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第一部 インサイド
第5話 廃遊園地で再会
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病院で入院している妹の顔を見てしまうと、決心が揺らいでしまうと思ったので、スオウは家に帰るとすぐに出かける準備をして、そのままどこにも寄らずにバスで遊園地まで向かった。
一ヶ月前に閉園になったばかりの郊外にある遊園地。スオウも子供のころ何度か両親といっしょに遊びに来たことがある。もちろん、そのときは妹も一緒だった。まだ元気だった妹と園内を笑いながら走り回った思い出がある。
大丈夫。おれは今夜ゲームに勝って、必ず妹を助けてみせる。そうすれば、また一緒にどこにでも遊びに行けるからな。
スオウは走るバスの窓外に遊園地の看板を見つけると、改めて決意を固めた。
定刻通りに遊園地前の停留所でバスは停まった。運賃を払ってバスから降りる。
「あれ? たしか閉園になったはずじゃ……?」
園内の駐車場を歩いて進むスオウは、遊園地の入り口付近を見て疑問に感じた。閉園になったはずの遊園地の入り口に、たくさんの人の姿があるのだ。そういえば駐車場にも何十台いう数の車が停まっている。
「まさか、あそこに見えるすべての人が、今夜のゲームの参加者ってことはないよな?」
立ち止まって考えていてもしょうがないので、そのまま入り口に向かうことにした。
チケット売り場には数十人の行列が出来ていた。夜7時前という時間だが、小さな子供連れの姿もたくさんあった。
「園内に入るのには、チケットを買わないといけないのか? 高校生にとってはチケット代だけでもイタイ出費なのにな……」
スオウがチケット売り場と入り口を交互に見ていると、入り口のゲート付近から数人の人間が何やら揉めている声が聞こえてきた。
「チケットを買わなくても、この招待状を持っていれば中に入れるんでしょ? 僕はそう聞いて来たんだけど」
「ですからお客様、ただ今別のスタッフが確認作業をしていますので、しばらくお待ちください」
「そのセリフ、さっきからずっと聞かされているんだけど! いったいいつになったら中に入れてもらえるんだよ!」
「お客様、他のお客様もいらっしゃるので、もう少しお声のトーンを下げていただいて──」
「なんだよ。その言い方だと、まるで僕が悪者みたいじゃないかよ!」
どうやら入場に伴うトラブルが発生中らしい。男性客を必死になってスタッフがなだめている。
「やれやれ、こっちはこれから命を懸けたゲームをやるっていうのになあ」
スオウはトラブル客を横目に見ながら、チケットを購入する為に、チケット売り場に向かった。これで今月分のお小遣いはふっ飛んでしまうが、今夜死ぬことになったら、永遠にお金を使えなくなるのだから、チケット代ぐらい安いものだ。
「だから、何度同じことを言わせるんだよ! 僕はこの招待状をシビトとかいう男からもらって、ここに来たんだぜ! それで入れないっていうのならば、ダマしたってことなのか?」
さきほどの男の怒鳴り声がまた聞こえてきた。
「そっちがその気なら、僕にも考えがあるからな! 今からこのやり取りの一部始終を、スマホを使ってネットに生配信してもいいんだぜ!」
ここまでくるといわゆるクレーマーに近いが、スオウが何よりも気になったのは、その男が言った『シビト』という単語だった。こんな酔狂で変わった名前の人間が身近に二人もいるとは思えない。だとしたら、この男が言っている『シビト』とは、あの『紫人』のことで間違いないだろう。
スオウは一旦チケット売り場の列から外れると、入り口ゲートの方に向かった。
「ほら、スマホを出したぜ。今から生配信してやるよ! 全世界にお前たちの醜態を晒してやるからな!」
「お客様、他のお客様のご迷惑になることは控えてください! お願いします!」
男とスタッフの言い争う声が、次第にヒートアップしていく。
おいおい、まさかこんなクレーマーみたいな男と一緒にゲームをやらないといけないのか?
