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第四章

244話 革命前夜

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 エンジンの開発。それは周囲の予想を裏切ってたった五日で完成した。

 部品単位での『万物創造』を繰り返し、小型のエンジンを作り上げた。
 燃料はガソリンではなく、より爆発力のある魔石紛配合の魔力液を使用している。ルーデル評では高オクタンの良質な燃料であるらしい。

 エンジンはその形状に改良を加え、車両用と航空機用の二種類に発展させる。

「結局のところ、これらの部品を全て手作業で作成するのは無理だ」

「ドワーフの技術でも無理か」

「できないと言うと嘘になる。だがそのエンジンとやらを何百何千作るとなると時間も人数も足りなさすぎる」

 ザークとシフはお手上げといった表情でそう言った。

 かと言ってレオナルドに全て創造させるのも労力的に難しいだろう。
 結局は工業製品なのだから工場で大量生産の手筈を整えなければならない。

 兵器はただその強さだけが命運を左右するのではない。工業製品として成功を収めたかという別問題がある。
 ドイツのティーガーⅠ戦車は確かに強かったが、アメリカの圧倒的な生産能力により、ティーガーを遥かに凌駕する数のM4シャーマン戦車にティーガーは敗北した。

「難しいかもしれないが、工作機械自体を創造できないか? こちらの技術でもエンジンを作れるように、そのための道具を作るんだ」

「考えてみよう」

「三年という短期間ならばどれだけ効率的にモノを作れるかだ。エンジンだけを作ったところで、それを使う車両や航空機の搭乗員を訓練する時間がなければ結局使うことができない」

「分かっている。この三年間は人類の為に全身全霊で働こう。人類が滅んでしまえば全てが無に帰すからな。だが三年後には好きにさせてもらうぞ」

「お前の描いた絵なら勝手に人類の為になってしまうがな。だがそのサポートは約束しよう。今は大変だろうが、なんとか頼む」

「ああ」

 多才なレオナルドをここに留まらせるのも勿体ない。しかし、魔王に勝利するまではこの研究開発局と製造産業局で働いてもらうとしよう。

「ルーデルも協力よろしくな」

「自分の任務の合間に、航空機開発の手伝いもやろう」

 ルーデルはルーデルで何やら竜人たちの住む竜の谷で特訓しているようだ。
 あそこも魔王領と隣接しているので少し不安だが、まあ魔王領には単独で攻撃しないように厳命しているので大丈夫だろう。流石にルーデルもそこまで無謀ではない……と信じたい。








「──エンジン開発はドワーフたちにも手伝ってもらうとして、この世界の医療について話がしたい」

 レオナルドは渋い顔でそう言う。

「なんだ?」

「この世界では魔法によって大抵の病や怪我が治ってしまう。だから医療技術がほとんど発展していない」

「それは……、確かにそうだな」

 基本的にどの国でも教会が治癒魔法の使える人材を備えており、そこが病院のような役割を果たしている。
 高度な医療とは即ち高度な治癒魔法であり、帝国では宮廷魔導師の中に治癒魔法使い、あるいは治癒魔導師なる担当がおり貴族階級の人間の治療を行っている。
 王国では聖教会の司祭以上の能力者ならば骨折などの大怪我でも完治させられるらしい。

「解剖学を学ぶことは外科手術の基礎になる。幸いにも人間なら頭の中にあるから今すぐにでも描ける。しかしこの世界には人間以外の種族もいるだろう?」

「ああ」

「単純に動物と人間の融合という訳でもなさそうだ。……そこで、彼らを解剖させて欲しい」

「…………」

「戦争になれば負傷者は数え切れないほど生まれる。だがそれを死者にしないためには医療技術が必要だ」

 それはその通りである。
 衛生兵であったり軍医の登場により戦死率は大きく低下した。生きて前線に復帰する者もいれば、後世にその経験を伝える者もいる。命を繋ぐことは、計り知れない利益をもたらす。

「宗教的な倫理観の違いから受け入れてもらえるかどうかだな……」

「それはあの時代でも同じだったさ」

 昔の解剖学者たちは死刑になった犯罪者の遺体を公式に貰うこともあった。その一方で解剖が許されず、仕方なく墓を掘り起こして勝手に解剖するようなこともあった。
 彼らはもちろん罰せられたし疎まれた。しかし彼らのおかげで医療が発展したのも事実である。

「……先の戦争で亡くなった者は多い。これから傷の悪化で戦死者の数に足される者もいるだろう。遺族の同意や、生前の本人の同意が必要だが、受け入れてくれる人がいないか探しておこう」

「感謝する」

 それは単なる彼の知識欲から来るものかもしれない。
 だが結果として多くの人々を救うことになるのであれば、私はその手助けをするべきだろう。

「では私はやることが増えたのでこの辺で失礼する。予算や場所、人手に困ったら遠慮なく私まで連絡してくれ。……この世界の未来を、全技術者に託す」

「ああ!」

 威勢よく返事をするレオナルドの後ろでは、ザークとシフたちドワーフも腕組みをしながら笑顔で頷いていた。

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