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第三章

209話 豪商

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 昼食は品数こそ多いものの内容は煮物や焼き魚など、質素極まりないものであった。
 しかし和食のような料理の数々に、少なくとも私と歳三は満足だったが、ナポレオンとハオランは露骨に嫌な顔をしており、タリオは私まで機嫌を損ねないかチラチラとこちらの顔色を伺っていた。

「それにしてもこの辺りは賑やかだな」

「帝国では迎賓館は少し離れた郊外にあるからな。しかしアキードのこの形式は気軽に観光に出掛けられていいな」

「レオ様、お気持ちは分かりますが安全とは言いきれませんので、どうか我慢してください」

「はは、分かっているさ」

 料理はともかく、こうして歳三やタリオと食卓を囲むというのは楽しいものだ。皇帝になってからは大勢のメイドに囲われ、食事を共にするのはエルシャぐらいだった。
 たまには皇都の中ででも、皆で食事に出掛けてもいいかと思った。






「さて、お食事が済みましたら別室にご案内します」

「ああ」

 私たちはビラの案内で別室へと通された。

 お茶だけ出され、一時間ほど待たされた頃だろうか。

「悪いが吾輩は他の兵たちの様子を見てくる」
「それなら我が同族たちの様子も心配だ。悪いが我も行かせてもらうぞ」

 そう言って痺れを切らしたナポレオンとハオランが館から出て行ってしまった。

「まァ、俺はこういう時間も嫌いじゃないぜ」

「わ、私もですよレオ様!」

 歳三とタリオはそう言うが、ルーデルは心底退屈そうに空を眺めていた。

 それから更に一時間後。やっと目的の人物がやって来た。

「いや~、お待たせしました」

 痩せ型の若い男が、悪びれる様子もなくニヤニヤと不快な笑みを浮かべながら部屋に入ってきた。
 無駄に装飾された剣。重そうな厚いマント。カツンカツンと音が鳴るぐらい厚底のブーツ。そのどれもが彼のプライドの高さを表していた。

「どうも、私はプロメリア帝国皇帝、レオ=フォン=プロメリトスだ」

「はいはいどうもどうも。ワシはイサカの代表をやっているヘンドラ。よろしゅうお願いしまっせ~」

 心からナポレオンとハオランがいなくて良かったと思った。

 ヘンドラは咥えた爪楊枝で金歯の横をほじくりながら、椅子にドスンと音を立てて座った。
 私たちはヘンドラの驚くような態度に顔を見合わせながら、静かに着席する。

「いや~、それにしても早かったでんな~」

「その点については失礼した。だがここまで早く着いたのはアキードでの街道整備の賜物だと思う。あなた方のこうした取り組みには賞賛を送りたい」

「そりゃどうも。……にしても、本当にお若いんやな! ディプロマからは聞いていたけど、本当に若い! ……お幾つでしたっけ?」

「十五だ」

 本当はn+15だが。

「はへ~! そいつはそいつは! ──で、会合は明日の朝から行うことになったんで。それだけ。じゃ!」

 ヘンドラは私の話など興味ないと言わんばかりの話のブツ切り方をして、自分の伝えたいことを伝えたらさっさと帰ってしまった。

「…………」

「ま、まァ、弱そうな奴で良かったな!」

「レオ様、お気を確かに!」

「悪いが俺も外に出る」

 ルーデルも外に飛び出し、部屋には私と歳三、タリオ、そして何人かの近衛騎士だけがポツンと残され、空虚な時間が流れるばかりだった。








 アキードの夜は早い。魔石ランプのような便利な魔導具あまり普及していないこっちでは、夜は消耗品の油や蝋燭を使うしかない。
 よってアキードは日が暮れると共にそのまま就寝の生活スタイルだ。

 だが私たち帝国民が彼らに合わせる必要はない。

「あくまで個人的な意見だ。決して怒っている訳じゃない。……しかし彼らのあのような態度は一体なんなんだ? 商売人ならもっと取引相手を尊重した対応をすべきではないのか?」

「そ、それはその通りですね……」

『相手のペースに呑まれてはいけませんよ。重要なのは明日の交渉です。とにかく、資源の確保が第一。次に独立保障などの安全保障問題です』

 孔明の言う通りだ。
 外海の探索や魔王領調査など、これから膨大な資金と資源をつぎ込んで成功させなければならないプロジェクトがいくつもある。

「だが、正直に言って、アキードが帝国を敵に回してメリットなどあるのか?」

『レオ、相手が会合は明日でもいいと指定できた理由は分かりますか?』

「それは……、既に準備が済んでいるからだろう?」

『そうです。そしてこの会合には王国の代表も参加している』

「……!」

 そこまで孔明にヒントを出されてやっと分かった。

「王国の代表はもっとずっと前から来ていたんだろうな」

「……アルド、このことを事前に掴んでいたか?」

『──いいえ。アキード内での諜報活動は完璧ではありません。外交前に問題を起こさないよう、規模を縮小していたので……』

 僅かな歯車の狂いによって、私たちは出し抜かれていたようだ。

『レオ様、追加でお知らせしたいことがあります』

「どうした」

『先日の賊共ですが、どこの誰とまでは口を割らなかったものの、「雇われてやった」と自白しました』

「……足止めをしようと思ったのか? だが止められなかったことも伝令の足では知らせるまで時間が掛かりすぎて別の策を打てず、結局私たちは余裕で間に合ってしまったと」

『私の口からはそこまで申し上げることはできませんが、その可能性はあるかと』

 私は闇深いこの国に足を踏み入れていることに思わず身震いした。
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