、どうやら右が領軍で左が冒険者の集団のようだ。
カナタたちは冒険者の集団へと合流した。

「皆、注目してくれ。
俺はAランクパーティー『紅龍の牙』のリーダーでディーンという。Sランク冒険者だ。
今回、ライジン辺境伯様とギルドマスターに冒険者の纏め役を依頼された。
今後、冒険者の皆は俺の指揮に従ってもらいたい」

 『紅龍の牙』はここらへんでは有名パーティーらしく、冒険者から異議は唱えられなかった。

「あ、あの高ランク冒険者さんだ」

 カナタは見知った冒険者が指揮役でなんだか嬉しかった。
一度会っただけで別に大して仲が良いわけでもないのに不思議な感情だった。

「とりあえず、自前の馬車が無い者は、辺境伯様が用意した馬車に分乗して欲しい。
ガーディアまでは馬車で5日かかる。相性の悪いとわかっている奴は別れて乗るように」

 ディーンの最後の言葉は冒険者お約束のジョークだった。
冒険者の間に笑いが起きる。
だがこれはリアルに面倒事となるので避けるべき暗黙の了解だった。

「自前の馬車で乗車人数に余裕のある者は申し出てくれ。
同乗させてもらう場合がある」

 カナタの獣車は小型なので御者含めて4人しか乗れなかった。
だが、カナタ、ニク、サキで3人しか乗っていなかったので、1人余裕があった。
カナタが正直に申し出たため、1人同乗させることになった。

「あら、君の獣車だったのね?」

 カナタの獣車に同乗することになったのは、『紅龍の牙』の魔法職のお姉さんだった。

「ほとんど初めましてね。
私の名前はセレーン、Aランク冒険者よ。
仲良くしてね♡」

「カナタです。Dランクです。
こっちはEランクのサキにDランクのニク」

「え? (ニク――性奴隷の俗称――ですって? やだこの年齢で?)」

 セレーンは成大な勘違いをして身もだえた。
この人はショタの気があるのかもしれない。

 セレーンによると『紅龍の牙』が持っている獣車には、ギルドのお偉いさんが同乗することになったんだそうだ。
そのせいでセレーンがあぶれてしまい、同程度の速度の出るカナタの獣車に割り振られる事になったのだ。
つまり、カナタの獣車は指揮中枢と行動を共にすることになってしまったのだった。
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