197 / 262
第三章
195話 祝賀会
しおりを挟む
演説の後はその足でパレードを行った。
当初は微妙な空気にならないか不安だったが、エルシャの演説の効果もあってか皇都の何処へ行ってもお祝いムードであり、大きなトラブルもなく終えた。
パレードが終われば次は貴族や来賓を招いての祝賀会である。私が皇帝となって初めての外交の大舞台だ。
国内の貴族に対しては、先の革命の戦勝祝いでもあった。地方貴族たちは大盛り上がりの一方で、中央貴族らは隅で肩身が狭そうに身を寄せあっている。
「……まずはレオ、結婚おめでとう。そして皇位就任おめでとう」
「おめでとうレオ……」
「ありがとうございます、父上、母上」
貴族として当然私の両親も参加している。
父は自慢げな表情で私の肩に手を乗せた。母は感極まって涙を流している。
「一つ謝りたいことがあります。結果的にウィルフリードという名を継げなかったこと、申し訳ないです」
「気にするなそんなこと! それよりも、自分の息子が皇帝になったということの方がよっぽど凄い! ウィルフリード家が皇族に加えられたのだからな」
「そうよレオ、貴方はそんな小さなことを気にしないでいいの。これから国のために頑張りなさい」
プロメリア帝国、皇都プロメリトス、エルシャ=フォン=プロメリトス。流石にこれらの名前を全てウィルフリードに変えることは歴史的にも政治的にも難しかった。
だから両親の口から直接その言葉が聞けてよかった。
「……ありがとうございます。どうか私のことを気にせず、養子などを迎えてください」
「安心しろ。お前の両親はまだ若い。弟や妹の顔が見れる日が来るかもしれないぞ。それとも、孫の方が先かな!」
「ちょっと、やめなさいよ……」
「あははは……」
珍しく父も随分と酒を飲んでいるようだ。すっかりべろべろに酔っている。
母は挨拶回りなどするためにしっかりキープしているようだ。しっかり父の手網を握っていて欲しいと思った。
「すまないエル、こちらの話を……」
「良いのよ。仲が良くて羨ましいわ。私たちもあのようでありたいわね」
エルシャの母である上皇后はこの場には居ない。もう表舞台には出ないとだけ残し、遠い辺境へと隠居している。
義理の母に娘の晴れ舞台を見せてやることができなかったのは残念だが、これは彼女なりの娘への思いやりなのだろう。変に自分を皇位に担ぎあげられないよう、慎重な行動を選んでいるように見えた。
「ご歓談中失礼します。皇帝陛下、是非ご挨拶したいと来賓の方々がお待ちです」
「その話し方はやめてくれ孔明。気軽に話せる人が減るのは辛いものだと最近知った」
孔明はいつにも増して重そうな純白の鶴氅を身にまとい、袖の下で腕を組みながら跪いて話しかけてきた。
孔明は貴族ではないが私の 付き人としてこの場に参加している。
ある意味ヴァルターの後釜のような感じだ。
「これは失礼しました。……レオ、これは重大な仕事です。特に他国からの使者については事前に打ち合わせした通り、軽々しく口約束も交わさないように気を付けてください」
「分かった。……行こうかエル」
「ええ」
孔明が頭を下げている前を、エルシャと腕を組みながら通り過ぎる。それは厳格な上下関係の存在を印象付けただろう。
ここでの立ち振る舞いも全て見られているのだ。私が孔明に言われた通りに動いていると知られれば、孔明の命が危うくなる。少しでも付け入る隙を与えてはならない。
「デアーグ=エアネスト公爵にミドラ=ホルニッセ公爵、そして他の皆も今日はよく来てくれた」
まずは身内への挨拶から済ませることにした。
「これは皇帝陛下並びに皇后陛下、わざわざ御足労ありがとうございます。この度は御成婚、御即位おめでとうございます。心よりお慶び申し上げます」
ミドラがそう言い頭を下げるのに合わせ、デアーグや他の貴族たちも私たちに深く頭を下げた。
「今日は朝から戴冠式など長丁場であったな。この祝賀会では存分に楽しんでくれ」
「お心遣い感謝申し上げます。……それと陛下、陞爵という身に余る名誉を頂けたこと、この場を借りて御礼申し上げます」
「此度の戦いで特に軍功を挙げた者には陞爵している。これからもその手腕を我が帝国のために存分に振るうが良い」
リーンとホルニッセに加え、皇都まで到達するまでの活躍を見せた北方のノードウェステンとノードストンは、皆ひとつ爵位を上にした。元から最上位のウィルフリードとエアネストには賞金と勲章の叙勲を行った。
「は! 必ずや陛下の御期待にお応えするべく、粉骨砕身の思いで帝国に仕えて参ります」
「うむ。ではまた」
私は彼らのテーブルを後にし、次は矛を交えた中央貴族たちの元を訪れた。
「トーアにベゾークト、そしてその他諸君、御機嫌よう。祝賀会は楽しんでいるかな?」
「こ、これは皇帝陛下に皇后陛下! 我々から陛下の元へ向かうべき所を、大変申し訳ございません! ……こ、この度はおめでとうございます」
