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第四章
247話 三年後、決戦の日
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「本当に来るのかエル」
「だってこの戦いに負ければいずれどうせ死ぬわ。なら貴方と一緒に死ぬ。……勝てば良いだけよ」
「そうか。私ももう止めない。……では、一緒に行こうか」
「ええ」
統一歴三年九月一日。今日この日、私の二十一歳の誕生日に決戦の日を据えた。前回魔王領から撤退したのは九月末であるが、私たちが些細なことは気にする必要はない。
魔王領の第二区域では敵軍の動きも確認され、どちらが先に賽を投げるか互いに見守っているような状況である。
「足元にお気を付けください両陛下」
「ああ」
私はエルシャがバランスを崩さないよう彼女と腕を組み、その長い階段を登った。
核兵器が誕生する以前、近代でいう核抑止の役割を果たしていた兵器は何であったか。
それは戦艦である。
広大な地球を支配するには、その七割を占める海を制さなければならなかった。逆に言えば海を制したものが世界の覇者であった。
世界中に植民地を持ち、当時間違いなく世界最強の国家であったイギリスを見るのが早い。他国とは比べ物にならない海軍力──ロイヤルネイビーを持つ彼らは列強を代表する国家であった。
「艦橋は防護性能が低く危険です。艦内の船長室までどうぞ」
「いや、ここから全てを眺めさせてもらおう」
「……了解致しました」
戦艦は艦隊の華である。小口径の砲をものともしない装甲、圧倒的な射程と威力の主砲。
当時は戦艦をどれだけ持っているかが国力の指標になっていると言っても過言ではない。
「──それではレオ様、こちらの放送機を。これは艦内だけでなく全軍へ通じております」
「うむ」
だからこそワシントン海軍軍縮条約やロンドン海軍軍縮条約で持つ艦船の数を制限したのだ。
それは現代の核拡散防止条約と同じようなものである。
「……御機嫌よう諸君。……遂にこの日がやって来た。長らく苦しめられた人類にとって、最後の戦いの時が来たのだ! 三年間……、いや、これまで人類が歩んだ数百年数千年の力を持って、それを魔王に見せつけてやろうではないか!」
鋼鉄の船はこの世界の荒波すら乗り越えることが可能であろう。しかし、魔王領ではそうはいかない。
魔王領に海路で行くには北を大回りしなければならない。だが事前の調査でその辺は浅瀬ばかりで大型の艦船は入れず、切り立った崖に阻まれ遠方から魔王城への攻撃は不可能であることが判明した。
「敵を恐れる必要はない! 勇敢なる英雄たちよ! 諸君らは全員が、強大な敵に立ち向かう英雄なのだ!」
ならばどうすればいいか。答えは単純だ。
“海以外から魔王領に行けばいい”のだ。
「これは私たちだけの戦いではないことを忘れるな……! 今日この日を迎えるまでに命を散らした英雄たちの為に、これから命を繋いでいく後世の人々の為に、私たちがその命をもってこの戦いに挑むのだ!」
もちろん戦艦なんてバカでかいものは川を通れない。
川すら使わないでどこに道があるのか? そこにあるじゃないか。“何の障害物もなく、何の障壁もなく、広大に広がる空間”が。
「今、全ての人類が力を合わせ目の前に立ちはだかる困難に打ち勝つ時! 全身全霊をもってして、魔王を打破せよ!」
“誰が船は空を飛べないと決めた”?
「全軍、進軍開始! 目標、魔王城! 進めェェェ!!!」
艦橋のモニターに映された魔導映像通信機による画面の向こうで、魔王領で戦列を整えていた全軍が前進を開始した。
「……私たちも行こうか」
「は! ──パワード・リフトエンジン起動! 出力全開! ……余剰推進力、確保できました!」
「よし。魔王領に向け最大戦速! ……待っていろ、魔王織田信長……!」
人類の最高傑作、レーヴァテイン級空中戦艦、一番艦レーヴァテイン。総排水量9万トン。全長340m、最大幅40m。魔力を動力とした50万馬力の出力を持つエンジンにより海上を30ノット(=55km/h)、空中を60ノットで航行可能。
武装としては、主砲に45口径魔導51cm三連装砲×三基。副砲に60口径魔導20cm単装砲×六基。対空砲に80口径45mm連装砲×八基、40口径20mm連装砲×十二基。
レオナルド・ダ・ヴィンチと魔女ヘクセル、二つの世界の天才が力を合わせ開発。そしてドワーフたちの技術の粋を集めて作られた決戦兵器である。
専任技師としてレオナルドが直々に搭乗しており、機関室で燃料となる高純度魔石を『万物創造』で無限に供給する。
「これで本当に最後の戦いなのだな……」
「揺れるから座るでござるよレオ様」
「私は大丈夫だサツキ。お前はエルの傍にいてやってくれ」
「……了解でござる、にんにん」
私は第一艦橋から流れる景色を眺めていた。
妖狐族の里に設置された帝国海軍工廠から魔王領までは半日かかる。
着くまでの間この戦艦が指揮所として支援、戦火が広がるにつれ現れるであろう魔王と直接対決で雌雄を決する。
