上 下
257 / 262
第四章

255話 決別

しおりを挟む
「全ての弾薬、爆薬を艦首に集めろ。甲板の消火活動は中止。総員退艦せよ」

「レオ!」

「エル、お前も降りるんだ」

「嫌よそんなのッ!」

 エルシャは私の腰に抱きつき、決して離れようとしなかった。

「サツキ」

「はいでござる」

「ちょっと! 離しなさ……」

 サツキは催眠魔法と思わしき術を使いエルシャを眠らせて抱き抱えた。

「今までありがとう。君がいたから、私はここまで強くなれた」

 私は涙を流しながら眠るエルシャの額に、そっと口付けを残した。

「さあ、早く逃げろ!」

「サツキはレオ様に死なないで欲しいでござるよ。じゃないとエルシャ様は──」

 私は左手でサツキの口を塞いだ。

「それ以上喋るな。どうか私の決意が揺らがぬうちに、エルシャを連れて脱出してくれ。……ハオラン!」

『既に竜人部隊が艦後部に着艦し救出作業を行っている。……お前も逃げるなら今のうちだぞ、我が盟友よ』

「……ハオラン。『暴食龍の邪眼』は私が責任をもってこの世から消し去る。それでいいな」

『……構わない。お前は鋼鉄の龍を駆り、人類を救った英雄だと我ら竜人が語り継ごう』

「はは! 艦首には帝国の紋章を刻んだが、龍にした方が良かったな! ……私が築いた平和を、どうか見届けてくれ」

 私は艦のスロットルに手をかける。

「さあ! 早く行け!」

「レオ様! 私たちも残ります!」

「は? 何を言っているんだ!」

「おひとりでは艦を動かせませんよ!」
『そうだぜレオ様!』
『俺たちが最後まで艦を届けます!』
「レオ様と、この艦と共に!」

 艦橋や艦内通信中からそのような声が届いた。

「──レオ様! 魔王が次の攻撃を準備しています!」

「魔力が集まったか……。ハオラン! もう退艦する人間は運び終えたな!?」

『ああ!』

「よろしい! ……諸君! 私と運命を共にすることを選んでくれたこと、感謝する! 行くぞ魔王! 人類の希望と叡智を乗せたこの船が、その身をもって平和への礎とする!」

「「「おう!」」」

 私はスロットルを最大に、そして最大を超えた緊急出力まで引き絞った。

「行けェェェェェェェェ!!!」

「来い! 人間の王、レオ!!!」

 メインエンジンと予備の補助動力エンジンがグゴゴゴゴと低い唸り声をあげながら艦を魔王の元へ一直線に導いた。

「おらァァァ!!!」

「フンッッッ!!!」

 魔王は余程の自信があったのか艦を避けることなく、新たに捻り出した刀で艦のラムアタックを正面から受け止めた。
 ガギャンッ! という音と共に刀と艦がぶつかり、激しい火花と衝撃が私たちを襲った。

「押し込めェェェェェェ!!!」

「クハハハハハハ! 良いぞッ! これが人間の力か!」

 戦艦は徐々に魔王を魔王城の方まで押し込んでいく。

「レオ様! エンジンが限界です! このままでは──!」

「今だ! 主砲、撃てェェェェ」

 前方の主砲塔は全て破壊されている。唯一生き残っているのはそう、後部砲塔である。

 私の命令と共に後部の主砲が一斉射撃を行い、その反動で艦はまた一気に前進し始めた。
 私が最後にレオナルドに頼んだもの、それは射撃の反動だけを得られる空砲であった。後ろに実弾を撃てば味方が巻き込まれてしまう。

 私は最後まで、人類を救う選択をしなければならないのだ。例えこの命に替えたとしても。

「ウォォォォォォ!!!」

「魔王城に衝突します!」

「今だ! 爆破しろ!」

「フッ! 見事だ──」

 織田信長を挟んで艦と魔王城がぶつかるその瞬間、艦首に満載された弾薬、爆薬、残った燃料となる高純度の魔石が大爆発を起こし、全てを消し飛ばす。

 まるで『英雄召喚』を使った時のような眩い真っ白い光の中、私はゆっくりと瞼を降ろした。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜

田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。 謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった! 異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?  地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。 冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

処理中です...