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アイドル編

064 アイドル編40 CランクVP1

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 Cランク艦隊は、32艦隊によるDランクVPトーナメントを勝ち抜いた特別な存在と言えた。
補給も修理もない状態でDランク艦隊と5連戦を行って勝ち抜くというのは、並大抵の実力では出来ないものなのだ。
このCランクからが本物のSFOプレイヤーだと言われ、RPに出ても危なげなく戦えると評されている。

「負けたね~」

 ソファーにどっかりと腰かけた紗綾さーやがなんかスッキリした面持ちで呟く。
僕たちは、たったいまCランクVPを終え事務所に集まって来ていた。
実は僕たちは初のCランクVPを4回戦で負けてしまったのだ。
その反省会を開くために事務所に集まったのだ。

「うん。完全に経験不足だね」

 僕も悔しいが認めるしかなかった。

「さすが上位のCランクVPだわ。ダメージコントロールと弾薬の管理が想像以上だわ」

 菜穂なほさんが敗因を分析する。
CランクVPともなると64艦隊による6連戦に勝たないとならない。
そこは艦の性能の優劣はもちろんだが、プレイヤーのあらゆるテクニックが勝敗を大きく左右するのだ。
攻撃、回避、ダメージコントロール、兵站、戦術といったあらゆる技術が総じて優れていないと今後は勝っていけない。

「これがCランクの世界……」

 なるほど。相手を選んで棄権するなどCランクの矜持が許さないというのは事実なんだ。
僕たちはDランク艦隊から敬遠されてVPが出来ないという状態になってしまったため、特例でCランクに上がれた。
だが、こんなに厳しいCランクで戦うには、DランクVPで揉まれて経験を積んだ後でランクアップした方が良かったのかもしれない。

「なんか戦艦が多かったね」

「ん。ずるい」

「本来ならDランクで足踏みしているうちに艦が成長しているものかもしれないわね」

 僕の一言に美優みゆ菜穂なほさんが追随する。
僕たちは特例でCランクに上がったため、Dランクで戦って得られるはずだった艦の成長機会を得られなかった。
ここに大きな戦力差が生じてしまった。
艦数だけは数合わせのルールがあるが、個々の艦の性能に関しては艦隊の実力とみなされている。
巡洋艦ばかりの僕たちがCクラスに上がってしまったのは間違いだったのかもしれない。

「それと補給艦よ~。まさか弾薬の補給をしているなんてするいよ~!」

 紗綾さーやが嘆くのも無理もない。
Cランクに上がって驚いたのは艦種変更した艦が多いということだ。
融合によって戦艦にまで上り詰めた艦もいるし、能力特化で補給艦となっている艦もいた。
またRPにも積極的に参加することで資金が潤沢になり、鹵獲装備の融合によって艦の成長が進むということでもあるようだ。

「でも、補給艦は諸刃の剣なんだよね。艦の数は固定だから、その分戦力を低下させるんだからね」

「うちでは美優みゆちゃんが元防宙補給艦だったんだけどね~。軽空母になっちゃって格納庫が艦載機で埋まっちゃったんだよね~」

 紗綾さーやがボヤく。
紗綾さーやは別に美優みゆを批判しているわけではない。
美優みゆが艦を軽空母にしたのは戦力増強で必要だったからだ。
まさか上位ランクではあえて補給艦になっている艦がいるとは思わなかったということだ。

「その点、うちは晶羅きららちゃんの次元格納庫があるから、今後は補給物資は全部晶羅きららちゃんに持ってもらうわ」

 続けて菜穂なほさんがぶっちゃける。
確かにその手しかないんだけど……。

「いやいや、補給が出来るのは試合中だけだから大きな隙になるよ。そこらへん補給に特化した補給艦は専用装備のおかげで迅速で有利だ」

 補給物資を次元格納庫で異次元に入れれば重さは関係ない。
だが、補給専用装備を持つとなると僕の専用艦は速度が若干落ちて戦闘力が低下する。
ただでさえ攻撃専門アタッカーが僕、菜穂なほさんと綾姫あやめだけなのに、攻撃力を落としたら本末転倒だ。

「こうすればどうだ? 物資は晶羅きららちゃんで、補給専用装備は美優みゆちゃんに持たせるの」

 綾姫あやめがアイデアを出すも、それは逆に問題があった。

「それは補給に3艦が関わるということで逆に効率が悪くならないか?」

「うーん。だめか……」

 うん? 待てよ。
補給専用装備といっても格納庫から物資を出して他の艦に迅速に渡せればいいわけで、基本的に特殊な作業腕が細かい制御をしているだけだ。
それは雑多に積まれた物資を効率よく格納庫から取り出すためのものであって、僕の次元格納庫なら取り出したい物資を順番関係なく必要なだけ瞬時に出すことが出来る。
レールガンの弾薬には弾薬の搬入口があるし、ミサイルにはミサイルの搬入口がある。
そこに作業腕で渡すだけなら補給専用装備要らないんじゃ……。

「ごめん。次元格納庫の特性考えたら、補給専用装備要らないかも。
今度補給実験させてくれないかな」

「それじゃあ、補給に関してはその実験をするってことでいいわね?」

「うん」「いいよ~」「ん」「わかった」

 菜穂なほさんの裁定に皆が頷く。
そして次の議題へと移る。

「問題は圧倒的に差がついている戦闘力ね」

「マッコイ商会に訊ねたら、どうやら戦艦の艦体を手に入れて融合しているみたいだよ」

「それが一番早い戦力アップなのかもね~」

「でも、戦艦にするには反応炉も推進機も上位の型のものを搭載しないとならないよ?」

「問題はお金ね」

「「「だねー」」」

 みんな意見は同じだった。

「RPに出てみる?」

 菜穂なほさんが消極的な雰囲気で提案する。
RPの危険性は社長から聞いて知っているのだろう。

綾姫あやめちゃんは今もやってるから大丈夫でしょ?」

「はい」

「私は出てもいいかな?」

「ん。美優みゆも」

 綾姫あやめに続き、紗綾さーや美優みゆも賛同する。
でも危険じゃないかな?
僕は皆の逸る気持ちにブレーキをかけようと発言する。

「アタッカーの菜穂なほさんはいいけど、美優みゆ紗綾さーやは艦種的にあまり稼げないよ?
RPの危険性を考えるとVPのように損傷が無かったことにならない分、赤字になりやすいと思う。
美優みゆは艦載機1機失ったら大きな損失だし。
紗綾さーやの防宙艦はコストのかかるミサイルを撃たなければならないし、いざという時は自らを犠牲にするスタイルでしょ?」

「そこは艦隊で山分けということにすればどうかしら?」

「それはダメ」

 菜穂なほさんの提案を綾姫あやめが否定する。

「それは晶羅きららちゃんの儲けを当てにするだけだから」

 そういや綾姫あやめは僕と艦隊を組んで、何もやっていないのに山分けは納得いかないと言ってたな。
でも、艦隊のために使った消耗品や、味方を庇った損傷は充分山分けに値すると思うんだけどな。

「私は晶羅きららちゃんと一緒にRPして来て、晶羅きららちゃんから山分けを言われて辛かった。
自分が何も出来てないのにお金だけ貰うなんて無理」

「そうね。それじゃ晶羅きららちゃん抜きで山分けにしましょうか。
晶羅きららちゃんには悪いけど、晶羅きららちゃんには私達の護衛になってもらうわ」

「え?」

「RPで戦って稼ぐのは私達4人。晶羅きららちゃんは私達が危なかったら介入して敵艦を倒して。
その分の稼ぎは全部晶羅きららちゃんのものでいいわ」

 なんか上手く利用されてる気がするけど、元々借金が返せたらRPでの稼ぎなんてオマケみたいなものだったからね。
4人の戦いをサポートしつつ自分の戦いで稼ぐ。
むしろ僕も綾姫あやめもお互い戦いやすいかもしれないな。

「それじゃ、RPで資金稼ぎと装備の充実を目指すわよ。
モットーは命大事に。
危ない敵は晶羅きららちゃんに任せればいいわ」

 おいおい。
信用されているのか冗談なのか……。

「わかった。任せとけ!」

 こうしてブラッシュリップス艦隊のRP参戦が決定した。
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