人類の命運はあと半日で決まるのだ。
「歴史書の最後のページは、今日で終わらせない」
「だってこの戦いに負ければいずれどうせ死ぬわ。なら貴方と一緒に死ぬ。……勝てば良いだけよ」
「そうか。私ももう止めない。……では、一緒に行こうか」
「ええ」
統一歴三年九月一日。今日この日、私の二十一歳の誕生日に決戦の日を据えた。前回魔王領から撤退したのは九月末であるが、私たちが些細なことは気にする必要はない。
魔王領の第二区域では敵軍の動きも確認され、どちらが先に賽を投げるか互いに見守っているような状況である。
「足元にお気を付けください両陛下」
「ああ」
私はエルシャがバランスを崩さないよう彼女と腕を組み、その長い階段を登った。
核兵器が誕生する以前、近代でいう核抑止の役割を果たしていた兵器は何であったか。
それは戦艦である。
広大な地球を支配するには、その七割を占める海を制さなければならなかった。逆に言えば海を制したものが世界の覇者であった。
世界中に植民地を持ち、当時間違いなく世界最強の国家であったイギリスを見るのが早い。他国とは比べ物にならない海軍力──ロイヤルネイビーを持つ彼らは列強を代表する国家であった。
「艦橋は防護性能が低く危険です。艦内の船長室までどうぞ」
「いや、ここから全てを眺めさせてもらおう」
「……了解致しました」
戦艦は艦隊の華である。小口径の砲をものともしない装甲、圧倒的な射程と威力の主砲。
当時は戦艦をどれだけ持っているかが国力の指標になっていると言っても過言ではない。
「──それではレオ様、こちらの放送機を。これは艦内だけでなく全軍へ通じております」
「うむ」
だからこそワシントン海軍軍縮条約やロンドン海軍軍縮条約で持つ艦船の数を制限したのだ。
それは現代の核拡散防止条約と同じようなものである。
「……御機嫌よう諸君。……遂にこの日がやって来た。長らく苦しめられた人類にとって、最後の戦いの時が来たのだ! 三年間……、いや、これまで人類が歩んだ数百年数千年の力を持って、それを魔王に見せつけてやろうではないか!」
鋼鉄の船はこの世界の荒波すら乗り越えることが可能であろう。しかし、魔王領ではそうはいかない。
魔王領に海路で行くには北を大回りしなければならない。だが事前の調査でその辺は浅瀬ばかりで大型の艦船は入れず、切り立った崖に阻まれ遠方から魔王城への攻撃は不可能であることが判明した。
「敵を恐れる必要はない! 勇敢なる英雄たちよ! 諸君らは全員が、強大な敵に立ち向かう英雄なのだ!」
ならばどうすればいいか。答えは単純だ。
“海以外から魔王領に行けばいい”のだ。
「これは私たちだけの戦いではないことを忘れるな……! 今日この日を迎えるまでに命を散らした英雄たちの為に、これから命を繋いでいく後世の人々の為に、私たちがその命をもってこの戦いに挑むのだ!」
もちろん戦艦なんてバカでかいものは川を通れない。
川すら使わないでどこに道があるのか? そこにあるじゃないか。“何の障害物もなく、何の障壁もなく、広大に広がる空間”が。
「今、全ての人類が力を合わせ目の前に立ちはだかる困難に打ち勝つ時! 全身全霊をもってして、魔王を打破せよ!」
“誰が船は空を飛べないと決めた”?
「全軍、進軍開始! 目標、魔王城! 進めェェェ!!!」
艦橋のモニターに映された魔導映像通信機による画面の向こうで、魔王領で戦列を整えていた全軍が前進を開始した。
「……私たちも行こうか」
「は! ──パワード・リフトエンジン起動! 出力全開! ……余剰推進力、確保できました!」
「よし。魔王領に向け最大戦速! ……待っていろ、魔王織田信長……!」
人類の最高傑作、レーヴァテイン級空中戦艦、一番艦レーヴァテイン。総排水量9万トン。全長340m、最大幅40m。魔力を動力とした50万馬力の出力を持つエンジンにより海上を30ノット(=55km/h)、空中を60ノットで航行可能。
武装としては、主砲に45口径魔導51cm三連装砲×三基。副砲に60口径魔導20cm単装砲×六基。対空砲に80口径45mm連装砲×八基、40口径20mm連装砲×十二基。
レオナルド・ダ・ヴィンチと魔女ヘクセル、二つの世界の天才が力を合わせ開発。そしてドワーフたちの技術の粋を集めて作られた決戦兵器である。
専任技師としてレオナルドが直々に搭乗しており、機関室で燃料となる高純度魔石を『万物創造』で無限に供給する。
「これで本当に最後の戦いなのだな……」
「揺れるから座るでござるよレオ様」
「私は大丈夫だサツキ。お前はエルの傍にいてやってくれ」
「……了解でござる、にんにん」
私は第一艦橋から流れる景色を眺めていた。
妖狐族の里に設置された帝国海軍工廠から魔王領までは半日かかる。
着くまでの間この戦艦が指揮所として支援、戦火が広がるにつれ現れるであろう魔王と直接対決で雌雄を決する。
人類の命運はあと半日で決まるのだ。
「歴史書の最後のページは、今日で終わらせない」
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