上 下
239 / 262
第四章

237話 いつかの景色

しおりを挟む
「お待たせ致しました」

「すまないな孔明。本当は内地で内政や兵站面でのサポートを任せるつもりだったのだが……」

「いえ、無線が使えない上、予想外の敵軍勢力では私自身も現場を見ない限り正しい判断は難しいでしょう。……それにしてもこれまでとは──」

 まるでこちらの強さを測るかのように、魔王軍は次々と新たな兵力を投入してきた。
 戦術もこちらの動きに合わせ進化し続け、強固な防御力と圧倒的な攻撃力を誇るトロールを前衛に、リッチやスケルトン弓兵を後衛に、数に優れるアンデット系モンスターや魔獣によって包囲を試みるなど、魔王とやらは相当の戦略家であることが伺える。

 そうした攻撃の結果、地理的要因も鑑みて私たちは第三区域を放棄するしかなかった。
 せめてもの抵抗として整備済みである第二区域を最大限活用し、防塁などで要塞化、鉄道によって砲弾類の即時補給等によって何とか耐えていた。

「将軍、敵軍の攻撃によって我が部隊の火砲類は全て破壊、あるいは放棄せざるを得ない状況に追い込まれました……。砲撃が効かないのであれば我々にはどうすることもできません!」

「……勝利は最も忍耐強いものにもたらされるのだ。爆弾では撃破できたし、顔面に砲弾が直撃したトロールも無力化できていた。今後は直射すれば或いは……」

 第一区域にまで予め退避した本陣での作戦会議は紛糾していた。
 しかしナポレオンは決して諦めることなく、最善の作戦をもって孔明到着まで敵軍を押し込み被害を最小限に抑えていた。

「これまでに得た敵軍の情報を整理し、反撃の一手を模索しましょう」

 孔明は報告書の束をものすごい早さで目を通しながらそう言う。

「……すまない。魔王領調査はやぶ蛇だった。もっと軍事力と科学力が上がってから手を出せばこんなことには……」

「それは結果論ですよ。こちらから行かなければ、向こうから攻めてきただけでしょう。そうすればこの第二区域すら存在せず、私たちはより苦境に立たされていたかもしれません。──死中求活、これからどうすべきかだけ考えましょう」

「そうだな……」

 それから私たちは三日間に渡って綿密な大規模攻勢計画を検討した。

 その間にも敵軍の攻撃は続いているが、同時に人類側も本国からさらなる増援を呼び何とか持ち堪えていた。
 聖教会の魔導師勢力や協商連合の傭兵部隊、亜人・獣人の国々にも協力を仰ぎ、動員できる全ての人員をかき集めてきた。
 大量消費される武器や弾薬類製造のために民需工場も軍需工場に建て替えられ、鉄道も民間使用を禁止し全て軍事作戦に利用する。

 人類の持てる力全てをぶつけるのだ。







 そして、いよいよ大規模攻勢決行の時を向かえた。

 血と硝煙の匂いが漂う戦場。辺りに響き渡るのは兵士の呻き声とそれをかき消すような大砲や爆裂魔法の轟音。

「レ、レオ様! 伝令申し上げます! 魔人と思われる槍を振るう敵が出現! 左翼騎兵部隊壊滅! 既に二個師団を失う大損害とのこと! 至急撤退命令を!」

 血と泥にまみれた鎧を纏った伝令が私に告げる。攻勢に使う帝国軍部隊を引き抜いた王国軍は限界を向かえた。

「構うな! 左翼部隊には進軍を停止するように伝えろ! その代わりに一歩も引くな! 死守命令だ! この戦いの敗北は人類の敗北と思え! 逃げることなど敵が許してくれないぞ!」

「崖上からのアンデット系軍馬を用いた騎兵突撃により我が軍は大混乱! 更に敵軍のリッチ部隊は魔法の詠唱時間をカバーするように代わる代わる隊列を組み換え、断続的な攻撃により我々は手も足も出ません! 竜人も次々に撃墜され爆撃支援が不足しています!」

「クソ! これが七面鳥撃ちか……!」

 私たちが敵軍の主力を潰さなければ、これ以上の被害を出して戦いを続けることはできない。

 人類が魔王という驚異に出会った“五百年前”という数字。エルシャから聞いた、伝説にある「マタサ」と呼ばれる魔人。六つの花弁が描かれた旗印。このような我々の上を行く戦略。
 そして何よりその「魔王」という名前。やはり魔王の正体は──。


「皆の者! 持ちこたえろ! 敵の損耗も激しいはずだ! この反攻作戦さえ成功させれば敵は攻め手を失い撤退するしかなくなる!」

 私は刀を抜き腕を天高く掲げる。

「全軍突撃ィィィィ!!!」

「ウォォォォォ!!!」

 腕を振り下ろすと同時に周辺の部隊から鬨の声が広がる。
 砲兵隊の突撃支援射撃と爆撃によって、魔王領の濁った空気に土煙が巻き起こる。そしてそれを切り裂くように、騎兵隊を先頭に突撃を敢行する。

「……『英雄隊』、覚悟は出来ているな?」

 そう言い、私は彼らの方を一瞥する。英雄を中心とした帝国の精鋭部隊。これが私たちの最高戦力だ。
 そこにいる誰からも、その目には絶望の文字など感じなかった。

「勝てるか勝てないか、やってみなければわからない。俺ァもう、勝敗は考えない。ただ命のある限り戦うだけだ!」

「将帥、勇ならざるは、将なきに同じ。天命は下されました」

「早く命令をくれ。このまま帰国する気にはなれない」

「吾輩の辞書に不可能の文字はない、とでも言っておこうか?」

 人類は決して負けない。そう確信した。彼らと共にある限り、万に一つも敗北など存在しない。

「今こそ人類の命運を賭け、雌雄を決する時だ!」

 これが最後の戦いになるだろう。私はふぅと息を吐き、意を決した。

「行くぞ! 目指すは敵本隊! 勝利を掴み取れ!!!」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜

田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。 謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった! 異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?  地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。 冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……

処理中です...