英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

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第三章

208話 商業都市

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 アキードは名に「協商連合」を冠しているが、これの正式名称は「協働商業連携合同体」である。その中身は明確な君主を持たない自治都市や、小国の中でも商業部が強く独立した権利を認められているような地域の集まりとなっている。
 分かりやすく言えば、元の世界でのTPP(環太平洋パートナーシップ協定)で結ばれたヨーロッパの様相である。

 各都市が独自の軍備を持っており、共通する目的や条約の中で動いているとはいえ地域ごとの差異は大きい。
 更に言えば、軍備も含め、どれだけ経済的に豊かであるかがアキード内での序列を決めている。

「──それにしても早く着いたな」

 そして私たちが招待された、会合が行われる場所。それはアキードのなかでも最も巨大で、最も力を持つイカサの街である。
 大陸の魔石産出量の四割がこのイカサの領内からとも言われており、他にも鉱石の産出も多い。
 これも分かりやすく言えば、元の世界でのアラブ諸国の様相である。

『遅いよりは良いだろう。そしてそれは吾輩の知ったことではない』

 イサカの街はアキードの中心に位置する。
 横に広いアキードの立地的に、真上から来た私たちはアキード領内をほんの少し進むだけでイサカにたどり着くことになる。

 しかし予定より四日も早く、いくら何でもこれは何かがおかしい。

「本当にこんなに早く行けるなら、大陸全体の地図も見直さないといけないな」

『領空侵犯も厭わない敵地偵察任務ということか?』

「いや、違うぞルーデル。この世界には領空という概念がないからな」

 まあ街道の整備も進んでおり、スムーズな移動ができて良かったぐらいに思っていて問題はなさそうだ。

『でもま、着いたのなら挨拶はしねェとな』

「そうだな。このままイサカの街に入ろう」

 一応、いつぐらいに着くかの伝令は送ってある。ここまで止められていないのであれば、早くても問題はないのだろう。






 私たちは川と堀、そして背の低い木の壁で囲われたイサカの街の橋まで歩みを進めた。
 そしてそこで門番と思わしき、防具も着けていない槍だけ持った男二人に先頭が止められた。

 そして程なくして通され、私たちはすんなりとイサカの街の中へ入ることができた。

「……私に挨拶もないのか」

『陛下に挨拶するよう、案内の人間に伝えますか?』

「……いや、私は別に構わない。むしろ向こうの態度がはっきりして良い」

 私は馬車の窓から街並みを眺める。

 イサカ街の中は皇都とは違い、背の低い建物が多い。一際目を引く大きな建物があると思ったら、それは大抵が倉庫である。
 商店もあるが、どれも平屋であり街道に面した店先には様々な商品が陳列されている。

 向こうは護衛も何も付けてくれていないので、近衛騎士たちの隙間から街ゆくイサカの人々の様子も良く見えた。

 彼らは皆こちらを珍しそうに眺めるが、すぐに忙しそうに自分たちの仕事に戻っていく。
 街を流れる無数の川に満載した荷物を運ぶ小舟が溢れ、全体的に忙しない印象を受ける街だった。

 しばらく街を進むと、突然隊列が停止した。
 前の様子を伺うと、どうやら私たちが泊まる館に着いたようだった。館は木製の田舎の旅館風で、それなりの大きさであった。

『陛下、ここが本日お休みになる場所のようです。……ですが、泊まれるのは三十人までだと…………』

「つくづく舐められているな。まあいい。ナポレオン、歳三、ルーデル、ハオラン、タリオ、あと二十四名名の近衛騎士だ。近衛騎士は団長が選んでくれ。そして残った兵士の指揮も団長に任せる」

『は! すぐに手配します』

「それと、魔銃と航空爆弾、手榴弾、そして例の武器は絶対に流出させないよう肌身離さず持って歩くように」

『全部隊に通達します』

「ではここまで護衛ご苦労だった」

 私は馬車から降り、初めてイサカの街の地に足つけた。
 兵士たちは別の場所にまとめて宿場が設けられているらしい。私は彼らを見送り、歳三たちと合流した。

「──これは陛下、この度は遠路はるばるアキード協商連合はイサカの地に、ようこそお越しくださいました」

「案内感謝する」

 名前も名乗らないこの中年の男は私の言葉に軽く会釈で返すと、無言で館の方へ歩き出した。
 その様子を見てナポレオンとハオランはこめかみに血管が浮かぶほど、静かに怒っているようだった。

「どうぞ、おくつろぎください。午後に代表が挨拶に伺いますので。それでは」

 男は館の玄関前でそう言い残し、そそくさと立ち去った。
 それはつまり、すぐに用事があるから勝手に出歩くなということだろう。

「これより私めがご案内させて頂きます。この館の館長を務めておりますビラでございます。短い間ではありますがよろしくお願いします」

 館の扉から出てきたビラと名乗る老人は、丁寧な口調でそう挨拶しながら頭を下げた。

「すぐに昼食をご用意しますので、お荷物はお部屋までお願いします」

「騎士の半分は荷物番、半分はレオの護衛についてこい」

「は!」

 歳三の的確指示に、ビラの眉がぴくりと動いたことを私は見逃さなかった。
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