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第三章

170話 総軍

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「さて、それでは作戦会議を始めようか」

 昼食兼夕食を済ませた私たちは、食堂よりさらに大きな広間に案内された。そこには合わせて五十人は座れるであろうソファや椅子、部屋の半分を占める巨大な大机に帝国と大陸の地図が用意されていた。
 更にはご丁寧に飲み物や軽食も用意されている所から、この会議が長丁場になるであろうことが想像できる。前もってエルシャは寝かせて正解だった。

 五十人も集まるのかという指摘があるかもしれないが、答えは集まる。ファリア・ウィルフリード・リーンを合わせれば総勢五万近い兵力になる。
 代表を五十人に絞り作戦を立てるぐらい大変なように、緻密な作戦の元に軍を動かすというのは難しいものだ。

「まずは手短に自己紹介をすべきだろう。私はウルツ=ウィルフリードだ」

「では次に私が。レオ=ウィルフリードです。この度は私の呼び掛けに応じてくれたこと感謝します」

 こうした自己紹介が二十分ぐらい続いた。






「次に兵の数などを整理しようか」

「それではファリア軍について、私からお伝えさせて頂きます」

 説明の一切を孔明に任せ、私は黙って状況の把握に努めた。

 ファリアからは十一名が出席している。これはそのまま各部隊の隊長となる。
 例外として、私が言わずもがな総指揮、孔明が軍師。この二人は特定の部隊ではなく全体に関わる。

 部隊規模の順に整理すると、

 タリオ 弓兵 1000
 団長 騎兵 800
 歳三 歩兵 500
 シャルフ エルフ弓兵 300
 ヴォルフ 人狼・犬頭族強襲部隊 200
 アイデクス 蜥蜴人族槍兵 150
 カワカゼ 妖狐族抜刀隊 50
 ハオラン 竜人航空隊 30
 ルーデル 特別戦略爆撃部隊 1

 となる。
 これとは別に補給部隊200を連れた、総勢3000強がファリア軍だ。外部からの徴兵部隊が多いため、ファリアの人口から考えたらかなり多い兵を用意できた。

 兵力を見れば分かるが、歩兵を大幅に減らして費用はかかるがより戦術的価値の高い騎兵を増やした。
 その分の厚みが減った歩兵は亜人・獣人にカバーしてもらう。亜人・獣人の力について、獣人の兵士一人が人間の兵士一人と同じ強さなどではないことは先の戦いで身に叩き込まれている。数字以上に私たちの歩兵部隊は強いはずだ。優先度の落ちた人間の歩兵は後方の補給部隊や本陣、私の周りの護衛にも回す。

 妖狐族については実質的に歳三の指揮下にある。
 逆に竜人とルーデルは同じ空軍として統合したかったが、ハオランたち竜人はルーデルの指揮下には入らないだろうし、ルーデルも私の命令すら聞くか怪しいので否応なしに特別に分けた。

「ファリアは賑やかで良さそうだな。……次に私からウィルフリード軍について話そう」

 ウィルフリードは兵種こそ歩兵・弓兵・騎兵だけだが、体系化された組織とも言える。指揮系統も洗練されていて、流石父が育てた軍隊であると改めて実感する。

 歩兵 5000+人虎族100
 弓兵 4000
 騎兵 1000

 これに500の補給部隊を加えた、約一万もの兵士を父とアルガーが中心になってまとめる。そして桁違いに多い兵士を運用するために100人近い参謀が作戦立案や各部隊の指揮、物資の配給などを担う。

 人虎族も盟約に則り参加してくれるようだ。もちろんその指揮を執るのは族長であるリカード。
 ウィルフリードにいる人狼族などは、族長がファリアに属する関係から全てファリア軍に編入しているため、亜人・獣人の参加はウィルフリードでは人虎族のみに留まる。

 そして軍事力の高いウィルフリードでは魔導師の利用も盛んだ。
 歩兵には強力な攻撃ができる魔剣士、弓兵には遠距離攻撃ができる魔導師部隊、後方部隊には多数の治癒魔法使いを配置。これができるのは母の政策である冒険者ギルドへの支援による協約、そもそも軍事費が多く割けるウィルフリードの財政規模によるものだ。

 ファリアは貴重な魔導師を失わないよう、後方支援部隊にのみ配置し、後はファリアに残り研究を続けるようにしている。
 そしてそこで開発した魔導手榴弾や高性能航空魔導爆弾のようなもので、魔法の爆発的な脅威を再現しているのだ。

「それじゃ、最後に私からリーン軍についてね」

 ファリアとウィルフリードの軍備を確認した後だと、リーンの軍構成は旧態依然としたものに感じた。

 歩兵 1500
 弓兵 2000
 騎兵 300

 これに補給部隊200を加えた総勢5000がリーン軍である。
 歩兵や騎兵が少なく弓兵が多いのは、自軍の損害を減らす狙いがあるようだ。

 確かに地理的に帝国の中心寄りにあるリーンは、他国と単独で戦うというのは可能性としては低い。
 よってあくまでも援護役に徹することで効率よく戦果を挙げようという、見かけによらずザスクリアの巧妙な策が見え隠れしていた。だが領民を守るべき領主としてはこれが正解なのだろう。

「兵科から考えても、私たちが前線を張るのがよろしいかと」

「兵数を考えればそれは危険だ。やはりウィルフリードが前衛に、中衛にファリア、後衛にリーンでちょうどいいだろう」

「いえ、ファリアが積極的に戦果を挙げることで皇位奪還の名分を手にすることができるのです」

「それなら、皇女様はリーンで預かるわ。それならファリア、ウィルフリードが突出しても安心でしょ?」

 孔明に全て任せきりでなく、私も何か話さなければ諸将に顔が立たない。

「父上、やはり前線は私たちにお任せを。単純に兵をぶつけ合っては勝利したとしても帝国の疲弊は避けられません。私たちの新兵器などを用いた新しい時代の戦いをお見せしたく思います」

「うむ……。それなら敵の正面はウィルフリードで抑える。その間ファリアが自由に動けるようリーンが援護という形ではどうか」

「それなら私も賛成です。……孔明、どうだ」

「そうですね、良き作戦かと。私も幾つか計略を用意しています。後は他の方面を抑える貴族たちの動き次第かと」

 これは私たちだけの戦いではない。同時にあらゆる所からも攻撃が行われており、実際は孔明の言うように他の方面から攻め上がる貴族たちとの合同包囲作戦のようなものだ。
 当然そのような大規模な作戦ともなれば緻密な計画が必要となる。

 エアネストなど他地域との連絡も行いつつ、会議は深夜まで続いた。
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