95 / 199
放浪編
092 放浪編11 プリンス
しおりを挟む
判決が出たとはいえ、ギルバート伯爵も臣下も武力をそのまま保持していた。
艦隊で武装蜂起されたら数の差で対抗できそうもないし、伯爵の臣下に白兵戦で襲撃されたら、艦以外の武器を持たない僕らは手も足も出ない。
だが裁判官から閉廷の言葉が出ると同時に、伯爵はいきなり痙攣をして麻痺状態になってしまった。
帝国民が共通して着けている腕輪の機能を使い、拘束のために麻痺させたとのことだ。
あっけなくギルバート伯爵も共犯の臣下もお縄についた。
伯爵が指揮していた第183艦隊は、帝国正規軍であって伯爵の私兵ではなかった。
なので一部伯爵子飼いの臣下の艦以外はアノイ要塞に恭順した。
その子飼いの臣下も共犯として捕まったため、混乱は全く起きなかった。
ただ、この腕輪の機能が自分達にも向いていることに、僕は脅威を覚えた。
洗脳と同様に、今後は腕輪にも気をつけなければならない。
裁判官AIからコマンダー・サンダースに判決が伝えられ、ギルバート伯爵とその臣下は収監された。
後で罪状とともに帝国本国へ移送されることになるだろう。
護衛騎士として来ていた帝国軍補佐官はギルバート伯爵の臣下ではなく、柵のないディッシュ伯爵の息子なのだそうだ。
彼が法的に正しく審議したところ、全てギルバート伯爵が法をねじ曲げた結果の暴挙だったと確定した。
この際、僕が帝国の第6皇子だということが、コマンダー・サンダースに伝えられた。
犬族の長である男爵家から嫁を出していたことに、コマンダー・サンダースは小さくガッツポーズをしていた。
当然、この期に及んで嫁入りの撤回など考えもしないから、嫁入りは確定することになった。
そういやアノイ要塞の3軍は、嫁3人の実家の領兵だった。
小領地混成軍は小領地を持つ小規模部族の集団だが、実質ラーテル族がほぼ支配しているのだそうだ。
僕は嫁を通じてアノイ要塞の全軍を牛耳れる立場になってしまった。
実験体、獣と虐げられ、二級市民の座に甘んじなければならない彼らにとって、僕を皇帝に据えられれば自分たちの立場を高めることが出来る。
彼らは第6皇子である僕に付くことを早々に決めたようだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
僕が事務所に帰ると、先に解放された社長以下みんなが僕を心配してくれていた。
強引に連れて行かれた綾姫も帰って来た。
「今回の件、裏でシナリオを書いていたのはプリンスだったよ」
「なんだって!」
社長が驚く。みんなも呆然としている。
「ステーションが攻撃されていると言われていた時、洗脳から覚めていた僕は、ステーションの後方から迫る艦隊も、ステーションの損傷も見えなかった。
大損害を出したと言っていたステーションに、傷ひとつ無かったから、これも幻覚を使った何かの陰謀だろうと思っていた。
だが、次元跳躍門からの敵艦隊の襲撃は本物だった。
それでステーションの撤退は本当なんだろうと思ってしまっていたんだ。
あれはプリンスの企みだったに違いない。僕たちを帝国に誘拐し、あわよくば貴族の支配下に置くことが目的だったんだろう。
監察官が動いていたからどうにかなると思っていたけど、まさかプリンスが一連の事件の主犯だったなんて思いもしなかった……」
「つまりプリンスが黒幕だということか」
神澤社長が顔をしかめながら問う。
「たぶんね。
愛さん、プリンスは第何皇子だ?」
「「「え? 皇子 (だと)?」」」
みんなが驚く。そういえば僕も皇子だったって伝えてなかったな。
「プリンス様――ケイン殿下は、第13皇子です。
晶羅殿下が皇子と判明したことで第12皇子から継承権が1つ下がりました」
「「「「えーーーー! 晶羅も皇子? どういうこと(だ)」」」」
ここは皇子の認定条件の話からしないとならないだろうな……。
愛さんに説明を全振りする。
「……というわけで、皇帝陛下の血筋外で皇帝の因子を持って稀に生まれるのが自然発生皇子と呼ばれる存在――晶羅殿下です。
