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アイドル編

037 アイドル編14 後始末と新曲発表会1

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 鹵獲艦の処遇が決定したという一報を受け、僕は行政府にやって来た。
案内のまま通された例の白い軟禁部屋で僕はプリンスと対面していた。

「まずは我が行政府の職員による横領事件でご迷惑をおかけたしことを謝罪いたします。
こちらの監督不行き届きでした。申し訳ない」

 どうやらあの職員は行政府の口座に返金出来ず、事件が発覚したようだ。
謝るぐらいなら、正規の販売額との差額分を行政府にもってもらいたいところだ。

「この件に関しては、損害額を行政府で負担することになりましたので、晶羅あきら様の借金は、それで完済となりました」

 おお、ちゃんと補填してくれるんだ。
プリンスは信用できるということでいいみたいだな。

「また今回鹵獲した艦に関しては、晶羅あきら様のご要望に添う形で処分いたします。
まず軽巡洋艦に関して。外部の損傷が激しく、ほとんど使い物になりません。
内部の電脳及び熱核反応炉、遮蔽フィールド発生装置の本体は無傷ですので部品として確保するか、販売するかをお選びください。
装甲板は損傷が激しいため、重量での処分となります」

 遮蔽フィールド発生装置が生きているのか。
これは儲けもんだぞ。 

「説明漏れがありました。鹵獲艦の電脳が晶羅あきら様に服従してしまっていて買取不能です」

 やはり電脳が僕に服従してしまって他人の命令に従わないらしい。

「今後のために聞きたいんだが、ナーブクラックを使わずにどうすれば鹵獲出来るんだ?」

 プリンスがナーブクラックと聞いて眉をぴくりとさせる。

「ナーブクラック? それはもしかして晶羅アキラ様のユニークスキルではないですか?」

「え? そうなの?」

「はい。他の人は誰もそんなスキルは持っていません。
そのナーブクラックによって服従状態になっているのだとすると、それを使用しての鹵獲はお薦めしません。
通常の鹵獲方法は、敵艦の武装を破壊しつくし戦闘能力を奪い、鹵獲宣言を行うことで成立します」

「じゃあ、識別信号が緑というのは、その鹵獲宣言で出るのか?」

「いいえ、そこは識別信号黄色になります。後の臨検によって緑が出ます」

「なら、今回みたいに別電脳を持った巨大ミサイルを抱えてたら、今後は危ないんじゃ……」

 俺の指摘にプリンスが深刻な顔で答える。

「はい。そこが現在帝国内で大きな話題となっているのです。
表面的な武装解除では裏をかかれる可能性があると、あの新兵器の存在で発覚したということです。
そのため現状最終防衛ラインでは晶羅アキラ様のナーブクラック以外での敵艦の鹵獲は禁止になり撃墜が推奨されるでしょう」

「となると最終防衛ラインに限り識別信号黄色は破壊対象になるわけだね」

「はい。しかし敵の新戦術が明らかになったのは大手柄です。報奨金は出ませんが……」

 プリンスが感謝の言葉を述べるが財布の紐は固かった。

「そうそう鹵獲した自立大型ミサイルですが、残念なことに電脳が晶羅アキラ様に服従していて情報を抜き出せません。
研究用に是非欲しかったのですが、爆薬を抜いて晶羅アキラ様に返却します」

「それなら今回は電脳を含む基幹部品と自立大型ミサイル、熱核反応炉、それと遮蔽フィールド発生装置を手元に置きたい。他は買取で頼みます」

「はい。母艦の電脳を含む基幹部品と自立大型ミサイル、熱核反応炉、遮蔽フィールド発生装置が晶羅アキラ様へ。
それ以外が行政府の買取で処分します。税金はそこから取りますので、差額を口座に振り込みます」

「今回丸ごと無傷で鹵獲出来たのに、優先権の取り違えでボロボロになったんだよね」

「あれは難しいところですね。最終防衛ラインでなかったらもっと緩かったんですが……。
もしあれで生きていたら直ぐ後ろのステーションが被害を受けていますからね」

「むしろ電脳を打ち抜いた方が被害が小さかったかも」

「それが出来ることを確信しているのが末恐ろしいですね」

 会話を終え、白い部屋を辞する。
鹵獲艦の電脳基幹部品と熱核反応炉、遮蔽フィールド発生装置、自立大型ミサイルは格納庫隣接の倉庫へと送られた。
ミサイルの爆薬はもしもの事があると拙いので抜かれている。

 そもそもなんで自立なんだという話だが、ミサイルなんて有線制御以外の撃ちっぱなしは全て自立しているもんだ。
そういった通常ミサイルと違って、自立ミサイルと呼ぶことになったミサイルは、小型艦に爆薬を積んだ高知能なAIを持つミサイルという感覚が近いと思う。
所謂いわゆる小型艦の自爆攻撃と言った方がいいのかもしれない。
通常ミサイルにそんな性能を持たせるのはコスト的に割が合わない。
通常ミサイルはそのコストと性能のバランスを考慮して必要最低限の知能を持たされているわけだ。
その点、自立ミサイルは電脳を搭載し知性を持たされた、此処ぞという時の決戦兵器だと言えるだろう。
爆薬を積んだ無人特攻艦といったところかな?

 あれ? 敵艦ってなのか? 鹵獲艦のっていたんだろうか?
ステーションのNPC艦が所謂無人艦なんだろうけど、リアル空間では航宙士ゲーマー乗員パイロットが必要だって話だったよね?
臨検後直ぐに鹵獲艦を渡してしまったから、そこらへんのことは何も知らないぞ。
後でプリンスに聞いてみよう。
それにしても自立ミサイルが無人艦扱いなら、これを無人艦載機として使う手があるな。


◇  ◇  ◇  ◇  ◆


 ブラッシュリップスbrashlips新メンバー晶羅きららのお披露目を兼ねた新曲発表会開催が決定された。
舞台はSFOの個別デュエルでの模擬戦がステージ予定だ。
この日のために僕は歌にダンスにレッスンを行っていた。
ここで少しメンバーを紹介しよう。
菜穂なほさんは22歳、身長162cm、ゆるふわの茶髪を背中まで伸ばしている。ぽわんとした印象だがリーダーなので要所要所は厳しい。
紗綾さーやは17歳、身長156cm、茶髪を肩で揃えている。明るいムードメーカー。運動神経抜群。
美優みゆは15歳、身長150cm、黒髪ショート。人見知りでまだ一言も話してくれない。
この先輩たちと艦隊を組んで模擬戦を行いつつ歌い踊る。
さらに僕には音響さんとしての仕事がある。
広域通信機S型で全てのチャンネルを掌握し新曲の伴奏を流し、メンバーの歌をマイクで拾い上げて発信しなければならない。

いよいよ本番。
僕は専用艦のCICに入りコクピットに座る。
アバターをアイドルアバター1に変える。新曲衣装のアバターだ。
仮想スクリーンを立ち上げ、アイドルアバター1で電脳空間に入り、模擬戦会場という名のステージに向かう。
会場には菜穂なほさん、紗綾さーや美優みゆの3人がもう待っていた。
リーダーの菜穂なほさんが試合のエントリー登録をする。
模擬戦の宙域は通常宙域に指定済み。
しばらく待つと目の前に数字が現れカウントダウンしていく。
カウントダウンの数字がゼロになり、僕が加入した新生ブラッシュリップスbrashlipsの新曲発表会兼僕のお披露目ステージが始まった。
僕達4人はSFO初のアイドルユニットとして宇宙に飛び出した。
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