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第一章
58話 美酒
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「どこから行こうか!」
「おいレオ、まずは腹ごしらえが先じゃねェか?」
「そうしましょう!」
「よし! とりあえず入ってみよう!」
道は人で溢れ返っている。これだけの人がいれば異装の歳三や孔明も紛れて怪しむ人もいない。
ウィルフリードでこそ威厳を放つ私のこの服も、こちらではショーウィンドウの向こうに並べられるものと大差ないようだ。
「いらっしゃいませ! お席にご案内致します!」
料理屋が賑わうのはどこでも同じようで、この店も冒険者たちで溢れていた。
「ガハハハハ! そいつはいいや!」
「あら? その程度かしら?」
「おーい! 酒はまだか!」
冒険者がこの世界で人気の職業である理由。それは一攫千金が狙えるからだ。
貴重なアイテムを集めたり、モンスターを倒して素材を売ったりすることで、こんな昼間から酒に浸るような生活ができる。
貴重な肉をバクバク食らうのも、自分で倒した魔獣を店に持ち込むなどしているからだ。
堅苦しい貴族の生活を送る私から見て、自由に生きる彼らのことが少し羨ましく思えた。
いや、それは贅沢なないものねだりなのだろうが。
「ご注文はどうされますか?」
「……これ、酒飲んでも怒られないよな?」
「いえ、むしろこの状況で酒を頼まないのは野暮ってもんでしょう。……ね? レオ」
「……私は知らんぞ」
「よし! とりあえず酒を二杯だ!」
「程々にな……。私は果実系の飲み物を頂こうか」
アルガーに怒られるのは、諸々父に擦(なす)り付けよう。
「料理はどうされますか?」
「おすすめを頼む」
「かしこまりました!」
注文を受け付けたウエイトレスの後ろ姿を眺めながら、歳三はニコニコしていた。
「あれがこの店の看板娘か……。なかなかレベルが高ェな!」
「おいおい……」
すっかり浮かれているようだ。まぁ、止めることでもないので好きにさせるが。
「お待たせしました! 料理はもう少しかかります!」
すぐに酒と私の飲み物が運ばれてきた。
「───クゥゥ! やっぱりこれだな!」
「うーん、中々強いお酒ですね……」
歳三は木でできた大きなジョッキに注がれた酒を一瞬で飲み干した。口元から滴る酒と、ゴクリと音を立てて飲み込む喉が、見ていても気持ちいい飲みっぷりだった。
孔明はほんの少し口をつけただけで頬を赤らめていた。
私も飲み物を口にする。
それは葡萄を絞ったジュースのようなものだった。恐らく、ワインを造る際に一緒に作られたのだろう。
果汁100%なぶどうジュースは、すこし飲みにくかったが、芳醇な香りと濃厚な味わいがとても美味しかった。
……身体が火照っているように感じるのは、恐らく気のせいだ。
程なくして料理も運ばれてきた。
「お待たせしましたー! こちらが当店オススメのエンシェントドラゴンの骨付き肉です!」
「え、」
独特すぎるそのネーミングセンスに思わず言葉を失った。
いや、もしかしたら私が知らないだけで本当にドラゴンを食べているのかもしれない。
「おいあんたそんな顔すんな! ただの牛肉さ! ドラゴンなんかじゃなく家畜化された魔獣だから安心して食いな! ガハハ!」
「あはは、そうですよね……」
名前はともかく、豪快に切り落とされた肉とそれに絡まるソースの匂いに涎が垂れそうだ。
「うん……、うん、んん! ───コイツは美味いぜレオ! 早く食えって!」
「あ、あぁ……」
ナイフもフォークも出されていない。
仕方がないので骨の部分を掴んだ。脂がべっとりと手につく。
私はかなりの重さがある肉を口に運び、思いっきり齧り付いた。
「…………これは!」
「当店こだわりのスパイスで味付けしました! アキードからわざわざ取り寄せた格別の逸品ですよ!」
これは間違いない。胡椒だ!
まさか異世界に来てこの味がまた食べられるとは!
香辛料は高級品だ。それ自体だけでは食べれないが、別の料理と組み合わせるだけで料理のランクが格段に変わる。
肉と胡椒。それだけで涙が出るほど美味しかった。
あとはほかほかのご飯さえあれば……。
「レオ! ウィルフリードに帰っても、また皇都に来ような!」
なんだかんだで、この数日でかなりいいものを食べている。どこへ行っても歓迎される父の名声と、金銭的に余裕のある貴族ならではの楽しみだ。
「毎日がこうとは言えないが、対ファリアの戦勝祝いとしてはいい区切りにできそうだな!」
それで皇都まで呼び出されているのだ。今回ばかりは贅沢しても領民たちも許してくれるはずだ。
私は肉汁で溢れた口を、葡萄酒で一掃する。
刺激的な味の肉と酒の組み合わせが堪らない。
この肉ならいくらでも酒が進みそうだ。
あれ? 酒……?
なんで酒を飲んでるんだ………?
