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第三章
173話 突貫
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「こう見ると、かなり多いな」
「今までの戦争では包囲されたり森に紛れたりと、敵が分散していたからな。真正面から互いにぶつかり合うのは初めてじゃねェか?」
私たちはイベネン平原でベゾークト軍を待ち構えているウィルフリード軍に合流し、敵方の様子を伺っていた。
私たちの進路を阻もうという意思が透けて見えるような横に広がった数キロ先に見えるベゾークトの布陣は、馬上から眺めると圧巻のものである。
「──レオ! 敵情視察は完了した!」
「ご苦労。で、どうだった?」
「ああ。敵は歩兵4000、弓兵3000、騎兵がちょっとといったところだ。今のところ本陣を設営している様子はないが、後方から柵やらに使うであろう木材の運搬を確認した」
「しっかり領地にも兵を残して万全の構えだな」
ハオランが私の元に降り立ったと同時に、睨み合う双方の間に一騎の男が躍り出た。
「俺が行ってこよう」
「父上、お気を付けて」
完全武装した父は片手を挙げ返事の代わりにすると、馬を前に出した。
「──私はベゾークトの代表として来たラーデンである! 貴君らは何者だ! ここから先はベゾークトの領地である! 兵を下げよ!」
「私はウルツ=ウィルフリードだ! ……そして旗が見えないのか! 我々も同じ帝国民だ! 皇都に用がある故
ウィルフリード、ファリア、リーンの軍を通すことを許可願いたい!」
「断る!」
「帝国内での通行を断る権利はないはずだ! それに我々は皇女殿下の命によって動いているのだぞ! それを阻むことの意味がお分かりか!」
両者は一歩も譲らず、互いの剣が交わらない距離で舌戦を繰り広げた。
「残念ながら貴君らが皇都に行くことはできない。貴君らがクーデターを企てているとの情報があった! 帝国に忠誠を尽くす者として決してそのような行いはさせない!」
「それは違う! むしろ現状では第二皇子側に与するヴァルターらによる乗っ取りが成功しているのだ! 皇帝陛下と第一皇子は奴らによる暗殺だ!」
「そんなものは貴君らの妄想に過ぎん!」
ラーデンと名乗る兵士は断固としてその意見を曲げようとはしない。
「お前たちは騙されている!」
「話にならん! この場から立ち去らないと言うのであれば、剣で決めるしかないな!」
ラーデンはそう言い残し自陣へ戻って行った。
「どうして分かってくれない……!」
父も悔しそうな顔をして引き返す。もはや戦闘を避ける道は閉ざされた。
「……歳三。ベゾークトの領主の本心はどうなんだろうな」
「……?」
「本当に何も知らず、皇都からの知らせと私たちが反乱を起こしたという密告を信じ、国のために戦おうとしているのか。それともただ自らの利益のために私たちの行く手を阻んでいるのか……」
「そうだな……。それは分からねェってのが正解だ。実際の戦争はどっちが正義でどっちが悪かなんて誰も分かっちゃいねェ。だけど誰もが自分の信じる道のために戦う……」
歳三は昔を思い出すような遠い目をしながら言葉を続ける。
「だけどレオ、お前は迷っていい。今の優しい、ちと甘すぎるぐらいでいい。必要があればお前の甘さの分だけ俺が鬼になればいい」
「歳三……」
「さあレオ! お前の号令で始めろ!」
笑いながら、歳三は私の背中を叩いた。
私は目を閉じ一切の迷いを捨て去る。そして息を大きく吸ってこう叫ぶ。
「──目標正面、ベゾークト軍! 攻撃開始!!!」
「「ウォォォォォ!!!!!」」
私の号令で真っ先に突撃を敢行したのは、上空で待機していた我らがファリア空軍である。
ルーデルはど真ん中の敵本陣目掛け、ハオランたち竜人は敵の布陣を空から覆うように緩降下する。
「な、なんだこ──」
ベゾークトの兵士が上空から降ってくる拳大の物体に気付いた瞬間、
ズゴゴゴゴ!!!
