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南部辺境遠征編
082 カナタ、生産でも儲ける
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「それでは、領主様をお通しします」
宿屋の女将がオレンジ男爵をカナタたちの部屋にまで案内して来た。
男爵に訪ねられて帰れと言えるほど、カナタたちには強気に出られるだけの理由も権力もなかったからだ。
何の用事なのか、カナタに思い当たることは盗賊と犯罪組織の件以外には何もなかった。
「悪いね。急に押しかけちゃって。
私がこのオレンジ領の領主のミハエル=ジエイ=オレンジ男爵だ。
ミハエルと呼んで欲しい。
ここは果物が特産で、スイーツが美味しい領地なんだ。
まあ、これでも食べてくれ。おい」
オレンジ男爵は執事を呼んでお土産を持って来させた。
それはこの領で評判の高級スイーツ店の数量限定スイーツだった。
サキの眼の色が変わり生唾を飲み込む音がする。
「ありがとうございます。僕はカナタと申します。
2人は護衛のニクとサキです。
(サキやめてくれ、恥ずかしいじゃないか……)」
カナタはスイーツを受け取ると、そのまま何気なく冷蔵庫の扉を開いて中に入れた。
その様子をじっとオレンジ男爵が見ていた。
カナタはそれをサキの食いしん坊を見とがめられたせいだとばかり思っていた。
カナタがスイーツを仕舞い込んだのは、ザイードに睡眠薬を盛られた教訓からだった。
どんな相手が敵に回るかわからないので、他所様の贈り物は疑ってかかることにしたのだ。
サキみたいに飛びついてしまっては、もしそれが睡眠薬でなく致死性の毒だったならば、取り返しのつかないことになっていたのだ。
ザイードが保身で自分の関与を隠そうとしたために混入されたのは睡眠薬だったが、もし最初から殺すつもりだったらサキは既にこの世にいなかったかもしれなかった。
なので、もらったからと言ってその場で食べたりせずに後で鑑定をかける方針だったのだ。
カナタは【鑑定】のスキルを持っていない。
しかし、【魔力探知】と【図鑑】のスキルを併用すると、その対象物関係限定の図鑑を作ることが出来た。
例えば、魔力探知でスイーツを調べて図鑑を作ったとする。
するとその図鑑には、スイーツの精密画とともにスイーツの味や成分などの詳細が解説として載るのだ。
そして、その詳細解説には、毒物の混入などもしっかり書かれることになる。
これは【鑑定】スキルを使ったに等しかった。
「今日はどのような御用件で?」
カナタはとりあえず用件だけは聞くことにした。
「まずは此処の領地に巣食っていた犯罪組織壊滅の協力に感謝する」
「あ、いえ、僕たちは降りかかった火の粉を払っただけでして、感謝されるようなことは……」
そんな礼を言うために領主である男爵が宿屋にまで足を運ぶのかと、カナタは戸惑った。
カナタはオレンジ男爵の用事がそんなものではないということを察して言葉を続けた。
「それだけで来られたというわけではありませんよね?」
カナタの指摘に、男爵も堅い表情を崩して言う。
「まあ、それも大事な話だったんだが……。
これは単刀直入に言うべきか」
男爵が何かブツブツ呟きながらも、意を決したのか、言葉も崩し来訪の理由を打ち明けた。
「ザイードの荷は、今はカナタ君のものになっているだろ?
その中にある冷蔵の魔導具を売ってもらいたいんだ」
なんとオレンジ男爵の目的はザイードの荷にある商品だった。
オレンジタウンでは、スイーツの店が繁盛し、王都でも有名となっていた。
しかし、その供給量はある理由のせいで頭打ちとなっていたのだ。
それこそがスイーツに使われている生クリームやカスタードの鮮度問題だった。
新鮮な材料を暑くならないうちに加工し痛まないうちに売り切る。
それが供給量に足かせをかけていたのだ。
そこでオレンジ男爵は公的な冷蔵施設の運営を計画し、領地の繁栄に一役買おうとしていたのだった。
幾人かの商人に冷蔵の魔導具の手配を頼んでいたのだが、やっとオレンジタウンにその魔導具を持ち込む商人が現れた。
それがザイードだった。
オレンジ男爵は冷蔵の魔導具の購入をザイードに打診した。
しかし、ザイードが通常の販売額の倍の金額を提示して来たため、この話は流れることになった。
オレンジ男爵はザイードに足元を見られたのだ。
盗賊がザイードを狙ったのも、冷蔵の魔導具を横流しするためだったのかもしれなかった。
今となっては、ザイードは犯罪組織の一員とみなされているので、本当はどうだったのかは不明なのだが……。
その荷がザイードの手を離れて、いまカナタの所有となっていた。
それを適正価格で売って欲しいというのが、オレンジ男爵の願いだった。
「冷蔵の魔導具? そんなものリストに……あった。
でも、業務で使うような大きさのものは無いですよ?」
おそらくザイードはこの小さな魔導具でお茶を濁しておいて契約を勝ち取ったら商品を手配しようとしていたのだろう。
物が手元になくても売ってしまい、納入期限を超えてしまうと言い訳ばかりで、納入を先延ばしするという汚い手口だ。
「なるほど、それがその箱なんだね?」
オレンジ男爵が指さしたのは、カナタが製作した冷蔵庫だった。
