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第二章

154話 通達

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 それから私たちは再び激務に追われた。

 まずデアーグ公爵が諸侯へ連絡をしたことで、私の元に無数の貴族たちから連絡がきた。この世界で初めて(?)の祝電である。
 通信手越しの会話ではその真意を推し量ることは難しいが、少なくとも目立った非難の声というのは上がっていないようだった。

 そして半月後には皇帝の名をもって先の戦争の結果と皇女の婚約が宣言された公布が届いた。

 恐らくヴァルターの介入があったのだろう、内容は皇帝と私が直接話した時から一部改変され、私の活躍ではなく帝国軍主力の活躍により帝国が勝利したということになっていた。

 私の活躍は別にどうでもいい話なのだが、“勝利”という言葉にこだわるのは今後の亜人・獣人たちとの関係に響くので少々痛手である。
 しかしそこで結ばれた条約の内容まで改変することは叶わず、私たちの望み通り自由な交流が可能となった。





 この公布により私の元を訪ねる人々が格段に増えた。

 まず、通信機を持たない、私たちの派閥内ではない貴族の挨拶である。
 近隣領地の貴族たちは自らファリアまで来て取り入ろうと近づいてきた。遠くの領地からは使者が送られ、祝辞の言葉を伝えられた。

 正直に言ってこの忙しい時に挨拶など面倒でしかないが、私が直接応対しなければそれはそれで問題になるので仕方なく仕事を放棄してそちらを優先した。
 パーティーや贈答品など大袈裟なことをしようとしてきた貴族もいたが、それは結婚時にと何とか断り事なきを得た。今ここで変に繋がりを持つのはよろしくない。
 だが折角の機会であるというのも事実なので、アルドらウィルフリード諜報部らに協力を依頼し、有用そうな貴族を調べ派閥に引き込めそうなら引き込むことに尽力した。



 もうひとつは亜人・獣人たちである。
 正式に亜人・獣人との関係が保証されたことで今まで二の足を踏んでいた人々も移住を望み始めたのである。

 他の領地にも彼らは詰めかけているようで、ますます交流は深まるだろう。そして帝国側から亜人・獣人たちの国々へ移り住む人も出てくれば、私の思い描いた世界にまた一歩近づく。

 しかし今ファリアに来られても住居が全く足りていない。
 だが人手はいくらあっても助かるのでとりあえず住居の要らない蜥蜴人リザードマン族や森に住む人狼族などを優先して引き入れた。

 ヴァルターの仕業で帝国の勝利などという文言になっていた公布だが、今のところその点に関して文句をつけてくるなどの大きなトラブルは起きていないのが唯一の救いか。
 そのままだったら騒いでいたであろう人虎族は私自らリカードを倒したし、竜人族もハオランが私の元にいる以上、この強大な二種族を差し置いて異論を唱える種族はいないようだった。





 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




 そして皇帝との謁見から約一月後、皇都から皇帝の命を受けた使者がやって来た。要件は察しがつく。

 私は念の為、歳三を横に控えさせた上で使者を応接室に入れた。

「レオ=ウィルフリード様。陛下からの書状を読み上げさせて頂きます」

「ああ」

「『婚約について。既にレオ=ウィルフリードとエルシャ=フォン=プロメリトスとの婚約の儀について、帝国中に公告が完了した。従って、きたる帝国歴二四三年八月一日、皇女エルシャ=フォン=プロメリトスをファリアまで護送する。その後結婚の祝儀までの一切をレオ=ウィルフリードに一任する』……以上です」

「……ほ、他に何か指示はないのか?」

「はい。レオ様におかれましては、皇女殿下を迎え入れるご用意の程よろしくお願いします」

「な……」

 私は脱力感から、椅子の背もたれに体を完全に預けた。

 分かったのは十日後に皇女がここに来るというだけだ。
 こういうのはもっと厳重に一つ一つの段取りが決められて行われるべきはずのことだろう。なのに私に全て一任とは一体……。

「……ご苦労だった。下がって構わない」

「はい。失礼します」

 使者は役目を終えると、皇帝からの書状を元通りに丸めて机の上に置き、さっさと帰って行ってしまった。

「……まァなんだ、無理難題を押し付けられて難癖付けられるより良かったじゃねェか。それにきっと皇女と一緒にやってくる付き人どもが何か指示してくると思うぜ」

 結婚の時まで皇女が来ないでくれたら、一年の間にそれなりの屋敷を建てられる予定だった。
 しかしそれも間に合うはずもなくなり、十日後などと言われてはせいぜいちょっとした料理の用意ぐらいしかできない。

 結局私たちは中央の都合で右往左往するしかない地方領主なのだ。

「と、とりあえず孔明にこのことを伝えよう……」

「嫁さんが来るからってそんなに気張らず、気楽に行けよ」

「そういう事じゃないんだよ……」

 歳三は分かっているくせにいたずらっぽくそう言う。

 私はすぐに孔明のいる書斎へ向かった。




「──という訳だ。どうにかしてくれ孔明」

「ふむ。仕方ありませんね。ここは私たちがここを出ていく他ありません」

「……私がウィルフリードに戻ってとりあえず新しい屋敷が完成するまで誤魔化す作戦か。まあそれしかない。母上に相談してみよう」

「いえ、そうではありません。私やハオランたちが別の場所に移り住み、そこを仕事場にするのです。いずれ政務の場は別に設けるつもりでしたから」

 確かに貴族の住む屋敷に家臣を住まわせ、しかもそこを仕事場にしてるのは詰め込み過ぎではあった。
 しかし私は気にしていなかったし利便性の観点からむしろこれぐらいがちょうど良かったのだが、そんなことも言っていられない。

「場所はあるか?」

「はい。軍の再編成の際、兵舎に空いた部屋ができました。兵舎には作戦会議室などもありますし、間に合わせにはうってつけでしょう」

「そうか。ではすまないが早急に引越しを始めよう」

「それと同時に、現在新屋敷建設に当たっているドワーフや大工たちにそちらの作業を中断して、この今の屋敷の改修をお願いしましょう」

「分かった。ではそのように指示しておこう。……それじゃあ今すぐ始めようか」
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