と敵軍を爆弾の雨が襲った。大地が揺れる程の音と振動が平原に広がり、目の前の敵軍は火薬の爆炎と魔石の魔力暴走による煌めきと爆発、爆風に抉られた地面による土煙の波に呑まれていった。
亜人・獣人との戦争でその威力を確認した試製一号魔導手榴弾。その派生型であり威力の増大と姿勢安定翼を取り付けた航空用兵器、制式二号小型航空爆弾である。
「被害甚大だな……」
歳三がボソリとこぼす。
手榴弾程度の大きさの爆弾では、いくら魔石によって威力が底上げされているからといっても殺傷能力はそこまで高くない。
しかし爆風によって超音速で飛散する爆弾の破片が脚に刺さればまともに戦闘を続けることはできなくなる。運悪く爆弾が頭に直撃した時には……、一輪の赤い華が花開く地獄の景色が広がることだろう。
最奥まで攻撃を仕掛けたルーデルは超低空飛行で確実に敵将を狙った爆撃をしている。
当然弓兵による反撃も受けているが、高高度からの降下により速度の乗ったルーデルを弓矢程度では撃ち落とせず、むしろ真上に撃った矢が自分たちに降り注いで阿鼻叫喚の混乱具合であった。
「この機を逃すな! 騎兵隊突撃! 歩兵もそれに続け!」
「総員俺についてこい! 『魔剣召喚』!」
「おぉぉぉぉ!!」
父自ら剣を抜き、先陣を切って騎兵突撃を行う。
戦列も乱れ、立て直すにも指揮を担う指揮官クラスの人間を失ったベゾークト軍は総崩れの様相だ。
「レオ様たちの道を拓く! 中央から一気呵成に攻め立てるぞ!」
アルガーの指揮により帝国最強の陸軍ウィルフリード歩兵隊がの私のために場を整えてくれた。
私の眼前に雑兵の姿はなく、目指すは丸裸にされた敵本陣だ。
「さあ、仕上げと行こうかッ! ──ファリア全軍、敵本陣にトドメを刺せ!!!」
「今までの戦争では包囲されたり森に紛れたりと、敵が分散していたからな。真正面から互いにぶつかり合うのは初めてじゃねェか?」
私たちはイベネン平原でベゾークト軍を待ち構えているウィルフリード軍に合流し、敵方の様子を伺っていた。
私たちの進路を阻もうという意思が透けて見えるような横に広がった数キロ先に見えるベゾークトの布陣は、馬上から眺めると圧巻のものである。
「──レオ! 敵情視察は完了した!」
「ご苦労。で、どうだった?」
「ああ。敵は歩兵4000、弓兵3000、騎兵がちょっとといったところだ。今のところ本陣を設営している様子はないが、後方から柵やらに使うであろう木材の運搬を確認した」
「しっかり領地にも兵を残して万全の構えだな」
ハオランが私の元に降り立ったと同時に、睨み合う双方の間に一騎の男が躍り出た。
「俺が行ってこよう」
「父上、お気を付けて」
完全武装した父は片手を挙げ返事の代わりにすると、馬を前に出した。
「──私はベゾークトの代表として来たラーデンである! 貴君らは何者だ! ここから先はベゾークトの領地である! 兵を下げよ!」
「私はウルツ=ウィルフリードだ! ……そして旗が見えないのか! 我々も同じ帝国民だ! 皇都に用がある故
ウィルフリード、ファリア、リーンの軍を通すことを許可願いたい!」
「断る!」
「帝国内での通行を断る権利はないはずだ! それに我々は皇女殿下の命によって動いているのだぞ! それを阻むことの意味がお分かりか!」
両者は一歩も譲らず、互いの剣が交わらない距離で舌戦を繰り広げた。
「残念ながら貴君らが皇都に行くことはできない。貴君らがクーデターを企てているとの情報があった! 帝国に忠誠を尽くす者として決してそのような行いはさせない!」
「それは違う! むしろ現状では第二皇子側に与するヴァルターらによる乗っ取りが成功しているのだ! 皇帝陛下と第一皇子は奴らによる暗殺だ!」
「そんなものは貴君らの妄想に過ぎん!」
ラーデンと名乗る兵士は断固としてその意見を曲げようとはしない。
「お前たちは騙されている!」
「話にならん! この場から立ち去らないと言うのであれば、剣で決めるしかないな!」
ラーデンはそう言い残し自陣へ戻って行った。
「どうして分かってくれない……!」
父も悔しそうな顔をして引き返す。もはや戦闘を避ける道は閉ざされた。
「……歳三。ベゾークトの領主の本心はどうなんだろうな」
「……?」
「本当に何も知らず、皇都からの知らせと私たちが反乱を起こしたという密告を信じ、国のために戦おうとしているのか。それともただ自らの利益のために私たちの行く手を阻んでいるのか……」
「そうだな……。それは分からねェってのが正解だ。実際の戦争はどっちが正義でどっちが悪かなんて誰も分かっちゃいねェ。だけど誰もが自分の信じる道のために戦う……」
歳三は昔を思い出すような遠い目をしながら言葉を続ける。
「だけどレオ、お前は迷っていい。今の優しい、ちと甘すぎるぐらいでいい。必要があればお前の甘さの分だけ俺が鬼になればいい」
「歳三……」
「さあレオ! お前の号令で始めろ!」
笑いながら、歳三は私の背中を叩いた。
私は目を閉じ一切の迷いを捨て去る。そして息を大きく吸ってこう叫ぶ。
「──目標正面、ベゾークト軍! 攻撃開始!!!」
「「ウォォォォォ!!!!!」」
私の号令で真っ先に突撃を敢行したのは、上空で待機していた我らがファリア空軍である。
ルーデルはど真ん中の敵本陣目掛け、ハオランたち竜人は敵の布陣を空から覆うように緩降下する。
「な、なんだこ──」
ベゾークトの兵士が上空から降ってくる拳大の物体に気付いた瞬間、
ズゴゴゴゴ!!!
と敵軍を爆弾の雨が襲った。大地が揺れる程の音と振動が平原に広がり、目の前の敵軍は火薬の爆炎と魔石の魔力暴走による煌めきと爆発、爆風に抉られた地面による土煙の波に呑まれていった。
亜人・獣人との戦争でその威力を確認した試製一号魔導手榴弾。その派生型であり威力の増大と姿勢安定翼を取り付けた航空用兵器、制式二号小型航空爆弾である。
「被害甚大だな……」
歳三がボソリとこぼす。
手榴弾程度の大きさの爆弾では、いくら魔石によって威力が底上げされているからといっても殺傷能力はそこまで高くない。
しかし爆風によって超音速で飛散する爆弾の破片が脚に刺さればまともに戦闘を続けることはできなくなる。運悪く爆弾が頭に直撃した時には……、一輪の赤い華が花開く地獄の景色が広がることだろう。
最奥まで攻撃を仕掛けたルーデルは超低空飛行で確実に敵将を狙った爆撃をしている。
当然弓兵による反撃も受けているが、高高度からの降下により速度の乗ったルーデルを弓矢程度では撃ち落とせず、むしろ真上に撃った矢が自分たちに降り注いで阿鼻叫喚の混乱具合であった。
「この機を逃すな! 騎兵隊突撃! 歩兵もそれに続け!」
「総員俺についてこい! 『魔剣召喚』!」
「おぉぉぉぉ!!」
父自ら剣を抜き、先陣を切って騎兵突撃を行う。
戦列も乱れ、立て直すにも指揮を担う指揮官クラスの人間を失ったベゾークト軍は総崩れの様相だ。
「レオ様たちの道を拓く! 中央から一気呵成に攻め立てるぞ!」
アルガーの指揮により帝国最強の陸軍ウィルフリード歩兵隊がの私のために場を整えてくれた。
私の眼前に雑兵の姿はなく、目指すは丸裸にされた敵本陣だ。
「さあ、仕上げと行こうかッ! ──ファリア全軍、敵本陣にトドメを刺せ!!!」
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