「あ!」
カナタは、自分がスイーツを仕舞い込んだことで、冷蔵庫が冷蔵の魔道具であることをオレンジ男爵に教えてしまっていたと今気づいた。
そして、大きな誤解を生んだことを知った。
「これは、僕が作った魔道具です。
僕はまだザイードの荷を商業ギルドの差し押さえから受け取っていないんです」
「え!?」
カナタの言葉にオレンジ男爵は驚いた後、その言葉の意味することに気付いて顔を紅潮させて興奮した。
「つまり、カナタ君は冷蔵の魔導具を他にも作れるんですね?」
外から運んで来るには時間がかかるが、カナタにここで製造していもらえばいくらでも入手可能だ。
オレンジ男爵はその事実に狂喜した。
これでこの領地の更なる発展が約束されるのだから。
まだカナタが冷蔵庫製造を請け負っていないのに、先走りすぎなのだが……。
そして、カナタはある重要なことを指摘しなければならなかった。
「男爵、僕が創ったのは”魔・道具”で”魔導・具”ではないんですよ?」
その事実は驚愕でしかなかった。
魔導・具は魔宝石と燃料石を使った高価なものだが、魔・道具であれば属性石を使った比較的安価なものとなる。
オレンジ男爵は震える手をカナタに伸ばしながら問いかける。
「まさか、属性石の魔力で動くのか……」
「ええ、魔力も節約するように創りましたので」
オレンジ男爵がその事実に仰け反る。
魔宝石を使わないだけで、コストが1/100になるのだ。
「それは氷の属性石を使っているのか?」
「うん? 水の属性石ではないのかな?」
カナタはこの時、初めて自分が造った属性石に【魔力探知】と【図鑑】をかけた。
「あ、氷の属性石みたい」
氷の属性石は水の属性石の上位に位置する比較的高価な部類だが、魔宝石に比べたら遥かに安いものだった。
「それでも充分安く作れるはずだ。
今のうちに氷の属性石を調達しておくべきか……」
オレンジ男爵の頭の中には領地発展の思いしかなかった。
そして、ある重要なことを忘れていたことに気付く。
「カナタ君、ぜひその魔・道具を売って欲しい」
それはカナタの販売許可を得ることだった。
もはや、ザイードが持ち込んだ低性能で高価格な冷蔵の魔導・具など時代遅れのゴミだったのだ。
宿屋の女将がオレンジ男爵をカナタたちの部屋にまで案内して来た。
男爵に訪ねられて帰れと言えるほど、カナタたちには強気に出られるだけの理由も権力もなかったからだ。
何の用事なのか、カナタに思い当たることは盗賊と犯罪組織の件以外には何もなかった。
「悪いね。急に押しかけちゃって。
私がこのオレンジ領の領主のミハエル=ジエイ=オレンジ男爵だ。
ミハエルと呼んで欲しい。
ここは果物が特産で、スイーツが美味しい領地なんだ。
まあ、これでも食べてくれ。おい」
オレンジ男爵は執事を呼んでお土産を持って来させた。
それはこの領で評判の高級スイーツ店の数量限定スイーツだった。
サキの眼の色が変わり生唾を飲み込む音がする。
「ありがとうございます。僕はカナタと申します。
2人は護衛のニクとサキです。
(サキやめてくれ、恥ずかしいじゃないか……)」
カナタはスイーツを受け取ると、そのまま何気なく冷蔵庫の扉を開いて中に入れた。
その様子をじっとオレンジ男爵が見ていた。
カナタはそれをサキの食いしん坊を見とがめられたせいだとばかり思っていた。
カナタがスイーツを仕舞い込んだのは、ザイードに睡眠薬を盛られた教訓からだった。
どんな相手が敵に回るかわからないので、他所様の贈り物は疑ってかかることにしたのだ。
サキみたいに飛びついてしまっては、もしそれが睡眠薬でなく致死性の毒だったならば、取り返しのつかないことになっていたのだ。
ザイードが保身で自分の関与を隠そうとしたために混入されたのは睡眠薬だったが、もし最初から殺すつもりだったらサキは既にこの世にいなかったかもしれなかった。
なので、もらったからと言ってその場で食べたりせずに後で鑑定をかける方針だったのだ。
カナタは【鑑定】のスキルを持っていない。
しかし、【魔力探知】と【図鑑】のスキルを併用すると、その対象物関係限定の図鑑を作ることが出来た。
例えば、魔力探知でスイーツを調べて図鑑を作ったとする。
するとその図鑑には、スイーツの精密画とともにスイーツの味や成分などの詳細が解説として載るのだ。
そして、その詳細解説には、毒物の混入などもしっかり書かれることになる。
これは【鑑定】スキルを使ったに等しかった。
「今日はどのような御用件で?」
カナタはとりあえず用件だけは聞くことにした。
「まずは此処の領地に巣食っていた犯罪組織壊滅の協力に感謝する」
「あ、いえ、僕たちは降りかかった火の粉を払っただけでして、感謝されるようなことは……」
そんな礼を言うために領主である男爵が宿屋にまで足を運ぶのかと、カナタは戸惑った。
カナタはオレンジ男爵の用事がそんなものではないということを察して言葉を続けた。
「それだけで来られたというわけではありませんよね?」
カナタの指摘に、男爵も堅い表情を崩して言う。
「まあ、それも大事な話だったんだが……。
これは単刀直入に言うべきか」
男爵が何かブツブツ呟きながらも、意を決したのか、言葉も崩し来訪の理由を打ち明けた。
「ザイードの荷は、今はカナタ君のものになっているだろ?
