上 下
228 / 262
第四章

226話 世界政府

しおりを挟む
「じ、人類共同……」
「世界政府……?」

「そうだ! 『人類共同世界政府』とは即ち、文字通り全ての人類が人種・宗教の垣根を越え、これから我々に襲いかかるであろう困難に対し共に立ち向かうための組織である!」

 魔王や魔物、モンスターといった脅威のない元の世界ですら、世界規模の困難に度々直面していた。
 残酷な世界では、もっと深刻な問題がいつか訪れるだろう。

「世界政府による統治は全ての者に幸福をもたらすと約束しよう! 法律制定、国防、経済、教育、公衆衛生、社会保障、環境保護、公共インフラ管理、その他。これら全て我々の手によって万全なものにすると保証する!」

 これらは国家における政府の重要な役割である。
 そして画一化された政治システムは中央集権化を協力に推し進めるだろう。それこそが私の狙いだ。

「帝国の優れた技術が大陸中の経済を変えるだろう! 資源の独占を阻止し、富の再分配を行う!」

 豊富な資源を帝国の工業地帯に、資源の豊富な地域へ工業技術を提供すれば、更なる経済の発展と専門性の特化を目指せるだろう。
 国や各貴族同士の経済的な潰し合いは経済成長を阻害する。

「そして諸侯はその血をもって理解しただろう! もはや各諸侯の持つ小規模な私兵では進化した戦争については来れない! よって、これより全ての軍隊は国有軍とする!」

 各地域への保安局の武力派遣はこの布石であった。
 また、今回の戦いまで貴族たちに近代兵器を渡さなかったのも、この戦いで流血を強いることにより身をもって兵器の役割と運用にあたる軍事組織の改革の必要性を理解させる為であった。

 軍事技術の変化は貴族たちが自身の軍隊を手放す要因の一つとなる。
 火器の導入や規模の拡大した軍隊が必要とされるようになり、個々の貴族がこれを独自に満たすことは困難である。
 ウィルフリード軍ですら手こずる魔王領での戦いには、大規模で専門化された軍勢を組織する必要性がある。それに伴って貴族たちの軍事力の役割が相対的に低下したと言えよう。

 加えて経済的な要因も影響している。
 いつ終わるかも分からない魔王領調査で戦うためには膨大な費用がかかる。近代兵器の製造と配備にも同様に剣や弓矢とは比較にならない程のコストがかかるのだ。
 個々の貴族がこれらを負担するのは難しく、国家が財政的な統制を行いながら、より効率的に戦力を編成する必要が生じたのである。

 当然中央集権化を推し進め、軍備という特権を剥奪することは貴族たちの反発を招くだろう。
 しかし上記のやむを得ない理由の数々や、なにより全ての国の統一を成し遂げた私に対し、異論を唱えることのできる者はこの世に存在しない。

「亜人・獣人・人間、貴族・平民問わず全員が私に協力して欲しい! 帝国、王国、協商連合という形はなくなるが、それは文化や伝統の否定ではない! ……宣言しよう! 未来は明るい! 諸君らの生活か劇的に変わることはないかもしれないが、必ず好転すると約束する!」

 これが私の望んだ、頭の中に思い描いた泰平の世だ。

「私の考えに賛同できぬ者もいるだろう! しかし! 新時代の到来を恐れてはならない! 私と共に、新たなる未来を切り拓こうではないか!」

 私は拳を振り上げ、そう叫んだ。

「──以上だ! 今後の詳細は新聞や張り紙などを注目してくれ! ……それでは諸君、また会おう!」

 全てを言い終わると私は降壇する。教皇たちもそれを見て私に続いた。






「お疲れ様でしたレオ」

「ああ。お前も準備ありがとうな孔明」

 舞台袖に英雄たちが集まる。

「それにしても、こんなに急いでやる必要あったのか? もっと周りをゆっくり説得したり時間を掛けるべきじゃねェのか?」

「今だからこそなんだ歳三。どのみち大規模な混乱が起こるなら、この戦争の混乱に乗じた方がいい。ついでに貴族たちも軍が傷つき実力行使も難しいしな。特に他国に我々の考えを押し付けるなら今このタイミングを逃せばどんどん難しくなる」

「……まァ、裏切り者が出たら俺が全員叩き斬るだけだけどよ」

 歳三は本当にやるだろう。鬼と呼ばれた彼にとって粛清はお手のものだ。

「事前に貴族院での真っ当な政治活動のやり方を教えたんだ。無駄な足掻きはしないだろうさ。……それよりも、今後の国家の組織を一から組み直さなければならないのが面倒だ。私たちとしても当然戦後処理が必要な中、仕事が無限に増えたのだからな。暫く休みはないぞ」

「そう悲観するな。吾輩の考案した法律は戦争前から完成している。それに、本当に一からではないだろう?」

 ナポレオンにそう励まされ、私の中に微かな自信が湧いてきた。

「その通りだな。かつての政治システムはそのまま自治体という形で各地域の運営に当たらせる。国家規模のものは○○方面統括というより大きな枠組みを設け、結束感も失わないように配慮する。……いい部分は引き継ぎ、悪い部分はこの機に切り捨てるのだ」

「軍隊はどうする? 反乱がないとは言いきれないぞ」

 あそこまで言ってもルーデルはそこが心配なようだ。……ただ次の戦場を待っているだけかもしれないがり

「現国有軍は厳戒態勢で皇都に駐留しておけ。組織の再編成や装備の刷新などは順次行うが、政治体制が安定するまでは今のままで行く」

「了解した」

 これからは帝国内の省庁だけでなく、国外との調整も必須。その上に『人類共同世界政府』が成り立つのだ。

「ここからは私の戦いだ」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

満州国馬賊討伐飛行隊

ゆみすけ
歴史・時代
 満州国は、日本が作った対ソ連の干渉となる国であった。 未開の不毛の地であった。 無法の馬賊どもが闊歩する草原が広がる地だ。 そこに、農業開発開墾団が入植してくる。 とうぜん、馬賊と激しい勢力争いとなる。 馬賊は機動性を武器に、なかなか殲滅できなかった。 それで、入植者保護のため満州政府が宗主国である日本国へ馬賊討伐を要請したのである。 それに答えたのが馬賊専門の討伐飛行隊である。 

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

パーティーを追放された落ちこぼれ死霊術士だけど、五百年前に死んだ最強の女勇者(18)に憑依されて最強になった件

九葉ユーキ
ファンタジー
クラウス・アイゼンシュタイン、二十五歳、C級冒険者。滅んだとされる死霊術士の末裔だ。 勇者パーティーに「荷物持ち」として雇われていた彼は、突然パーティーを追放されてしまう。 S級モンスターがうろつく危険な場所に取り残され、途方に暮れるクラウス。 そんな彼に救いの手を差しのべたのは、五百年前の勇者親子の霊魂だった。 五百年前に不慮の死を遂げたという勇者親子の霊は、その地で自分たちの意志を継いでくれる死霊術士を待ち続けていたのだった。 魔王討伐を手伝うという条件で、クラウスは最強の女勇者リリスをその身に憑依させることになる。 S級モンスターを瞬殺できるほどの強さを手に入れたクラウスはどうなってしまうのか!? 「凄いのは俺じゃなくて、リリスなんだけどなぁ」 落ちこぼれ死霊術士と最強の美少女勇者(幽霊)のコンビが織りなす「死霊術」ファンタジー、開幕!

かの世界この世界

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。

処理中です...