うーん、何だか頭がぼんやりする………………。
「おいレオ、まずは腹ごしらえが先じゃねェか?」
「そうしましょう!」
「よし! とりあえず入ってみよう!」
道は人で溢れ返っている。これだけの人がいれば異装の歳三や孔明も紛れて怪しむ人もいない。
ウィルフリードでこそ威厳を放つ私のこの服も、こちらではショーウィンドウの向こうに並べられるものと大差ないようだ。
「いらっしゃいませ! お席にご案内致します!」
料理屋が賑わうのはどこでも同じようで、この店も冒険者たちで溢れていた。
「ガハハハハ! そいつはいいや!」
「あら? その程度かしら?」
「おーい! 酒はまだか!」
冒険者がこの世界で人気の職業である理由。それは一攫千金が狙えるからだ。
貴重なアイテムを集めたり、モンスターを倒して素材を売ったりすることで、こんな昼間から酒に浸るような生活ができる。
貴重な肉をバクバク食らうのも、自分で倒した魔獣を店に持ち込むなどしているからだ。
堅苦しい貴族の生活を送る私から見て、自由に生きる彼らのことが少し羨ましく思えた。
いや、それは贅沢なないものねだりなのだろうが。
「ご注文はどうされますか?」
「……これ、酒飲んでも怒られないよな?」
「いえ、むしろこの状況で酒を頼まないのは野暮ってもんでしょう。……ね? レオ」
「……私は知らんぞ」
「よし! とりあえず酒を二杯だ!」
「程々にな……。私は果実系の飲み物を頂こうか」
アルガーに怒られるのは、諸々父に擦(なす)り付けよう。
「料理はどうされますか?」
「おすすめを頼む」
「かしこまりました!」
注文を受け付けたウエイトレスの後ろ姿を眺めながら、歳三はニコニコしていた。
「あれがこの店の看板娘か……。なかなかレベルが高ェな!」
「おいおい……」
すっかり浮かれているようだ。まぁ、止めることでもないので好きにさせるが。
「お待たせしました! 料理はもう少しかかります!」
すぐに酒と私の飲み物が運ばれてきた。
「───クゥゥ! やっぱりこれだな!」
「うーん、中々強いお酒ですね……」
歳三は木でできた大きなジョッキに注がれた酒を一瞬で飲み干した。口元から滴る酒と、ゴクリと音を立てて飲み込む喉が、見ていても気持ちいい飲みっぷりだった。
孔明はほんの少し口をつけただけで頬を赤らめていた。
私も飲み物を口にする。
それは葡萄を絞ったジュースのようなものだった。恐らく、ワインを造る際に一緒に作られたのだろう。
果汁100%なぶどうジュースは、すこし飲みにくかったが、芳醇な香りと濃厚な味わいがとても美味しかった。
……身体が火照っているように感じるのは、恐らく気のせいだ。
程なくして料理も運ばれてきた。
「お待たせしましたー! こちらが当店オススメのエンシェントドラゴンの骨付き肉です!」
「え、」
独特すぎるそのネーミングセンスに思わず言葉を失った。
いや、もしかしたら私が知らないだけで本当にドラゴンを食べているのかもしれない。
「おいあんたそんな顔すんな! ただの牛肉さ! ドラゴンなんかじゃなく家畜化された魔獣だから安心して食いな! ガハハ!」
「あはは、そうですよね……」
名前はともかく、豪快に切り落とされた肉とそれに絡まるソースの匂いに涎が垂れそうだ。
「うん……、うん、んん! ───コイツは美味いぜレオ! 早く食えって!」
「あ、あぁ……」
ナイフもフォークも出されていない。
仕方がないので骨の部分を掴んだ。脂がべっとりと手につく。
私はかなりの重さがある肉を口に運び、思いっきり齧り付いた。
「…………これは!」
「当店こだわりのスパイスで味付けしました! アキードからわざわざ取り寄せた格別の逸品ですよ!」
これは間違いない。胡椒だ!
まさか異世界に来てこの味がまた食べられるとは!
香辛料は高級品だ。それ自体だけでは食べれないが、別の料理と組み合わせるだけで料理のランクが格段に変わる。
肉と胡椒。それだけで涙が出るほど美味しかった。
あとはほかほかのご飯さえあれば……。
「レオ! ウィルフリードに帰っても、また皇都に来ような!」
なんだかんだで、この数日でかなりいいものを食べている。どこへ行っても歓迎される父の名声と、金銭的に余裕のある貴族ならではの楽しみだ。
「毎日がこうとは言えないが、対ファリアの戦勝祝いとしてはいい区切りにできそうだな!」
それで皇都まで呼び出されているのだ。今回ばかりは贅沢しても領民たちも許してくれるはずだ。
私は肉汁で溢れた口を、葡萄酒で一掃する。
刺激的な味の肉と酒の組み合わせが堪らない。
この肉ならいくらでも酒が進みそうだ。
あれ? 酒……?
なんで酒を飲んでるんだ………?
うーん、何だか頭がぼんやりする………………。
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