その中にある冷蔵の魔導具を売ってもらいたいんだ」
なんとオレンジ男爵の目的はザイードの荷にある商品だった。
オレンジタウンでは、スイーツの店が繁盛し、王都でも有名となっていた。
しかし、その供給量はある理由のせいで頭打ちとなっていたのだ。
それこそがスイーツに使われている生クリームやカスタードの鮮度問題だった。
新鮮な材料を暑くならないうちに加工し痛まないうちに売り切る。
それが供給量に足かせをかけていたのだ。
そこでオレンジ男爵は公的な冷蔵施設の運営を計画し、領地の繁栄に一役買おうとしていたのだった。
幾人かの商人に冷蔵の魔導具の手配を頼んでいたのだが、やっとオレンジタウンにその魔導具を持ち込む商人が現れた。
それがザイードだった。
オレンジ男爵は冷蔵の魔導具の購入をザイードに打診した。
しかし、ザイードが通常の販売額の倍の金額を提示して来たため、この話は流れることになった。
オレンジ男爵はザイードに足元を見られたのだ。
盗賊がザイードを狙ったのも、冷蔵の魔導具を横流しするためだったのかもしれなかった。
今となっては、ザイードは犯罪組織の一員とみなされているので、本当はどうだったのかは不明なのだが……。
その荷がザイードの手を離れて、いまカナタの所有となっていた。
それを適正価格で売って欲しいというのが、オレンジ男爵の願いだった。
「冷蔵の魔導具? そんなものリストに……あった。
でも、業務で使うような大きさのものは無いですよ?」
おそらくザイードはこの小さな魔導具でお茶を濁しておいて契約を勝ち取ったら商品を手配しようとしていたのだろう。
物が手元になくても売ってしまい、納入期限を超えてしまうと言い訳ばかりで、納入を先延ばしするという汚い手口だ。
「なるほど、それがその箱なんだね?」
オレンジ男爵が指さしたのは、カナタが製作した冷蔵庫だった。
「あ!」
カナタは、自分がスイーツを仕舞い込んだことで、冷蔵庫が冷蔵の魔道具であることをオレンジ男爵に教えてしまっていたと今気づいた。
そして、大きな誤解を生んだことを知った。
「これは、僕が作った魔道具です。
僕はまだザイードの荷を商業ギルドの差し押さえから受け取っていないんです」
「え!?」
カナタの言葉にオレンジ男爵は驚いた後、その言葉の意味することに気付いて顔を紅潮させて興奮した。
「つまり、カナタ君は冷蔵の魔導具を他にも作れるんですね?」
外から運んで来るには時間がかかるが、カナタにここで製造していもらえばいくらでも入手可能だ。
オレンジ男爵はその事実に狂喜した。
これでこの領地の更なる発展が約束されるのだから。
まだカナタが冷蔵庫製造を請け負っていないのに、先走りすぎなのだが……。
そして、カナタはある重要なことを指摘しなければならなかった。
「男爵、僕が創ったのは”魔・道具”で”魔導・具”ではないんですよ?」
その事実は驚愕でしかなかった。
魔導・具は魔宝石と燃料石を使った高価なものだが、魔・道具であれば属性石を使った比較的安価なものとなる。
オレンジ男爵は震える手をカナタに伸ばしながら問いかける。
「まさか、属性石の魔力で動くのか……」
「ええ、魔力も節約するように創りましたので」
オレンジ男爵がその事実に仰け反る。
魔宝石を使わないだけで、コストが1/100になるのだ。
「それは氷の属性石を使っているのか?」
「うん? 水の属性石ではないのかな?」
カナタはこの時、初めて自分が造った属性石に【魔力探知】と【図鑑】をかけた。
「あ、氷の属性石みたい」
氷の属性石は水の属性石の上位に位置する比較的高価な部類だが、魔宝石に比べたら遥かに安いものだった。
「それでも充分安く作れるはずだ。
今のうちに氷の属性石を調達しておくべきか……」
オレンジ男爵の頭の中には領地発展の思いしかなかった。
そして、ある重要なことを忘れていたことに気付く。
「カナタ君、ぜひその魔・道具を売って欲しい」
それはカナタの販売許可を得ることだった。
もはや、ザイードが持ち込んだ低性能で高価格な冷蔵の魔導・具など時代遅れのゴミだったのだ。
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