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領主編

131 領主編25 嫁ーず動く2

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SIDE:ウグリチ3 ジェーン視点

 貴族令嬢の専用艦と衝突して責任問題に出来るような艦となると軍は駄目だ。戦争になる。
ブコブコスキーといかいう男爵家の家臣ぐらいが丁度いいんだけど、そんな人がうろついているわけもない。
軍から艦を払い下げられるような立場というと警邏隊か宙域管制の艦か……。

「ちょっと、ジェーンさ~ん、何やってるの~? キャリーさんを押さえるのを手伝ってくださいよ~?」

 グラウル子爵令嬢マリーの専用艦がキャリーの専用艦を腕で掴んで必死に押さえている。
いや、その娘はもう自由にさせた方がいいと思うんだけど。
護衛の4名も手を出してよいのか戸惑っているし。

「マリー、わたくしあたい旦那あきら様のために身を削った作戦を思案中なので邪魔しないでくださる?くれ!

 ああ、貴族言葉めんどくさい。

「何ですか~? 作戦って~?」

 マリーが緩ーい台詞で訊いて来つつ護衛にキャリー艦を押さえる指示を出す。
そんなマリーにあたいは衝突作戦のアイデアを伝える。

「ジェーンさんはアホですか~? そんなことで国際問題になったら迷惑するのは旦那様ですよ~?」

 ちょっとマリー、アホとはなんだアホとは。

「アホとは聞き捨てならないな。あんたらのノープランより行動するあたいの方がなんぼかマシか!」

 特にキャリーは、目的を忘れてブランド物を手に入れようと暴走中だろうが。

「だからアホだって言うんです~。猪突猛進すればいいってもんじゃないんですよ~?」

 マリーは口調が緩いくせに、辛辣なセリフをいつも言ってくる。
あたいもつい口調が荒くなる。

「なんだって? そういうことは代案を示してから言えよ!」

 そう、このままでは何の進展もない。
目的は旦那様のお役に立つこと。
その目的に於いて手立てを考えることこそ嫁の務め。

「それよりお離しなさい! バーゲンの時間が過ぎてしまいますわ!」

 キャリー、あんたは何しに来たんだ?
しっかり者のふりをするくせに、肝心なところでいつも抜けてるキャリーをあたいは困った子を見る目で見つめる。

『そこの艦! 何をもめている! 航路の邪魔だ。速やかに退去せよ』

 あたいたちの諍いを目にして警邏隊のパトロール艦がやって来た。
チャンスだ! あれなら旦那様が求める情報が得られる。

「ちょっと~、どこへ行こうというの~?!」

 マリーが今度はあたいを止めようと専用艦を動かした。

「離せ! 千載一遇のチャンスだろうが!」

 ええい。止めるな。ここが最大のチャンスだ!

「わざとらしいからやめてーーーー!!」

 動こうとしたあたいの専用艦をマリーの専用艦が押さえる。

『警告する! ただちに諍いをやめよ!』

 パトロール艦が警告で砲塔をあたい達に向ける。
その様子を見ていた護衛たちが、慌ててこちらに向かおうとする。
と同時にキャリーの専用艦を捕まえていた護衛の腕が離れる。

「「あっ……」」

 押さえられていた反動で急激な機動をするキャリーの専用艦。
その制御を失った進路の先にパトロール艦が……。

「いやーーーーーーーーー!!!」

 キャリーの悲鳴が艦隊内通信に響く。
現場に急行して来たパトロール艦が制御を失ったキャリーの専用艦に突っ込む。
飛び散る豪華な装飾品。
口を開けて見守るあたいとマリーの目の前で作戦通りの事故が起きた。

「結果オーライ?」


◇  ◇  ◇  ◇  ◆


SIDE:ウグリチ3宇宙港施設 ジェーン視点

 あたい達はウグリチ3の軌道上にある宇宙港施設に専用艦を収容停泊させ、内部の応接室に通されていた。
キャリーの艦とパトロール艦は未だ分離出来てないため一緒に収容されている。
男爵領で子爵令嬢の専用艦に星系警邏隊のパトロール艦が突っ込んだ事故だ、扱いに苦慮することが容易にわかるからこその応接室だ。
警邏隊と事故なんて一般市民なら取り調べ室に入れられるところだ。
特に獣人は差別されやすい。旦那様が陞爵してくれていなかったらどう扱われたか微妙なところだ。

「それでは、あなた方がバーゲンの言い争いでもめている所にパトロール艦が高速で接近。
子爵令嬢を押し留めていた腕が外れてしまい艦がコントロールを失った。
その結果があの事故ということですね?」

「そうですわ」

 キャリーの視点ではまあ嘘ではないな。確かに偶然が偶然を産んだ事故だ。

「わかりました。今回は不幸な事故として処理しましょう。
令嬢の専用艦の修理費は此方で持ちますので請求してください」

 あたい達が第6皇子妃であることも早々にバレてしまっていた。
それもあってこのような寛大な対応になったのだろう。

「では、そちらのパトロール艦の修理費はわたくしが持ちますわ」

 キャリーが調子に乗って弁償を告げる。
結果オーライ。それに付け込んでパトロール艦を調べさせてもらおう。

「そのためにも、パトロール艦の被害状況を見聞させてもらう必要がある」

 よし計画通りだ。

「いえ、それには及びません。こちらはほとんど損傷しておりませんし老朽艦ですので」

 担当官が第6皇子によしなにとでも言うような態度で大甘な対応を提案してくる。

「は?」「はい?」

 ちょっと寛大すぎるでしょ。
拙い。想定外だ!