スオウはため息をつきたくなった。改めて、その男をじっくりと観察してみる。
歳は三十代前半。髪は茶髪に近い栗色。服装は今風の若者が着るファッション。パッと見では、何をしている人間なのか検討が付かなかった。
もしかしたら金に困っているフリーターなのかもしれないな。
男を見ながら、どう話しかけようか困ってしまった。もしも話が出来るような相手であれば、ゲームについて聞いてみようかと考えていたのだが、この男の態度を見ていると聞くだけ無駄なような気がする。
「いや、待てよ」
そこで急に思いついたことがあった。ここにゲームの参加者がひとりいるとしたら、この近くに他にも参加者がいる可能性が高いはずだ。
スオウは入り口ゲート付近をぐるっと見回してみた。高校生らしいカップル。子供連れの家族。大学生のサ-クルらしいグループ。そして──。
「まさか……。あの子って、今日、警察にいた子か……?」
スオウの視界に入ってきたのは、夕方、警察署内で目が合った、あの女子高生であった。
女子高生は秀麗な顔に似つかわしくない、思い詰めたような表情を浮かべていた。そういえば警察署で見たときも、沈痛な表情だったことを思い出した。あるいはスオウと同じく、何かしらの重い事情を抱えているのかもしれない。それで今夜、命を懸けたゲームに参加するべく、この遊園地にやってきたのかもしれない。
じっと見つめるスオウの視線に気が付いたのか、その女子高生が頭を振ってこちらに視線を向けてきた。
スオウの視線と女子高生の視線が空中でぶつかる。
警察署ではすぐに視線を外したが、今回は違う。スオウは数秒間、女子高生と視線を合わせ続けた。それからスオウは当たり前のように、女子高生に近寄って行った。
近付いていくスオウの姿を見て、女子高生は一瞬その場から逃げようとする素振りを見せた。
「待ってくれよ!」
思わずスオウは大きな声をあげていた。後方に振り向きかけていた女子高生の動きが止まる。
「なあ、話をしないか?」
聞く人が聞いたら、まるで下手なナンパみたいな言葉に思えるが、その女子高生はスオウの方に再び顔を向けてくれた。
「良かった。君に嫌われたのかよ思ったよ」
スオウは女子高生のもとまで近付いた。
「別に……そんなわけじゃ……」
小さくつぶやく女子高生の右手には封筒が握られていた。真っ黒い封筒。スオウも持っている紫人から受け取ったあの封筒である。
「やっぱり君も今夜のゲームの参加者だったんだ」
「えっ? それじゃ、あなたも……?」
「ああ、おれも紫人とかいう男に誘われて、今夜ゲームに参加することにしたんだ」
「そうだったんだ……。わたしも参加するんだけど……」
「ちょうど良かったよ。正直、ひとりでどうしたらいいか迷っていたんだ」
スオウは調子良く話を作る。目の前に美少女がいるせいか、自分でも気付かないうちに気分が高揚していた。
「うん、わたしも入り口まで来たはいいけど、ゲームに関係ない人がこんなにたくさんいたから、なんだかびっくりしちゃって……」
「よし、そういうことならば一緒に入ろう。──おっと、その前にまだ自己紹介をしていなかった」
スオウは改めて女子高生と目を合わせた。
「初めまして。スオウと言います。高校二年生の17歳。よろしく」
「イツカと言います。わたしも高校二年生の17歳よ。おない歳だね。イツカって呼んでよ。こちらこそよろしくね」
二人は軽く頭を下げて挨拶を交わした。
二人が打ち解けあって、堅い雰囲気が解れかけたとき、ゲート付近でまた大きな声がした。
「お客様、今、連絡が入りました! この招待状をお持ちの方はフリーでご入場が出来ます」
「やっと確認が済んだのかよ! 遅すぎるぜ!」
茶髪の男は憤懣やるかたないといった表情のまま、ゲートをくぐって園内に消えていく。
「ねえ、あの男の人って、もしかして……」
「ああ、どうやら、おれたちと同じ目的らしい」
スオウとイツカは男の姿が視界から消えるのを待ってから入り口ゲートに向かった。お互い言葉には出さなかったが、あの男のそばに近付きたくなかったのだ。
「それじゃ、おれたちも行こうか」
スオウは入り口ゲートにいるスタッフに紫人から受け取った封筒を差し出した。
「こちらの招待状をお持ちのお客様はフリーでご入場出来ます。イベント広場前のレストランに専用のお席をご用意してありますので、そちらにどうぞ」
