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第三章
189話 後始末
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「その首、どうしますか? 大通りに晒して民衆に今の王は誰かを示すとか……」
タリオが意外にも残酷なことを言うので少し驚いた。
「いや、それはやめておこう。先帝と第一皇子と同じ場所に手厚く葬ってやれ」
私の言葉を聞いてタリオはそっとボーゼンの遺体に布を被せた。私も取った首をその横にそっと置く。
私が宝剣に付いた血を丁寧に拭いていると、障害が発生していたはずの通信機から音が聞こえてきた。
『……あー、あー、……聞こえていますか?』
「聞こえているぞ孔明。通信が戻ったのだな」
『はい。通信機自体が壊れたという訳ではないので、時間が経てば乱れも落ち着き、無事に使えるようです。……それで、そちらはどのような状況ですか?』
「……終わったよ。……全てな」
『そうですか。……まずは、心よりお喜び申し上げます』
「ありがとう。お前含め、皆のおかげだ」
『我が君の偉業に微力ながら貢献できたこと、光栄に思います。……ですがその行程はまだ終わりではありません』
「その通りだ。これからどうする? と、その前にそっちに残っていた国有軍はどうなった? 大丈夫か?」
私はここから先、孔明の指示が皆に聞こえるように通信機の音量を上げた。
『はい、問題ありません。壁上に翻る旗を見た敵軍は皆降伏し、捕虜としました。これから彼らを連れ皇都へ入ります。そして私たちの勝利を宣言しましょう』
「そうか。本当に戦いは終わったのだな……。……いや待て、歳三たちはどうなった? それに未だ勝利を知らずに戦いを続けている他貴族もいるだろう」
『そうですね。もちろんすぐに通信機で連絡します。ですがもうひとつ、同時にやりたい策があります』
「ほう……?」
『他の貴族たちも皆皇都に迫る勢いで戦っているようです。我々が国有軍の主力を引き受けましたからね。……ですので、ここで、とあることをやってみたいと思うのです』
孔明は通信機越しでも分かるぐらい楽しそうにそう言った。
「通信以外にやることがあるのか……? まあ任せるが。……ではまた後程会おう」
『はい。それでは失礼します──』
ちょうど通信が終わった頃、玉座の間には城の調査を終えた諜報部の隊員が次々とやって来た。
「お知らせします。皇后は地下の十二番目の牢に居ました。鍵は発見できず、鉄格子には防護魔法が付与されており壊すのには時間が掛かります」
「どうしましょうかレオ様」
皇后と言えば先帝の横に座っているだけの人というイメージしかない。国の歴史的な風潮から考えても政治的な権力はほとんどないだろうが、万が一にも第二側を味方するというリスクはある。
しかし皇后はエルシャに残された唯一の肉親であり、私の義母となる人間だ。私が覇道を征くなら少しのリスクも許すこと無くこの動乱を機に彼女をそっと処刑すべきなのだろうが、私はそこまで心を捨てたくはない。
「助けてやってくれ。エルシャにはせめて母親の顔だけでも見せてやりたい」
「だそうだ。手隙の者は皇后救出に当たれ」
「は」
最初にやって来た五人程の隊員が去って行く。
そして順番待ちをしていた次の者が入って来た。
「お知らせします。城内の安全は確保しました。仕掛けられていた罠は全て解除し潜んでいた敵兵は排除、非戦闘員は身体検査を済ませ大広間一箇所に集めています」
「彼らはどうしましょうか、レオ様」
役人連中の処遇も悩ましい。彼らもボーゼン政権の元で働いている以上私たちに対しては何らかの敵対的な行動をしていただろう。中にはもっと昔からヴァルターと繋がりがある人間もいるだろう。
しかしどこかで線引きをしてから処遇を決めねば、一括に彼らを殺してしまえば国の運営がままならなくなる。良くも悪くも今までの帝国は彼らによって成り立っていたのだから。
「今は中央派との繋がりを軽く尋問する程度に留めておけ。それよりも隠蔽される前に手紙や契約書など、奴らの陰謀を暴く証拠品の捜索を頼む」
「だそうだ。捕虜の見張りと尋問に数名、残りの者は証拠品の捜索と押収をするように」
「は」
これでひとまずこっちでできることは済んだ。詳しいことは
私はハオランたちを連れ血塗れた玉座の間を後にした。
私たちは一度居館の外に出て外の空気を吸い、気分を落ち着かせていた。
皆、何かしら思うところはあるだろう。無言で皇城から見下ろす皇都の景色を眺めている。
これで正真正銘、この一連の戦いは終わったのだ。
亜人・獣人の国々との戦争には奴らの思惑が絡んでいた。シャルフやハオランたちにとってはこれはある意味の復讐でもある。
私にとしても、地方領主という地位とエルシャという婚約者を与えてくれた、今は亡き先帝の恩に少しは報いることができたと思う。
『……聞こえますか?』
少しすると孔明から通信が入った。
「ああ」
『まずは共に戦ってくれた兵に向けて、レオ自身の口から改めて終戦の宣言を』
「分かった。……今どこにいる?」
『皇都の中央広場です。現在は列を整えながらエアネスト公爵が話をしています。そのうち何となく民衆も集まってくるでしょう。民衆への正式な演説はまた別にやりますが、折角の機会です。活かさない手はありません』
