英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル

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第一章

84話 始動

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「……んん」

 どうやらいつの間にか寝てしまっていたようだ。
 孔明は窓辺に椅子を移動し、資料をじっと眺めている。歳三は物音に素早く反応し片目を開いたが、それが私だと分かるとまた目を閉じた。

「おはようございますレオ」

「おはよう孔明」

 私はくしゃくしゃになった髪を軽く整え、目前で散乱する資料を綺麗に重ねた。

「今日は全体に指示を出すのが先決だな。昼からは元々この街で政治に携わっていた責任者とやらが来ることになっている。ウィルフリードから文官もついてきているが、基本はファリアに元からある政治機構を利用しよう。孔明、その辺は上手く頼んだぞ」

「了解しました」

「歳三、お前は一度軍の編成を見直してくれ。捕虜の扱いも、恭順な態度を示すものは解放し組み込んでも構わない。屋敷を中心に街の警備計画も立てるんだ」

「あいよ」

 歳三も重そうに腰を上げる。

「私は人材確保へ考えておく。ギルド長レベルの領民が挨拶に来たら正式な登用についても話しておいてくれ」

 というか、屋敷に残っていたのは料理人と、掃除要員の下男一人だけだ。
 模様替えや大量の荷物の移動もあるし、メイドや手伝いの人間を雇わなければ屋敷の維持も難しい。

 前までいた使用人たちはバルン=ファリアとの繋がりが疑われるので追放されたのだ。
 まぁ、もっともな理屈ではある。

 それまで孔明には、この狭い部屋での仕事に我慢してもらおう。

「それじゃあ頼んだぞ」

「はい」




 私はたった一人の下男と協力して、荷物入れと部屋の模様替えを敢行した。
 これは後でタリオにも来てもらうべきだった。

 まずは美術館気取りの展覧室からだ。

「これってそんなに貴重なものなのか?……生憎、私はこういう高価な芸術品とやらには疎くてな」

 芸術品は美術館で見るどころか、教科書の写真で見る程度の人間だった私は、この世界でも当然興味は湧かなかった。
 それより不思議な魔法やらの方がそそられるというものだ。

「はい。旦那様は……あっ、バルンさ──、バルンはこのような珍品を買い集めるのが趣味でした。特にアキードからの商人は良い物を取り扱っているそうです」

「ふぅん」

「ちゃんと贋作は見分けてその商人を出禁になさっていたので、恐らくここにあるのはどれも本物です」

「それなら安心して売れるな」

 作品に何の興味も示さない私に下男は目をぱちくりさせて驚いていた。

「これで全部じゃないんだろ?他はどこにある?」

「ここに展示しきれないものは地下の鍵付き倉庫にあります。……隠し財産も確かそこに」

「へそくりまであるのか」

 確かにバルンなら裏金のひとつやふたつ持っていそうである。

「とりあえずここの美術品は、売るまでの間、全部鍵付き倉庫に移動させよう」

「あ、えっと……、それは僕が触っても大丈夫なのでしょうか……?」

「ん?ああ。傷つけて価値が落ちないようにだけ気をつけてくれ。大きいものは落とさないように一緒に運ぼう」

「は、はい!お手を煩わせて申し訳ございません!」

 良かれと思って私はこのように接してしまうが、かえって相手に気を使わせてしまう事も多々ある。
 貴族は貴族で面倒臭い生き物だ。

 結局、小さなものから運んでいるうちに警備の兵が数名やって来て、彼らに手伝って貰うことになった。
 ウィルフリードからついてきた兵士は、このようなことも比較的安心して任せられる。




「レオ様、この街の代表と申す者がお会いしたいとやって来ました」

「おっ、もう昼過ぎか。彼らは孔明への客だ通してやれ」

「は!」

 警備兵が小間使いのような仕事までこなしている。
 人手不足は深刻だ。

「さて、我々は昼食を取ったらまた片付けだ」

「了解しました」

 前までの組織なら街の代表団とも私が挨拶するべきだろう。しかし、政治は政治のプロ孔明に、軍事は軍事のプロ歳三に任せる。
 その方が効率的に回るだろう。

 バルンが全てを自らの手で行ったが故の暴走なら、私の権力は柔軟に動ける程度に止め、才のある者に分担するのも策だ。

 彼ら英雄を召喚した時に思い浮かべた景色が、今目の前にある。

 ……いや、本当は重すぎる荷をいくらか分けたいだけなのかもしれないが。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




 屋敷のランプに火を灯しつつ、薄暮の中で外の荷物を運び入れ続け、ようやく終わりを迎えた。

「───っと。……ふぅ。よし、これで全部だな!ご苦労だった!」

「はい!それでは僕は失礼させていただきます」

「我々も警備に戻ります!」

 こっちの新たな私の部屋が、多少はウィルフリードの私の部屋を再現出来てよかった。他人のベッドで寝るのは些か抵抗があるし、慣れない環境では安眠も望めない。

 そろそろ夕飯にしようかと思っていた時、やっと孔明らが部屋から出てきた。

「お疲れ様」

「ええ、流石に長時間箱詰めは少々堪えましたね」

「本格的に動き出すのは明日からになりそうだな。今日の夜にでも母に手紙を書こうと思う」

「手紙、ですか?」

「ああ。こちらには人材が圧倒的に足りない。そこで母の『慧眼』で見繕った良い人材をこちらに送ってもらおうと思う。食糧備蓄は余裕がありそうだから、少しウィルフリードに送ろう。助け合いだ」

 そこにシズネの名前も書こうと思っているのは内緒だ。

「成程、それは妙案ですね」

「それじゃあそのように調整しておいてくれ」

「了解しました」

 少しずつ動き出した歯車に、私は確かな手応えを感じていた。
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