3 / 60
第一部 始動
第2話 黒い招待状
しおりを挟む
病院の敷地内に有る庭に場所を移動して、スオウと男は話を再開した。
「それで、あんたはいったいどこのどいつで、高校生のおれにどんな面白い話をしてくれるんだ? そして、そこに妹の命の話がどう関わってくるんだよ」
「お話しをする前に、わたくしの自己紹介がまだ済んでいませんでしたね。最初に名乗っておくべきでした。――わたくし、紫人と申します。とある方の代理人を務めております。お話と言うのは、いたって単純です。わたくしはあなたをあるゲームへ招待しようと思って、こうして今日お会しにきたのです」
「ゲーム……?」
「そうです。それもきわめて特殊なゲームです。――あなた自身の命を懸けたゲームなのですから」
「――おれの……命……?」
スオウはこの紫人と名乗る男の言っている言葉の意味が理解出来なかった。あまりにも突拍子がなさすぎて、頭がついていけなかったのだ。
「もちろん、命を懸けて行う以上、それ相応の報酬をご用意しております。もしも、あなたがそのゲームに勝利したあかつきには、難病で苦しんでおられるあなたの妹様をお救いいたします」
紫人はスオウの反応など気にする素振りも見せずに話を続ける。
「妹を救うって……。妹は難病で、心臓移植以外の――」
「はい。その件に関しては、すべて存じ上げております。こちらで移植に適した心臓を用意することは可能です」
「まさか……そんなこと……」
「そんなことが出来るだけの力を、我々は持ち合わせているのです」
「あんたがさっき言っていた、妹の命の話というのはそういうことだったのか?」
「はい、そうです」
紫人の話を壮大な妄想話だと決め付けることは簡単に出来た。だが、この紫人という男の話し方は、妙に真実味を持っていた。もしも、ほんのわずかでも、ウソではないという確率があるならば――。
「――本当に妹の命を助けることができるのか?」
今のスオウにとって、それこそが一番知りたいことだった。この際、男の正体なんて関係ない。どんなに現実離れした話であろうと、妹を助けられるならば、信じてみる価値はある。
「ええ、出来ます。さきほどわたくしは代理人と自己紹介しましたが、正しく言いますと『死神の代理人』になります」
「死神って……あの大きな鎌を持った死神のことか……?」
「ええ、あなたが今頭で思い描いているであろう、あの死神のことです」
「じゃあ、その死神とやらが、妹を救ってくれるということなのか?」
「はい。魂をあつかうのが死神の仕事ですから。ただし、さきほども言いましたが、ゲームに勝利することが絶対条件になります。また、これはあなたの命を懸けたゲームですので、当然、ゲームの中であなたが死ぬ可能性が無いわけではありません。――それでもこのゲームに参加していただけますか? あなたの最終判断を聞かせてください」
「――ふふ。いいぜ。こうなったら、あんたの妄想話にとことん付き合ってやるよ。それで妹が助かるならな安いもんだからな」
スオウは力強いまなざしで紫人を見つめた。
「――いいか。おれはあんたの言う命を懸けたゲームに参加することに決めた」
「あなたならきっとそうおっしゃてくださると思っていました。――では、これがそのゲームの招待状となります」
紫人はスーツの内ポケットから黒い封筒を取り出すと、スオウに差し出してきた。
「ゲームの詳細については、今この場ではまだお話しすることが出来ません。ゲーム会場でお伝えることになっていますので。ゲーム開始前に、外部に漏れたりしては困るので、その点だけはどうかご了承くださるようにお願いします」
「ああ、分かったよ」
スオウは紫人が手に持つ黒い封筒を凝視した。躊躇うことなく、右手を伸ばして封筒を受け取る。
「招待状は確かにお渡ししました。あなたのご参加を心から歓迎いたします。それでは、会場でお待ちしております」
紫人は口角を上げると、さらに笑みを深くさせた。人の心を不安で揺さぶるような笑みをスオウに一度向けると、病院前のタクシー乗り場の方へと歩み去っていった。
「――命を懸けたゲームか……。ていうか、これって、なにか手の込んだドッキリ番組とかじゃないよな? 本物なんだよな?」
スオウは手にしたばかりの封筒に目を落とした。紫人との会話が幻でなかった証拠に、手にはしっかりと封筒が握られている。漆黒の封筒には、表面に銀色のインクで『D』とだけ印字されている。
死神をあらわす『デス』の頭文字『D』。
「ここまできたら、あの男の妄想話に最後まで付き合うしかないよな。これで本当にアカネが救えるのならば、やってやるまでのことさ!」
スオウは封筒を開けて、中に入っていた便箋を取り出した。
『 デス13ゲーム 御招待状
開催場所 市立病院
開催時刻 今夜19時
必要な物 ご自身の命 』
「ご自身の命って、笑わせてくれるな。まったくブラックジョークが過ぎるぜ」
夕日が落ちかけた病院の庭で、スオウはひとり苦笑いを浮かべた。
――――――――――――――――
紫人との話が長引いてしまったせいで、スオウは面会終了時間ギリギリに妹の病室に駆け込んだ。ベット上の妹は静かに寝息を立てていた。規則的に上下する胸元を見る限り、体調が悪い様子は見られない。
スオウは妹の額にかかる前髪を優しく直してやった。
ゲームのことを話したら、アカネはなんて言うだろう?
