英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

文字の大きさ
上 下
213 / 262
第三章

211話 決裂

しおりを挟む
 楕円形のテーブルを囲うように椅子が置かれた部屋の中には、王国の人間が十人、アキードの人間が二十人いた。

「帝国の方は奥にどうぞ」

 帝国の席の左に王国、右にアキードという席順だ。
 帝国は扉から一番遠く、日本的な間隔からすれば上座だが、両側を敵の陣営の人間が固めているという状況はかなり気分が悪い。後ろは変な模様の壁で逃げ場などない。窓も遠くハオランたちの助けもすぐにはこれない。

「陛下、どうぞこちらに」

「ああ」

 団長は五つの空席の真ん中の椅子を引いて私に差し出した。ここが一番安全だろう。
 その左右両脇に歳三と団長、外側にナポレオンとルーデルという席順となった。

「いや~、アキードは人数が多くてすみませんねぇ~。なんせ各地域の代表が集まらないと話が進まないもんで。その点帝国さんは陛下おひとりで全て決められて、人数も少なく済んでほんま羨ましいでんな~!」

「国によって制度が違うのは当然のことだ。そんなことより早く会合を始めよう」

「……はいはい。それじゃ、まずは自己紹介からやな」

 ヘンドラから順に自己紹介が始まった。
 この場にいる中で私が知っているのはヘンドラ、ディプロマ。それと王国からはプリスタが来ている。

「──では次に早速本題に入らせてもらうで。ズバリ、今回の会合の目的は帝国に対する制裁についてや」

「制裁だと?」

 いきなり不穏なワードが飛び出してきた。

「そうや! 帝国の新兵器の数々は手に負えない! たまたま近くでこの前の戦争を見ていたうちの商人も腰を抜かすほど怯えていたわ!」

「待て、ディプロマ殿から聞いていないのか? 私はその兵力を魔王領調査や小国の独立保障といった方向に使おうと提案したんだ」

「そんなん信じられんわ。せやろ、王国はん?」

「そうだ」
「その通り!」
「まったくだ」

 ヘンドラの呼び掛けに王国の人間が口々に賛同する。
 しかしプリスタとディプロマは苦い表情で沈黙を貫いていた。

「信頼されないような行いをかつての帝国が行ってきたということだろうか。例えそうだとしても、今の帝国はその力の使い方を誤ることはない」

「ならお互いに同じだけの兵器を持っていたらいい。使い方を誤らなければそれでいいならな! 誤った使い方をした者を確かに止めるだけの力を全ての国が持つべきや!」

 相互確証破壊のような理論か。互いに同じだけの破壊的な兵器を持っていれば、戦争になった際は互いの国を破壊し合い共倒れするため、そもそも戦争にならない。
 元の世界ではこれは核兵器運用の核抑止の考え方だが、この世界では高々カノン砲でもそこまで恐れられているようだ。

「悪いがそれはできない。だがそちらも自国開発で新兵器を生み出したとて、我々はそれを非難することはない。それも立派な技術の発展だからな。……膨大な時間と費用を費やしやっと生み出したこの兵器を簡単に渡すことはできない。それはうちの研究者や技術者を愚弄することと同義だ」

「それでは話は進みませんな」

 ヘンドラは腕を組み不満そうな顔で椅子にだらしなくもたれかかった。

「王国としては、帝国による侵略行為の激化を懸念する」

 王国連中の中で一番の若者が声をあげた。

「帝国から王国に侵略行為はしないと約束しよう。そのための条約を結びたい。それが、プリスタ殿からも聞いているであろう相互独立保障なのだ。三者のうち一人が侵略を行ったら、残りの二人がその一人を倒す。そんなパワーバランスが一番丁度いいでしょう」

「ならやはり帝国の兵器を各国が持つべきだ」

「駄目だそれはできない。強力な兵器を他国に渡して自国民を危険に晒す訳にはいかない」

「それはこちらも同じことだ」

 このような押し問答を何度も繰り返し、結局話は平行線だった。

「──では独立保障を含めた同盟の話は一旦保留としよう。話し合うべき問題はそれだけじゃない。例えば貿易だ」

「残念やけど、帝国はんに兵器の材料となる魔石や鉱石は渡せませんな」

「それは、帝国に対して禁輸を行うということか?」

「いやいや、今まで通り剣や防具はお売りしますよ」

「不要だ。溶かしてもいいがお互い二度手間なのでやはり原料での取り引きを希望する」

「お断りします」

 アキードとは一切話にならないようだ。

「……では、王国はどうですか?」

「王国としても協商連合の考えを尊重する」

「つまり王国も帝国に対して禁輸を行うと」

「そうだ。……そして我々王国と協商連合は強大な軍事力を持つ帝国に対抗するべく、軍事同盟の結成を宣言する」

「そ、それは……、本気で言っているのか……?」

 プリスタが頭を抱える横で、王国の代表の一人が声高らかにそう宣言する。
 ナポレオンとルーデルは眉ひとつ動かさなかったが、歳三と団長はいつでも動けるように体を強ばらせていた。

「馬鹿馬鹿しい! では最初からこの会合は茶番だったのだな!」

「そうです陛下。残念ながらね」

「……こちらこそ、分かり合えなくて残念だよ」

「大変申し訳ありませんが、陛下にはご退場頂かなければなりません」

「言われなくてもそうするさ! 帰らせてもらおうか!」

 私がわざと外に聞こえる程大きな声でそう言いながら立ち上がった、その時だった。
 突如として扉が開き、アキードの人間がなだれ込んできた。これらの手には妖しく輝くナイフが握られていた。

「陛下。短い天下ではありましたが、表舞台からご退場願います」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

スキル【レベル転生】でダンジョン無双

世界るい
ファンタジー
 六年前、突如、異世界から魔王が来訪した。「暇だから我を愉しませろ」そう言って、地球上のありとあらゆる場所にダンジョンを作り、モンスターを放った。  そんな世界で十八歳となった獅堂辰巳は、ダンジョンに潜る者、ダンジョンモーラーとしての第一歩を踏み出し、ステータスを獲得する。だが、ステータスは最低値だし、パーティーを組むと経験値を獲得できない。スキルは【レベル転生】という特殊スキルが一つあるだけで、それもレベル100にならないと使えないときた。  そんな絶望的な状況下で、最弱のソロモーラーとしてダンジョンに挑み、天才的な戦闘センスを磨き続けるも、攻略は遅々として進まない。それでも諦めずチュートリアルダンジョンを攻略していたある日、一人の女性と出逢う。その運命的な出逢いによって辰巳のモーラー人生は一変していくのだが……それは本編で。 小説家になろう、カクヨムにて同時掲載 カクヨム ジャンル別ランキング【日間2位】【週間2位】 なろう ジャンル別ランキング【日間6位】【週間7位】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...