上 下
70 / 204
ガチャ屋開業編

070 カナタ、決意する

しおりを挟む
 鉱山ダンジョンの入り口に戻って来るまでに、カナタ一行はストーンゴーレムを追加で10体倒していた。
ストーンゴーレムは大銅貨数枚とガチャオーブをドロップしていた。
今回のカナタ一行の収入は、Nオーブ×53、HNオーブ×60と大銅貨94枚、銅貨256枚だった。
ストーンゴーレム30体とマッドゴーレム1体、その他獣系魔物を82匹倒した結果だ。
冒険者の倣いとして、Nオーブを100DG、HNオーブを1000DGに換算して計算すると、硬貨と合わせて7万4956DGということになる。
カナタ一行は、1日の宿泊料に銀貨32枚――3万2000DG――を使用しているので、黒字ということになる。

 しかし、カナタの裏技である携帯ガチャ機を使うと、NオーブはHNオーブに、HNオーブはRオーブ――1万DG換算――に1UPするのだ。
その結果、合計予想額は66万2656DGとなる。
これはガチャ屋での1日の収入が16万DG程度だったので、なんと4倍以上の結果だ。
しかも、ガチャオーブを開いた結果が反映されていないので、カナタの幸運値ならとんでもない結果となりかねない。
オーブの金額換算は、経験則から来る最低金額であるのだ。
それより低い金額の物が出ることもあるが、概ねそれ以上が約束されている。

「来て良かった。HNオーブが手に入った。
これを携帯ガチャ機に装填したら、Rオーブがゲットできる!」

 また知らないはずの知識でゲットなどと口走ってしまうカナタだったが、これは重要な点だった。
継続的にHNオーブが手に入れば、1UPでRオーブが手に入るのと同じなのだ。
Rオーブから出て来るアイテムの相場は1万~10万DGは固い。
2つでガチャ屋1日の収入を超えることすら有り得るのだ。

「ご主人さま、でもHNオーブがドロップしたのは、ご主人さまが倒した魔物だけですよ?
私とニクさんが倒した魔物はNオーブしかドロップしてません。
それに普通の冒険者たちは、DGしかドロップしないこともザラだそうですよ?」

 ヨーコが言う通り、ここにもカナタでなければならないという弊害があった。
ガチャ屋の運営もカナタがいないとハズレガチャからアイテム補充が出来ない。
鉱山ダンジョンでのオーブ獲得もカナタでなければ高レアリティのオーブは望めない。
そして、グリーンバレーでのハズレオーブ回収もカナタの【転移】と【ロッカー】が必要だった。
どれもカナタ有りきで、カナタが居なければ何も出来ない状態だった。

「この構造はどうにかしないと、ガチャ屋を開いた根本的な部分に関わるね……」

 カナタは気付いてしまった。
今一番お荷物になっているのはガチャ屋だと。
ガチャ屋を開くために店員が必要で、その生活基盤を支えるためのお屋敷を管理するメイドが必要になり、さらにその護衛が必要になっている。
もしかしなくても、お店=屋敷の購入代金に奴隷の購入代金、それをそのまま持っていれば、別に慌ててお金を稼がなくても良かったのだ。
冒険者として普通に宿屋をとり、我が家――ファーランド領――へと帰る旅をすれば良かった。
ララとルルは行きがかり上生活の責任を取らなければならなかったろうが、ファーランド家に帰れば、いくらでも仕事は与えられた。

「よし、これからはスキルを使って僕の能力をみんなに分け与えるようにしよう。
スキルガチャ連発で錬金術やら付与魔法なんて手に入れたから出来るはずだ」

 しかし、カナタは全てを投げ出すような考えには至らなかった。
ガチャ屋を開いた責任、奴隷を雇った責任はカナタ自身にある。
だったら、カナタが居なければ回らないという現状を変えればいい。
そうカナタは思ったのだ。
家に帰るというのがカナタの第一目標だったが、別に帰れなくても連絡さえ取れれば良いとカナタは思うようになった。
むしろ、父親――呪い――と離れている現状は、今まで生きてきた中で一番体調が良かったのだ。
いつか、父親の呪いを解くアイテムが手に入るかもしれない。
その時まで、カナタは家出を続けても良いかと思っていた。

「あ、(確かエリクサーって手に入ったよね?)あれで父様の呪いって治らないのかな?」

 しかし、エリクサーを他人の手に委ねるわけにはいかなかった。
領の境界でたまたま荷を調べられ、鑑定した結果がエリクサーだったなら、人を殺してでも奪おうとするのがエリクサーだ。
その存在が知られてしまえば、エリクサーを奪うために国家間で戦争が起きかねないレベルのものなのだ。
人を助けるはずの神話級ポーションが、それ以上の人に死を齎すことになる。
なんとも困った存在だった。
こんな危険なものは、他人には任せずにカナタ自身が実家まで届ける必要があった。
カナタなら【ロッカー】内に秘匿して運べるのだ。

「どうしよう。実家に帰ろうか?
いや、僕には皆を養う義務がある。
それが奴隷を雇った者の責任なんだ」

 カナタは、実家に帰るよりグラスヒルで生活することを選んだ。
そしてガチャ屋の経営をカナタ無しでも軌道に乗せる。
新たな目標に向けカナタは進むことを決めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...