上 下
183 / 262
第三章

181話 戦況分析

しおりを挟む
「レオ様! こちら軍師殿から預かっていた書簡でございます!」

「ほう……」

 伝令から受け取った紙にはこれからの動きとあらゆる想定外に備えた策が記されていた。

「よし! それでは私たちファリア軍はトーアから出撃し正面十万を押し込むぞ! その間の防衛はリーンが、東方にはウィルフリードが行きエアネストと挟撃を行う!」

「「はっ!」」

「断続的に砲撃と爆撃を行いその間に我々は前進。後顧の憂いがある敵方は撤退を余儀なくされるだろう! 敵は大軍ではあるが恐れる必要はない! 我々は血を流すことなく勝利するのだ!」

 弓も魔法も届かない距離から一方的に相手の希望をへし折る。それが私たちの戦い方だ。

「……全軍前進──!!!」

「ウォォォォオ!!!」

 騎兵による突撃は行わない。砲兵隊の前進速度に合わせてじわじわと押していく。

「ルーデル、ハオラン! 弾薬は限られている。小型の制式三号航空爆弾で敵の指揮官をピンポイントで爆撃しろ!」

『了解』
『了解した』

 十万の敵兵を全て屠るほどの絨毯爆撃をする余裕はない。そして仮にできたとして無駄に多くの兵を殺したくはない。
 難しい任務にはなるが新設したからには空軍の働きに期待する。

「レオ様、どうやら西方の五万がトーアを守るリーンではなく我々の方へ向かってきているようです!」

「直接近衛騎士の惨状を見ていないからそうなる。十門を左に向けろ! 竜人の座標指定を受けた後に砲撃し牽制するのだ!」





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆





 それから私たちはじわじわと皇都へ着実に歩みを進めていた。
 基本は爆撃と砲撃で片付いたが、たまに一か八かの大勝負を挑んで来る敵部隊もあった。しかしまともな指揮官を失った散発的な攻撃は、手数のファリア連弩兵と長射程のエルフ長弓兵、強力な獣人歩兵部隊によって簡単に処理できるレベルだった。

 戦況が大きく動いたのは二日後、朝日が登り始めた頃だ。

「お知らせします。東方でお味方が勝利。多少兵は減らしましたがウィルフリードとエアネスト合わせて四万がこちらへ合流するとの事です」

「いい流れだ。だがここで焦ってはいけない。まずは彼らと合流することを優先しよう。我々も決して楽観視できる状況ではないからな。──総員進軍停止! 敵の反攻に備えつつ休息を取れ!」

 西方五万に正面十万。今はそれなりに減らし西方三万、正面七万ほどだ。リーンも出撃し私たちの援護に回っているが、依然として敵とこちらに大きな兵力差があることに変わりはない。ここは慎重に勝ち点を伸ばしていく。






「レオちょっといいか?」

 戦況も落ち着いたので孔明のいる本陣まで下がり、休憩をしていた所、歳三が訪ねてきた。

「どうした? 妖狐族の部隊で何か問題があったか?」

「いや、違う。もうすぐウィルフリードとエアネストがやって来て、正面の国有軍本軍を追撃するだろ?」

「そうだな」

「だがその時に西方の敵軍は残しておくことになるが、ソイツはちょっと危険だ」

「まあ孔明が大丈夫だと判断した上での作戦だから大丈夫だとは思うが、……その通りではあるな」

「そこで俺にいくらかの兵と砲兵を与えて欲しい。俺が西方の軍と本軍を分断する」

 歳三がそんなことを言い出すとは思っていなかったので少し驚いた。
 しかし彼を召喚する際に、序盤は護衛として、中盤以降は指揮官としてその才を発揮してくれることを考えていたのも事実だ。そろそろより大きな役割を任せてもいいのかもしれない。

「分かった。では兵数などについての詳細は孔明と話してみてくれ」

「おう。後ろ、というか横は俺に任せてくれ」

「ああ。だがくれぐれも無茶はするなよ」

 いつまでも英雄たちを勿体ない使い方はできない。可能な限り彼らの最大限の力を発揮できる場を与えるのが私の役目だ。

「ちなみにハオラン、そっちの様子はどうだ」

『……少しずつ後方の部隊が皇都へ向け撤退を始めている。ああそれと空からは中々面白い景色が見れるぞ』

「ほう? それはなんだ?」

『貴族や指揮官どもは爆撃を恐れて目印となる旗を下げ、挙句の果てには目立つからか豪華な鎧を脱ぎ捨て下級の兵士と同じ格好をしておる! そんなことをしようとも上から見れば明らかに警護が厳重な位置から居場所を推測できるのにな! ハハハ!』

 連日、一番忙しいのは竜人たちだ。だが笑ってしまうぐらい余裕があるようで何よりである。

 貴族の生きる社交世界において自己主張は絶対に必要なものだ。見栄やプライドを見せつけることで権力を誇示するが、逆に言えばそれが出来なければ周囲の人間に見損なわれる。
 こんな状態でみすみす皇都へ帰れば、民衆は貴族たちに冷ややかな視線を送ることになるだろう。

「彼らも所詮は人の子、命が大事だということだ。引き続き敵に休ませることなく牽制として爆撃を続けてくれ」

『了解した!』

 今後の展開を考えるとほんの少し楽しみな自分がいることに、もう驚きもしなかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

満州国馬賊討伐飛行隊

ゆみすけ
歴史・時代
 満州国は、日本が作った対ソ連の干渉となる国であった。 未開の不毛の地であった。 無法の馬賊どもが闊歩する草原が広がる地だ。 そこに、農業開発開墾団が入植してくる。 とうぜん、馬賊と激しい勢力争いとなる。 馬賊は機動性を武器に、なかなか殲滅できなかった。 それで、入植者保護のため満州政府が宗主国である日本国へ馬賊討伐を要請したのである。 それに答えたのが馬賊専門の討伐飛行隊である。 

忘れられた元勇者~絶対記憶少女と歩む二度目の人生~

こげ丸
ファンタジー
世界を救った元勇者の青年が、激しい運命の荒波にさらされながらも飄々と生き抜いていく物語。 世の中から、そして固い絆で結ばれた仲間からも忘れ去られた元勇者。 強力無比な伝説の剣との契約に縛られながらも運命に抗い、それでもやはり翻弄されていく。 しかし、絶対記憶能力を持つ謎の少女と出会ったことで男の止まった時間はまた動き出す。 過去、世界の希望の為に立ち上がった男は、今度は自らの希望の為にもう一度立ち上がる。 ~ 皆様こんにちは。初めての方は、はじめまして。こげ丸と申します。<(_ _)> このお話は、優しくない世界の中でどこまでも人にやさしく生きる主人公の心温まるお話です。 ライトノベルの枠の中で真面目にファンタジーを書いてみましたので、お楽しみ頂ければ幸いです。 ※第15話で一区切りがつきます。そこまで読んで頂けるとこげ丸が泣いて喜びます(*ノωノ)

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

くノ一その一今のうち

武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
お祖母ちゃんと二人暮らし、高校三年の風間その。 特に美人でも無ければ可愛くも無く、勉強も出来なければ体育とかの運動もからっきし。 三年の秋になっても進路も決まらないどころか、赤点四つで卒業さえ危ぶまれる。 手遅れ懇談のあと、凹んで帰宅途中、思ってもない事件が起こってしまう。 その事件を契機として、そのは、新しい自分に目覚め、令和の現代にくノ一忍者としての人生が始まってしまった!

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

krystallos

みけねこ
ファンタジー
共存していたはずの精霊と人間。しかし人間の身勝手な願いで精霊との繋がりが希薄になりつつある世界で出会った一人の青年の少女の物語。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

処理中です...