◇  ◇  ◇  ◆  ◇

SIDE:ウグリチ3 マリー視点

 キャリーさんもジェーンさんも困ったものです~。
わたしが一番年下だからって妹扱いで軽く見て~、一番の知性派がわたしだってことがわかってないんだわ~。
キャリーさんは何ですか~! 旦那様の役に立つためにこの星系にやって来たのに~ブランド品のバーゲンに目が眩んで~。

「駄目ですよ。キャリーさん。落ち着いて~。
ブランド品の買い物は~後にしてくださいよ~!
ダメです~。惑星へ降下するのは~許可がいるんですよ~!」

 わたしはキャリーさんの専用艦を必死で押さえます。

 ジェーンさんもジェーンさんで~、旦那様の迷惑になりかねないザルのような作戦を実行しようなんて~脳筋にもほどがあります~。
ちょっとジェーンさ~ん、何をしようとしているの~? え~? 作戦~? アホですか~! そんなザルのような作戦で~。
キャリーさんよりジェーンさんの方が危険みたいです~。
わたしは護衛達にキャリーさんを任せると~ジェーンさんを押さえに向かいます~。

「ジェーンさんはアホですか~? そんなことで国際問題になったら迷惑するのは旦那様ですよ~?」

「アホとは聞き捨てならないな。あんたらのノープランより行動するあたいの方がなんぼかマシか!」

 ジェーンさんは脳筋ですか~。後先考えてくださいよ~。

「だからアホだって言うんです~。猪突猛進すればいいってもんじゃないんですよ~?」

「なんだって? そういうことは代案を示してから言えよ!」

 ほら~。そこが脳筋だって言うんですよ~。
今はまず~、キャリーさんを押さえるのが先ですよ~。

『そこの艦! 何をもめている! 航路の邪魔だ。速やかに退去せよ』

 え~? パトロール艦? ほら騒ぎになっちゃったじゃないですか~。
あ、ジェーンさ~ん、パトロール艦をターゲットにしてるんですか~?
バレバレでわざとらしいですよ~?

「わざとらしいからやめてーーーー!!」

 わたしはジェーンさんを必死に止めようとしたのに~。
それが仇となってキャリーさんの艦がパトロール艦と衝突するなんて~。
うん「結果オーライ?」だ~。


◇  ◇  ◇  ◆  ◇


SIDE:ウグリチ3宇宙港施設 マリー視点

 ところで、どうやってパトロール艦を調べるつもりなんですか~?
え? 修理費を此方が持つから被害状況を見聞させろって~?
いや無理無理無理無理カタツムリですよ~。
ほら、断られた~。
だから知性派のわたしが付いて来たんだからね~?

 わたしは自身の専用艦の戦術兵器統合制御システムを起動しキャリーさんの専用艦とデータリンクします~。
旦那様の戦術兵器統合制御システムはS型だけど~、わたしの専用艦のはC型です~。
それでも許可されている艦とならデータリンクして制御が可能なのです~。
続けて旦那様の専用艦と次元通信を繋ぎます~。
キャリーさんの専用艦で~接触状態のパトロール艦を各種センサーで情報収集して~、そのデータをこっちでは処理出来ないので旦那様の専用艦に送ります~。

 これで目的は達成出来ましたよ~?
どうですか~? わたしが付いて来てよかったでしょ~?

「ジェーンさん、キャリーさん、それではおおいとましましょ~」

「いや、まだ目的が……」

 ジェーンさんが慌てて口を噤みます~。ここで自白するわけにはいかないですからね~。

「ご迷惑をおかけしたのだから~、買い物はまた後日にしますよ~」

 わたしは目で合図を送って席を立ちます~。

「万事上手く処理出来た・・・・・・・・のですから~」

 もう長居は無用ですよ~。
2人を引きずってでも帰りますからね~!


◇  ◇  ◇  ◆  ◆


SIDE:アノイ要塞事務所 晶羅《あきら》

「ダロン4産の艦の情報が手に入ったんだって?」

「はい~。旦那様の専用艦にデータを転送してありますよ~」

 マリーが得意げに報告する。

わたくしの専用艦が身を犠牲にしてサンプルを採取して来ましたわ」

 キャリーも手柄を主張する。

「全てはあたいの立案した作戦のおかげなんだからね?」

 ジェーンも黙ってない。

「みんなよくやってくれた。でも、危険は冒して欲しくなかったな」

「ごめんなさい。旦那様♡(((よし、これで今夜は♡♡♡)))」

 嫁たちの目がギラついているのは気のせいだろうか?
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