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第8章 フォース・オブ・ザ・デッド パートⅤ
その7
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キザムは瞬時にカケルがこれから何を言おうとしているのか悟った。自分のことは自分が一番よく知っているからである。
「その生徒は幼い頃に難病の治療において、当時新しく開発されたばかりの画期的な遺伝子療法を受けていた。その遺伝子療法が何らかの形でゾンビカタストロフィーを引き起こす原因になったのではないかとの推論が下された」
カケルの話を聞きながら、自分の幼い頃の記憶を思い返していた。学校に通えずに病院の院内学級に通っていた日々。病院を退院してからというもの、院内学級のことを思い返すことはほとんどなかった。皆無といってもよかった。病院に入院していたこと事態を思い出したくなかったからである。
「──ねえ、その生徒って……もちろん、ぼくのことだよね……?」
「ああ、そうだ。──キザム、おまえのことだよ」
カケルはキザムの質問に対して、ゆっくりと首肯した。
「オレがこの時代にタイムトラベルしてきた目的は──キザム、おまえの監視のためなのさ」
「──監視って……。じゃあ、ぼくは……カケルにずっと監視されていたの……?」
キザムの心の中で、カケルに対する絶対的な気持ちが傷付くのが分かった。絶対的な信頼が音を立てて揺らぐのが分かった。
「それじゃ、カケルがぼくに近付いたのも、ゾンビカタストロフィーを止める為だったの? ぼくに近付いて、ぼくと知り合いになって、ぼくと休み時間に楽しく話をして、ぼくと友達になってくれて……それも全部……全部……ゾンビカタストロフィーを止める為にしたことだったの……?」
「──悪いが……そういうことになる……」
カケルは心に思うところがあるのか、悲しく問い掛けるようなキザムの視線から露骨に顔を逸らした。キザムにとってカケルは初めて出来た親友とも呼べる大切な存在だった。でも、それは違っていた。キザムの勘違いでしかなかった。なぜならば、カケルはキザムを監視するために、キザムに近付いたに過ぎなかったのだ。
「──キザムを監視をする中で、もしもゾンビカタストロフィーの発生原因を突き止めることが出来たら、なんとしてでも発生を未然に防ぐことに全力を傾注する。逆に万が一にも、ゾンビカタストロフィーの発生を防ぐことが出来なかったら、いかなる手段を講じてでもして、被害を最小限度に押さえることに努める。──それがオレに課された使命だった」
カケルがなぜこの時代に来たのか、そして、この時代で何をしようとしていたのか、やっと知ることが出来た。
「もっとも、オレも流玲さんの告白を聞くまでは、おまえが受けた遺伝子療法にゾンビカタストロフィーの発生原因があると思っていたが、どうやらそれは間違いだったみたいだな。ゾンビカタストロフィーの発生原因はおまえではなく、そこにいる流玲さんにあったんだからな。あるいは、おまえは流玲さんと日常的に接触する機会があったから、そこでゾンビカタストロフィーの発生に関わるような何かが生じた可能性も捨てきれなくはないが、この状況ではそれは否定してもいいだろうな。とにかく、結果的にこうしてゾンビカタストロフィーの発生原因を突き止めることが出来て良かったぜ。──さあ、話はこれで終わりだ。キザム、そこをどいてくれ。オレはここで決着を付けないとならないんだ。ゾンビカタストロフィーの発生原因をこの手で排除しないとならないんだ。その為にタイムトラベルしてきたんだからな」
「──カケル……。ダメだよ……そんなのダメだよ……。いいか、ぼくはここをどかないからな! だってそうだろう? こんなの絶対におかしいよ!」
キザムの心の中は正直、何が正しくて、何が真実で、何が本当なのかもう混乱して訳が分からなくなっていた。信頼していたカケルに裏切られたという衝撃も大きく影響していた。
「──キザム、おまえだって分かっているはずだ。流玲さんはどこも噛まれていないのにゾンビ化しているんだぞ? それはつまり流玲さんからゾンビ化が始まったという、これ以上ないくらいの証拠なんだよ。なによりも、流玲さん自身がさっき自分で証言しただろう。ゾンビカタストロフィーは自分から始まったとな。今さらそれを聞いていなかったとは言わせないぜ」
「それはそうだけど……でも……でも、そんな……」
キザムは上手くカケルに反論出来なかった。キザムとて頭の中ではカケルの言い分をちゃんと理解していたのだ。でも、流玲にはまだ人としての意思が残っている。まだ完全にゾンビ化してしまったわけではないのだ。ここで引き下がることはどうしても出来なかった。
「──なあ、キザム。オレが生きていた未来の世界において、ゾンビに襲われて死んだ人間はどれくらの数がいたと思う?」
不意にカケルが声のトーンを落として、違う話題を振ってきた。
「なんだよいきなり……。それって今答えないといけない質問なのか? 今は流玲さんのことを──」
「ゾンビ化した人間とゾンビに喰い殺された人間の総数は、おおよそ人口の三分の一程度といったところだ。そして、ゾンビ化せずに生き残った人間の数が三分の一……」
キザムの質問を無視して、カケルが勝手に話を進めていく。
「ちょっと待ってくれよ。それじゃ、計算が合わないだろう? 残りの三分の一の人間はどうなったんだよ? まさか食べるものがなくなって餓死したのか? それとも環境が激変したせいで衰弱死したとか……」
仕方なしにキザムはカケルの話に口を挟んだ。
「考えが甘いな、キザム。それは余りにも甘すぎる。──いいか、残りの三分の一の人間は、生き残った同じ人間の手によって殺されたんだよ!」
これ以上ないくらい衝撃的で、重たい意味を持つカケルの言葉だった。
「その生徒は幼い頃に難病の治療において、当時新しく開発されたばかりの画期的な遺伝子療法を受けていた。その遺伝子療法が何らかの形でゾンビカタストロフィーを引き起こす原因になったのではないかとの推論が下された」
カケルの話を聞きながら、自分の幼い頃の記憶を思い返していた。学校に通えずに病院の院内学級に通っていた日々。病院を退院してからというもの、院内学級のことを思い返すことはほとんどなかった。皆無といってもよかった。病院に入院していたこと事態を思い出したくなかったからである。
「──ねえ、その生徒って……もちろん、ぼくのことだよね……?」
「ああ、そうだ。──キザム、おまえのことだよ」
カケルはキザムの質問に対して、ゆっくりと首肯した。
「オレがこの時代にタイムトラベルしてきた目的は──キザム、おまえの監視のためなのさ」
「──監視って……。じゃあ、ぼくは……カケルにずっと監視されていたの……?」
キザムの心の中で、カケルに対する絶対的な気持ちが傷付くのが分かった。絶対的な信頼が音を立てて揺らぐのが分かった。
「それじゃ、カケルがぼくに近付いたのも、ゾンビカタストロフィーを止める為だったの? ぼくに近付いて、ぼくと知り合いになって、ぼくと休み時間に楽しく話をして、ぼくと友達になってくれて……それも全部……全部……ゾンビカタストロフィーを止める為にしたことだったの……?」
「──悪いが……そういうことになる……」
カケルは心に思うところがあるのか、悲しく問い掛けるようなキザムの視線から露骨に顔を逸らした。キザムにとってカケルは初めて出来た親友とも呼べる大切な存在だった。でも、それは違っていた。キザムの勘違いでしかなかった。なぜならば、カケルはキザムを監視するために、キザムに近付いたに過ぎなかったのだ。
「──キザムを監視をする中で、もしもゾンビカタストロフィーの発生原因を突き止めることが出来たら、なんとしてでも発生を未然に防ぐことに全力を傾注する。逆に万が一にも、ゾンビカタストロフィーの発生を防ぐことが出来なかったら、いかなる手段を講じてでもして、被害を最小限度に押さえることに努める。──それがオレに課された使命だった」
カケルがなぜこの時代に来たのか、そして、この時代で何をしようとしていたのか、やっと知ることが出来た。
「もっとも、オレも流玲さんの告白を聞くまでは、おまえが受けた遺伝子療法にゾンビカタストロフィーの発生原因があると思っていたが、どうやらそれは間違いだったみたいだな。ゾンビカタストロフィーの発生原因はおまえではなく、そこにいる流玲さんにあったんだからな。あるいは、おまえは流玲さんと日常的に接触する機会があったから、そこでゾンビカタストロフィーの発生に関わるような何かが生じた可能性も捨てきれなくはないが、この状況ではそれは否定してもいいだろうな。とにかく、結果的にこうしてゾンビカタストロフィーの発生原因を突き止めることが出来て良かったぜ。──さあ、話はこれで終わりだ。キザム、そこをどいてくれ。オレはここで決着を付けないとならないんだ。ゾンビカタストロフィーの発生原因をこの手で排除しないとならないんだ。その為にタイムトラベルしてきたんだからな」
「──カケル……。ダメだよ……そんなのダメだよ……。いいか、ぼくはここをどかないからな! だってそうだろう? こんなの絶対におかしいよ!」
キザムの心の中は正直、何が正しくて、何が真実で、何が本当なのかもう混乱して訳が分からなくなっていた。信頼していたカケルに裏切られたという衝撃も大きく影響していた。
「──キザム、おまえだって分かっているはずだ。流玲さんはどこも噛まれていないのにゾンビ化しているんだぞ? それはつまり流玲さんからゾンビ化が始まったという、これ以上ないくらいの証拠なんだよ。なによりも、流玲さん自身がさっき自分で証言しただろう。ゾンビカタストロフィーは自分から始まったとな。今さらそれを聞いていなかったとは言わせないぜ」
「それはそうだけど……でも……でも、そんな……」
キザムは上手くカケルに反論出来なかった。キザムとて頭の中ではカケルの言い分をちゃんと理解していたのだ。でも、流玲にはまだ人としての意思が残っている。まだ完全にゾンビ化してしまったわけではないのだ。ここで引き下がることはどうしても出来なかった。
「──なあ、キザム。オレが生きていた未来の世界において、ゾンビに襲われて死んだ人間はどれくらの数がいたと思う?」
不意にカケルが声のトーンを落として、違う話題を振ってきた。
「なんだよいきなり……。それって今答えないといけない質問なのか? 今は流玲さんのことを──」
「ゾンビ化した人間とゾンビに喰い殺された人間の総数は、おおよそ人口の三分の一程度といったところだ。そして、ゾンビ化せずに生き残った人間の数が三分の一……」
キザムの質問を無視して、カケルが勝手に話を進めていく。
「ちょっと待ってくれよ。それじゃ、計算が合わないだろう? 残りの三分の一の人間はどうなったんだよ? まさか食べるものがなくなって餓死したのか? それとも環境が激変したせいで衰弱死したとか……」
仕方なしにキザムはカケルの話に口を挟んだ。
「考えが甘いな、キザム。それは余りにも甘すぎる。──いいか、残りの三分の一の人間は、生き残った同じ人間の手によって殺されたんだよ!」
これ以上ないくらい衝撃的で、重たい意味を持つカケルの言葉だった。
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