トーアの領主はあの戦いの中で歳三が始末した。今はその息子が領主を継いだらしい。私とそう変わらない年齢の新領主は、突然の皇帝の来訪に酷く狼狽していた。
「陛下! この度は一切の罰則を下さないという寛大な御対応ありがとうございました!」
ベゾークト領主が縋り付くような目で私に頭を下げる。
「諸君らが悪いのではない。むしろ諸君らもヴァルターやその一味に騙されていた被害者であろう。国を守るために戦ったその姿勢は賞賛こそすれ、罰などもってのほかだ」
「はは! 陛下の慈悲深い御心に改めて忠誠を誓います!」
アルドたちの調査によりヴァルターと共謀していた者は既に処分した。今ここにいるのはどちらにつくか迷った末に中央を選んだ者だ。
私が皇都にいる以上中央貴族である彼らとの関係は自然と深まるし、腐っても大都市を長年治めている大権力者だ。上手く関係を改善できるに越したことはない。
「陛下、他国からの使者が面会を求めております」
「うむ。ではそちらに行こう。……では諸君、楽しんでくれ」
孔明に呼び出され、私たちは中央貴族たちの元を後にした。
向かうは初めて対面する他国の代表者だ。
当初は微妙な空気にならないか不安だったが、エルシャの演説の効果もあってか皇都の何処へ行ってもお祝いムードであり、大きなトラブルもなく終えた。
パレードが終われば次は貴族や来賓を招いての祝賀会である。私が皇帝となって初めての外交の大舞台だ。
国内の貴族に対しては、先の革命の戦勝祝いでもあった。地方貴族たちは大盛り上がりの一方で、中央貴族らは隅で肩身が狭そうに身を寄せあっている。
「……まずはレオ、結婚おめでとう。そして皇位就任おめでとう」
「おめでとうレオ……」
「ありがとうございます、父上、母上」
貴族として当然私の両親も参加している。
父は自慢げな表情で私の肩に手を乗せた。母は感極まって涙を流している。
「一つ謝りたいことがあります。結果的にウィルフリードという名を継げなかったこと、申し訳ないです」
「気にするなそんなこと! それよりも、自分の息子が皇帝になったということの方がよっぽど凄い! ウィルフリード家が皇族に加えられたのだからな」
「そうよレオ、貴方はそんな小さなことを気にしないでいいの。これから国のために頑張りなさい」
プロメリア帝国、皇都プロメリトス、エルシャ=フォン=プロメリトス。流石にこれらの名前を全てウィルフリードに変えることは歴史的にも政治的にも難しかった。
だから両親の口から直接その言葉が聞けてよかった。
「……ありがとうございます。どうか私のことを気にせず、養子などを迎えてください」
「安心しろ。お前の両親はまだ若い。弟や妹の顔が見れる日が来るかもしれないぞ。それとも、孫の方が先かな!」
「ちょっと、やめなさいよ……」
「あははは……」
珍しく父も随分と酒を飲んでいるようだ。すっかりべろべろに酔っている。
母は挨拶回りなどするためにしっかりキープしているようだ。しっかり父の手網を握っていて欲しいと思った。
「すまないエル、こちらの話を……」
「良いのよ。仲が良くて羨ましいわ。私たちもあのようでありたいわね」
エルシャの母である上皇后はこの場には居ない。もう表舞台には出ないとだけ残し、遠い辺境へと隠居している。
義理の母に娘の晴れ舞台を見せてやることができなかったのは残念だが、これは彼女なりの娘への思いやりなのだろう。変に自分を皇位に担ぎあげられないよう、慎重な行動を選んでいるように見えた。
「ご歓談中失礼します。皇帝陛下、是非ご挨拶したいと来賓の方々がお待ちです」
「その話し方はやめてくれ孔明。気軽に話せる人が減るのは辛いものだと最近知った」
孔明はいつにも増して重そうな純白の鶴氅を身にまとい、袖の下で腕を組みながら跪いて話しかけてきた。
孔明は貴族ではないが私の 付き人としてこの場に参加している。
ある意味ヴァルターの後釜のような感じだ。
「これは失礼しました。……レオ、これは重大な仕事です。特に他国からの使者については事前に打ち合わせした通り、軽々しく口約束も交わさないように気を付けてください」
「分かった。……行こうかエル」
「ええ」
孔明が頭を下げている前を、エルシャと腕を組みながら通り過ぎる。それは厳格な上下関係の存在を印象付けただろう。
ここでの立ち振る舞いも全て見られているのだ。私が孔明に言われた通りに動いていると知られれば、孔明の命が危うくなる。少しでも付け入る隙を与えてはならない。
「デアーグ=エアネスト公爵にミドラ=ホルニッセ公爵、そして他の皆も今日はよく来てくれた」
まずは身内への挨拶から済ませることにした。
「これは皇帝陛下並びに皇后陛下、わざわざ御足労ありがとうございます。この度は御成婚、御即位おめでとうございます。心よりお慶び申し上げます」
ミドラがそう言い頭を下げるのに合わせ、デアーグや他の貴族たちも私たちに深く頭を下げた。