晶羅殿下がステーションでDNAを登録した際に、皇帝の因子を持っていることが判明し、その因子の強さから第6皇子と認定されました」
みんな僕が皇子だと知って動転している。
綾姫と美優はパニックになっている。
紗綾は「玉の輿」と言いながらガッツポーズをしている。
「つまり、それによりプリンスは自分の立場が危うくなったということか」
社長がいち早く復帰した。
そこなんだよね。それが動機っぽい。
「だろうね。自分の皇位継承を脅かす存在がいきなり1人、しかも上位に増えたってことだからね」
社長の言葉に僕も現実が見えてきた。プリンスは僕が邪魔だったんだ。
「皇子に認定されると、それを伝えないなんてことはあるの?」
「基本的に有り得ません。
私の情報提供にロックがかかっていたこともプリンス殿下の皇子命令だと思われます」
ああ、立場を使っての隠蔽工作か。
伝えるべき人間が隠蔽に走ったんじゃ知りようがないわな。
愛さんの存在が無ければ終わっていたかもしれない。
まさか愛さんの機密管理が時々ユルユルなのは……。まさかね。
「つまり僕は皇位継承問題に既に巻き込まれているってことだよね」
「そうなります」
「これ、どこまでやっていいんだろ?」
「質問内容が曖昧です。もう少し具体的にお願いします」
「プリンスを法的、物理的に排除出来るのかって話」
「法的には無理です。法より身分が優先してしまいます。
ただし、この件によって晶羅殿下にはケイン殿下へ報復する権利が与えられます」
そういや、プリンスの本名はケインなのか。
ケインという名にはたしか「裏切り」という意味があったな。
プリンスにピッタリの名前じゃないか。
「報復とは、どの程度のことが出来るの?」
「この件を帝国中に晒しケイン殿下の権威を失墜させることから、決闘による全面武力衝突まで出来ます」
「全面武力衝突は、こっちの方が危なそうだね。
悔しいけど効果的な報復手段は無さそうだ。
まずは逆にやられないために戦力増強が必要だな」
どうやら地球帰還=プリンス打倒になりそうだ。
さて、どこから戦力を増強するべきか。
周辺地域を僕の支配域に入れていくか?
プリンスの支配域なら他所から文句は出ないだろう。
そのためには色々知る必要がある。
「愛さん、帝国の情報がいる。僕に全てを教えてくれ。
まず敵勢力とは何だ?」
「敵勢力とは、旧皇帝派の残党と野良の艦船生物のことです」
ちょっと待って。とんでもない情報が2つあるぞ。
「まず旧皇帝派とは?」
「遙か昔、今の皇家よりずっと前の時代に、騙し討ちで倒され帝位を簒奪された皇帝がいました。
その係累や臣下が今も正当な帝国の継承者であるとして抵抗しているです。
それが敵勢力と言われている勢力の1つです」
遥か昔、すっと前の時代か……。
それにしても帝国のサポートAIが簒奪と言うのか。
これも旧帝国の技術を丸々パクった弊害だろうか?
しかし、旧帝国の残党が長年諦めずに戦いを挑むという事は何か譲れない理由でもあるのか?
「旧皇帝派が帝国に戦いを挑むのは何か譲れない理由でもあるの?」
「はい。帝国が今も掌握している、とある秘宝を取り返そうとしているようです」
「とある秘宝とは?」
「サポートAIのデータバンクに情報そのものがありません」
旧皇帝派か。僕の地球の常識では帝位を簒奪した今の帝国より正当性がありそうな気がするぞ。
だけど皇子認定されてしまっている僕も彼らからしたら敵の皇子になるんだろうな。
味方に引き込むのは不可能かな。
「野良の艦船生物とは?」
「帝国の艦船も元はと言えば艦船生物なのです。無機物系の鉱物生物が帝国人のDNAに残された情報を元に艦船の形をとっているのです。
これは旧帝国の遺産だと推定されており、元々旧帝国の生物兵器だと言われています。
それが野良化したのが野良の艦船生物で、DNAの情報を得て進化するために人を襲います」
「暴走した鉱物生物兵器か。これは話し合いの余地もなさそうだね」
こっちはナーブクラックで支配すれば有力な戦力になるかもしれないぞ。
