上 下
29 / 57
第三章 旅の二日目 本日もトラブル続きです!

第29話 二日目 そして、ぼくらは途方に暮れる

しおりを挟む
「通常なら五万マルの代金がするお部屋なんですが、こういう事情なので特別価格の一万マルでみなさんにお譲りしますが、どうでしょうか?」

ギーザが耀太たちにパンフレットを示しながら、熱心に交渉を勧めてくる。

「一万マルか……。いや、さすがにその料金はちょっと高いかな……」

耀太はギーサの言葉を聞いて考え込んでしまった。一日の旅の資金は路線馬車代、食事代、宿代の全部を含めて、一万マルと決まっている。一泊のホテル代に一万マルは耀太たちの懐事情からするとかなりの割高になる。

「ねえねえ、このリゾートホテルにはお酒が飲めるラウンジはあるの?」

「もちろん、ありますよ! おまけにお酒は部屋代に含まれているので飲み放題です!」

「あたし、このホテルに決ーめた!」

「わたしもホテル中のお酒を全部飲んでやる!」

お酒好きのバスガイドと新卒の教師が真っ先に賛成する。

「女子ウケしそうなスイーツはある?」

「はい、ルームサービスで頼めますよ! もちろん、その料金はホテル代に入っています!」

「まあ、昔から袖振り合うも他生の縁って言うからね。わたしとしても目の前で困っている人を無下に見捨てることは出来ないし、ここは気は進まないけど、今夜はこの高級リゾートホテルに泊まるしかないみたいね!」

言葉と裏腹に嬉しさを隠そうとしない姉の目は、スイーツにあり付けるとあって早くも喜々と輝いている。


絶対に自分の欲求に正直になっただけのことだろうが!


耀太はこの事態を自分に都合よく解釈する姉につっこんだ。

「なあケーマ、お前からもみんなになんとか言ってくれよ!」

「いや、ヨータ、ここは人肌脱ごうぜ。オレたちだって、この世界の人たちに助けてもらうことがきっとこの先あるだろうからさ。たしかに一晩一万マルは高いかもしれないけど、その分、どこかで節約すればいいだけだろう?」

慧真も高級リゾートホテル宿泊案に賛成らしい。

「ナーロ、おまえはどう思う?」

「ぼくはどこでも構わないけど。出来れば魔物やモンスターが出てくるホテルならばいうことないんだけどね!」

菜呂らしい解答である。


魔物とモンスターが出てくるホテルで泊まるって、もはや罰ゲームを通り越して、ちょっとした試練になっているからな!


こんなときだというのに、いや、こんなときだからこそ、いつものツッコミが止まらなくなる。

「なあ、アリア。アリアはどう思う?」

「うーん、実は私もこのホテルに宿泊するのには賛成かな」

「えっ、アリアまで?」

意外すぎる返答に即座に聞き返してしまった。

「ねえ耀太くん、考えてもみてよ。朝まで居酒屋で過ごすよりは、高級リゾートホテルで過ごす方がよっぽど安全で健全的でしょ? 組木先生と史華さんの様子からして、今夜は絶対に飲まないと暴れそうな雰囲気だし。あの様子のまま居酒屋に行ったら、どうなることか……」

アリアが大人二人に聞こえないようにするためか、耀太の耳元に顔を寄せてきて早口で囁いた。

「ああ、たしかにそういう考えも一理あることにはあるけど……」

組木と史華の顔にそっと視線を振り向ける。二人ともまだ酒が入っていないというのに、完全に宴会モード全開の顔をしている。


やれやれ、あの様子じゃ、これ以上反対したところで、こっちの話を到底聞いてくれそうにないよな。


耀太はそこで判断を下すことにした。

「すみませんが、そのホテルに案内してもらっていいですか?」

「はい! ありがとうございます! さっそくご案内いたします!」

こうして耀太たち一行はギーサを先頭にして歩き出した。

ちょうど水平線にきれいな夕日が沈み始め、海岸で遊んでいた観光客がいっせいに宿に戻り始める時刻になろうとしていた。たちまち通りは観光客でごった返してくる。

「これだけ観光客がいるんだから、それりゃ、どの宿も部屋は満室になるか」

耀太は観光客の波を起用に避けながらギーサの後を追う。

「こちらがみなさんが今夜お泊まりになるホテルです!」

ギーサが案内してくれたホテルはパンフレットに描かれていたイラストの何倍も豪華で豪勢な外観だった。耀太たちが気軽に泊まれるようなホテルとは明らかに『格』が違った。

「今からあちらのフロントに行って事情を説明してくるので、しばらくここで待っていてください。それと申し訳ないんですが、私は宿代をすでに支払っているので、皆さんの宿代の方を先にお預かりしてもよろしいですか?」

「あっ、はい。分かりました」

耀太は七人分の宿泊代金である七万マルをギーサに手渡した。

「では、ホテル側に説明して、すぐに戻ってきますので!」

ギーサがホテルの入り口に走っていく。ホテルの大きな透明の窓ガラス越しに、フロントにいる男性と話し込むギーサの姿が見える。しばらく話したのち、しきりにフロントの男性に深々と頭を下げると、早足にこちらに戻ってくる。