「分かりました。──そういえばこの遊園地って、少し前に閉園になったはずじゃないんですか?」
気になっていたのでスタッフに確認してみた。まさか人がこんなにたくさんいる中で、命を懸けたゲームをやるとは到底考えられない。
「はい、当園は一ヶ月前に閉園となりましたが、今夜はこれまで支えてくださった市民の皆さんへの感謝の気持ちとして、閉園パーティーが行われているんです」
「閉園パーティーか……。それじゃ、ゲームはその後ってことなのかな……?」
まだゲームの詳細が何も分からない中、スオウはイツカとともに園内に入っていった。
時刻は18時30分過ぎ。ゲーム開始まで――あと30分余り。
一ヶ月前に閉園になったばかりの郊外にある遊園地。スオウも子供のころ何度か両親といっしょに遊びに来たことがある。もちろん、そのときは妹も一緒だった。まだ元気だった妹と園内を笑いながら走り回った思い出がある。
大丈夫。おれは今夜ゲームに勝って、必ず妹を助けてみせる。そうすれば、また一緒にどこにでも遊びに行けるからな。
スオウは走るバスの窓外に遊園地の看板を見つけると、改めて決意を固めた。
定刻通りに遊園地前の停留所でバスは停まった。運賃を払ってバスから降りる。
「あれ? たしか閉園になったはずじゃ……?」
園内の駐車場を歩いて進むスオウは、遊園地の入り口付近を見て疑問に感じた。閉園になったはずの遊園地の入り口に、たくさんの人の姿があるのだ。そういえば駐車場にも何十台いう数の車が停まっている。
「まさか、あそこに見えるすべての人が、今夜のゲームの参加者ってことはないよな?」
立ち止まって考えていてもしょうがないので、そのまま入り口に向かうことにした。
チケット売り場には数十人の行列が出来ていた。夜7時前という時間だが、小さな子供連れの姿もたくさんあった。
「園内に入るのには、チケットを買わないといけないのか? 高校生にとってはチケット代だけでもイタイ出費なのにな……」
スオウがチケット売り場と入り口を交互に見ていると、入り口のゲート付近から数人の人間が何やら揉めている声が聞こえてきた。
「チケットを買わなくても、この招待状を持っていれば中に入れるんでしょ? 僕はそう聞いて来たんだけど」
「ですからお客様、ただ今別のスタッフが確認作業をしていますので、しばらくお待ちください」
「そのセリフ、さっきからずっと聞かされているんだけど! いったいいつになったら中に入れてもらえるんだよ!」
「お客様、他のお客様もいらっしゃるので、もう少しお声のトーンを下げていただいて──」
「なんだよ。その言い方だと、まるで僕が悪者みたいじゃないかよ!」
どうやら入場に伴うトラブルが発生中らしい。男性客を必死になってスタッフがなだめている。
「やれやれ、こっちはこれから命を懸けたゲームをやるっていうのになあ」
スオウはトラブル客を横目に見ながら、チケットを購入する為に、チケット売り場に向かった。これで今月分のお小遣いはふっ飛んでしまうが、今夜死ぬことになったら、永遠にお金を使えなくなるのだから、チケット代ぐらい安いものだ。
「だから、何度同じことを言わせるんだよ! 僕はこの招待状をシビトとかいう男からもらって、ここに来たんだぜ! それで入れないっていうのならば、ダマしたってことなのか?」
さきほどの男の怒鳴り声がまた聞こえてきた。
「そっちがその気なら、僕にも考えがあるからな! 今からこのやり取りの一部始終を、スマホを使ってネットに生配信してもいいんだぜ!」
ここまでくるといわゆるクレーマーに近いが、スオウが何よりも気になったのは、その男が言った『シビト』という単語だった。こんな酔狂で変わった名前の人間が身近に二人もいるとは思えない。だとしたら、この男が言っている『シビト』とは、あの『紫人』のことで間違いないだろう。
スオウは一旦チケット売り場の列から外れると、入り口ゲートの方に向かった。
「ほら、スマホを出したぜ。今から生配信してやるよ! 全世界にお前たちの醜態を晒してやるからな!」
「お客様、他のお客様のご迷惑になることは控えてください! お願いします!」
男とスタッフの言い争う声が、次第にヒートアップしていく。
おいおい、まさかこんなクレーマーみたいな男と一緒にゲームをやらないといけないのか?