「皇帝の因子によって皇子に順位がついているけど、これは固定されているの?」
「いいえ。因子は艦の成長と共に強くなります。因子が強くなれば順位が上がります」
「その順位によって次期皇帝が決まるの?」
「基本的にそうです」
ほう。皇帝の血筋じゃなくても皇帝になれるのか。
「簒奪したにしては、地位を自分の血筋に残さないんだね」
「いいえ。今のところは代々新皇帝陛下の血筋が継承しています」
「それは血筋以外は結果的に粛清されてるということ?」
「一部は戦いにより命を落とした結果ですが、ほとんどは病死です」
「病死?」
「皇帝の因子持ちは病弱なのです。それで生体強化の実験で生命力の強い生物のDNAを入れようとしたのです」
ああ、それが獣人たちってことか。
「その生体強化の実験と猫族や犬族達の境遇がやっと繋がったよ」
「その実験結果により強化された者達が新皇帝陛下の血筋なのです。
自然発生の因子持ちはその強化の恩恵を受けていないので弱いのです」
「僕も自然発生だから弱いのか……。僕は結構元気なんだけどな。
となると、病死以外の順位入れ替えは皇子同士で争ったということか」
「はい」
血生臭い話だな。
だからプリンスは僕を目の敵にしたんだな。
そんな素振りは一切見せないで、むしろ味方だと思わせて……。
ジワリジワリと僕を追い込んでいたなんて恐ろしい奴だ。
そんな皇位継承争いになんで僕が巻き込まれなければいけないんだ。
「晶羅殿下は帝国人以外から発生した初めての因子持ちです。
地球人は帝国人とは全く違う系統で発生した人類なのです。
それが交配可能レベルまで帝国人と遺伝的にそっくりだということが不思議なのです。
もしかすると共通の先祖から派生した兄弟種族、旧皇帝種族の再来かと思われたのかもしれません」
僕が脅威だと思われていた理由がなんとなくわかって来たぞ。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
今、アノイ要塞の地球人たちに騒がれている件がある。
僕はあまり気にしたことが無かったんだけど、SFOって総勢何人ぐらいがプロゲーマーとして所属しているんだろう。
たしか新人が毎週30~40人ぐらい増えていると聞いたことがある。
6人で受講した研修室が8部屋はあったし、週毎に人数に波があるとしても5部屋から7部屋ぐらいが常に使われていた印象だった。
その新人が3年契約で入って来るんだから、常時5500人ぐらいはSFOプレイヤーがいるはずだ。
それに加えて上位ランクを得た人はそのまま契約延長している人が多いし、RP専門で来ている傭兵さんたちも長期契約で更新している。
ざっと総勢8000人はいてもおかしくない。
各ランクのトーナメント同時開催数と人数構成からいってもそれぐらいが妥当だろう。
なのにアノイ要塞にいる地球人が2500人ぐらいしかいないっておかしくないか?
残り5500人ってどこに行っちゃったの?
SFOランカーが10人いるはずだけど、ここに全員が揃ってないのはおかしいよね?
最初は遠征に行ったまま、まだ帰って来ていないのだと思われていた。
しかし、時間が経つにつれ、知り合いがいないとか、あのSFOランカーを見かけないとか、皆が異常に気付きだした。
アノイ要塞に来る前のこと、最初にステーションに人がいないと思ったのは、敵の攻勢が止まってRP組の皆が遠征に出かけた時だった。
VPには人がいたけど、そもそも仮想空間での虚像の戦いだ。
はたして、その人達は本当にそこに居たのだろうか?
そう思うと僕たちが遠征から帰って来た後のステーションは、おかしかった。
もしや元からいたSFOプレイヤーがそこにはいなかったのではないか?
何らかの選抜によって集められた者たちだけが、そこに残留していて、そのままアノイ要塞に連れて来られたのではないのか。
こんなことが出来るのは、洗脳によって誘導されたからじゃないだろうか。
消えた5500人は、もしかしたらビギニ星系で今でも普通にSFOをプレイして配信しているのではないのか?