きっと妹のことだ。そんな危険なゲームには絶対に参加しないでと言うに違いない。でも、今スオウが兄として妹の為に出来ることはこれしかないのだ。
「アカネ。行ってくるよ。待っててくれよ。絶対にお前を助けてみせるからな」
スオウは妹の額に軽くキスをした。後ろ髪がひかれるが、それを振り切るようにして病室を出て行こうとしたとき――。
「……おに……い……ちゃん……」
か細い妹の寝言がスオウの背中にぶつかる。
「――大丈夫だよ。必ず戻ってくるから。必ずな」
それだけ言うと、スオウは今度こそ本当に病室を後にした。
――――――――――――――――
家に帰ってきたスオウは、さっそくゲーム開催場所へ行く準備を始めた。デイパックに財布とスマホとタオルだけ入れて準備は完了。時間がなかったので服装は制服のままにした。
点けっぱなしだったテレビを消そうとしたとき、スオウの地元のニュースが始まった。
『――市内の裁判所まで護送中だった傷害犯が、警備の隙をみて護送車から逃走しました。逃走犯は近くの交番で勤務中の警察官から拳銃を強奪し、その奪った拳銃で警察官を撃ち、そのまま逃走したとのこです。現在、市内全域に緊急非常警戒が出されており――』
「まあ、このていどの事件が起きたからって、ゲームが中止になることはないだろうな」
スオウはテレビを消して、戸締りを確認すると家を出た。必ずまた戻ってくるつもりではあるが、外に出るとつい振り返って、家の全景をしみじみと見つめてしまった。
なに弱気になっているんだよ。単純なゲームに参加するだけだ。そうさ。おれは必ずこの家に戻ってくる。そして、元気になった妹と両親と一緒に楽しく生活する。絶対にな!
スオウは改めて決意すると、ゲームに参加するべく家を出発した。
時刻は18時10分過ぎ。ゲーム開始まで――あと50分。
「それで、あんたはいったいどこのどいつで、高校生のおれにどんな面白い話をしてくれるんだ? そして、そこに妹の命の話がどう関わってくるんだよ」
「お話しをする前に、わたくしの自己紹介がまだ済んでいませんでしたね。最初に名乗っておくべきでした。――わたくし、紫人と申します。とある方の代理人を務めております。お話と言うのは、いたって単純です。わたくしはあなたをあるゲームへ招待しようと思って、こうして今日お会しにきたのです」
「ゲーム……?」
「そうです。それもきわめて特殊なゲームです。――あなた自身の命を懸けたゲームなのですから」
「――おれの……命……?」
スオウはこの紫人と名乗る男の言っている言葉の意味が理解出来なかった。あまりにも突拍子がなさすぎて、頭がついていけなかったのだ。
「もちろん、命を懸けて行う以上、それ相応の報酬をご用意しております。もしも、あなたがそのゲームに勝利したあかつきには、難病で苦しんでおられるあなたの妹様をお救いいたします」
紫人はスオウの反応など気にする素振りも見せずに話を続ける。
「妹を救うって……。妹は難病で、心臓移植以外の――」
「はい。その件に関しては、すべて存じ上げております。こちらで移植に適した心臓を用意することは可能です」
「まさか……そんなこと……」
「そんなことが出来るだけの力を、我々は持ち合わせているのです」
「あんたがさっき言っていた、妹の命の話というのはそういうことだったのか?」
「はい、そうです」
紫人の話を壮大な妄想話だと決め付けることは簡単に出来た。だが、この紫人という男の話し方は、妙に真実味を持っていた。もしも、ほんのわずかでも、ウソではないという確率があるならば――。
「――本当に妹の命を助けることができるのか?」
今のスオウにとって、それこそが一番知りたいことだった。この際、男の正体なんて関係ない。どんなに現実離れした話であろうと、妹を助けられるならば、信じてみる価値はある。
「ええ、出来ます。さきほどわたくしは代理人と自己紹介しましたが、正しく言いますと『死神の代理人』になります」
「死神って……あの大きな鎌を持った死神のことか……?」
「ええ、あなたが今頭で思い描いているであろう、あの死神のことです」
「じゃあ、その死神とやらが、妹を救ってくれるということなのか?」
「はい。魂をあつかうのが死神の仕事ですから。ただし、さきほども言いましたが、ゲームに勝利することが絶対条件になります。また、これはあなたの命を懸けたゲームですので、当然、ゲームの中であなたが死ぬ可能性が無いわけではありません。――それでもこのゲームに参加していただけますか? あなたの最終判断を聞かせてください」
「――ふふ。いいぜ。こうなったら、あんたの妄想話にとことん付き合ってやるよ。それで妹が助かるならな安いもんだからな」
スオウは力強いまなざしで紫人を見つめた。
「――いいか。おれはあんたの言う命を懸けたゲームに参加することに決めた」
「あなたならきっとそうおっしゃてくださると思っていました。――では、これがそのゲームの招待状となります」
紫人はスーツの内ポケットから黒い封筒を取り出すと、スオウに差し出してきた。
「ゲームの詳細については、今この場ではまだお話しすることが出来ません。ゲーム会場でお伝えることになっていますので。ゲーム開始前に、外部に漏れたりしては困るので、その点だけはどうかご了承くださるようにお願いします」
「ああ、分かったよ」
スオウは紫人が手に持つ黒い封筒を凝視した。躊躇うことなく、右手を伸ばして封筒を受け取る。
「招待状は確かにお渡ししました。あなたのご参加を心から歓迎いたします。それでは、会場でお待ちしております」
紫人は口角を上げると、さらに笑みを深くさせた。人の心を不安で揺さぶるような笑みをスオウに一度向けると、病院前のタクシー乗り場の方へと歩み去っていった。
「――命を懸けたゲームか……。ていうか、これって、なにか手の込んだドッキリ番組とかじゃないよな? 本物なんだよな?」
スオウは手にしたばかりの封筒に目を落とした。紫人との会話が幻でなかった証拠に、手にはしっかりと封筒が握られている。漆黒の封筒には、表面に銀色のインクで『D』とだけ印字されている。
死神をあらわす『デス』の頭文字『D』。
「ここまできたら、あの男の妄想話に最後まで付き合うしかないよな。これで本当にアカネが救えるのならば、やってやるまでのことさ!」
スオウは封筒を開けて、中に入っていた便箋を取り出した。
『 デス13ゲーム 御招待状
開催場所 市立病院
開催時刻 今夜19時
必要な物 ご自身の命 』
「ご自身の命って、笑わせてくれるな。まったくブラックジョークが過ぎるぜ」
夕日が落ちかけた病院の庭で、スオウはひとり苦笑いを浮かべた。
――――――――――――――――
紫人との話が長引いてしまったせいで、スオウは面会終了時間ギリギリに妹の病室に駆け込んだ。ベット上の妹は静かに寝息を立てていた。規則的に上下する胸元を見る限り、体調が悪い様子は見られない。
スオウは妹の額にかかる前髪を優しく直してやった。
ゲームのことを話したら、アカネはなんて言うだろう?
きっと妹のことだ。そんな危険なゲームには絶対に参加しないでと言うに違いない。でも、今スオウが兄として妹の為に出来ることはこれしかないのだ。
「アカネ。行ってくるよ。待っててくれよ。絶対にお前を助けてみせるからな」
スオウは妹の額に軽くキスをした。後ろ髪がひかれるが、それを振り切るようにして病室を出て行こうとしたとき――。
「……おに……い……ちゃん……」
か細い妹の寝言がスオウの背中にぶつかる。
「――大丈夫だよ。必ず戻ってくるから。必ずな」
それだけ言うと、スオウは今度こそ本当に病室を後にした。
――――――――――――――――
家に帰ってきたスオウは、さっそくゲーム開催場所へ行く準備を始めた。デイパックに財布とスマホとタオルだけ入れて準備は完了。時間がなかったので服装は制服のままにした。
点けっぱなしだったテレビを消そうとしたとき、スオウの地元のニュースが始まった。
『――市内の裁判所まで護送中だった傷害犯が、警備の隙をみて護送車から逃走しました。逃走犯は近くの交番で勤務中の警察官から拳銃を強奪し、その奪った拳銃で警察官を撃ち、そのまま逃走したとのこです。現在、市内全域に緊急非常警戒が出されており――』
「まあ、このていどの事件が起きたからって、ゲームが中止になることはないだろうな」
スオウはテレビを消して、戸締りを確認すると家を出た。必ずまた戻ってくるつもりではあるが、外に出るとつい振り返って、家の全景をしみじみと見つめてしまった。
なに弱気になっているんだよ。単純なゲームに参加するだけだ。そうさ。おれは必ずこの家に戻ってくる。そして、元気になった妹と両親と一緒に楽しく生活する。絶対にな!
スオウは改めて決意すると、ゲームに参加するべく家を出発した。
時刻は18時10分過ぎ。ゲーム開始まで――あと50分。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
花の檻
蒼琉璃
ホラー
東京で連続して起きる、通称『連続種死殺人事件』は人々を恐怖のどん底に落としていた。
それが明るみになったのは、桜井鳴海の死が白昼堂々渋谷のスクランブル交差点で公開処刑されたからだ。
唯一の身内を、心身とも殺された高階葵(たかしなあおい)による、異能復讐物語。
刑事鬼頭と犯罪心理学者佐伯との攻防の末にある、葵の未来とは………。
Illustrator がんそん様 Suico様
※ホラーミステリー大賞作品。
※グロテスク・スプラッター要素あり。
※シリアス。
※ホラーミステリー。
※犯罪描写などがありますが、それらは悪として書いています。
ゾンビ発生が台風並みの扱いで報道される中、ニートの俺は普通にゾンビ倒して普通に生活する
黄札
ホラー
朝、何気なくテレビを付けると流れる天気予報。お馴染みの花粉や紫外線情報も流してくれるのはありがたいことだが……ゾンビ発生注意報?……いやいや、それも普通よ。いつものこと。
だが、お気に入りのアニメを見ようとしたところ、母親から買い物に行ってくれという電話がかかってきた。
どうする俺? 今、ゾンビ発生してるんですけど? 注意報、発令されてるんですけど??
ニートである立場上、断れずしぶしぶ重い腰を上げ外へ出る事に──
家でアニメを見ていても、同人誌を売りに行っても、バイトへ出ても、ゾンビに襲われる主人公。
何で俺ばかりこんな目に……嘆きつつもだんだん耐性ができてくる。
しまいには、サバゲーフィールドにゾンビを放って遊んだり、ゾンビ災害ボランティアにまで参加する始末。
友人はゾンビをペットにし、効率よくゾンビを倒すためエアガンを改造する。
ゾンビのいることが日常となった世界で、当たり前のようにゾンビと戦う日常的ゾンビアクション。ノベルアッププラス、ツギクル、小説家になろうでも公開中。
表紙絵は姫嶋ヤシコさんからいただきました、
©2020黄札
風の音
月(ユエ)/久瀬まりか
ホラー
赤ん坊の頃に母と死に別れたレイラ。トマスとシモーヌ夫婦に引き取られたが、使用人としてこき使われている。
唯一の心の支えは母の形見のペンダントだ。ところがそのペンダントが行方不明の王女の証だとわかり、トマスとシモーヌはレイラと同い年の娘ミラを王女にするため、レイラのペンダントを取り上げてしまう。
血などの描写があります。苦手な方はご注意下さい。
何カガ、居ル――。
されど電波おやぢは妄想を騙る
ホラー
物書きの俺が執筆に集中できるよう、静かな環境に身を置きたくて引っ越した先は、眉唾な曰くつきのボロアパート――世間一般で言うところの『事故物件』ってやつだった。
元から居た住人らは立地条件が良いにも関わらず、気味悪がって全員引っ越してしまっていた。
そう言った経緯で今現在は、俺しか住んでいない――筈なんだが。
“ 何かが、居る―― ”
だがしかし、果たして――。“ 何か ”とは……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる