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第四章 旅の三日目 急がば回らないのが吉

第44話 三日目 時間ギリギリセーフかアウトか?

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耀太はオーリーを背中におんぶして、早足で山道を歩いていく。道は下りだったが、さすがに女性ひとりを背負っているので、どうしてもスピードは思うように出ない。

「オーリーさん、ひとつ聞きたいことがあるんですが、さっきのあの男、こん棒を持っていたけど、この国では武器の所持は違法だったりするんですか?」

馬車の最終便の時間も気になったが、さきほどの一件も気になっていたので背中越しにオーリーに質問してみた。耀太が想像するに、こういったファンタジーの世界では剣を持っている人の方が多いような気がするのだ。

「君は戦士のくせにそれくらいも分からないのかい! それじゃ、このパーティの戦士としては失格だぞ!」

オーリーを差し置いて、真っ先に菜呂が答える。


何度も言うけど、おれは戦士になった覚えはないぞ! だいたい、このグループのリーダーはおれなんだからな! だとしたら、リーダーの職業は戦士じゃなくて、勇者じゃないとおかしいだろうが!


胸の中でくだらない反論をしつつ、オーリーとの話に集中する。

「えーとですね、この国では剣の所持には制限があるんです。基本的に剣を所持できるのは王国所属の騎士か、もしくは限られた貴族だけなんです」

「それじゃ、一般市民は武装してはいけないということ?」

「いえ、完全に禁止されているわけじゃないです。国民でも、いざというときのために自衛用に家に剣を置くことは許されています。最近はないですが、例えば魔物が街を襲ってきたときに、武器がないと身を守れないですからね。あとは深い山奥で猟や薬草収集をする人たちだったり、人里離れた場所を移動する旅人なんかは、例外的に護身用の武器の所持が認められています」

「それでさっきのあいつは剣じゃなくて、こん棒を持っていたのか。あれが剣だったら、さすがに勝負にならなかったからな」

「ヨータ、もしも剣を向けられたときは静かに『そーと』逃げればいいんだよ! 『ソード』だけにな!」

先を歩く慧真がわざわざ振り返ってまでしてくだらないダジャレを放つ。

「剣を向けられた後じゃ、そんな余裕はないだろうが! とにかく剣を持った不審者と出会ったら、急いで回れ右をしろっていうことですよね、オーリーさん?」

「はい、わたしもそれが一番良い判断だと思います」

「あれ? ねえ、みんな、木々の間から建物みたいなものが見えてきたんだけど! ひょっとしたら、あれが目的地なのかな?」

スマホを片手に疲れた様子も見せずに先頭を歩いていた耀葉が立ち止まった。

「あっ、耀葉さん、そうです! そこから見えるのがオーショアの集落です!」

耀太の背中にいるオーリーが頭を精一杯前方に伸ばす。

「みなさん、あと少しで村に着きますので!」

「オーリーさん、時間的にどんな感じかな? 最終便に間に合いそうかな?」

耀太はすぐに確認した。

「馬車の停留所は村の入り口にあるので、ここからだとあと二十分弱といったところですね。今五時過ぎなので、ギリギリ間に合うかどうかといったところです」

「それじゃヨータ、ここからは急がないと! ほら走って! 走らないと間に合わないからね!」

弟の体の状態などお構いなしに姉が簡単に命令を下す。

「さすがに今から走るのは体力的にムリだから! むしろ、こっちは少し休ませて欲しいくらいなんだぞ!」

「な、な、なんか……す、す、すみません……わたしが重いせいで……。あっ、わたし、背中から下りましょうか?」

「あっ、オーリーさんは悪くないですから! ていうか、オーリーさんは全然重くないですよ! それにここで『E』レベルを離すわけにはいかないですから!」

「『E』レベル……?」

「あっ、いえ……こっちの独り言なので気にしないでください……。とにかくヨーハ、おれの体力はもう限界だから!」

「耀太くん、先生はとても悲しいです。わたしが知っている有名な先生はこう言ってますよ。『諦めたらそこで人生の落伍者になる』って!」

耀太の抗議の声に対して、なぜか組木が答える。


クミッキー先生、多分、その言葉少し違いますから! ていうか、たった一度諦めたくらいで人生の落伍者になるって、どんだけスパルタな教育方針なんですか!


「いい耀太くん、先生は泣き言なんか一切言わずに、常に前向きに行動してるんだよ! 耀太くんも先生を見習って、最後まで全力で頑張って! 倒れるのはそれからでも遅くはないから!」


誰よりも先に弱音を吐くのはクミッキー先生でしょうが! いや、その前になんで倒れることが前提なんですか! やばい! くだらないツッコミをしていたら、さらに体力が奪われていく。


時間の無駄でしかないやり取りをしたせいか、ドッと疲れが押し寄せてきた。

「耀太くん、私が少し力を貸すから、もう少しだけ頑張ろう!」

アリアが耀太の背中にそっと手を置き、耀太の体を優しく前に押し出してくれる。

「アリア、ありがとう! 歩くのがだいぶ楽になったよ!」

アリアの協力のお陰か、そこから耀太は立ち止まることなく道を下っていき、オーリーの言葉通り、二十分ほどでオーショアに辿り着いた。

村の入り口には木で作られた素朴な馬車の停留所が設置されている。しかし、目に見える範囲に馬車は停まっていない。

「停留所があったぞ! オレが一足先に行って確認してくるから!」

慧真が一目散で駆け出す。

「頼んだぞ、ケーマ!」

「えーと、この時刻表によると、やっぱり最終は五時三十分みたいだな。今が五時三十五分だから……ダメだ! ヨータ、やっぱり最終便は出ちゃったみたいだ!」

「そんな……。あんなに頑張って山越えをしてきたのに……」

「あの、すみません、ちょっと聞きたいんですが、五時半の最終便はもう出発しちゃいましたか?」

耀太の背中から下りたオーリーが、近くにいた鍬を担いだ男性に尋ねる。

「なんだ、オーリーじゃないか。今、ジフサワーから帰ってきたのか? 最終の馬車なら少し前に出発したぞ」

「そうですか……。やっぱり間に合わなかったですね……。わたしが足をケガさえしなければ……」

オーリーがしゅんとした表情で大きなため息をつく。
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