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第一章

70話 騎士として

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 巨大な居館をひたすら父と歩き、やっと思いで正面の出入口までたどり着けた。

「おうレオ! 遅かったじゃねェか!」

「ふふ……、待ちくたびれましたよ。ですが、おかげで良策も浮かんだというものです」

「ああ、待たせたな」

 私たちがここまで乗ってきたヴァルターの馬車には、父が貰った褒美の品が載せられていた。
 当のヴァルターは見当たらない。したり顔で挨拶でもしてやろうと思っていたので少し残念だ。

「お前たちも今日は迎賓館に泊まった方が都合がいいな。先にレオと戻っていてくれ。俺はアルガーと合流し皇都の兵士の様子でも見てくるとしよう」

 父のその言葉が聞こえたのか、近くにいた警備の兵は「おぉ……!」と声を漏らした。

 父もどこか楽しそうな顔をしている。きっとそこには何人もの戦友たちがいるのだろう。
 団長だけでなく近衛騎士の人たちにも直接、援軍のお礼をしに行こうとも考えていたが、それは父が稽古を付けるという形に替えていいかもしれない。

「そんじゃァ、この箱を迎賓館とやらに運んだら、レオの刀を探しに行こうか」

「そうだな! それが楽しみだったんだ!」

「私も魔導具とやらには興味があります。是非ご一緒させてください」

「もちろんだ孔明」

「では夜までには館に戻るように。……アルガーがうるさいからな!」

 ハハハと父は笑う。夜盗など歳三が居れば怖くもなんともないが、アルガーは怖い。

 私たちは手を振りそれぞれに別れた。




 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




 往路ではヴァルターのささやかな嫌がらせにより無駄に遠回りさせられたが、帰りは団長の指示があったのか正面の門を通れるようになった。
 御者の兵士も今度は生き生きと城の解説をしてくれる。

「この門には宮廷魔導師の反魔法呪印が刻まれているので、どんな大魔法も防げるのですよ!」
「あの壁の傷は先帝陛下が酔っ払った時に剣を振り回した時のものだと言われてます! 当時の警備兵は手を焼いたことでしょうね!」

 歳三は「へェ!」「ソイツは……!」と相槌を打ってやる。一方で孔明は目をつぶり、少し標高の高い皇城を吹き抜ける風を頬に感じているようだった。

「先程はお見せできませんでしたが、───これが皇都自慢の庭園です! 綺麗でしょう!」

 彼の言う通り、堅牢な石造りの城の中に突如現れた、一面の草木生い茂る庭は圧巻の光景であった。
 遠くで眺めていた時と違い実際にその真ん中を通ると、ほのかに香る花の匂いに包まれ幸せな気分になれる。



「いよいよ最後の門が見えてきましたよ!」

 庭園を通り抜けると、完全に開かれた正門が見えてきた。外には物珍しそうに中を伺っている民衆が人だかりを作っていた。
 門番はその数を増やし、誰一人として通すことはなかった。

「お疲れ様でしたレオ殿。いや、ファリア領主様とお呼びすれば良いかな?」

「団長!」

 何人もの門番に紛れてヘルムート団長の姿があった。

「陛下からの褒美の品があると伺っています。迎賓館での警備は近衛騎士団にお任せ下さい」

「それって大丈夫なんですか?」

 近衛騎士とはすなわち皇帝を守るための兵士だ。見張り番などではない。

「さすがに私自身が行くことは出来ませんが……、皇都での警備は近衛騎士の管轄なので多少は幅を効かせれますよ」

 団長はいたずらっぽく笑った。
 こうやって色々な人との絆を深め、貴族とのパイプを持つことも、近衛騎士団のトップに彼が登りつめた一つの要因なのではないかと思った。

「……では、お言葉に甘えさせていただきます!」

「承りました。……よし、お運びしろ! くれぐれも丁寧にな! 落としてはならんぞ!」

「はッ!」

 団長の号令で、警備兵の内から数人の近衛騎士が出てきて、私たちの馬車から別の荷馬車へ箱を移した。丁重にクッションの上に紐で括りつけられ、荷馬車は迎賓館の方へ走り出した。

「君、この方たちは皇都は不慣れでね。良ければ案内して差し上げてくれないか?」

「もちろんです! その手のことはお任せあれ!」

 多分だが、この御者の兵士は観光案内の方が向いているだろうと思った。

「ウィルフリードに戻り、そしてファリア領主に着任すればとても忙しくなるでしょう。それまでの間、どうかゆっくり皇都をお楽しみください。……それじゃあ、また会う日まで!」

 地方領主と中央の軍部トップ。本来であれば、それこそ戦争でもなければこうして顔を合わせることもないだろう。

「最後の最後まで近衛騎士団の方にはお世話になります……。団長もお元気で!」

 私たちは最後に敬礼を交わし、別れを惜しんだ。

 団長ならまた彼が元気な内に会えると私はどこかで確信していた。
 俗に森精種だとか長命種だとか言われるエルフの血を継ぐ団長なら、きっとまだまだ活躍してくれるだろう。

 もちろん、今度会う時は戦場などではなく、皇都での祭典やら平和な行事であって欲しいと願うばかりだ。
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