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第二章
137話 空戦
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「では人間、そなたの好きなタイミングで始めるがよい」
「手加減無用でお願いするぞ。……来い、『Drachen Stuka』!」
ルーデルがスキルを発動させ半竜形態になったその瞬間、ハオランは鋭い突きを繰り出した。
羽を持つ鳥が最も無防備なのは、細くか弱い足を大地につけている時だ。
しかしルーデルは鍛え抜かれた軍人。さらに500km/hも出して翼しか折れないのであれば『Drachen Stuka』によってルーデルの身体能力諸々も底上げされているはずだ。
ハオランの奇襲をひらりと身を翻しながら鼻先で躱し、そのままの勢いで上空へと飛び上がった。
上昇し続けるルーデルを追いハオランも天へと駆け上がる。
しかしその差は縮まるどころかどんどんルーデルが引き離していった。
「──やるな人間! だが逃げてばかりでは勝利は掴めんぞ!」
追いつくことが不可能だと判断したハオランはすぐさま低空域でルーデルを待ち構える作戦に移った。
それを見たルーデルは十分な高度を稼いだ後、急降下で一直線にハオランに突撃する。
火花を散らしながらガキン! とハオランの槍とルーデルの鉤爪がぶつかり合う音が耳をつんざいた。
ハオランはその衝撃で更に低空へと押し込まれ、対するルーデルは急降下で稼いだ速度を残したまま再び上空へと舞い戻った。
「一撃離脱戦法はこの世界でも有用なのだな……」
一撃離脱。ヒットエンドランとも呼ばれるこの戦い方は、敵機に対し高度優位を保ち死角となりやすい上空から奇襲、反撃を受ける前にそのまま離脱。これを繰り返す事で安定した戦果を挙げた基本戦術だ。
第二次世界大戦では機動力や練度の高い日本の零戦に苦しめられたアメリカがこの戦法を採用した。
だが一撃離脱戦法を開戦当時から主な戦闘方法として採用していたのはドイツだけだ。
つまりはこの戦い方を初めて見たハオランと、ドイツ空軍のパイロットとして長年戦ってきたルーデルではその力量に遥かな隔たりがあった。
「ッ──! ──ッグアァ! ──ウァァ!」
幾重にも攻撃を繰り返すルーデルに防戦一方なハオランは次第に飛ぶのも辛そうになってきていた。
一応ハオランも反撃を試みてはいるが、そもそも長い槍は地上へ攻撃するには有用であっても至近距離で行われる空戦ではかえって不利になる。
「族長が押されているなどいつぶりに見るだろうか……」
山奥に住む竜人の代表として戦いを見届けに来たルーシャンがそう言葉を漏らす。
「これで終わりだ──」
太陽を背に滞空し体勢を整えたルーデルは錐揉み回転しながら降下してきた。
これは失速した航空機が墜落時見せるスピンではない。翼面積が異常に大きく機動性に優れた『Drachen Stuka』と常人離れした肉体と技術を持つルーデルが編み出した立派な攻撃技へと昇華させられている。
ルーデルの攻撃は高度が下がれば下がるほどに早くなり、全身を何回転も切り刻まれながらハオランは為す術なく地面に叩きつけられた。
一方で完全に機体制御をものにしたルーデルは、今度は地面に墜ちることなく着地した。
「これまでだな」
私がそう呟くとルーシャンや他の竜人らがハオランに駆け寄った。
「族長!」
彼らがそう呼び掛けるとハオランは最後まで離さなかった槍を預け、よろめきながら立ち上がった。
「見事だ人間……。我に油断などなかった。全力を持ってしても手も足も出なかったのだ……。完敗と言う他あるまい」
ルーデルも『Drachen Stuka』を解除しハオランに向かった。
「こちらこそいい模擬戦ができた」
「名を聞こう人間。我はハオラン=リューシェン。そなたは?」
「俺はハンス=ウルリッヒ・ルーデル。ルーデルでいい」
「それでは我もハオランと呼べ、強き者よ。ルーデル、そなたの武勇、しかと我が一族に伝えよう」
熱い戦いの後、こうして二人は握手を交わしたのだった。
「素晴らしき戦いでした。先の戦争では空からの攻撃や偵察に苦しめられました。今度はそれを防ぐために空でこうした戦いが起こる……。この諸葛孔明、初心に帰って一から戦を学ぶ必要がありそうですね」
「しかし俺も飛び技は『裂空斬』ぐらいしかねェからどうしたらいいか考えねェとなァ……」
私などはただルーデルの戦いぶりを感心しながら見ていただけだったが、武人として格が違う二人の英雄は何か得るものがあったようだ。
「それはそうとルーデル、なんでそんな変な立ち方をしてるんだ?」
「着陸した時に左足の骨が砕けた。多分右も折れていて力があまり入らない」
よく見ると本当に左足はなんだかプラプラしてて、ぷるぷる震えながら右足だけで踏ん張って立っているようだった。
「…………」
「そんな顔をするな。着陸は難しいんだ。どんなパイロットも初めは失敗するもんだ。まさか200km/h程度で着陸してこんな事になるなんて思わないじゃないか」
「──はいはい帰って治療しましょうね」
どうせ治しても明日にはまたどこか折って帰って来るだろうが。
そんなこんなでこの世界初めての本格的な空戦は人間の勝利で幕を閉じたのだった。
「手加減無用でお願いするぞ。……来い、『Drachen Stuka』!」
ルーデルがスキルを発動させ半竜形態になったその瞬間、ハオランは鋭い突きを繰り出した。
羽を持つ鳥が最も無防備なのは、細くか弱い足を大地につけている時だ。
しかしルーデルは鍛え抜かれた軍人。さらに500km/hも出して翼しか折れないのであれば『Drachen Stuka』によってルーデルの身体能力諸々も底上げされているはずだ。
ハオランの奇襲をひらりと身を翻しながら鼻先で躱し、そのままの勢いで上空へと飛び上がった。
上昇し続けるルーデルを追いハオランも天へと駆け上がる。
しかしその差は縮まるどころかどんどんルーデルが引き離していった。
「──やるな人間! だが逃げてばかりでは勝利は掴めんぞ!」
追いつくことが不可能だと判断したハオランはすぐさま低空域でルーデルを待ち構える作戦に移った。
それを見たルーデルは十分な高度を稼いだ後、急降下で一直線にハオランに突撃する。
火花を散らしながらガキン! とハオランの槍とルーデルの鉤爪がぶつかり合う音が耳をつんざいた。
ハオランはその衝撃で更に低空へと押し込まれ、対するルーデルは急降下で稼いだ速度を残したまま再び上空へと舞い戻った。
「一撃離脱戦法はこの世界でも有用なのだな……」
一撃離脱。ヒットエンドランとも呼ばれるこの戦い方は、敵機に対し高度優位を保ち死角となりやすい上空から奇襲、反撃を受ける前にそのまま離脱。これを繰り返す事で安定した戦果を挙げた基本戦術だ。
第二次世界大戦では機動力や練度の高い日本の零戦に苦しめられたアメリカがこの戦法を採用した。
だが一撃離脱戦法を開戦当時から主な戦闘方法として採用していたのはドイツだけだ。
つまりはこの戦い方を初めて見たハオランと、ドイツ空軍のパイロットとして長年戦ってきたルーデルではその力量に遥かな隔たりがあった。
「ッ──! ──ッグアァ! ──ウァァ!」
幾重にも攻撃を繰り返すルーデルに防戦一方なハオランは次第に飛ぶのも辛そうになってきていた。
一応ハオランも反撃を試みてはいるが、そもそも長い槍は地上へ攻撃するには有用であっても至近距離で行われる空戦ではかえって不利になる。
「族長が押されているなどいつぶりに見るだろうか……」
山奥に住む竜人の代表として戦いを見届けに来たルーシャンがそう言葉を漏らす。
「これで終わりだ──」
太陽を背に滞空し体勢を整えたルーデルは錐揉み回転しながら降下してきた。
これは失速した航空機が墜落時見せるスピンではない。翼面積が異常に大きく機動性に優れた『Drachen Stuka』と常人離れした肉体と技術を持つルーデルが編み出した立派な攻撃技へと昇華させられている。
ルーデルの攻撃は高度が下がれば下がるほどに早くなり、全身を何回転も切り刻まれながらハオランは為す術なく地面に叩きつけられた。
一方で完全に機体制御をものにしたルーデルは、今度は地面に墜ちることなく着地した。
「これまでだな」
私がそう呟くとルーシャンや他の竜人らがハオランに駆け寄った。
「族長!」
彼らがそう呼び掛けるとハオランは最後まで離さなかった槍を預け、よろめきながら立ち上がった。
「見事だ人間……。我に油断などなかった。全力を持ってしても手も足も出なかったのだ……。完敗と言う他あるまい」
ルーデルも『Drachen Stuka』を解除しハオランに向かった。
「こちらこそいい模擬戦ができた」
「名を聞こう人間。我はハオラン=リューシェン。そなたは?」
「俺はハンス=ウルリッヒ・ルーデル。ルーデルでいい」
「それでは我もハオランと呼べ、強き者よ。ルーデル、そなたの武勇、しかと我が一族に伝えよう」
熱い戦いの後、こうして二人は握手を交わしたのだった。
「素晴らしき戦いでした。先の戦争では空からの攻撃や偵察に苦しめられました。今度はそれを防ぐために空でこうした戦いが起こる……。この諸葛孔明、初心に帰って一から戦を学ぶ必要がありそうですね」
「しかし俺も飛び技は『裂空斬』ぐらいしかねェからどうしたらいいか考えねェとなァ……」
私などはただルーデルの戦いぶりを感心しながら見ていただけだったが、武人として格が違う二人の英雄は何か得るものがあったようだ。
「それはそうとルーデル、なんでそんな変な立ち方をしてるんだ?」
「着陸した時に左足の骨が砕けた。多分右も折れていて力があまり入らない」
よく見ると本当に左足はなんだかプラプラしてて、ぷるぷる震えながら右足だけで踏ん張って立っているようだった。
「…………」
「そんな顔をするな。着陸は難しいんだ。どんなパイロットも初めは失敗するもんだ。まさか200km/h程度で着陸してこんな事になるなんて思わないじゃないか」
「──はいはい帰って治療しましょうね」
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