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遠征編
157 遠征編22 ニアヒューム捕獲作戦
しおりを挟む カイルに有機型機械人形の可能性を伝えたところ、極秘扱いにするように指示された。
『それを聞いて、あのニアヒューム汚染の中で、なぜイーサンだけが無事だったのか納得したよ』
『え? カイルは気付いていたの?」
『イーサンを僕たちの目の前で半裸にして調べただろ?』
『うん、それがニアヒュームの機械人形を識別する唯一の手段だったからね』
あの時は有機型の存在なんか気づいていなかったから、首から下が機械化されていればアウトという感覚だった。
『ヘンリーを全裸検査した後で、もしやとイーサンも全裸検査したんだよ』
ああ、イーサンには、そこまではさせていなかったからカイルも不安になって調べていたのか。
『イーサンが有機型機械人形にされているなら、例えカメラの前でも僕にあえて全裸を晒した理由がよくわかる。
あの行動はプライドの高いあいつにしては違和感があったんだ。
本来のあいつなら例え疑われていてもゴネるのがあいつの性格なんだ。
自分は有機型なので隠蔽できると、あえて機械化されていない身体を堂々と見せて来たんだ。
それと有機型が存在するならヘンリーの疑いも晴れていないことになる。
秘密裏に調査しよう。これは彼らに気取られる事無く進めなければならない』
確かにイーサンやヘンリーが汚染されていたとしたら、帝国は大混乱に陥ることになるだろう。
迂闊だったのはニアヒュームを識別出来る可能性のある波長をみつけたことを、彼ら皇子には先に教えてしまったことだ。
彼らに対しては既に確かめる術は無くなったと見ていい。
新たな識別方法をみつけるしかない。
新たな識別方法をみつけるためにも、サンプルが必要になった。
ニアヒュームのコアを捕獲し調べる必要がある。
しかしコアには強力な感染力がある。これを封じ込める手段は無いものかと思案する。
そこで思いついたのが反物質粒子砲の反物質カートリッジだ。
内向きの停滞フィールドでがっちり捕まえるのでコアの物理的な侵食手段であるケーブルを押え込めるかもしれない。
ニアヒュームのコアが他者を汚染する時に伸長させるケーブルの速度では、反物質カートリッジの強力な停滞フィールドを抜くことは出来ないだろう。
反物質カートリッジの停滞フィールドは艦載用の停滞フィールドとはわけが違う。
一つ間違えれば対消滅反応で大爆発に至る危険物を閉じ込めるのだ。
その安全性を担保するために信じられないほど強力な停滞フィールドが張られている。
反物質カートリッジに入れる方法は反物質の捕獲と同じく転送を使えばいいだろう。
「あとはサンプルとなるニアヒュームをみつけるだけだな」
僕は粛々とニアヒューム捕獲作戦を開始した。
ニアヒューム汚染なんかが広がっていないことを願いながら。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
各星系ではニアヒュームの星系進入を防ぐために、各星系にある次元跳躍門では特殊波長による識別検査が行われていた。
そこでついに初のニアヒューム進入が観測された。
その連絡を受けた僕は次元跳躍を使い、そのベリル星系に直ぐに駆けつけた。
目の前のそれは民間船の1隻に寄生した形で発見された。
由々しき事態だ。民間船ということは直接戦闘で寄生されたのではなく、二次感染三次感染と感染が進んでいることを示すからだ。
幸いなのは、まだ特殊波長による識別が有効なことだ。
民間船は推進器を破壊され浮遊している。
ときおりケーブルを伸長して感染を謀るが充分に距離を取った戦闘艦のビーム攻撃により感染は防がれていた。
そのうちケーブルに利用する資源が尽きたのか、船体をスカスカにすると沈黙したようだ。
『この船が過去に寄港した星系はわかっているんだよね?』
僕はこのペリル星系の担当官に質問する。
彼は皇帝代理の勅書――電子的なもの――を示し、代官に話を通して得た現地担当官だ。
『はい。
記録によると第2皇子殿下の支配星系であるアルド星系から第3皇子殿下の主星系スィリー星系を経由。
そしてこのペリル星系に来たようです。所属はアルド船籍です』
ガチガチの疑惑星系を通っているわけか。
『となるとスィリー星系で感染してここに来たか、アルド星系で感染してスィリー星系がスルーしたかという感じか』
第3皇子領アウトじゃん。スィリー星系は名目上はきちんと侵入防止策を行なっているはずだからね。
きちんと調査しているなら、もしニアヒュームに感染した船がアルド星系からやって来たら、その時点でニアヒュームは発見されているはずだ。