「なるほどな。それでは私の方で内容を考えつつそちらへ向かう」
『はい。ではお待ちしております──』
タリオが意外にも残酷なことを言うので少し驚いた。
「いや、それはやめておこう。先帝と第一皇子と同じ場所に手厚く葬ってやれ」
私の言葉を聞いてタリオはそっとボーゼンの遺体に布を被せた。私も取った首をその横にそっと置く。
私が宝剣に付いた血を丁寧に拭いていると、障害が発生していたはずの通信機から音が聞こえてきた。
『……あー、あー、……聞こえていますか?』
「聞こえているぞ孔明。通信が戻ったのだな」
『はい。通信機自体が壊れたという訳ではないので、時間が経てば乱れも落ち着き、無事に使えるようです。……それで、そちらはどのような状況ですか?』
「……終わったよ。……全てな」
『そうですか。……まずは、心よりお喜び申し上げます』
「ありがとう。お前含め、皆のおかげだ」
『我が君の偉業に微力ながら貢献できたこと、光栄に思います。……ですがその行程はまだ終わりではありません』
「その通りだ。これからどうする? と、その前にそっちに残っていた国有軍はどうなった? 大丈夫か?」
私はここから先、孔明の指示が皆に聞こえるように通信機の音量を上げた。
『はい、問題ありません。壁上に翻る旗を見た敵軍は皆降伏し、捕虜としました。これから彼らを連れ皇都へ入ります。そして私たちの勝利を宣言しましょう』
「そうか。本当に戦いは終わったのだな……。……いや待て、歳三たちはどうなった? それに未だ勝利を知らずに戦いを続けている他貴族もいるだろう」
『そうですね。もちろんすぐに通信機で連絡します。ですがもうひとつ、同時にやりたい策があります』
「ほう……?」
『他の貴族たちも皆皇都に迫る勢いで戦っているようです。我々が国有軍の主力を引き受けましたからね。……ですので、ここで、とあることをやってみたいと思うのです』
孔明は通信機越しでも分かるぐらい楽しそうにそう言った。
「通信以外にやることがあるのか……? まあ任せるが。……ではまた後程会おう」
『はい。それでは失礼します──』
ちょうど通信が終わった頃、玉座の間には城の調査を終えた諜報部の隊員が次々とやって来た。
「お知らせします。皇后は地下の十二番目の牢に居ました。鍵は発見できず、鉄格子には防護魔法が付与されており壊すのには時間が掛かります」
「どうしましょうかレオ様」
皇后と言えば先帝の横に座っているだけの人というイメージしかない。国の歴史的な風潮から考えても政治的な権力はほとんどないだろうが、万が一にも第二側を味方するというリスクはある。
しかし皇后はエルシャに残された唯一の肉親であり、私の義母となる人間だ。私が覇道を征くなら少しのリスクも許すこと無くこの動乱を機に彼女をそっと処刑すべきなのだろうが、私はそこまで心を捨てたくはない。
「助けてやってくれ。エルシャにはせめて母親の顔だけでも見せてやりたい」
「だそうだ。手隙の者は皇后救出に当たれ」
「は」
最初にやって来た五人程の隊員が去って行く。
そして順番待ちをしていた次の者が入って来た。
「お知らせします。城内の安全は確保しました。仕掛けられていた罠は全て解除し潜んでいた敵兵は排除、非戦闘員は身体検査を済ませ大広間一箇所に集めています」
「彼らはどうしましょうか、レオ様」
役人連中の処遇も悩ましい。彼らもボーゼン政権の元で働いている以上私たちに対しては何らかの敵対的な行動をしていただろう。中にはもっと昔からヴァルターと繋がりがある人間もいるだろう。
しかしどこかで線引きをしてから処遇を決めねば、一括に彼らを殺してしまえば国の運営がままならなくなる。良くも悪くも今までの帝国は彼らによって成り立っていたのだから。
「今は中央派との繋がりを軽く尋問する程度に留めておけ。それよりも隠蔽される前に手紙や契約書など、奴らの陰謀を暴く証拠品の捜索を頼む」
「だそうだ。捕虜の見張りと尋問に数名、残りの者は証拠品の捜索と押収をするように」
「は」
これでひとまずこっちでできることは済んだ。詳しいことは
私はハオランたちを連れ血塗れた玉座の間を後にした。
私たちは一度居館の外に出て外の空気を吸い、気分を落ち着かせていた。
皆、何かしら思うところはあるだろう。無言で皇城から見下ろす皇都の景色を眺めている。
これで正真正銘、この一連の戦いは終わったのだ。
亜人・獣人の国々との戦争には奴らの思惑が絡んでいた。シャルフやハオランたちにとってはこれはある意味の復讐でもある。
私にとしても、地方領主という地位とエルシャという婚約者を与えてくれた、今は亡き先帝の恩に少しは報いることができたと思う。
『……聞こえますか?』
少しすると孔明から通信が入った。
「ああ」
『まずは共に戦ってくれた兵に向けて、レオ自身の口から改めて終戦の宣言を』
「分かった。……今どこにいる?」
『皇都の中央広場です。現在は列を整えながらエアネスト公爵が話をしています。そのうち何となく民衆も集まってくるでしょう。民衆への正式な演説はまた別にやりますが、折角の機会です。活かさない手はありません』
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『はい。ではお待ちしております──』
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