プリンスに裏切られたと判った今では、そう疑わざるを得ない。
アノイ要塞に連れて来られた2500人というのが、丁度契約切れにより1年間でSFOを去るはずだった人数とほぼ同じだというのも何かを暗示している気がする。
もしかすると、姉華蓮が行方不明な理由もこれかもしれない。
艦隊で武装蜂起されたら数の差で対抗できそうもないし、伯爵の臣下に白兵戦で襲撃されたら、艦以外の武器を持たない僕らは手も足も出ない。
だが裁判官から閉廷の言葉が出ると同時に、伯爵はいきなり痙攣をして麻痺状態になってしまった。
帝国民が共通して着けている腕輪の機能を使い、拘束のために麻痺させたとのことだ。
あっけなくギルバート伯爵も共犯の臣下もお縄についた。
伯爵が指揮していた第183艦隊は、帝国正規軍であって伯爵の私兵ではなかった。
なので一部伯爵子飼いの臣下の艦以外はアノイ要塞に恭順した。
その子飼いの臣下も共犯として捕まったため、混乱は全く起きなかった。
ただ、この腕輪の機能が自分達にも向いていることに、僕は脅威を覚えた。
洗脳と同様に、今後は腕輪にも気をつけなければならない。
裁判官AIからコマンダー・サンダースに判決が伝えられ、ギルバート伯爵とその臣下は収監された。
後で罪状とともに帝国本国へ移送されることになるだろう。
護衛騎士として来ていた帝国軍補佐官はギルバート伯爵の臣下ではなく、柵のないディッシュ伯爵の息子なのだそうだ。
彼が法的に正しく審議したところ、全てギルバート伯爵が法をねじ曲げた結果の暴挙だったと確定した。
この際、僕が帝国の第6皇子だということが、コマンダー・サンダースに伝えられた。
犬族の長である男爵家から嫁を出していたことに、コマンダー・サンダースは小さくガッツポーズをしていた。
当然、この期に及んで嫁入りの撤回など考えもしないから、嫁入りは確定することになった。
そういやアノイ要塞の3軍は、嫁3人の実家の領兵だった。
小領地混成軍は小領地を持つ小規模部族の集団だが、実質ラーテル族がほぼ支配しているのだそうだ。
僕は嫁を通じてアノイ要塞の全軍を牛耳れる立場になってしまった。
実験体、獣と虐げられ、二級市民の座に甘んじなければならない彼らにとって、僕を皇帝に据えられれば自分たちの立場を高めることが出来る。
彼らは第6皇子である僕に付くことを早々に決めたようだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◆
僕が事務所に帰ると、先に解放された社長以下みんなが僕を心配してくれていた。
強引に連れて行かれた綾姫も帰って来た。
「今回の件、裏でシナリオを書いていたのはプリンスだったよ」
「なんだって!」
社長が驚く。みんなも呆然としている。
「ステーションが攻撃されていると言われていた時、洗脳から覚めていた僕は、ステーションの後方から迫る艦隊も、ステーションの損傷も見えなかった。
大損害を出したと言っていたステーションに、傷ひとつ無かったから、これも幻覚を使った何かの陰謀だろうと思っていた。
だが、次元跳躍門からの敵艦隊の襲撃は本物だった。
それでステーションの撤退は本当なんだろうと思ってしまっていたんだ。
あれはプリンスの企みだったに違いない。僕たちを帝国に誘拐し、あわよくば貴族の支配下に置くことが目的だったんだろう。
監察官が動いていたからどうにかなると思っていたけど、まさかプリンスが一連の事件の主犯だったなんて思いもしなかった……」
「つまりプリンスが黒幕だということか」
神澤社長が顔をしかめながら問う。
「たぶんね。
愛さん、プリンスは第何皇子だ?」
「「「え? 皇子 (だと)?」」」
みんなが驚く。そういえば僕も皇子だったって伝えてなかったな。
「プリンス様――ケイン殿下は、第13皇子です。
晶羅殿下が皇子と判明したことで第12皇子から継承権が1つ下がりました」
「「「「えーーーー! 晶羅も皇子? どういうこと(だ)」」」」
ここは皇子の認定条件の話からしないとならないだろうな……。
愛さんに説明を全振りする。
「……というわけで、皇帝陛下の血筋外で皇帝の因子を持って稀に生まれるのが自然発生皇子と呼ばれる存在――晶羅殿下です。
晶羅殿下がステーションでDNAを登録した際に、皇帝の因子を持っていることが判明し、その因子の強さから第6皇子と認定されました」
みんな僕が皇子だと知って動転している。
綾姫と美優はパニックになっている。
紗綾は「玉の輿」と言いながらガッツポーズをしている。
「つまり、それによりプリンスは自分の立場が危うくなったということか」
社長がいち早く復帰した。
そこなんだよね。それが動機っぽい。
「だろうね。自分の皇位継承を脅かす存在がいきなり1人、しかも上位に増えたってことだからね」
社長の言葉に僕も現実が見えてきた。プリンスは僕が邪魔だったんだ。
「皇子に認定されると、それを伝えないなんてことはあるの?」
「基本的に有り得ません。
私の情報提供にロックがかかっていたこともプリンス殿下の皇子命令だと思われます」
ああ、立場を使っての隠蔽工作か。
伝えるべき人間が隠蔽に走ったんじゃ知りようがないわな。
愛さんの存在が無ければ終わっていたかもしれない。
まさか愛さんの機密管理が時々ユルユルなのは……。まさかね。
「つまり僕は皇位継承問題に既に巻き込まれているってことだよね」
「そうなります」
「これ、どこまでやっていいんだろ?」
「質問内容が曖昧です。もう少し具体的にお願いします」
「プリンスを法的、物理的に排除出来るのかって話」
「法的には無理です。法より身分が優先してしまいます。
ただし、この件によって晶羅殿下にはケイン殿下へ報復する権利が与えられます」
そういや、プリンスの本名はケインなのか。
ケインという名にはたしか「裏切り」という意味があったな。
プリンスにピッタリの名前じゃないか。
「報復とは、どの程度のことが出来るの?」
「この件を帝国中に晒しケイン殿下の権威を失墜させることから、決闘による全面武力衝突まで出来ます」
「全面武力衝突は、こっちの方が危なそうだね。
悔しいけど効果的な報復手段は無さそうだ。
まずは逆にやられないために戦力増強が必要だな」
どうやら地球帰還=プリンス打倒になりそうだ。
さて、どこから戦力を増強するべきか。
周辺地域を僕の支配域に入れていくか?
プリンスの支配域なら他所から文句は出ないだろう。
そのためには色々知る必要がある。
「愛さん、帝国の情報がいる。僕に全てを教えてくれ。
まず敵勢力とは何だ?」
「敵勢力とは、旧皇帝派の残党と野良の艦船生物のことです」
ちょっと待って。とんでもない情報が2つあるぞ。
「まず旧皇帝派とは?」
「遙か昔、今の皇家よりずっと前の時代に、騙し討ちで倒され帝位を簒奪された皇帝がいました。
その係累や臣下が今も正当な帝国の継承者であるとして抵抗しているです。
それが敵勢力と言われている勢力の1つです」
遥か昔、すっと前の時代か……。
それにしても帝国のサポートAIが簒奪と言うのか。
これも旧帝国の技術を丸々パクった弊害だろうか?
しかし、旧帝国の残党が長年諦めずに戦いを挑むという事は何か譲れない理由でもあるのか?
「旧皇帝派が帝国に戦いを挑むのは何か譲れない理由でもあるの?」
「はい。帝国が今も掌握している、とある秘宝を取り返そうとしているようです」
「とある秘宝とは?」
「サポートAIのデータバンクに情報そのものがありません」
旧皇帝派か。僕の地球の常識では帝位を簒奪した今の帝国より正当性がありそうな気がするぞ。
だけど皇子認定されてしまっている僕も彼らからしたら敵の皇子になるんだろうな。
味方に引き込むのは不可能かな。
「野良の艦船生物とは?」
「帝国の艦船も元はと言えば艦船生物なのです。無機物系の鉱物生物が帝国人のDNAに残された情報を元に艦船の形をとっているのです。
これは旧帝国の遺産だと推定されており、元々旧帝国の生物兵器だと言われています。
それが野良化したのが野良の艦船生物で、DNAの情報を得て進化するために人を襲います」
「暴走した鉱物生物兵器か。これは話し合いの余地もなさそうだね」
こっちはナーブクラックで支配すれば有力な戦力になるかもしれないぞ。
「皇帝の因子によって皇子に順位がついているけど、これは固定されているの?」
「いいえ。因子は艦の成長と共に強くなります。因子が強くなれば順位が上がります」
「その順位によって次期皇帝が決まるの?」
「基本的にそうです」
ほう。皇帝の血筋じゃなくても皇帝になれるのか。
「簒奪したにしては、地位を自分の血筋に残さないんだね」
「いいえ。今のところは代々新皇帝陛下の血筋が継承しています」
「それは血筋以外は結果的に粛清されてるということ?」
「一部は戦いにより命を落とした結果ですが、ほとんどは病死です」
「病死?」
「皇帝の因子持ちは病弱なのです。それで生体強化の実験で生命力の強い生物のDNAを入れようとしたのです」
