上 下
216 / 262
第三章

214話 経済戦争

しおりを挟む
「申し訳ありません。私のスキル『神算鬼謀』は歴史上全ての戦争を覗き見することができるのですが、残念ながら経済戦争であったり受験戦争であったり、戦争の名を冠してはいても本義での戦争ではないものは見ることができないのです」

「心配には及ばないさ孔明。分かりやすく言えば、圧倒的な経済力で敵国を叩きのめせばいい。それが現代の戦争のあり方だ」

 大国が他国に掛ける圧力は二つある。それは軍事力と経済力だ。
 直接殺されても国は大変なことになるが、経済が潰されれば結果として国が崩壊する程の攻撃になる。

「通商破壊とは違うのか?」

「……通商破壊も最終手段としては選択肢に残しておこう。しかし私の本当の狙いは敵国に損害を出させることではない」

 ルーデルは若干食いついたが、自分の任務がなさそうだと悟るとまたつまらなそうに空を眺め始めた。

「これを機に一気に帝国を豊かにする。富国強兵だ。蒸気機関を利用し工業製品の大量生産を行う。経済のシステムを根本から改革しモノに溢れた国にする。もはや他国が我々に対抗するのを諦めるぐらいの国力をつければくだらない争いも起きなくなるだろう」

「開国派の連中も似たようなこと言ってたなァ……。ま、国が豊かになるのはいいことだ。飢えた同胞なんて見たくないしな」

「正直に言って他国の時代錯誤な考え方に付き合うのも馬鹿らしい。自国のためになることを全力で取り組めば、結果として他国を追い詰めることになるという状態が一番望ましい。……他国で思い出したが、脱出の際に捕まえた捕虜はすぐに逃がしてやれ。あれを理由に攻め込まれても面倒だ」

「分かりました」







 皆が私の方を見て次の言葉を待っている。
 今回ばかりはこの世界のプロフェッショナルたちも、各英雄たちも頼ることができない。現代を生きた私だからこそ世界情勢から学んだ知識をここで活かすのだ。

「これより指示を伝える。心して聞くように」

「…………」

「孔明、内務省としてこれから伝える全ての省庁の調整を頼む。それと、孔明個人にお願いしたいことがある。それは天候操作だ。お前の仁義に反するかもしれないが、今年だけでもどうにか頼む。凶作などに足を引っ張られたくない」

「成程、……了解致しました。摩頂放踵まちょうほしょうし、必ずや史上一の収穫高をご覧入れましょう」

 孔明は袖の下で腕を組みお辞儀をした。
 顔が少し陰っていたのが気がかりではあるが、孔明ならきっとやってくれると信じている。

「ヘクセル。前回見せてくれた生活魔導具。あれを量産化できるように更なる改良を加えてくれ」

「わわわわ分かったよ……」

 今日は眼鏡を掛け前髪のやけに長いヘクセルは、手をモジモジさせながらそう返事した。

「ザーク、シフ。お前たちが一番重要な役回りだ。……蒸気機関による産業機械を完成させろ。それと蒸気機関車だ。人の移動が活発になれば金も回る。私やルーデルの書いた外見からなんとか仕組みを解明してみてくれ」

「やるだけやってみる」
「ドワーフの名にかけて、その技術力を証明してみせる」

 ドワーフと帝国の技術者たちはここ数ヶ月休まることを知らない。だが彼らはこれからもっと忙しくなるだろう。

「ナポレオン、国立銀行からの大規模な投資を行う。新たな工場制機械工業に取り組む商人たちには長期間低金利での融資だ」

「工場建設についていくつか法律も制定しよう」

 革命時に兵を失ったため軍事費は削減され新通貨も発行し、今はある程度予算に都合がつく。
 減った兵数分は兵器と練度で補えば良い。

「歳三、ルーデル。陸軍と空軍はとにかく新兵器の訓練だ。近代軍としての完成形を作り敵国の侵略に備えよ」

「おう」
「了解だ」

 弓から銃へ、投石器から大砲へ、魔法から爆弾へ。いずれも元から使っていたものも併せて作戦に組み込むが、やはり強力な新兵器を手足のように使えた方が圧倒的に強い。

「アルド、情報局は国境警備を怠るな。仮に怪しげな動きを見たら報告し、かつ阻止しろ。前回の失態を挽回するようにな」

「は……! 頂いた機会、決して無駄にはしません……!」

 情報戦ではこちらが圧倒的に有利だ。敵が何日もかけて伝令を走らせている間に、私たちは通信機により一瞬で連絡が可能。
 アルドの気合いの入りようを見ても、侵略に怯える日々を過ごす必要はなさそうだ。

「私からは以上だ。細かい指示は孔明に仰げ。各省庁は緊密に連携し、私の要求を上回る報告を期待している。──これにて解散!」







「ねぇ、今度の遠征は私も連れてって」

「駄目だエル。みすみすと君を危険に晒すことはできない。私が今回どんな危ない目に遭ったか聞いているはずだ」

「危険だからよ。貴方がもう帰って来ないかもしれないって思いながら待たされる女の気持ち、考えたことある?」

「…………」

 エルシャはいつも枕元で核心を突いたことを言う。

「貴方が孔明を連れて行かなかった理由、当ててあげる。自分が死んでも国が回るようにでしょ? ……だから私にも死んで欲しくない。権威付けである皇帝家の血筋を失いたくないから」

 何も言い返すことができなかった。

「死ぬなら一緒がいい。貴方だって死んでしまえば、国なんてどうでもいいでしょう? ──キャッ!」

「あまり我儘を言って私を困らせないでくれ……!」

「乱暴なのも別に嫌いじゃないわ。でも……、貴方の優しさの傍で眠らせて……」

 そう泣き縋る彼女の姿は、皇帝家の一人ではなく、たった一人の少女であった。

しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜

田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。 謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった! 異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?  地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。 冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……

処理中です...