また、スィリー星系でニアヒュームに感染してそのまま他星系に移動させたなら完全にアウトだ。
いやイーサンがアホで何も対策をとっていなくてスルーさせたという可能性もあるか。
その場合は、第3皇子領の責任にするために、ヘンリーがあえて経由させたのかもしれない。
疑ったらキリがないな。少なくとも第3皇子領は感染チェックがザルだと確定か。
『まあ、どっちにしろ感染経路はこちらで精査します。
皇子領じゃ皇帝代理の命令で動くしかないわけですし』
とりあえずカイルに報告を入れて調べてもらおう。
「さてと。コアを捕獲するか」
目の前の民間船は船体がスカスカになりコアが良く見えている。
感染ケーブルを作る資源は有限なので、船体を食いながら損失したケーブルを補填していった結果スカスカになったのだ。
僕は反物質カートリッジを次元格納庫から出し宇宙空間に浮遊させる。
そこから一定の距離を保ち転送装置を起動してコアを反物質カートリッジ内に転送した。
捕獲完了。しばらく観測するとコアがケーブルを出して突破しようとしたようだが停滞フィールドに阻まれる。
どうやら封じ込めに成功したようだ。
僕は同様の事を繰り返しコアを5つ捕獲した。
戦闘艦、民間船、輸送艦、船の種類を問わずニアヒュームは感染していた。
だが、その航路には必ずと言って良いほどに第2皇子領と第3皇子領が関わっていた。
第3皇子領は僕とカイルと帝国正規軍で掃除したはずなんだが、その後別ルートで再感染し感染が広がっているのかもしれない。
皇帝代理になったカイルは各皇子に自らの星系守護を命じていた。
それは表の目的であったが、裏の目的は各皇子を星系に縛り付け移動を禁止するためでもあった。
誰とは言わないがへたに移動されて感染を広げることを危惧したからだ。
ちなみに僕はニアヒューム対策担当を命じられているので自由に動き回れる。
首尾よくコアを入手した。後は調査だ。
僕は入手したコアの調査をある人達に委託した。
それは真・帝国と、あのゲルン星系の研究所だ。
真・帝国に残っている現帝国では失われてしまった科学力が役に立つだろう。
ゲールもマッドだが有能だ。
有機体でも機械でも精神生命というレベルでは同列に扱えるだろう。
ニアヒュームの生体や言語、思想などが判明すれば対処しやすい。
人類の天敵、相容れぬ存在と呼ばれる者達は何を考えているのだろうか?
『それを聞いて、あのニアヒューム汚染の中で、なぜイーサンだけが無事だったのか納得したよ』
『え? カイルは気付いていたの?」
『イーサンを僕たちの目の前で半裸にして調べただろ?』
『うん、それがニアヒュームの機械人形を識別する唯一の手段だったからね』
あの時は有機型の存在なんか気づいていなかったから、首から下が機械化されていればアウトという感覚だった。
『ヘンリーを全裸検査した後で、もしやとイーサンも全裸検査したんだよ』
ああ、イーサンには、そこまではさせていなかったからカイルも不安になって調べていたのか。
『イーサンが有機型機械人形にされているなら、例えカメラの前でも僕にあえて全裸を晒した理由がよくわかる。
あの行動はプライドの高いあいつにしては違和感があったんだ。
本来のあいつなら例え疑われていてもゴネるのがあいつの性格なんだ。
自分は有機型なので隠蔽できると、あえて機械化されていない身体を堂々と見せて来たんだ。
それと有機型が存在するならヘンリーの疑いも晴れていないことになる。
秘密裏に調査しよう。これは彼らに気取られる事無く進めなければならない』
確かにイーサンやヘンリーが汚染されていたとしたら、帝国は大混乱に陥ることになるだろう。
迂闊だったのはニアヒュームを識別出来る可能性のある波長をみつけたことを、彼ら皇子には先に教えてしまったことだ。
彼らに対しては既に確かめる術は無くなったと見ていい。
新たな識別方法をみつけるしかない。
新たな識別方法をみつけるためにも、サンプルが必要になった。
ニアヒュームのコアを捕獲し調べる必要がある。
しかしコアには強力な感染力がある。これを封じ込める手段は無いものかと思案する。
そこで思いついたのが反物質粒子砲の反物質カートリッジだ。
内向きの停滞フィールドでがっちり捕まえるのでコアの物理的な侵食手段であるケーブルを押え込めるかもしれない。
ニアヒュームのコアが他者を汚染する時に伸長させるケーブルの速度では、反物質カートリッジの強力な停滞フィールドを抜くことは出来ないだろう。
反物質カートリッジの停滞フィールドは艦載用の停滞フィールドとはわけが違う。
一つ間違えれば対消滅反応で大爆発に至る危険物を閉じ込めるのだ。
その安全性を担保するために信じられないほど強力な停滞フィールドが張られている。
反物質カートリッジに入れる方法は反物質の捕獲と同じく転送を使えばいいだろう。
「あとはサンプルとなるニアヒュームをみつけるだけだな」
僕は粛々とニアヒューム捕獲作戦を開始した。
ニアヒューム汚染なんかが広がっていないことを願いながら。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
各星系ではニアヒュームの星系進入を防ぐために、各星系にある次元跳躍門では特殊波長による識別検査が行われていた。
そこでついに初のニアヒューム進入が観測された。
その連絡を受けた僕は次元跳躍を使い、そのベリル星系に直ぐに駆けつけた。
目の前のそれは民間船の1隻に寄生した形で発見された。
由々しき事態だ。民間船ということは直接戦闘で寄生されたのではなく、二次感染三次感染と感染が進んでいることを示すからだ。
幸いなのは、まだ特殊波長による識別が有効なことだ。
民間船は推進器を破壊され浮遊している。
ときおりケーブルを伸長して感染を謀るが充分に距離を取った戦闘艦のビーム攻撃により感染は防がれていた。
そのうちケーブルに利用する資源が尽きたのか、船体をスカスカにすると沈黙したようだ。
『この船が過去に寄港した星系はわかっているんだよね?』
僕はこのペリル星系の担当官に質問する。
彼は皇帝代理の勅書――電子的なもの――を示し、代官に話を通して得た現地担当官だ。
『はい。
記録によると第2皇子殿下の支配星系であるアルド星系から第3皇子殿下の主星系スィリー星系を経由。
そしてこのペリル星系に来たようです。所属はアルド船籍です』
ガチガチの疑惑星系を通っているわけか。
『となるとスィリー星系で感染してここに来たか、アルド星系で感染してスィリー星系がスルーしたかという感じか』
第3皇子領アウトじゃん。スィリー星系は名目上はきちんと侵入防止策を行なっているはずだからね。
きちんと調査しているなら、もしニアヒュームに感染した船がアルド星系からやって来たら、その時点でニアヒュームは発見されているはずだ。
また、スィリー星系でニアヒュームに感染してそのまま他星系に移動させたなら完全にアウトだ。
いやイーサンがアホで何も対策をとっていなくてスルーさせたという可能性もあるか。
その場合は、第3皇子領の責任にするために、ヘンリーがあえて経由させたのかもしれない。
疑ったらキリがないな。少なくとも第3皇子領は感染チェックがザルだと確定か。
『まあ、どっちにしろ感染経路はこちらで精査します。
皇子領じゃ皇帝代理の命令で動くしかないわけですし』
とりあえずカイルに報告を入れて調べてもらおう。
「さてと。コアを捕獲するか」
目の前の民間船は船体がスカスカになりコアが良く見えている。
感染ケーブルを作る資源は有限なので、船体を食いながら損失したケーブルを補填していった結果スカスカになったのだ。
僕は反物質カートリッジを次元格納庫から出し宇宙空間に浮遊させる。
そこから一定の距離を保ち転送装置を起動してコアを反物質カートリッジ内に転送した。
捕獲完了。しばらく観測するとコアがケーブルを出して突破しようとしたようだが停滞フィールドに阻まれる。
どうやら封じ込めに成功したようだ。
僕は同様の事を繰り返しコアを5つ捕獲した。
戦闘艦、民間船、輸送艦、船の種類を問わずニアヒュームは感染していた。
だが、その航路には必ずと言って良いほどに第2皇子領と第3皇子領が関わっていた。
第3皇子領は僕とカイルと帝国正規軍で掃除したはずなんだが、その後別ルートで再感染し感染が広がっているのかもしれない。
皇帝代理になったカイルは各皇子に自らの星系守護を命じていた。
それは表の目的であったが、裏の目的は各皇子を星系に縛り付け移動を禁止するためでもあった。
誰とは言わないがへたに移動されて感染を広げることを危惧したからだ。
ちなみに僕はニアヒューム対策担当を命じられているので自由に動き回れる。
首尾よくコアを入手した。後は調査だ。
僕は入手したコアの調査をある人達に委託した。
それは真・帝国と、あのゲルン星系の研究所だ。
真・帝国に残っている現帝国では失われてしまった科学力が役に立つだろう。
ゲールもマッドだが有能だ。
有機体でも機械でも精神生命というレベルでは同列に扱えるだろう。
ニアヒュームの生体や言語、思想などが判明すれば対処しやすい。
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