ああ、それが獣人たちってことか。
「その生体強化の実験と猫族や犬族達の境遇がやっと繋がったよ」
「その実験結果により強化された者達が新皇帝陛下の血筋なのです。
自然発生の因子持ちはその強化の恩恵を受けていないので弱いのです」
「僕も自然発生だから弱いのか……。僕は結構元気なんだけどな。
となると、病死以外の順位入れ替えは皇子同士で争ったということか」
「はい」
血生臭い話だな。
だからプリンスは僕を目の敵にしたんだな。
そんな素振りは一切見せないで、むしろ味方だと思わせて……。
ジワリジワリと僕を追い込んでいたなんて恐ろしい奴だ。
そんな皇位継承争いになんで僕が巻き込まれなければいけないんだ。
「晶羅殿下は帝国人以外から発生した初めての因子持ちです。
地球人は帝国人とは全く違う系統で発生した人類なのです。
それが交配可能レベルまで帝国人と遺伝的にそっくりだということが不思議なのです。
もしかすると共通の先祖から派生した兄弟種族、旧皇帝種族の再来かと思われたのかもしれません」
僕が脅威だと思われていた理由がなんとなくわかって来たぞ。
◇ ◇ ◇ ◆ ◇
今、アノイ要塞の地球人たちに騒がれている件がある。
僕はあまり気にしたことが無かったんだけど、SFOって総勢何人ぐらいがプロゲーマーとして所属しているんだろう。
たしか新人が毎週30~40人ぐらい増えていると聞いたことがある。
6人で受講した研修室が8部屋はあったし、週毎に人数に波があるとしても5部屋から7部屋ぐらいが常に使われていた印象だった。
その新人が3年契約で入って来るんだから、常時5500人ぐらいはSFOプレイヤーがいるはずだ。
それに加えて上位ランクを得た人はそのまま契約延長している人が多いし、RP専門で来ている傭兵さんたちも長期契約で更新している。
ざっと総勢8000人はいてもおかしくない。
各ランクのトーナメント同時開催数と人数構成からいってもそれぐらいが妥当だろう。
なのにアノイ要塞にいる地球人が2500人ぐらいしかいないっておかしくないか?
残り5500人ってどこに行っちゃったの?
SFOランカーが10人いるはずだけど、ここに全員が揃ってないのはおかしいよね?
最初は遠征に行ったまま、まだ帰って来ていないのだと思われていた。
しかし、時間が経つにつれ、知り合いがいないとか、あのSFOランカーを見かけないとか、皆が異常に気付きだした。
アノイ要塞に来る前のこと、最初にステーションに人がいないと思ったのは、敵の攻勢が止まってRP組の皆が遠征に出かけた時だった。
VPには人がいたけど、そもそも仮想空間での虚像の戦いだ。
はたして、その人達は本当にそこに居たのだろうか?
そう思うと僕たちが遠征から帰って来た後のステーションは、おかしかった。
もしや元からいたSFOプレイヤーがそこにはいなかったのではないか?
何らかの選抜によって集められた者たちだけが、そこに残留していて、そのままアノイ要塞に連れて来られたのではないのか。
こんなことが出来るのは、洗脳によって誘導されたからじゃないだろうか。
消えた5500人は、もしかしたらビギニ星系で今でも普通にSFOをプレイして配信しているのではないのか?
プリンスに裏切られたと判った今では、そう疑わざるを得ない。
アノイ要塞に連れて来られた2500人というのが、丁度契約切れにより1年間でSFOを去るはずだった人数とほぼ同じだというのも何かを暗示している気がする。
もしかすると、姉華蓮が行方不明な理由もこれかもしれない。
0
お気に入りに追加
405
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
僕は彼女の彼女?
奈落
SF
TSFの短い話です
~~~~~~~~
「お願いがあるの♪」
金曜の夕方、彼女が僕に声を掛けてきた。
「明日のデート♪いつもとはチョット違う事をしてみたいの。」
翌土曜日、いつものように彼女の家に向かうと…
エッチな方程式
放射朗
SF
燃料をぎりぎりしか積んでいない宇宙船で、密航者が見つかる。
密航者の分、総質量が重くなった船は加速が足りずにワープ領域に入れないから、密航者はただちに船外に追放することになっていた。
密航して見つかった主人公は、どうにかして助かる方法を探す。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる