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第三章
183話 決戦兵器
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『――偵察情報を報告する。皇都前には最終決戦に備え十万の防衛隊が布陣している。尚、周囲から中央貴族の援軍や伏兵等の情報もあり、敵軍全体の数は更に膨れ上がるだろう』
「了解した。空軍は最低限の偵察兵のみ残し帰還せよ。そして爆装し攻撃準備だ」
『了解。リーフェンらを残し我々は一度帰投する』
「ルーデル、お前もどこにいるか分からないが戻ってこい。これが最後の戦いだ。好きな武器を好きなだけ使え」
『ほう、それは面白そうだ! 俺の同僚も「怪しいところには弾丸をぶち込め」と言っていた。伏兵も援軍も全て吹き飛ばしてやろう!』
私はエルヴィン・ロンメルほどの名将ではないが、この戦いには勝てると自信を持って言える。
負けるはずがない。これまでの準備、投資、努力。その結果が今までの戦果。
この戦いもそれらと同じように、ただ勝つだけだ。
「……ご報告申し上げます。ファリアより追加の弾薬類が届きました。また近隣地域からも物資の寄付が寄せられており、準備は万全です」
「機は熟した、か」
「──レオ様、開戦の宣言を」
そう私に魔導拡声器を渡すタリオの手は震えていた。
無理もない。私だって自己暗示しなければならない程に冷や汗と悪寒が全身を覆っている。
城壁や防衛隊に掲げられた帝国旗。そして皇帝がそこにいると示す、謁見の間で見た特別な紋章の旗。元の世界で言うところの天皇家を象徴する菊花紋章である。
皇都を背にした敵軍と掲げられた旗を見ると、本当に私たちはこの国に弓を引くことをしているのだと改めて実感させる。
だが、成し遂げなければならない。
それがこの世界に平和を築くために必須の試練なのだ。
「――例の旗を掲げよ」
正当性を示すものならこちらとて持っている。
私たちより若干後ろに控えるエルシャが嫁入り道具として持ってきた皇族を表す旗。皇位奪還の大義名分を示すそれを持つ私たちは官軍であり、奴らこそ逆賊なのだ。
「……諸君! 我々はこれより世紀の一戦を挑むことになる! 敵は皇帝陛下と第一皇子グーター様を亡き者にした大罪人である! そのような連中がこの国を中枢にいることを我々は断じて許さない! 大義は我らにあり! 必ずや勝利し、帝国に正義を取り戻すのだ!!! ──全軍攻撃開始ッ!!!」
私が目一杯の大声でそう高らかに宣言すると、それは魔導拡声器と通信機によって私たちの軍全体に響き渡った。
そしてその言葉に合わせ、開戦の合図かのように砲撃と爆撃が敵陣を襲う。爆風が1km以上離れたここまで届いた。
やがて爆煙が晴れて敵の様子が露になる。そこには一瞬にして崩壊した隊列と無惨な死体の数々。そして爆圧によって華々しく掲げられていた彼らの旗は砕け散っていた。
『……任務完了。帰投する……。──なッ! 奴らは一体何をしているんだ!?』
「どうしたハオラン、報告しろ」
『これは少々マズイぞ! 敵はこの攻撃を生き残った全員で一気に突撃を開始した! 散開している上に何より数が多すぎて残しておいた予備の爆弾では足止めできない!』
敵も馬鹿ではない。向こう側にも歴戦の軍師や参謀はいる。
そんな彼らが見出した唯一の対抗策は、砲兵隊の再装填時間の間に突撃することだった。
カノン砲という物自体を知らない敵は大魔法だと思っているだろう。大魔法を発動するまでに魔力を集めている時間よりは早く装填が完了するが、それから狙いを定めて……などとやっていると間に合わない。
それに接近を許せば、精度が悪い癖に爆発範囲が広すぎるカノン砲は撃つことができなくなる。味方を巻き込む訳にはいかない。
『──空軍と砲兵隊は補給を急いでください! その他、全軍迎撃用意です! 弓兵はひたすら連射し敵を牽制、それでも抜けてきた敵は歩兵と騎兵に任せます!』
