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領主編
112 領主編6 戦略会議と運営会議
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「野郎ども、稼ぐぞ!」
傭兵たちの代表をやってくれているタカヲ氏が傭兵さんを鼓舞する。
ここはダグラス伯爵の反乱で主戦場となったタタラ星系だ。
「「「「うおーーーーーー!!!」」」
傭兵さんたちはタカヲ氏の声に歓喜の声を上げ宇宙へと飛び出して行った。
彼らは地球軍主力として戦いに参加したプロのRP参加者、所謂傭兵の皆さんだ。
実は彼らは儲け話に気付いたのだ。
ここではSFOゲーマーだけがデブリを回収していると。
破壊された艦や鹵獲された艦ならば回収済み。
だが細々としたデブリは捨て置かれている。
そして撃墜権が設定されていない。
これを回収すれば丸儲けである。
ダグラス伯爵艦隊8000中2000は降伏鹵獲された。
鹵獲艦2000のうち専用艦を除いた無人艦は、艦を徴用されて被害を被った工場衛星へ返還となった。
残り6000は、晶羅軍6万1000の艦隊に蹂躙され、誰が撃墜したのかもわからず権利関係は特定出来なかった。
敵艦隊の中で謎の爆発があり、大被害が出ていたのもこの大量撃墜の要因だ。
その爆発を齎したのが新兵器として配備された反物質粒子砲の誘爆だったと判明したのは工場衛星の責任者から話を聞いた後だった。
反物質カートリッジが発射されることなく破壊されたため反物質が対消滅を起こし大爆発を起こしていたのだ。
こうなってしまうと、軍として行動したこともあってSFOのように細かく権利を認めることが困難となった。
ちなみに反物質粒子砲は回収されておらず、対消滅に巻き込まれて消えてしまったと思われる。
こんな危ない超兵器が流出しなくて良かった。
どうやら、発注元はケイン元皇子で、他には技術流出していないようなのだ。
このまま反物質粒子砲は門外不出とするしかない。
ああ、マッコイ商会に出回ったルートを潰しておかないと……。
閑話休題。
さらに問題となったのは、工場衛星に向かった5万の取り分だ。
工場衛星を制圧した手柄は工場衛星の分配で賄えない。
僕が止めを刺してしまったこともあるが、工場衛星は元々反乱の意思がないのにダグラス伯爵に脅されて利用されただけだからだ。
制圧に陸戦隊が突入したが、工場衛星は司令室を破壊されたことで、ほとんど抵抗なく残敵掃討がなされていた。
工場衛星はタタラ星系のものであり、権利的には僕のものだ。
僕が僕のために僕の所有物を取り戻したとなれば、それを恩賞の分配に使うというのは話が違ってくる。
この5万への恩賞も鹵獲艦で賄わなければならなかった。
そのため大きな残骸の販売益または現物が参加艦艇の割合によって各軍に分配されることになった。
100:5:5:5:10。100が工場惑星の取り分で、5×3がアノイ要塞3領軍――ウェイゼン派遣艦隊含む――の取り分、10が地球軍の取り分だ。
工場惑星にも取り分があるのはタタラ星系の工場衛星の要塞砲で被害が出ているからだ。
地球軍の取り分に色をつけたのはバランスかな。楽な刈り取りに参加出来なかったからね。
アノイ要塞3領軍の取り分が少なすぎると感じるかもしれないが、彼らはウェイゼン4を制圧し恩賞を得ている。
それだけで充分だと彼らは分配分を固辞するぐらいだった。
3領軍の皆さんに分配したのには訳がある。
領軍の兵の中には戦いで損傷し修理が必要な艦を抱えている者がいる。
それを直すには部品やお金が必要になる。
元々そういった部品取引は帝国内でも活発であり、一つのマーケットを形成していた。
だからSFOには出所不明な中古品が出回っていたのだ。
つまり残骸配布は戦争に参加した個人に対する恩賞になるのだ。
SFOだけじゃなく、帝国の戦場では部品取引という経済が回っているのだ。
古来戦場では討たれた武将の鎧や武器を回収していたという。
それと同じことが宇宙でも行われていると考えれば良いだろう。
その恩賞として分配される鹵獲物には大量に放出されたデブリは含まれていなかった。
傭兵の皆さんはそこに注目し、回収を始めたということだった。
元々デブリの掃海は誰かがしなければならない。
ここは僕の領地なので、僕がお金を出して掃海をSFOギルドに発注しなければならないところだ。
それが自主的に掃海してもらえるなら、むしろ推奨して傭兵さんには大いに回収に励んでもらいたい。