スオウはため息をつきたくなった。改めて、その男をじっくりと観察してみる。
歳は三十代前半。髪は茶髪に近い栗色。服装は今風の若者が着るファッション。パッと見では、何をしている人間なのか検討が付かなかった。
もしかしたら金に困っているフリーターなのかもしれないな。
男を見ながら、どう話しかけようか困ってしまった。もしも話が出来るような相手であれば、ゲームについて聞いてみようかと考えていたのだが、この男の態度を見ていると聞くだけ無駄なような気がする。
「いや、待てよ」
そこで急に思いついたことがあった。ここにゲームの参加者がひとりいるとしたら、この近くに他にも参加者がいる可能性が高いはずだ。
スオウは入り口ゲート付近をぐるっと見回してみた。高校生らしいカップル。子供連れの家族。大学生のサ-クルらしいグループ。そして──。
「まさか……。あの子って、今日、警察にいた子か……?」
スオウの視界に入ってきたのは、夕方、警察署内で目が合った、あの女子高生であった。
女子高生は秀麗な顔に似つかわしくない、思い詰めたような表情を浮かべていた。そういえば警察署で見たときも、沈痛な表情だったことを思い出した。あるいはスオウと同じく、何かしらの重い事情を抱えているのかもしれない。それで今夜、命を懸けたゲームに参加するべく、この遊園地にやってきたのかもしれない。
じっと見つめるスオウの視線に気が付いたのか、その女子高生が頭を振ってこちらに視線を向けてきた。
スオウの視線と女子高生の視線が空中でぶつかる。
警察署ではすぐに視線を外したが、今回は違う。スオウは数秒間、女子高生と視線を合わせ続けた。それからスオウは当たり前のように、女子高生に近寄って行った。
近付いていくスオウの姿を見て、女子高生は一瞬その場から逃げようとする素振りを見せた。
「待ってくれよ!」
思わずスオウは大きな声をあげていた。後方に振り向きかけていた女子高生の動きが止まる。
「なあ、話をしないか?」
聞く人が聞いたら、まるで下手なナンパみたいな言葉に思えるが、その女子高生はスオウの方に再び顔を向けてくれた。
「良かった。君に嫌われたのかよ思ったよ」
スオウは女子高生のもとまで近付いた。
「別に……そんなわけじゃ……」
小さくつぶやく女子高生の右手には封筒が握られていた。真っ黒い封筒。スオウも持っている紫人から受け取ったあの封筒である。
「やっぱり君も今夜のゲームの参加者だったんだ」
「えっ? それじゃ、あなたも……?」
「ああ、おれも紫人とかいう男に誘われて、今夜ゲームに参加することにしたんだ」
「そうだったんだ……。わたしも参加するんだけど……」
「ちょうど良かったよ。正直、ひとりでどうしたらいいか迷っていたんだ」
スオウは調子良く話を作る。目の前に美少女がいるせいか、自分でも気付かないうちに気分が高揚していた。
「うん、わたしも入り口まで来たはいいけど、ゲームに関係ない人がこんなにたくさんいたから、なんだかびっくりしちゃって……」
「よし、そういうことならば一緒に入ろう。──おっと、その前にまだ自己紹介をしていなかった」
スオウは改めて女子高生と目を合わせた。
「初めまして。スオウと言います。高校二年生の17歳。よろしく」
「イツカと言います。わたしも高校二年生の17歳よ。おない歳だね。イツカって呼んでよ。こちらこそよろしくね」
二人は軽く頭を下げて挨拶を交わした。
二人が打ち解けあって、堅い雰囲気が解れかけたとき、ゲート付近でまた大きな声がした。
「お客様、今、連絡が入りました! この招待状をお持ちの方はフリーでご入場が出来ます」
「やっと確認が済んだのかよ! 遅すぎるぜ!」
茶髪の男は憤懣やるかたないといった表情のまま、ゲートをくぐって園内に消えていく。
「ねえ、あの男の人って、もしかして……」
「ああ、どうやら、おれたちと同じ目的らしい」
スオウとイツカは男の姿が視界から消えるのを待ってから入り口ゲートに向かった。お互い言葉には出さなかったが、あの男のそばに近付きたくなかったのだ。
「それじゃ、おれたちも行こうか」
スオウは入り口ゲートにいるスタッフに紫人から受け取った封筒を差し出した。
「こちらの招待状をお持ちのお客様はフリーでご入場出来ます。イベント広場前のレストランに専用のお席をご用意してありますので、そちらにどうぞ」
「分かりました。──そういえばこの遊園地って、少し前に閉園になったはずじゃないんですか?」
気になっていたのでスタッフに確認してみた。まさか人がこんなにたくさんいる中で、命を懸けたゲームをやるとは到底考えられない。
「はい、当園は一ヶ月前に閉園となりましたが、今夜はこれまで支えてくださった市民の皆さんへの感謝の気持ちとして、閉園パーティーが行われているんです」
「閉園パーティーか……。それじゃ、ゲームはその後ってことなのかな……?」
まだゲームの詳細が何も分からない中、スオウはイツカとともに園内に入っていった。
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