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遠征編

152 遠征編17 帝都隔離

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 僕とカイル第1皇子は8B星系の掃除が終わると専用艦の次元跳躍ワープ機関を使って直接帝国本星のある星系に戻って来た。
転移回収艦に機械人形が転送されていた可能性があるため、その帝国本星系への進入を阻止するためだ。
幸い皇帝が回収された転移回収艦には機械人形は転送されていなかった。
これは皇帝が回収された転移回収艦が皇族及び高級貴族専用であったための偶然の賜物だった。
そう、汚染された高級貴族の専用艦は自爆テロに利用されたため転送する間も無かったのだ。

『皇帝陛下の転移回収艦が汚染されてなくて良かった』

『だが陛下は重症だ。自爆テロの傷は軽くない。
これでは指揮命令系統に問題が出る』

 皇帝は自爆テロでCICの転送装置が作動し転移回収艦に転送されていたが、テロの影響で重症を負っていた。
今は集中治療カプセルに入っていて意識を失い帝国の諸問題を差配できる状況ではなかった。
このような事態を想定していなかったため、次席の指導者となる皇太子が指名もされていなかった。
次席は順当なところでは第1皇子であるカイルなのだが、今回の遠征には第1皇子から第4皇子まで揃っていたため、お互いの臣下が牽制しあってまとまる物もまとまらなかった。
しかし、第4皇子ルーカスだけは臣下が皇帝への自爆テロを起こした張本人だったため、いくら臣下が騒ごうが一歩後退という状況だった。
え? 僕? 第6皇子の僕なんかは、出る幕もなかったさ。
僕は皇帝から本作戦の指揮を任されていたが、テロ直前に指揮権を返すと言っているし、皇帝が指揮権を受け取ったと言ってないとはいえ、それを皇帝の意思として指揮権を主張することは、他の皇子の臣下が絶対に許さなかった。
加えて撤退戦の指揮をとったことが越権行為と非難される始末だった。

『皇帝陛下直属の正規軍は過去の経験があるし、ある程度の知識があるうえにあの映像を見て冷静に判断して協力的で助かった。
だけど、第2皇子から第4皇子の軍と援軍として馳せ参じた地方貴族の領軍が問題だね』

『80万に減った正規軍に40万の増援を迎えたからね。
アキラが帝位の簒奪を謀って偽映像を送っていると奴らが言い出したのは呆れたよ』

『帝国存亡の危機なのに、自分達の勢力争いに利用しようなんて、あれがザ・貴族なのか……』

 そのため帝国本星系への敵ニアヒューム進入を防ぐため、僕とカイル第1皇子だけで先回りをせざるを得なかった。

『アキラ、ヘンリー第2皇子イーサン第3皇子の軍は、勝手に領地に帰った。
我が臣下の艦隊が止めても指揮権が無いと主張し止められなかった。
親玉が次元跳躍ワープで帰ったから後を追ったということだろう』

『となると彼らの領地を封鎖しないとならないね。
これも権限がないのが問題か……』

『宰相に頼むのも無理だ。
今の宰相はイーサン第3皇子の母方の祖父にあたるから何をするかは明白だろう。
まさかこんなことで帝国が滅びの道を歩むことになるとは……。
皇帝陛下の意識さえ戻れば事は簡単なのだが』

『いずれにしろ、帝国本星系への進入だけは阻止しよう。
漏らしたニアヒュームを捕まえて証拠を突きつければ文句は言えないはずだよ』

 僕とカイル第1皇子次元跳躍門ゲートの手前で1週間を過ごすことにした。
帝都衛星に戻って身動きが取れなくなることを懸念したのだ。
宰相がどう動くのかわからないし、戻れば事情聴取だなんだと拘束される。
宇宙港を押さえられ出港禁止にでもされたらニアヒュームを水際で防ぐことが出来なくなる。
なので僕とカイル第1皇子は食事のデリバリーを必要としていた。

『待たせたな』

『ん。持って来た』

 新鋭護衛艦が2艦、そして見慣れぬ貴族の専用艦が1艦、僕達の所へやって来る。
新鋭護衛艦に乗っているのは、帝都にやって来ていたジェーンと美優みゆの2人だ。
いきなりニアヒューム防衛戦に遠征させられて、しばらく会えなかったけど2人とも元気なようだ。
もう1人はカイル第1皇子の関係者だ。