本人たちも臨時のボーナスステージみたいな感覚のようだしね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
「第6皇子領の防衛を、今後どうやっていったら良いのか皆さんのご意見を伺いたいと思います」
僕らはアノイ要塞に帰還していた。
その極秘会議室――盗聴防止装置付き――で、僕、アノイ要塞司令コマンダー・サンダース、カプリース領軍司令ノア、グラウル領軍司令ハンター、小領地混成軍司令ジョン、地球軍司令神澤、傭兵代表タカヲ、サポートAI愛さんで防衛戦略会議を開いていた。
「まず、一番攻撃を受けやすい場所はどこなんでしょう?」
僕の質問にコマンダー・サンダースが説明してくれる。
「やはり次元跳躍門の能力的にハブと呼ばれているアノイ星系とビギニ星系、タタラ星系が危ないでしょう」
「ハブ次元跳躍門か。
なんとなくは知っているけど、詳しく知っておく必要がありそうだね」
僕は「蛇の?」というボケを飲み込んだ。
こういったダジャレは帝国語に翻訳されると全く意味をなさないのだ。
そして僕の質問には愛さんが答えてくれる。そのために連れてきたんだ。
「次元跳躍門には、小グループ内の個々の間を繋ぐ通常次元跳躍門と、それら小グループ間を繋げるハブ次元跳躍門が存在します。
小グループ内は短時間で簡単に行き来出来ますが、小グループ間を繋げる次元跳躍門は数が少なく、ハブ次元跳躍門略してハブと呼ばれているのです」
「以前、敵の艦隊がボルド星系に直接襲来した時はどうなっていたんだ?」
「それは調査団が調べた調査報告が帝国ネットワークに上がっていました。
ボルド星系の親となるハブ次元跳躍門まで次元跳躍門を繋げ、ベントレー星系直前の亜空間に到着。
その後ハブ次元跳躍門を出ることなくハブ下の通常次元跳躍門に向かったということです。
ここで重要なのはベントレー門を経由しなければボルド門へは行けないということです。
本来ならベントレー門を出なければボルド門へは来れないのですが、そこを敵艦隊がベントレー門の制御を奪ってなんらかの手段で突破したということでした」
「わかった。つまりアノイ門が閉じている、或いは開いていても制御を奪われなければ、そのハブ下の星系には行けないんだね」
「はい。亜空間連続体が途切れることになります」
となるとアノイ星系他のハブを守ることがハブ下の他の星系を守ることになるんだな。
「ハブに繋がる小グループはどのようなグループ分けになっているんだ?」
「はい。グラウル星系、カプリース星系、ラーテルのレリック星系がアノイ門の下の同一グループです。
アクア星系、ファム星系、ウェイゼン星系、デンス星系、ペタル星系、クラム星系がタタラ門の下の同一グループです」
ウェイゼン星系、デンス星系、ペタル星系、クラム星系というのが穀物を算出しているという惑星を要する星系か。
ラーテルの星系はレリック星系と言うんだったな。
「辺境グループのアノイ門とケイン元皇子領グループのタタラ門という感じか。
辺境グループには思ったより産業が少ないね」
「若、よろしいですか?」
僕のために愛さんの解説を黙って聞いていたジョンが発言を求めてきた。
僕は快く許可する。
「聞こう」
「只今ご説明があった通り、我らの星系と、今回領地を賜ったウェイゼン星系はハブグループが違います。
つまり輸送に時間がかかるということです。
せっかくいただいた領地なのですが、我ら小領地の集まり故、扱いに窮しております」
なるほど、ハブグループが違うと輸送も大変なんだな。
「大型輸送艦を建造して渡すのでは難しいのか?」
「はい。小領地ばかりなので、何処の領地が運用するかで負担が偏ります」
そうか、小領主の集まり故の問題もあるのか。
代表としてラーテルが表に出ているが、全てラーテル負担というのも経済的負担をかけることになるか。
「なら、ラーテルで小領地を統一するか?」
「ご命令とあらば」
ラーテルの目が光る。
ごめん、冗談なの。本気にしないで。
「冗談だ。
となると小領地の領主を大領地の領主にして経済的な安定をはからせた方が良いかな。
辺境を開発して惑星領主か衛星領主になれる方向で検討しよう。
とりあえずテラフォーミング可能な惑星をリストアップだな。
随時ジェネシス・システムで惑星改造を行う。
ちなみに小領地はどのぐらいに分割されているんだ?」
「我らラーテル族、熊族、獅子族、虎族、牛族、馬族、兎族の7領地です」
前半4部族は戦闘部族だね。後半3部族は農業向き?
「辺境で自活出来るようにしたいな。辺境の近隣星系の探査も追加ね。
畜産2農業2鉱業1水産1ぐらいは確保したい。それで7領地に分散できるな?」
「わ、我らが惑星領主ですか?」
「そうなるな。
ただし、その時はウェイゼン4の領地は手放してもらう。
カプリースにも何か産業を起こす必要があるな。
グラウルの衛星も人口太陽とガス惑星からの反射光を遮蔽する傘を設置すれば、わざわざ季節での移動がいらなくなるし作物の栽培も容易になるだろう。
そして資源は都合しあってもらうからな」
「「「ははっ」」」
「まあ、新しい星系開発も含むから、時間はかかると思うけどね」
話が脱線してしまった。
これじゃ防衛戦略会議じゃなくて領地開発会議だ。
再び愛さんや皆に質問していく。
「話を戻して、防衛強化するのはアノイ星系とタタラ星系、ビギニ星系ってことだね」
「ビギニ星系の超ハブ次元跳躍門は最果てですが特別です。
おそらく時間さえかけて調整すれば何処のハブ次元跳躍門とも繋がります」
「そういや銀河間跳躍が可能だけど制限が多いと聞いたことがあるな」
「はい。そのため帝国ではあまり利用価値が無いと思われていましたが、ハブからハブへと2点間を繋げるという意味では時間短縮になる例もあると思われます。
例えばハブAからハブEまで行くのに通常ハブA-ハブB-ハブC-ハブD-ハブEと繋げなければならない所を、ビギニ星系の超ハブを使うとハブA-超ハブ-ハブEと繋げられるのです。
ハブAと超ハブ間、超ハブとハブE間は通常の転移より時間が余計にかかりますが、ハブAとハブEの総移動時間としては短縮されることになります」
「それは戦略的に重要だな。逆に言うと超ハブを自由に使えれば何処のハブへも直接攻められるという意味だし」
「それに気付いたのがケイン元皇子なのです」
何その便利ハブ。弱点が超ハブ-ハブ間の所要時間しかないじゃないか。
この話が表に出れば誰もが欲しがる要衝となるわけだ。
ハブ次元跳躍門を閉めるとそのハブ下への亜空間連続体も途切れるという話だから、最終手段は次元跳躍門の閉鎖だな。
だけど、超ハブ次元跳躍門を使って地球に行こうとしたり侵略しようとしなければフリーで通過していただくという手もあるかもしれない。
「アノイ要塞なら今の倍も戦力があれば防衛任務はこなせるだろう。
タタラ星系も工場衛星の要塞砲が直れば早々侵略は出来ない。
となると地球防衛のために地球に工場惑星を持っていくべきか」
「工場惑星は、その大きさ故に次元跳躍門を通過できません。
銀河を隔てた物理距離の遠い地球へは次元跳躍でも何年かかるかわかりません。
そもそも帝国からは地球の座標が判っていませんので次元跳躍不能です」
「そういや地球がどの銀河にあるのかも判ってないって言ってたな」
となるとビギニ星系のステーションに戦力を集めておく必要があるのか。
「うーん、やはり超ハブは解放せずに、アノイ星系からだけ次元跳躍門が繋がるように設定しておくか」
一応、今もそうしているんだけどね。
「そうなると晶羅はアノイ要塞常駐か?」
神澤社長いや神澤准男爵の言葉に僕に迷いが生じた。
メンバーのみんなを安全な場所=地球に帰してあげたかった。
だが地球ではアイドル活動が出来ないのでSFOに活路を見いだしたのがブラッシュリップスなのだ。
元々芸能活動再開のためにステーションに帰ろうという話になっていた。
だがステーションとアノイ要塞、どっちが危ないというのだろう?
ネックとなっていたのは芸能活動再開。
僕は閃いた。
つまりアノイ要塞で芸能活動をすればいい?
「社長、僕はアノイ要塞から領地経営のために各星系を周る。
社長やメンバーにもアノイ要塞にいてもらう。
メンバーにはアノイ要塞で芸能活動をしてもらって、その映像を地球に配信する」
「アノイ要塞もステーションも危険性が変わらないならそれがいいかもな。
だが、晶羅、お前がいない間晶羅はどうする?」
「そこで楓を招集する。
あいつと僕は三つ子で見た目の年齢も同じ、つまりきららにそっくりだ!」
楓には悪いけど、それでシューティングドリームに蔓延したきらら男説を払拭できる。
僕が結婚してきららが男のあきらだとバレそうになったけど、男の僕ときららが並んでいれば間違いなく誤魔化せる。
専用艦もそっくりなダミー艦を用意できる。
これで変なスキャンダルは消すことが出来るな。ニヤリ。
「その手があったか!! だがメンバーの意見も聞かないとな。
それに何か忘れている気がする。
ブレインハックから覚めて何か思いだせそうだったんだが……」
社長はずっと何か忘れていることがあると言っている。
SFO参入がらみの重大なことらしいが、まさか社長がブレインハックされたのは、ランカーだった頃からなのだろうか?
そうなるとSFOでアイドル活動をしようという考え自体が操られた結果となってしまう。
確定じゃないので、社長が思いだすのを待つことにしよう。
今はSFOでアイドル活動を続けることに専念してもらおう。
「社長もまだ准男爵のお仕事があるんだからね?」
「よしそれで行こう!」
社長が悩むことをやめた。
本人達の居ない所で大事なことが決定していく。
傭兵たちの代表をやってくれているタカヲ氏が傭兵さんを鼓舞する。
ここはダグラス伯爵の反乱で主戦場となったタタラ星系だ。
「「「「うおーーーーーー!!!」」」
傭兵さんたちはタカヲ氏の声に歓喜の声を上げ宇宙へと飛び出して行った。
彼らは地球軍主力として戦いに参加したプロのRP参加者、所謂傭兵の皆さんだ。
実は彼らは儲け話に気付いたのだ。
ここではSFOゲーマーだけがデブリを回収していると。
破壊された艦や鹵獲された艦ならば回収済み。
だが細々としたデブリは捨て置かれている。
そして撃墜権が設定されていない。
これを回収すれば丸儲けである。
ダグラス伯爵艦隊8000中2000は降伏鹵獲された。
鹵獲艦2000のうち専用艦を除いた無人艦は、艦を徴用されて被害を被った工場衛星へ返還となった。
残り6000は、晶羅軍6万1000の艦隊に蹂躙され、誰が撃墜したのかもわからず権利関係は特定出来なかった。
敵艦隊の中で謎の爆発があり、大被害が出ていたのもこの大量撃墜の要因だ。
その爆発を齎したのが新兵器として配備された反物質粒子砲の誘爆だったと判明したのは工場衛星の責任者から話を聞いた後だった。
反物質カートリッジが発射されることなく破壊されたため反物質が対消滅を起こし大爆発を起こしていたのだ。
こうなってしまうと、軍として行動したこともあってSFOのように細かく権利を認めることが困難となった。
ちなみに反物質粒子砲は回収されておらず、対消滅に巻き込まれて消えてしまったと思われる。
こんな危ない超兵器が流出しなくて良かった。
どうやら、発注元はケイン元皇子で、他には技術流出していないようなのだ。
このまま反物質粒子砲は門外不出とするしかない。
ああ、マッコイ商会に出回ったルートを潰しておかないと……。
閑話休題。
さらに問題となったのは、工場衛星に向かった5万の取り分だ。
工場衛星を制圧した手柄は工場衛星の分配で賄えない。
僕が止めを刺してしまったこともあるが、工場衛星は元々反乱の意思がないのにダグラス伯爵に脅されて利用されただけだからだ。
制圧に陸戦隊が突入したが、工場衛星は司令室を破壊されたことで、ほとんど抵抗なく残敵掃討がなされていた。
工場衛星はタタラ星系のものであり、権利的には僕のものだ。