「今日は朝から戴冠式など長丁場であったな。この祝賀会では存分に楽しんでくれ」
「お心遣い感謝申し上げます。……それと陛下、陞爵という身に余る名誉を頂けたこと、この場を借りて御礼申し上げます」
「此度の戦いで特に軍功を挙げた者には陞爵している。これからもその手腕を我が帝国のために存分に振るうが良い」
リーンとホルニッセに加え、皇都まで到達するまでの活躍を見せた北方のノードウェステンとノードストンは、皆ひとつ爵位を上にした。元から最上位のウィルフリードとエアネストには賞金と勲章の叙勲を行った。
「は! 必ずや陛下の御期待にお応えするべく、粉骨砕身の思いで帝国に仕えて参ります」
「うむ。ではまた」
私は彼らのテーブルを後にし、次は矛を交えた中央貴族たちの元を訪れた。
「トーアにベゾークト、そしてその他諸君、御機嫌よう。祝賀会は楽しんでいるかな?」
「こ、これは皇帝陛下に皇后陛下! 我々から陛下の元へ向かうべき所を、大変申し訳ございません! ……こ、この度はおめでとうございます」
トーアの領主はあの戦いの中で歳三が始末した。今はその息子が領主を継いだらしい。私とそう変わらない年齢の新領主は、突然の皇帝の来訪に酷く狼狽していた。
「陛下! この度は一切の罰則を下さないという寛大な御対応ありがとうございました!」
ベゾークト領主が縋り付くような目で私に頭を下げる。
「諸君らが悪いのではない。むしろ諸君らもヴァルターやその一味に騙されていた被害者であろう。国を守るために戦ったその姿勢は賞賛こそすれ、罰などもってのほかだ」
「はは! 陛下の慈悲深い御心に改めて忠誠を誓います!」
アルドたちの調査によりヴァルターと共謀していた者は既に処分した。今ここにいるのはどちらにつくか迷った末に中央を選んだ者だ。
私が皇都にいる以上中央貴族である彼らとの関係は自然と深まるし、腐っても大都市を長年治めている大権力者だ。上手く関係を改善できるに越したことはない。
「陛下、他国からの使者が面会を求めております」
「うむ。ではそちらに行こう。……では諸君、楽しんでくれ」
孔明に呼び出され、私たちは中央貴族たちの元を後にした。
向かうは初めて対面する他国の代表者だ。
11
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

現代ダンジョンで成り上がり!
カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる!
現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。
舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。
四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

喰らう度強くなるボクと姉属性の女神様と異世界と。〜食べた者のスキルを奪うボクが異世界で自由気ままに冒険する!!〜
田所浩一郎
ファンタジー
中学でいじめられていた少年冥矢は女神のミスによりできた空間の歪みに巻き込まれ命を落としてしまう。
謝罪代わりに与えられたスキル、《喰らう者》は食べた存在のスキルを使い更にレベルアップすることのできるチートスキルだった!
異世界に転生させてもらうはずだったがなんと女神様もついてくる事態に!?
地球にはない自然や生き物に魔物。それにまだ見ぬ珍味達。
冥矢は心を踊らせ好奇心を満たす冒険へと出るのだった。これからずっと側に居ることを約束した女神様と共に……
天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜
八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。
第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。
大和型三隻は沈没した……、と思われた。
だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。
大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。
祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。
※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています!
面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※
※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる