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第三章

167話 進軍開始

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「レオ様、こちら装備になります」

 準備が完了した会場に向かい、今は裏で最終確認を行っている。

「ありがとうタリオ。……お前も新しい装備、よく似合っているぞ」

「ありがとうございます。準貴族として、此度の戦いでは全力を尽くす所存です」

「はは、まぁそう肩肘張らずに、いつも通りやればいいさ」

 準貴族の爵位を授けてから、タリオは本当に良く頑張っていた。私の雑用から離れ、時にはウィルフリードまで赴き父アルガーから特別稽古をつけてもらう程の力の入れ具合である。
 確か私より二歳年上だったはずで、その身体もタリオは私より一回り大きい。

 確か歳三が五尺五寸とかだったはずだ。それで当時としてはかなりの高身長な167cm。
 私は歳三より少し小さいので160いくつ。
 孔明は八尺だとかと残っていたらしいが、当時は時代によって同じ単位でも実際の長さがバラバラで184だか、流石にそこまではなかそうだが192だかと、正確には分からない。高身長なのは変わりないが、今も帽子を被っているので身長差自体気にならなかった。
 そう考えるとタリオは歳三より高く孔明より低いので175とかそれぐらいだろうか。

 つまり何が言いたいかと言うと、この国には明確な長さ基準がないのである。正確に言えば存在はするがろくに使われていない。
 重さは金銀などの取り引きでどの地域でもある程度一定の範囲で決められているが、建築などに使われる長さについては地域差が大きい。本来は皇都で用いられた縮尺があるらしいが、これも中央の支配力の低下のせいか地方ではその基準は廃れてしまっているのだ。

 更には最近では帝国金貨も質の悪いものが出回り始め、帝国の経済が揺るぎ始めている。
 帝国全土を包むこの不穏な空気は間違いなく起こる、と言うかこれから起こす動乱の前触れに過ぎない。

「──レオ様、こちらへどうぞ」

「ああ」

 などと考えている内に最終確認は終わったようだ。

 国全体でこうしたらいいのにという考えばかりが先行している私は、少々浮かれすぎているのだろう。これから軍事的にも政治的にも厳しい戦いが待ち受けているに違いない。
 そしてそれは同時にエルシャに無理をさせることでもある。

「エル、大丈夫か?」

「……大丈夫よ」

「では、行こうか」

「上手くいかなかったらごめんね、レオ」

 ここまで萎れているエルシャを見たのは初めてだった。彼女の辛そうな顔を見る度、私の胸も痛む。

「こんな時に本当に申し訳なく思う。でもこれは君にしかできないことだ。……一緒に行こう」

 私はエルシャの手を取り、壇上へ上がった。





 私とエルシャの姿が露わになると、急遽集まってもらったにも関わらず、大勢の民衆は歓声をあげた。
 私がこうして公式の場に出るのも久しぶりのことで、この感覚も新鮮に感じた。

「レオ様ー!」
「こういうのにエルシャ様がいらっしゃるのも初めてじゃないか?」
「でもこんな突然一体なんなんだ……?」

 歓声が収まると、次第に民たちの複雑な思いを零した言葉が聞こえてきた。

「諸君! お集まり頂き感謝する。……本題に入る前に、まずは皆の中でも初めて見るという者もいるかもしれない、エルシャを紹介する!」

 私が横に立つエルシャの背中を軽く押し一歩前に誘導した。
 彼女は私に軽く頷いてから、お腹に手を当て精一杯の声で初めての演説に、臨んだ。

「──皆さん、こんにちは! 私はプロメリア帝国第一皇女、エルシャ=フォン=プロメリトスと申します! 少し前からこのファリアでお世話になっております。挨拶が遅れてごめんなさい。……これからよろしくお願いします!」

「エルシャ様ー!」
「エルシャ様バンザイ!」

 プロ意識と言うべきか、いざ人前に出るとさっきまでの落ち込みを一切感じさせない、元気でいい挨拶だった。
 パフォーマンスかやりきった安堵感からか、彼女は私の方を向いて一度微笑み、元の位置に下がった。

「──それでは諸君! 次に私から本題をお伝えする!」

 私がそう叫ぶと、歓声が一気に止み、群衆は静寂に包まれた。

「もしかしたら皆の中にも既に知っている者がいるかもしれない。だが、この機に私の口から正式に発表する。……非常に残念ながら先日、カイゼル=フォン=プロメリトス皇帝陛下が崩御された」

「そ、そんな馬鹿な……」
「皇帝陛下はまだそんなお年じゃなかったはずだろ……?」
「こ、これ、この隙に王国が攻め入って来るんじゃねぇのか!?」
「おい、そうなったらファリアもやばいぞ!」

 予想通り、民たちは動揺を隠せないようだ。

「落ち着いて聞いて欲しい! ……まず、王国は大丈夫だ。対魔王同盟が破られることはない。次に何故皇帝陛下がお隠れになったことを皆に今まで伝えられなかったかだが……、それは皇位継承問題があったからだ」

「ど、どういうことなんだ……」
「俺みたいな馬鹿が知っているわけないだろ!」

 ますます混乱は広がっていく。
 ここで私が彼らに“真実”を告げれば、全て信じるだろう。

「通常であれば次期皇帝は第一皇子グーター様である。……しかし、グーター様は皇位を狙う第二皇子ボーゼンによって殺された!」

「な、何を言っているだレオ様は……」
「いくらなんでもありえないわ!」

「皆の困惑もよく分かる! 私も親愛なる陛下を失った悲しみに暮れていた時、帝国の希望である第二皇子までも喪ったのだ! ……自らの地位のためこのような残虐非道な蛮行に及んだ第二皇子とその一派は決して許すことはできない!」

「そうだそうだ!」
「いいぞレオ様!」

「──よって我々はこれより第二皇子討伐の軍を向ける! 帝国に叛いた叛逆者に天誅を下すのだ!」

 私のこの台詞を合言葉に、広場に新設した重騎兵隊が入場して来る。
 彼らの姿はもはや騎士団と呼んで差し支えないほど立派なものだった。

「私は前帝国近衛騎士団団長、ヘルムート=ヤーヴィス! 亡き皇帝陛下より賜った数々の恩に報いるため、必ずや彼の者を討ち滅ぼしてくれよう!」

「皆さんの不安も分かります! ですが帝国のため、私たちにご理解とご協力お願いします! それがきっと亡き父と兄の願いでしょう!」

 団長とエルシャの言葉は、この場にいる民たちから見れば中央からのお達しと何ら変わらないほどの権威に思えただろう。

「第二皇子を許すな!」
「エルシャ様は二人もご家族を失ってなんと気丈な!」
「レオ様! どうか帝国をお救いください!」

 場は整った。

「諸君! 決して奴らに騙されるな! 正義は我らにあり! ──全軍出撃!!!」
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