『紹介するよ。
彼女は僕の妹、つまり皇帝陛下の姫で、アキラ、君の嫁になるステファニーだ』

『アキラ様、初めまして。ステファニーです。
ステフとお呼びください』

 こんなところで未来の嫁と面会させるとは!
カイル第1皇子も策士だな。

晶羅あきらです。
こっちは嫁の美優みゆとジェーン』

『存じ上げてます。
今はアキラ様の邸宅で一緒に住んでいますのよ』

「もう知り合ってた! しかも邸宅?
あの時、皇帝が用意すると言ってたやつ?
あの死亡フラグの結婚式も回避してまだなんですけど、既に同居ですか!?」

 僕はマイクをオフにして叫んだ。
混乱しながらもちょっと冷静だった自分を褒めてやりたい。
艦隊内通信の小窓の中でカイル第1皇子がニヤニヤしている。
知ってたのか。謀ったなカイル第1皇子

『そ、そうなんだ。
仲良くやってくれてれば何よりだよ』

『事情は兄様の家令に聞きました。
お食事はわたくし達が運びます』

 そう言って僕の専用艦には美優みゆが、カイル第1皇子の専用艦にはステフが食事をデリバリーしてくれた。
3人で来たのは初日だけで、その後1週間は毎日3食をローテ―ションで運んでくれた。


◇  ◇  ◇  ◇  ◆


 そして次元跳躍門ゲートより皇帝主力艦隊が次々に帰還して来た。
これは次元跳躍ワープ次元跳躍門ゲートを使った移動で所要時間が違うために起きた逆転現象だ。
僕とカイル第1皇子はニアヒュームの進入を阻止すべく、次元跳躍門ゲートから進入して来た艦を臨検していった。

『第1皇子カイルです。
ニアヒューム汚染が深刻なため臨検を行います。
次の分艦隊は亜空間でお待ちください。
この分艦隊の臨検が終了次第次元跳躍門ゲートに進入していただきます』

『カイル、終わった。感染者なし』

 僕の専用艦は戦術兵器統合制御システムで分艦隊の各艦を支配下に置くことでニアヒュームの識別が出来る。
ニアヒュームは支配されるのを拒む。拒まなくとも特徴的な反応があるため直ぐにわかる。
どちらにしろバレてしまうので拒んで来るのだ。

『あなた方に感染者はいませんでした。
臨検作業の警護をお願いしてもよろしいでしょうか?』

『はっ! お任せください』

 僕が8B星系で非感染艦を逃した時、分艦隊単位で次元跳躍門ゲートに突入させた。
その分艦隊には専用の転移回収艦が付いて回っていたはずだ。
彼らは分艦隊単位で亜空間を航行して来た。
つまり転移回収艦の中に機械人形が紛れていた場合、その分艦隊単位で汚染が広がる可能性が高い。
そのため臨検を帰還した分艦隊単位で行なっているのだ。
戦闘になったときに相手にする艦が少ない方が良いという都合もある。

『次の分艦隊は進入して下さい』

 このように臨検を続けていくと近衛艦隊がやってきた。
僕は即ぐに皇帝が転送された転移回収艦を調べる。
汚染なし。

『汚染なし。皇帝陛下を帝都衛星の病院へ!』

 何はともかく皇帝を治療して意識を取り戻してもらう。
そして今後の執政としてカイル第1皇子を指名してもらわないとならない。
続けて近衛艦隊を調べる。これも汚染なし。

『近衛艦隊、汚染なし。陛下をお守りして!』

 そしてしばらく分艦隊単位で調べていたところ、ついにその時が来た。

『全艦敵に汚染されている可能性がある!
警戒態勢! 1艦たりとも逃がすな!』

 警護についていた艦隊が一斉に砲門を向ける。
僕は敵ニアヒュームを拿捕し正体を暴こうと先頭の1艦に侵食弾を撃ち込んだ。
すると敵ニアヒュームはバレたと悟ったようで艦体からケーブルを出しウネウネと動かし始めた。
このケーブルが接触し装甲を破られると汚染されてしまうのだろう。
分艦隊1万艦全てが同時に正体を表す。

『見た通りだ。殲滅せよ!』

 カイル第1皇子の命令で警護にあたっていた分艦隊は敵ニアヒュームをケーブルの届かない遠距離から始末して行った。
最後はコアを完全破壊するためにトドメで粒子ビーム砲やブラスターで焼き尽くす。
敵の帝都進入は未然に防がれた。
その後の分艦隊には、敵の汚染は確認されなかった。
問題はやはり自領に逃げた第2皇子ヘンリー第3皇子イーサンの軍と貴族の領軍だろう。
感染が広がれば今後は民間船の臨検まで必要になるだろう。
皇子同士が競い合うのは良いのだが、こんな一大事にまで争い続けるとは……。
これでニアヒューム汚染が広がったら大失態だ。
そして敵の正体を把握出来るのが僕の専用艦にある戦術兵器統合制御システムS型だけというのも問題だ。
なんとか他の手段で敵をみつける方法を確立し全星系に拡散し臨検体制を整えなければならない。
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