僕が僕のために僕の所有物を取り戻したとなれば、それを恩賞の分配に使うというのは話が違ってくる。
この5万への恩賞も鹵獲艦で賄わなければならなかった。
そのため大きな残骸の販売益または現物が参加艦艇の割合によって各軍に分配されることになった。
100:5:5:5:10。100が工場惑星の取り分で、5×3がアノイ要塞3領軍――ウェイゼン派遣艦隊含む――の取り分、10が地球軍の取り分だ。
工場惑星にも取り分があるのはタタラ星系の工場衛星の要塞砲で被害が出ているからだ。
地球軍の取り分に色をつけたのはバランスかな。楽な刈り取りに参加出来なかったからね。
アノイ要塞3領軍の取り分が少なすぎると感じるかもしれないが、彼らはウェイゼン4を制圧し恩賞を得ている。
それだけで充分だと彼らは分配分を固辞するぐらいだった。
3領軍の皆さんに分配したのには訳がある。
領軍の兵の中には戦いで損傷し修理が必要な艦を抱えている者がいる。
それを直すには部品やお金が必要になる。
元々そういった部品取引は帝国内でも活発であり、一つのマーケットを形成していた。
だからSFOには出所不明な中古品が出回っていたのだ。
つまり残骸配布は戦争に参加した個人に対する恩賞になるのだ。
SFOだけじゃなく、帝国の戦場では部品取引という経済が回っているのだ。
古来戦場では討たれた武将の鎧や武器を回収していたという。
それと同じことが宇宙でも行われていると考えれば良いだろう。
その恩賞として分配される鹵獲物には大量に放出されたデブリは含まれていなかった。
傭兵の皆さんはそこに注目し、回収を始めたということだった。
元々デブリの掃海は誰かがしなければならない。
ここは僕の領地なので、僕がお金を出して掃海をSFOギルドに発注しなければならないところだ。
それが自主的に掃海してもらえるなら、むしろ推奨して傭兵さんには大いに回収に励んでもらいたい。
本人たちも臨時のボーナスステージみたいな感覚のようだしね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
「第6皇子領の防衛を、今後どうやっていったら良いのか皆さんのご意見を伺いたいと思います」
僕らはアノイ要塞に帰還していた。
その極秘会議室――盗聴防止装置付き――で、僕、アノイ要塞司令コマンダー・サンダース、カプリース領軍司令ノア、グラウル領軍司令ハンター、小領地混成軍司令ジョン、地球軍司令神澤、傭兵代表タカヲ、サポートAI愛さんで防衛戦略会議を開いていた。
「まず、一番攻撃を受けやすい場所はどこなんでしょう?」
僕の質問にコマンダー・サンダースが説明してくれる。
「やはり次元跳躍門の能力的にハブと呼ばれているアノイ星系とビギニ星系、タタラ星系が危ないでしょう」
「ハブ次元跳躍門か。
なんとなくは知っているけど、詳しく知っておく必要がありそうだね」
僕は「蛇の?」というボケを飲み込んだ。
こういったダジャレは帝国語に翻訳されると全く意味をなさないのだ。
そして僕の質問には愛さんが答えてくれる。そのために連れてきたんだ。
「次元跳躍門には、小グループ内の個々の間を繋ぐ通常次元跳躍門と、それら小グループ間を繋げるハブ次元跳躍門が存在します。
小グループ内は短時間で簡単に行き来出来ますが、小グループ間を繋げる次元跳躍門は数が少なく、ハブ次元跳躍門略してハブと呼ばれているのです」
「以前、敵の艦隊がボルド星系に直接襲来した時はどうなっていたんだ?」
「それは調査団が調べた調査報告が帝国ネットワークに上がっていました。
ボルド星系の親となるハブ次元跳躍門まで次元跳躍門を繋げ、ベントレー星系直前の亜空間に到着。
その後ハブ次元跳躍門を出ることなくハブ下の通常次元跳躍門に向かったということです。
ここで重要なのはベントレー門を経由しなければボルド門へは行けないということです。
本来ならベントレー門を出なければボルド門へは来れないのですが、そこを敵艦隊がベントレー門の制御を奪ってなんらかの手段で突破したということでした」
「わかった。つまりアノイ門が閉じている、或いは開いていても制御を奪われなければ、そのハブ下の星系には行けないんだね」
「はい。亜空間連続体が途切れることになります」
となるとアノイ星系他のハブを守ることがハブ下の他の星系を守ることになるんだな。
「ハブに繋がる小グループはどのようなグループ分けになっているんだ?」
「はい。グラウル星系、カプリース星系、ラーテルのレリック星系がアノイ門の下の同一グループです。
アクア星系、ファム星系、ウェイゼン星系、デンス星系、ペタル星系、クラム星系がタタラ門の下の同一グループです」
ウェイゼン星系、デンス星系、ペタル星系、クラム星系というのが穀物を算出しているという惑星を要する星系か。
ラーテルの星系はレリック星系と言うんだったな。
「辺境グループのアノイ門とケイン元皇子領グループのタタラ門という感じか。
辺境グループには思ったより産業が少ないね」
「若、よろしいですか?」
僕のために愛さんの解説を黙って聞いていたジョンが発言を求めてきた。
僕は快く許可する。
「聞こう」
「只今ご説明があった通り、我らの星系と、今回領地を賜ったウェイゼン星系はハブグループが違います。
つまり輸送に時間がかかるということです。
せっかくいただいた領地なのですが、我ら小領地の集まり故、扱いに窮しております」
なるほど、ハブグループが違うと輸送も大変なんだな。
「大型輸送艦を建造して渡すのでは難しいのか?」
「はい。小領地ばかりなので、何処の領地が運用するかで負担が偏ります」
そうか、小領主の集まり故の問題もあるのか。
代表としてラーテルが表に出ているが、全てラーテル負担というのも経済的負担をかけることになるか。
「なら、ラーテルで小領地を統一するか?」
「ご命令とあらば」
ラーテルの目が光る。
ごめん、冗談なの。本気にしないで。
「冗談だ。
となると小領地の領主を大領地の領主にして経済的な安定をはからせた方が良いかな。
辺境を開発して惑星領主か衛星領主になれる方向で検討しよう。
とりあえずテラフォーミング可能な惑星をリストアップだな。
随時ジェネシス・システムで惑星改造を行う。
ちなみに小領地はどのぐらいに分割されているんだ?」
「我らラーテル族、熊族、獅子族、虎族、牛族、馬族、兎族の7領地です」
前半4部族は戦闘部族だね。後半3部族は農業向き?
「辺境で自活出来るようにしたいな。辺境の近隣星系の探査も追加ね。
畜産2農業2鉱業1水産1ぐらいは確保したい。それで7領地に分散できるな?」
「わ、我らが惑星領主ですか?」
「そうなるな。
ただし、その時はウェイゼン4の領地は手放してもらう。
カプリースにも何か産業を起こす必要があるな。
グラウルの衛星も人口太陽とガス惑星からの反射光を遮蔽する傘を設置すれば、わざわざ季節での移動がいらなくなるし作物の栽培も容易になるだろう。
そして資源は都合しあってもらうからな」
「「「ははっ」」」
「まあ、新しい星系開発も含むから、時間はかかると思うけどね」
話が脱線してしまった。
これじゃ防衛戦略会議じゃなくて領地開発会議だ。
再び愛さんや皆に質問していく。
「話を戻して、防衛強化するのはアノイ星系とタタラ星系、ビギニ星系ってことだね」
「ビギニ星系の超ハブ次元跳躍門は最果てですが特別です。
おそらく時間さえかけて調整すれば何処のハブ次元跳躍門とも繋がります」
「そういや銀河間跳躍が可能だけど制限が多いと聞いたことがあるな」
「はい。そのため帝国ではあまり利用価値が無いと思われていましたが、ハブからハブへと2点間を繋げるという意味では時間短縮になる例もあると思われます。
例えばハブAからハブEまで行くのに通常ハブA-ハブB-ハブC-ハブD-ハブEと繋げなければならない所を、ビギニ星系の超ハブを使うとハブA-超ハブ-ハブEと繋げられるのです。
ハブAと超ハブ間、超ハブとハブE間は通常の転移より時間が余計にかかりますが、ハブAとハブEの総移動時間としては短縮されることになります」
「それは戦略的に重要だな。逆に言うと超ハブを自由に使えれば何処のハブへも直接攻められるという意味だし」
「それに気付いたのがケイン元皇子なのです」
何その便利ハブ。弱点が超ハブ-ハブ間の所要時間しかないじゃないか。
この話が表に出れば誰もが欲しがる要衝となるわけだ。
ハブ次元跳躍門を閉めるとそのハブ下への亜空間連続体も途切れるという話だから、最終手段は次元跳躍門の閉鎖だな。
だけど、超ハブ次元跳躍門を使って地球に行こうとしたり侵略しようとしなければフリーで通過していただくという手もあるかもしれない。
「アノイ要塞なら今の倍も戦力があれば防衛任務はこなせるだろう。
タタラ星系も工場衛星の要塞砲が直れば早々侵略は出来ない。
となると地球防衛のために地球に工場惑星を持っていくべきか」
「工場惑星は、その大きさ故に次元跳躍門を通過できません。
銀河を隔てた物理距離の遠い地球へは次元跳躍でも何年かかるかわかりません。
そもそも帝国からは地球の座標が判っていませんので次元跳躍不能です」
「そういや地球がどの銀河にあるのかも判ってないって言ってたな」
となるとビギニ星系のステーションに戦力を集めておく必要があるのか。
「うーん、やはり超ハブは解放せずに、アノイ星系からだけ次元跳躍門が繋がるように設定しておくか」
一応、今もそうしているんだけどね。
「そうなると晶羅はアノイ要塞常駐か?」
神澤社長いや神澤准男爵の言葉に僕に迷いが生じた。
メンバーのみんなを安全な場所=地球に帰してあげたかった。
だが地球ではアイドル活動が出来ないのでSFOに活路を見いだしたのがブラッシュリップスなのだ。
元々芸能活動再開のためにステーションに帰ろうという話になっていた。
だがステーションとアノイ要塞、どっちが危ないというのだろう?
ネックとなっていたのは芸能活動再開。
僕は閃いた。
つまりアノイ要塞で芸能活動をすればいい?
「社長、僕はアノイ要塞から領地経営のために各星系を周る。
社長やメンバーにもアノイ要塞にいてもらう。
メンバーにはアノイ要塞で芸能活動をしてもらって、その映像を地球に配信する」
「アノイ要塞もステーションも危険性が変わらないならそれがいいかもな。
だが、晶羅、お前がいない間晶羅はどうする?」
「そこで楓を招集する。
あいつと僕は三つ子で見た目の年齢も同じ、つまりきららにそっくりだ!」
楓には悪いけど、それでシューティングドリームに蔓延したきらら男説を払拭できる。
僕が結婚してきららが男のあきらだとバレそうになったけど、男の僕ときららが並んでいれば間違いなく誤魔化せる。
専用艦もそっくりなダミー艦を用意できる。
これで変なスキャンダルは消すことが出来るな。ニヤリ。
「その手があったか!! だがメンバーの意見も聞かないとな。
それに何か忘れている気がする。
ブレインハックから覚めて何か思いだせそうだったんだが……」
社長はずっと何か忘れていることがあると言っている。
SFO参入がらみの重大なことらしいが、まさか社長がブレインハックされたのは、ランカーだった頃からなのだろうか?
そうなるとSFOでアイドル活動をしようという考え自体が操られた結果となってしまう。
確定じゃないので、社長が思いだすのを待つことにしよう。
今はSFOでアイドル活動を続けることに専念してもらおう。
「社長もまだ准男爵のお仕事があるんだからね?」
「よしそれで行こう!」
社長が悩むことをやめた。
本人達の居ない所で大事なことが決定していく。
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『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
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