「ホテルにはこちらの事情を了解してもらいました。向こうもせっかく用意してある部屋をそのままにしておくのは無駄になるということで、皆さんを案内してくれるそうです。部屋の準備に15分ほどかかるかるそうです。15分後に先ほどのパンフレットをフロントの係に見せれば、すぐにお部屋にご案内してくれるそうです!」

「分かりました。いろいろとご丁寧にありがとうございました! 本当に助かりました!」

耀太はギーサに丁重にお礼に言った。これで朝まで居酒屋という破滅的な状況は回避出来そうである。二人の大人がホテル内のラウジンで酒を飲んで暴れるかもしれないが、耀太は部屋に閉じこもって知らんぷりを決め込むつもりだった。いくら学級委員長でも、そこまで面倒は見切れない。

「いえいえ、こちらこそありがとうございました! これで大赤字にならずにすみます。――それでは皆さん、良い旅を続けてください!」

ギーサは最後まで丁寧な態度を崩すことなく、通りの向こうに消えて行った。

15分後――。

一行はホテルに入った。意気揚々とフロントに向かう。フロントには蝶ネクタイをした生真面目そうな男性が立っていて、耀太たちを出迎えてくれた。

「すみません、今夜こちらに泊まらせてもらうことになった者ですが」

「あの、どういうことでしょうか?」

「あっ、このパンフレットを見せるのを忘れていました。これを見れば分かると思いますので」

耀太はギーサから貰ったパンフレットをフロントの机に広げてみせた。

「あっ、これは――」

フロントの男性は目に見える形で、明らかに顔をしかめてみせた。それからなぜか不憫そうな目で耀太たちのことを見つめてくる。

「あの……なにか問題でも……?」

言い知れぬ不安が耀太の胸中に沸き起こる。異世界に来てからというもの、何度も経験している『イヤな予感』というやつである。

「失礼ですが、みなさんはなんと言われて、当ホテルに来られたのですか?」

なぜかフロントの男性から逆に質問をされた。

「さっきここに来た男性に『コレが事前に予約してある部屋』と言われて、格安で譲ってもらったのですが……」

こちらの事情を包み隠さずにフロントの男性に伝える。

「お見受けしたところ、どうやらみなさんは異国からの観光客のようですね。まことに言いにくいのですが、最近、我が国の観光地で観光客を狙った『詐欺』が多発しているんです」

フロントの男性は言葉を選ぶようして説明を始めた。

「えっ、詐欺……ですか?」

「はい、宿泊場所に困っている観光客に『コレコレ』って言い寄りながら、予約をしてないホテルの部屋を案内して、ホテル代をくすねる手口なんです。おそらく皆さんも、その『コレコレ詐欺』に遭われたのではないかと思いますが……」

「えっ? 『コレコレ詐欺』? それじゃ、さっきのあの男は詐欺師だったのか? ていうか、おれたち、まんまと詐欺師にカモられたっていうことかよ!」

耀太のイヤな予感はこうして現実と化して無事に回収されることになった。


なんで異世界に来てまで詐欺に遭わなくちゃいけないんだよ! だいたい『コレコレ詐欺』ってなんだよ! 『オレオレ詐欺』の親戚かよ!


耀太の胸のぼやきは一向に止まらなかった。しかし、いくらぼやいたところで現実は変わるはずもなく、今夜の宿泊予定先だった高級リゾートホテルに泊まれなくなった今、耀太たち一行は途方に暮れるしかなかった――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

夜霧の騎士と聖なる銀月

羽鳥くらら
ファンタジー
伝説上の生命体・妖精人(エルフ)の特徴と同じ銀髪銀眼の青年キリエは、教会で育った孤児だったが、ひょんなことから次期国王候補の1人だったと判明した。孤児として育ってきたからこそ貧しい民の苦しみを知っているキリエは、もっと皆に優しい王国を目指すために次期国王選抜の場を活用すべく、夜霧の騎士・リアム=サリバンに連れられて王都へ向かうのだが──。 ※多少の戦闘描写・残酷な表現を含みます ※小説家になろう・カクヨム・ノベルアップ+・エブリスタでも掲載しています

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

クラス転移で神様に?

空見 大
ファンタジー
集団転移に巻き込まれ、クラスごと異世界へと転移することになった主人公晴人はこれといって特徴のない平均的な学生であった。 異世界の神から能力獲得について詳しく教えられる中で、晴人は自らの能力欄獲得可能欄に他人とは違う機能があることに気が付く。 そこに隠されていた能力は龍神から始まり魔神、邪神、妖精神、鍛冶神、盗神の六つの神の称号といくつかの特殊な能力。 異世界での安泰を確かなものとして受け入れ転移を待つ晴人であったが、神の能力を手に入れたことが原因なのか転移魔法の不発によりあろうことか異世界へと転生してしまうこととなる。 龍人の母親と英雄の父、これ以上ない程に恵まれた環境で新たな生を得た晴人は新たな名前をエルピスとしてこの世界を生きていくのだった。 現在設定調整中につき最新話更新遅れます2022/09/11~2022/09/17まで予定

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...