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第三章

212話 抵抗

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「後ろだ!!!」

 ナポレオンがそう叫んだ瞬間、身体に電流が走ったかのような感覚に襲われた。

 私は即座に後ろを振り返る。
 壁だったはずのそこからは、短剣を振り下ろす男が飛び出し私の目の前にまで迫っていた。どうやら正面のナイフを持った集団は注意をそらすための演出だったらしい。本命はあの変な模様の隠し扉だったのだ。

 その時の男の動きはやけにスローモーションに見えた。

 私は一瞬の判断でホルスターからリボルバーを取り出しハンマーを起こす。
 この時暗殺者の男と目が合っていた。彼は驚いた表情をしている。それは私も同じだ。彼が短剣を振り下ろすまでの時間にこれだけの動作を済ませ、リボルバーの銃口は既に彼の顎の下にあった。

 自分でも驚くほど早い動作の中、私は躊躇なくトリガーを引いた。
 44口径のマグナム弾によるゼロ距離の射撃は、その衝撃波で男の頭が歪み、脳天からその内容物を全て吹き出すほどだった。

「グガガぷプォ……」

 声ですらない、血で詰まった喉から空気が漏れる音と共に、男は糸の切れたマリオネットのようにその場に崩れ落ちた。

 後ろに隠れていた暗殺者はこの男一人のようだ。

 私は再び正面を振り返る。
 扉から入ってきた男たちは鳴り響く銃声に驚きながらも、諦めることなくこちらへ走って向かって来ていた。

 歳三と団長は私を庇うように私の前に体を差し込み、同じく持っていたリボルバーを刺客たちに向ける。
 外側に座っていたルーデルとナポレオンはすぐ横に座る王国とアキードの代表を蹴り飛ばし、武器の届かない距離まで離しつつ、腰からリボルバーを抜いていた。

 銃を向けられても尚、男たちはナイフを構え突撃してくる。彼らには銃というものに対する理解が全くない。

「『明鏡止水』」

 歳三が武器を構えたことで明鏡止水が発動できた。その瞬間部屋を満たす異様な殺気により敵は皆ピタリと止まってしまった。

 私たちはもはや動くことができない的に向かって、全員が一斉にリボルバーを発射する。
 砲煙とマズルフラッシュで目標は良く見えない。狭い部屋で爆音の銃声が鳴り響き、酷い耳鳴りに襲われ平衡感覚を失う。
 それでも私たちは全弾を刺客たちに撃ち尽くした。

「油断するな! リロード急げ!」

 弾丸、火薬、雷管代わりの魔石を別々に装填する方式のこのリボルバーは決してリロードが早くない。
 焦げ臭い発砲煙が晴れる前に私たちは素早く再装填を行い、再び扉の方へ狙いをつける。

 しかし、そこにあったのは四肢が吹き飛び、胸に大穴が空き、目から光が失われナイフを落とした真っ赤な男たちだった。
 扉と壁はボロボロになり、木の床は一部下の階が見えるまでに破壊されている。生身の人体が耐えられる威力ではない。

「ひ、ひぃぃぃぃ!!!」

「動くな!」

「うわぁぁぁ!」

 恐慌状態に陥った王国代表の一人が扉に近かったのもあってか逃げ出そうとしていた。

「チッ──」

「グァ!」

 私は仕方がなく彼の太腿付近を撃ち抜いた。彼は勢い余って前方に転び、そのまま痛みに悶えながら呻き声を漏らしている。
 動いている人間の脚に当てられるなど、いつの間にそんな特殊技術を身につけていたのかと自分でも驚くほどのナイスショットだった。

「治療すれば助かる! ……他の奴らもこうなりたくなかったら大人しくその場を動くな」

 私の言葉に合わせ、歳三の銃口が他の代表立ちに向けられる。

「こ、こんなことをしてどうなるか分かってるんか!?」

「それはこっちのセリフだヘンドラ」

 その時穴だらけでほとんどその役目を果たしていない扉を蹴破り部屋に入ってくる人間がいた。
 私は咄嗟に狙いをそちらに向ける。

「レオ様ご無事ですか!? 銃声が聞こえましたが──、っと、これは……」

 それはタリオたち帝国兵だった。

「今からでも穏便に脱出する。絶対に手は出すな」

「は、はい!」

「歳三、ナポレオン」

「おう」
「ああ」

 私の命で、歳三はプリスタを、ナポレオンはヘンドラの首根っこを掴み、こめかみに銃口を押し当てる。

「団長、近衛騎士で他の奴らも武器を奪い拘束しろ」

「了解しました」

 そうして脚を撃ち抜かれた一人を除き、その場にいた敵国の代表二十九名は人質として私たちの弾除けとなった。

「ルーデル、翼を」

「了解。『Drachen Stuka』!」

 半竜型となったルーデルがその翼で私を包み込む。鋼鉄のようなこの翼は弓では撃ち抜けない。

「ハオラン、一応武装して待機だ。ハオランだけは中型の二号爆弾を装備しておけ」

『了解した』

「よし、それでは出るぞ」








 恐らく敵国の代表の中でプリスタとヘンドラが一番偉い。歳三とナポレオンが彼らを盾にして先頭を行く。

「退け! 一歩でも前に動いたらこいつを殺す」

「大人しく武器を下ろせ。吾輩の気まぐれで此奴の頭をぶち撒かないうちにな」

 王国兵やアキードの警備兵たちは見慣れぬ武器に困惑の表情を浮かべる。
 しかし、プリスタとヘンドラが必死に首を降るので敵兵士たちも手を出せなかった。

 そうしてなんとか外まで脱出することができた。

「下がれ王国兵! ──おい、お前も何か言った方がいいぜ」

「さ、下がってくれ! 頼む!」

 外でこの会合の建物を包囲していた王国兵は問題なく突破できた。互いにトップが中でどうなっているか分からなかったからか、外の待機組兵の間で戦闘が起こってなくてよかった。

「これ、ここからどうやって帰る!?」

「プリスタとヘンドラはそのまま人質だ! 他の奴らは荷物になるから要らん! ……いいか解放する奴ら! 私たちは銃を突きつけなくともいつでもお前たちを殺せる! ──建物をやれハオラン」

『了解した』

 ピューという風きり音とともに投下された爆弾により、さっきまで私たちがいた会合の部屋ごと建物が爆発で崩れ落ちる。
 証拠隠滅完了。ついでにこの場にいる全員に恐怖を植え付けた。

「人質を返して欲しければ決して軍事行動を起こすな。もし怪しい動きが見られれば次は諸君らの居宅があのようになる──では帰るぞ!」
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