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第三章

185話 招集

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「タリオ! 既に伝令は来ているか!?」

「はい! 突撃の準備ですよね!?」

「そうだ! 私たちも行くぞ! 各族長や部隊長に声を掛けてくる!」

「前線はもう敵味方入り乱れ、人探しは困難です!」

 ウィルフリード軍は完全に敵軍とぐちゃぐちゃになりながら戦っている。エアネストもかなり隊列が乱れているが、ギリギリ持ち堪えているか。
 ファリア軍はさらにその後ろなのでまだマシな方ではある。しかし歩兵は最前線で戦っているためそこから探すのは難しいのも事実だ。

「──やっと見つけたぞ! どこに行っていたんだ!」

「ハオラン!」

 ハオランが竜人を全員連れ私の元へ降りてきた。

「一度下がって作戦を考えてきていた。そっちは大丈夫だったか?」

「爆風で飛ばされたが何とかな」

「通信機が使えなかったが、辺りの状況はどうなっている?」

「ああその事だ! もうすぐ右方から二万来るぞ!」

「敵の遠距離部隊はどうだ?」

「そっちは混乱で多少足を遅らせてはいるが、敵の援軍よりもっと早く前線まで来る!」

「……それは都合がいい」

「何を言っている!? どっちも大きな脅威だ!」

 ここまで冷静さを失い激高した彼の姿は初めて見た。しかしそれだけ私たちのために熱くなってくれていることを、少し嬉しく思った。

「敵の遠距離部隊が前進してきたら逆にこちらから打って出る。敵陣を食い荒らし一気に皇都まで駆け抜ける」

「そなたは本当に無謀な突撃が好きだな! 我々であっても敵の魔導師をくぐり抜けてあの城壁を抜けるのは無理だ! ルーデルの二の舞になるぞ!」

「門は必ず開く! 孔明を信じろ!」

「…………」

「盟友である私の言葉も信じられないか?」

 ハオランはすっと目を閉じた。
 リーフェンやルーシャンたち竜人はただハオランを見つめ、族長の出す答えを待っている。

「──分かった。今一度そなたに賭けてみよう。我らは何をすれば良い?」

 渋い顔をしながらも、ハオランは協力してくれるようだ。

「ありがとうハオラン。……まずは突撃のメンバー集めだ。私の合図で孔明がスキルで暴風と雷雨を起こす。竜人たちもその援護をして欲しいが、雨で爆弾も使えず近接武器での戦闘になるが大丈夫か?」

「愚問だな。それこそ我ら本来の戦い方なのだから」

「よし。では頼んだ。……そして他の族長たちにもいくらか精兵を集めて突撃のメンバーに加わるよう伝えて欲しい。この混乱では地上からは探せない」

「了解した。──行くぞ」

「はい族長」

 竜人たちは広範囲に散らばりながら飛び去って行った。

 私も準備を始める。薄めではあるが全身を覆う鎧と、皇帝から下賜された宝剣をしっかりと携える。
 そしてもうひとつ重要なことがあった。

「……あー、そこの君!」

「──え、わ、私でしょうか!」

「そうだ。こっちに」

「は!」

 私は適当にガタイのいい兵士を呼び寄せた。

「君に特別な任務を与える。……この旗を持って私の後ろをついてくるんだ」

「──! こ、これは……!」

 私は孔明から受け取った皇帝旗を鞄から出し兵士に渡した。

「敵の旗をへし折り、私たちがそれを持って皇都に入ることに意味があるのだ。死んでもそれを離すなよ」

「──は、はっ! 必ずや!」

「ところで君、名前は?」

「は! フラッゲと申します!」

「そうか。よろしく頼むよフラッゲ」








 それから間もなくして、役者が揃った。

「団長、ファリア騎兵はどのぐらい残っている?」

「はぐれたり馬を失った者も多く、三百が限界でした。敵に捕らわれた者もいます」

 騎兵は果敢に敵陣に突っ込む関係上、多少の被害はやむを得ない部分がある。それでも敵に与える打撃の方が余程大きいため、団長の行った積極的攻勢は間違いではない。

「十分だ。……アイデクス、蜥蜴人リザードマンは馬術の技量はどうだ」

「本来私たちの種族は馬には乗りません。ですがいざという時のために訓練は積んできました。問題ありません」

 槍なら馬上からの攻撃もでき、蜥蜴人族の武術が活きるだろう。

「タリオ、連弩による弓騎兵はどんな感じだ」

「はい。射程では長弓に劣りますが、その圧倒的な手数ですれ違いざまに敵を掃射できます」

 弓兵は後方からの援護が主だったため、団長率いる騎兵やアイデクス率いる槍兵とは違い損害も軽微である。

「シャルフ、長い間戦場に付き合わせて悪いな。エルフたちの様子はどうだ」

「悠久と時を過ごすエルフにとってこの数日など瞬きにも満たない。当然馬上であろうと矢を外すことなどない」

 ぶっきらぼうにそう言い放つシャルフではあるが、どうやら私たちと一緒に危険な突撃に付き合ってくれるらしい。

「ヴォルフ、人狼族は徒歩で行くとのことらしいが大丈夫か」

「ああ……。獣化すれば馬より早い……」

 生身で戦う人狼族の面々は皆傷つき血を流している。しかし牙や鉤爪が赤く血塗られているのは敵の返り血だろう。
 血に飢えた獣たちは今か今かと狩りの合図を待ちわびていた。

「……そしてデアーグ殿、危険な先鋒をエアネスト軍が務めてくれること、感謝申し上げます」

「騎兵三千を有する我らが先陣を切るのは当然のことだ。むしろ皇都へ一番乗りさせて貰えることをこちらからお礼したいところだよ」

 そうデアーグ公爵は笑うが、未だ五万以上残る敵軍を穿つには三千は安心できる数ではない。ファリアはかき集めて千に満たない程度だ。
 そんな様子では実際皇都までたどり着けるのはファリアの中でもどれ程か。しかしそんな中で彼がそう言うのは私に対する気遣いだろうか。

「──諸君! その命今一度私に預けて欲しい! ……これが最後の戦いだッ!!!」

 私が激励すると、皆各々の武器を構えた。私も宝剣を抜き天高く掲げる。フラッゲもしっかりと旗手として皇帝旗を掲げている。

「……! レオ様! ここに敵軍の弓矢が飛んできます! 宮廷魔導師にも狙われています!」

「ははは! しっかり釣られてくれてありがとう! ──ではこちらから行くぞ!」

 私は戦いの運命を託した最後の突撃を知らせる閃光弾を、全力で空に投げ飛ばした。
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