孔明が緊急用の全体通信でそう呼びかけた。押せ押せムードだった私たちの間に緊張が走る。
「ルーデル! 例のアレを使う許可を出す! 十中八九影武者だろうが、あの皇帝の旗を掲げる部隊を丸ごと吹きとばせ!」
『了解した!』
ちょうど補給に戻ったタイミングでルーデルへの命令を更新した。
『……うぉぉ! 重すぎる! これはやはり重すぎる!』
そう言いながらも、なんとか巨大な爆弾を抱えて飛び上がるルーデルの姿が遠くに見えた。
例のアレとは、制式一号航空爆弾のことである。
二号が強力なルーデル専用の通常装備である中型爆弾。三号は絨毯爆撃など使い勝手のいい、ルーデル・竜人両用の通常装備である小型爆弾。
では一号はなぜ飛ばされているのか。それはルーデルであっても扱うのが困難なレベルの巨大な爆弾だからだ。試製段階で色々実験した上、限界を知るためにギリギリ実用化できるレベルで仕上げたのが制式一号航空爆弾なのである。
「無理はするな! 爆風範囲がデカすぎる癖に遅延信管などない! 迂回上昇し安全な高度から投下せよ!」
『はぁ、はぁ……! こんなものそんな高く上げている時間はない! これで十分だ!』
高度30m付近で上昇をやめ、ルーデルは敵陣目掛けて一直線に緩降下している。
「ダメだルーデル! 死ぬぞ! あまりに無茶過ぎ──」
『敵軍に前線を突破されました!』
『カノン砲装填完了しました! 砲撃する座標の指示をください!』
『伏兵を発見。西方から五千が接近中。間もなく接敵する』
緊急通信が続々と入る。
『……時間はない。やるしかない。ああ、爆弾と共に空に舞い、そして散る。これこそ俺が望んだことだ!』
「クソ! やめろ!」
ルーデルは私の命令を無視し、急降下しながら速度を付けて敵本陣ど真ん中へ無謀な攻撃を挑んだ。
『──ぐぉ! 翼が凍った! なんだこれは!』
「……! それは宮廷魔導師だ! それを当ててくるのか!」
『速度は十分稼がせて貰った! このまま爆撃する!』
「やめろルーデル! ゼロ距離で受けたら流石のお前も死──」
眩い光が辺り一体を包んだ次の瞬間、ルーデル諸共、敵陣は超巨大な爆発の渦に飲み込まれ、消えていった。
「了解した。空軍は最低限の偵察兵のみ残し帰還せよ。そして爆装し攻撃準備だ」
『了解。リーフェンらを残し我々は一度帰投する』
「ルーデル、お前もどこにいるか分からないが戻ってこい。これが最後の戦いだ。好きな武器を好きなだけ使え」
『ほう、それは面白そうだ! 俺の同僚も「怪しいところには弾丸をぶち込め」と言っていた。伏兵も援軍も全て吹き飛ばしてやろう!』
私はエルヴィン・ロンメルほどの名将ではないが、この戦いには勝てると自信を持って言える。
負けるはずがない。これまでの準備、投資、努力。その結果が今までの戦果。
この戦いもそれらと同じように、ただ勝つだけだ。
「……ご報告申し上げます。ファリアより追加の弾薬類が届きました。また近隣地域からも物資の寄付が寄せられており、準備は万全です」
「機は熟した、か」
「──レオ様、開戦の宣言を」
そう私に魔導拡声器を渡すタリオの手は震えていた。
無理もない。私だって自己暗示しなければならない程に冷や汗と悪寒が全身を覆っている。
城壁や防衛隊に掲げられた帝国旗。そして皇帝がそこにいると示す、謁見の間で見た特別な紋章の旗。元の世界で言うところの天皇家を象徴する菊花紋章である。
皇都を背にした敵軍と掲げられた旗を見ると、本当に私たちはこの国に弓を引くことをしているのだと改めて実感させる。
だが、成し遂げなければならない。
それがこの世界に平和を築くために必須の試練なのだ。
「――例の旗を掲げよ」
正当性を示すものならこちらとて持っている。
私たちより若干後ろに控えるエルシャが嫁入り道具として持ってきた皇族を表す旗。皇位奪還の大義名分を示すそれを持つ私たちは官軍であり、奴らこそ逆賊なのだ。
「……諸君! 我々はこれより世紀の一戦を挑むことになる! 敵は皇帝陛下と第一皇子グーター様を亡き者にした大罪人である! そのような連中がこの国を中枢にいることを我々は断じて許さない! 大義は我らにあり! 必ずや勝利し、帝国に正義を取り戻すのだ!!! ──全軍攻撃開始ッ!!!」
私が目一杯の大声でそう高らかに宣言すると、それは魔導拡声器と通信機によって私たちの軍全体に響き渡った。
そしてその言葉に合わせ、開戦の合図かのように砲撃と爆撃が敵陣を襲う。爆風が1km以上離れたここまで届いた。
やがて爆煙が晴れて敵の様子が露になる。そこには一瞬にして崩壊した隊列と無惨な死体の数々。そして爆圧によって華々しく掲げられていた彼らの旗は砕け散っていた。
『……任務完了。帰投する……。──なッ! 奴らは一体何をしているんだ!?』
「どうしたハオラン、報告しろ」
『これは少々マズイぞ! 敵はこの攻撃を生き残った全員で一気に突撃を開始した! 散開している上に何より数が多すぎて残しておいた予備の爆弾では足止めできない!』
敵も馬鹿ではない。向こう側にも歴戦の軍師や参謀はいる。
そんな彼らが見出した唯一の対抗策は、砲兵隊の再装填時間の間に突撃することだった。
カノン砲という物自体を知らない敵は大魔法だと思っているだろう。大魔法を発動するまでに魔力を集めている時間よりは早く装填が完了するが、それから狙いを定めて……などとやっていると間に合わない。
それに接近を許せば、精度が悪い癖に爆発範囲が広すぎるカノン砲は撃つことができなくなる。味方を巻き込む訳にはいかない。
『──空軍と砲兵隊は補給を急いでください! その他、全軍迎撃用意です! 弓兵はひたすら連射し敵を牽制、それでも抜けてきた敵は歩兵と騎兵に任せます!』
孔明が緊急用の全体通信でそう呼びかけた。押せ押せムードだった私たちの間に緊張が走る。
「ルーデル! 例のアレを使う許可を出す! 十中八九影武者だろうが、あの皇帝の旗を掲げる部隊を丸ごと吹きとばせ!」
『了解した!』
ちょうど補給に戻ったタイミングでルーデルへの命令を更新した。
『……うぉぉ! 重すぎる! これはやはり重すぎる!』
そう言いながらも、なんとか巨大な爆弾を抱えて飛び上がるルーデルの姿が遠くに見えた。
例のアレとは、制式一号航空爆弾のことである。
二号が強力なルーデル専用の通常装備である中型爆弾。三号は絨毯爆撃など使い勝手のいい、ルーデル・竜人両用の通常装備である小型爆弾。
では一号はなぜ飛ばされているのか。それはルーデルであっても扱うのが困難なレベルの巨大な爆弾だからだ。試製段階で色々実験した上、限界を知るためにギリギリ実用化できるレベルで仕上げたのが制式一号航空爆弾なのである。
「無理はするな! 爆風範囲がデカすぎる癖に遅延信管などない! 迂回上昇し安全な高度から投下せよ!」
『はぁ、はぁ……! こんなものそんな高く上げている時間はない! これで十分だ!』
高度30m付近で上昇をやめ、ルーデルは敵陣目掛けて一直線に緩降下している。
「ダメだルーデル! 死ぬぞ! あまりに無茶過ぎ──」
『敵軍に前線を突破されました!』
『カノン砲装填完了しました! 砲撃する座標の指示をください!』
『伏兵を発見。西方から五千が接近中。間もなく接敵する』
緊急通信が続々と入る。
『……時間はない。やるしかない。ああ、爆弾と共に空に舞い、そして散る。これこそ俺が望んだことだ!』
「クソ! やめろ!」
ルーデルは私の命令を無視し、急降下しながら速度を付けて敵本陣ど真ん中へ無謀な攻撃を挑んだ。
『──ぐぉ! 翼が凍った! なんだこれは!』
「……! それは宮廷魔導師だ! それを当ててくるのか!」
『速度は十分稼がせて貰った! このまま爆撃する!』
「やめろルーデル! ゼロ距離で受けたら流石のお前も死──」
眩い光が辺り一体を包んだ次の瞬間、ルーデル諸共、敵陣は超巨大な爆発の渦に飲み込まれ、消えていった。
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