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放浪編

096 放浪編15 旧皇帝派

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綾姫あやめ、大丈夫か?」

 事務所アノイ支店の会議室に集まった僕達は、今回の戦闘で被害にあった綾姫あやめの無事を確認した。

「大丈夫だよ……」

 綾姫あやめは怪我よりも艦が破損したことに落ち込んでいるようだ。

「でも、どうして格闘戦特化で回避能力の高い綾姫あやめが敵艦と衝突なんて起こしたんだ?」

 僕の疑問に綾姫あやめは、先の状況を思い出すように目を閉じてから答えた。

「ステルス艦でけられなかったの。しかも大型艦で回避コースが無かったから……」

「え? 大型のステルス艦だと?」

 僕達は驚いた。今までステルス艦といえば比較的小型の突撃艦が主で、大きくとも300mが限界だと言われていた。
ステルス艦の用途は敵陣深くに進入するための隠密行動にあったので、大型艦とはあまり相性が良くないのだ。

「その大型ステルス艦は次元跳躍門ゲート付近の艦隊後方にいたみたいなの。
その大型ステルス艦と次元跳躍門ゲートを出たばかりの所でぶつかってしまったの。
大型だと思ったのは、私の艦が当たり負けしたことと、剥がれた遮蔽フィールドから覗いた衝突跡の装甲強度からの推測だけどね」

「うーん。何が目的の艦なんだ……」

 僕達が首を傾げていると愛さんが答えてくれた。

「それは、帝国でも運用している人員回収専門艦と同じものでしょう。
旧皇帝派が破損した有人艦から搭乗者を回収するために極秘で運用していると推定されます」

「つまり、今回の敵は旧皇帝派だということなのか!」

 神澤社長が驚きの声を上げる。僕達も同じで呆然としてしまった。
それは僕達が初めて認識した、人が乗る艦との戦闘だったからだ。
ん? ということは?

「まさか、僕が鹵獲した艦の中に回収しそこねた人が乗っていて、その人を回収しに来ていたなんてことはないよね?」

 僕の一言に全員の視線が僕を向く。僕は視線をぐるっと回してみんなと視線を合わせる。
一瞬間を置いて僕達は格納庫に走った。

(グラウル防衛戦から何日経っていたっけ……)


 僕は格納庫の待機所に入ると慌てて専用艦に乗りCICのパイロットシートに座る。
僕の脳が艦の電脳とリンクすると、すかさず次元格納庫の内容リストを仮想画面に出す。
部品の方にはそれらしきは無いようだ。
となると鹵獲艦のか。

『グラウル防衛戦で丸ごと鹵獲したのって戦艦と破損の大き目な巡洋艦だけだよね……。
指揮能力の高そうな艦ばかり狙ったから、有人の可能性が極めて高い』

(やばい。相手が大物の予感しかしない)

 僕は待機所の社長達と会話が出来るように通信をつないでつぶやく。
と同時に艦の電脳を元戦艦の外部電脳を介して鹵獲戦艦の電脳に繋げる。
搭乗者情報を探ると……。厄介なモノを見つけてしまった。

『いた。戦艦の中にいる』

 鹵獲戦艦のCICに搭乗者が閉じ込められていた。

『ど、ど、ど、どうしよう』

『おちつけ晶羅あきら。まず鹵獲戦艦は完全に支配下にあるんだな?』

『それは大丈夫』

『それなら隣の桟橋にある俺と菜穂なほの艦をどかすから、そこへ戦艦を出せ』

 ちなみに僕達は艦隊で格納庫を斡旋してもらったので、艦隊全艦が入ってもあり余るぐらいの広さの円柱状巨大格納庫を持っている。
待機所はその壁側にあり、壁から届く範囲の艦はチューブで乗り込むようになっている。
当然無重力なので艦は上下左右関係なく全ての壁面に係留されている。
ただ中央に係留される艦には壁からチューブが届かないため、桟橋が格納庫奥から突き出ていてそこからのチューブで乗り降りをする。
なので1km級の戦艦も係留可能なのだ。

『じゃあ、その2艦を次元格納庫に入れちゃうよ』

 僕は搭乗チューブを外したポケット戦艦と大戦艦をサクっと次元格納庫にしまう。
すかさず鹵獲戦艦を次元格納庫から出す。
チューブが自動的に伸びて鹵獲戦艦の搭乗口エアロックにはまる。
敵味方で統一規格だからこそ出来る芸当だ。

『社長、突入よろしく。たぶん倒れてるから。でも銃でも持ってると危ないから油断しないでね?』

 突入は社長に丸投げした。
社長は威圧のスキルを持っているから、制圧向きだと確信している(嘘)。

『社長、無理しないでよ』

 鹵獲戦艦の電脳は完全に僕の支配下にあるので、簡単にエアロックが開く。
社長が乗り込むと通路の隔壁を開けていく。
戦艦のCICは厚い防御区画の中にあるのでCICまでの通路にいくつもの隔壁があるのだ。
社長がCIC入り口に着く。バールのようなものを手にしている。
ん? 社長の様子が見えるって……。

『晶羅《あきら》いいぞ』

 社長が腕輪で通信を送って来る。

『ちょっと待って。監視カメラの映像をハッキング来ていて丸見えだったよ。今からCICの中を見てみる』

 緊張して構えていた社長がコケるのが見える。
ごめん、社長。うっかりしてた。
僕はCIC内の監視カメラ映像を手に入れる。
リアルタイム映像で中が見える。
そこにはぐったりとして倒れている少女がいた。

『社長、いたよ。倒れてる。今から突入よろしく。3・2・1・ゴー!』

『忙しいな、おい』

 カウントゼロでCICの扉を開けると、すかさず中に社長が飛び込む。
少女は生きていた。絶食のため空腹で倒れていたようで全く抵抗しなかった。
敵も人間か。僕達が得た捕虜第一号は可憐な少女だった。


 捕虜の少女を僕の新居に運び込んだ。
看病するなら病院に入れた方がいいと思うんだけど、そうなるとアノイ要塞は帝国の持ち物なので、帝国の把握するところとなる。
帝国に知られたら、少女が旧皇帝派だとすると、どんな拷問による取り調べを受けるかわからない。
僕も帝国と親密だとは必ずしも言えない。プリンスとは険悪な関係だ。
ここは少女に恩を売って旧皇帝派と接触するプランも想定して置くべきだ。
僕たちは少女を匿うべきだとの合意を得た。
それで、僕の新居の嫁部屋に少女が匿われたということだ。

「とりあえず、彼女はね」

「「「はい?」」」

「脱水症状と空腹で弱っているから看病よろしく」

 僕は三人嫁に事情を説明せずに看病をお願いした。
もちろん僕も一緒に看病する。
名前は死んだ佐藤から拝借した。佐藤が回収されて生きていて軟禁状態を再開したというていだ。
なるべく平和裏に話をして援助を得られればいいんだけど。
それにしてもこの娘、誰かに似ている気がするんだが……。

 この時僕はまだ、この少女の危険性に気付いていなかった。
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