55 / 262
第一章
53話 新たな街
しおりを挟む
リーンの街並みは落ち着いていて綺麗だった。
ウィルフリードのような活気はないが、程よい自然と人々の共存といった雰囲気だ。
ウィルフリードは対王国最前線の街だから、防衛施設がガチガチになっている。
対するリーンはウィルフリードよりも皇都側で、さらに王国とは森を挟んでいるため城壁も低く、開放感を感じる。
「リーンは人口一万に満たない程の小都市だが、ザスクリアは少ない兵を率いて俺と共に戦場を駆け抜けた英雄だ。レオも挨拶しておくに越したことはない」
父は私にそう言う。
考えてみれば、この世界に生まれてこの方ウィルフリード以外に出かけたことがない。せいぜいウィルフリードに属する周辺の村程度だ。
つまり、外の人間と会うこと自体初めてだ。
「分かりました!」
私は新たな出会いに胸を躍らせ、少し不安の混じった思いを抱えながら、もう少しだけ馬車に揺られた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「こちらがこの街の迎賓館です!」
馬車は我が家よりは少し小さい屋敷の前に止まった。
迎賓館の前にはアルガーらを乗せていた馬車も止まっている。
「ようこそいらっしゃいました! 本日はこちらにお泊まり頂くよう領主から言伝を預かっております。領主が来るまで暫しお待ちくださいませ!」
中から人当たりのいい老人が出てきた。どうやら彼がこの迎賓館の主人らしい。
「何の連絡も無しにすまないな」
「いえウルツ様! お荷物お持ち致しましょう!」
私たちは馬車を降り、主人に案内されるまま中へと足を踏み入れた。
「…………へェ! コイツはスゲェじゃねェか!」
中は絨毯が敷き詰められており、天井にはシャンデリアがあった。
うちの屋敷も劣ってはいないが、ここまで豪華絢爛を尽くしてはいない。
「リーンの街は皇都とウィルフリードやファリアなどの街との中間地点。宿場街として発展したのですよ! ───と、これは失礼…………」
「よい。ファリアの話は終わった事だ。……いや、これから、とも言えるがな」
「それで皇都まで……。それはそれは…………」
慌てて頭を下げる主人に父が応じる。
リーンもファリアと剣を混じえた以上、腫れ物扱いも仕方ないように思える。
「長旅お疲れでしょう。それに盗賊に出くわしたと伺っております。まずはこちらにお掛けください!」
主人が手を指す先、長机の上には、大量の料理が並べられていた。
湯気立つスープの香りに、思わず私のお腹が音を立てた。
朝は急いで適当に詰め込み、昼は盗賊のせいで食べ損ねていた。
「このような美しい場所でご馳走にありつけるとは、まさに紅灯緑酒(こうとうりょくしゅ)! レオ、早く食べましょう!」
孔明は羽扇を仕舞い、隠しもせずに満面の笑みで私にそう言った。
歳三も、言葉には出さずとも、待ちきれないといった様子で唇を舌で濡らしている。
「父上!」
「あぁ、頂こうか!」
父の言葉を聞くと真っ先に飛びついたのは孔明だった。
「まさに垂涎の一品! ほら、レオも食べましょう!」
「落ち着け孔明、料理は逃げないさ」
父が一番奥に座り、私はその横に座った。
私はナイフを手に取り、特大のステーキを切り分けフォークで突き刺し頬張る。
噛めば噛むほど肉汁が溢れ出し、口の中に幸せが広がった。
左に座る父も、右の歳三と孔明も、空腹を満たすためには余りに豪華な食事を堪能していた。
男四人が肉にがっつく姿は、マリエッタが見れば卒倒するだろう。
「美味いなレオ! うちでも毎日これを出してくれよ!」
「流石のウィルフリード家と言えども破産してしまうよ」
ハハハと食卓に笑い声が飛び交った。
こんな楽しい時間を過ごしたのは久しぶりだ。そう思いながらスープに口を付けたその時だった。
「───ん? おぉアルガー、どこに行っていたのだ! さぁ、お前も一緒に頂こうかではないか!」
アルガーはまだどこか機嫌を悪そうにしていた。
「どこに行ってたも何も、盗賊共の後始末ですよ! ちゃんとこの街の冒険者ギルドに届けて来ました」
「そうか! それはそれは! さぁ早く食べよう!」
「はぁ…………」
なんだかんだ言って、アルガーも空いている席に着くと、美味しそうに料理を食べていた。
どちらかと言うと酒の方がよく進んでいたようにも見えたが……。
「そうそう、兵たちには金を渡して街の店で食べるように言っておきました。彼らにはこの街の宿で寝てもらいましょう。我々だけここに泊まって、兵士は野宿でらあんまりですからね」
「それがいいな!」
ちゃっかりアルガーもこっちに泊まる気なんだと思いはしたが、口に出すのはやめておいた。
「そう言えば、アルガーにはまだ孔明を紹介していなかったな」
「はい、レオ様。軽くタリオから聞いてはいますが……」
それはろくでもないことを聞いたに違いないだろう。
「これは失礼致しました。私は諸葛亮孔明。レオの軍師としてこちらの世界へ参りました。以後お見知り置きを……」
孔明は食事の手を止め、腕を組みお辞儀をした。
「アルガーよ。そのうち軍師殿の腕試しをしたいのだが、どのようにやれば良いと思うか?」
「…………はぁ。うちのトップがこの調子で申し訳ありません。どうかレオ様は正しい方へ導いてあげてください」
「ふふふ、分かりました……」
アルガーはこの先も苦労人枠なんだろうなと思った。
ウィルフリードのような活気はないが、程よい自然と人々の共存といった雰囲気だ。
ウィルフリードは対王国最前線の街だから、防衛施設がガチガチになっている。
対するリーンはウィルフリードよりも皇都側で、さらに王国とは森を挟んでいるため城壁も低く、開放感を感じる。
「リーンは人口一万に満たない程の小都市だが、ザスクリアは少ない兵を率いて俺と共に戦場を駆け抜けた英雄だ。レオも挨拶しておくに越したことはない」
父は私にそう言う。
考えてみれば、この世界に生まれてこの方ウィルフリード以外に出かけたことがない。せいぜいウィルフリードに属する周辺の村程度だ。
つまり、外の人間と会うこと自体初めてだ。
「分かりました!」
私は新たな出会いに胸を躍らせ、少し不安の混じった思いを抱えながら、もう少しだけ馬車に揺られた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「こちらがこの街の迎賓館です!」
馬車は我が家よりは少し小さい屋敷の前に止まった。
迎賓館の前にはアルガーらを乗せていた馬車も止まっている。
「ようこそいらっしゃいました! 本日はこちらにお泊まり頂くよう領主から言伝を預かっております。領主が来るまで暫しお待ちくださいませ!」
中から人当たりのいい老人が出てきた。どうやら彼がこの迎賓館の主人らしい。
「何の連絡も無しにすまないな」
「いえウルツ様! お荷物お持ち致しましょう!」
私たちは馬車を降り、主人に案内されるまま中へと足を踏み入れた。
「…………へェ! コイツはスゲェじゃねェか!」
中は絨毯が敷き詰められており、天井にはシャンデリアがあった。
うちの屋敷も劣ってはいないが、ここまで豪華絢爛を尽くしてはいない。
「リーンの街は皇都とウィルフリードやファリアなどの街との中間地点。宿場街として発展したのですよ! ───と、これは失礼…………」
「よい。ファリアの話は終わった事だ。……いや、これから、とも言えるがな」
「それで皇都まで……。それはそれは…………」
慌てて頭を下げる主人に父が応じる。
リーンもファリアと剣を混じえた以上、腫れ物扱いも仕方ないように思える。
「長旅お疲れでしょう。それに盗賊に出くわしたと伺っております。まずはこちらにお掛けください!」
主人が手を指す先、長机の上には、大量の料理が並べられていた。
湯気立つスープの香りに、思わず私のお腹が音を立てた。
朝は急いで適当に詰め込み、昼は盗賊のせいで食べ損ねていた。
「このような美しい場所でご馳走にありつけるとは、まさに紅灯緑酒(こうとうりょくしゅ)! レオ、早く食べましょう!」
孔明は羽扇を仕舞い、隠しもせずに満面の笑みで私にそう言った。
歳三も、言葉には出さずとも、待ちきれないといった様子で唇を舌で濡らしている。
「父上!」
「あぁ、頂こうか!」
父の言葉を聞くと真っ先に飛びついたのは孔明だった。
「まさに垂涎の一品! ほら、レオも食べましょう!」
「落ち着け孔明、料理は逃げないさ」
父が一番奥に座り、私はその横に座った。
私はナイフを手に取り、特大のステーキを切り分けフォークで突き刺し頬張る。
噛めば噛むほど肉汁が溢れ出し、口の中に幸せが広がった。
左に座る父も、右の歳三と孔明も、空腹を満たすためには余りに豪華な食事を堪能していた。
男四人が肉にがっつく姿は、マリエッタが見れば卒倒するだろう。
「美味いなレオ! うちでも毎日これを出してくれよ!」
「流石のウィルフリード家と言えども破産してしまうよ」
ハハハと食卓に笑い声が飛び交った。
こんな楽しい時間を過ごしたのは久しぶりだ。そう思いながらスープに口を付けたその時だった。
「───ん? おぉアルガー、どこに行っていたのだ! さぁ、お前も一緒に頂こうかではないか!」
アルガーはまだどこか機嫌を悪そうにしていた。
「どこに行ってたも何も、盗賊共の後始末ですよ! ちゃんとこの街の冒険者ギルドに届けて来ました」
「そうか! それはそれは! さぁ早く食べよう!」
「はぁ…………」
なんだかんだ言って、アルガーも空いている席に着くと、美味しそうに料理を食べていた。
どちらかと言うと酒の方がよく進んでいたようにも見えたが……。
「そうそう、兵たちには金を渡して街の店で食べるように言っておきました。彼らにはこの街の宿で寝てもらいましょう。我々だけここに泊まって、兵士は野宿でらあんまりですからね」
「それがいいな!」
ちゃっかりアルガーもこっちに泊まる気なんだと思いはしたが、口に出すのはやめておいた。
「そう言えば、アルガーにはまだ孔明を紹介していなかったな」
「はい、レオ様。軽くタリオから聞いてはいますが……」
それはろくでもないことを聞いたに違いないだろう。
「これは失礼致しました。私は諸葛亮孔明。レオの軍師としてこちらの世界へ参りました。以後お見知り置きを……」
孔明は食事の手を止め、腕を組みお辞儀をした。
「アルガーよ。そのうち軍師殿の腕試しをしたいのだが、どのようにやれば良いと思うか?」
「…………はぁ。うちのトップがこの調子で申し訳ありません。どうかレオ様は正しい方へ導いてあげてください」
「ふふふ、分かりました……」
アルガーはこの先も苦労人枠なんだろうなと思った。
18
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます
竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論
東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで…
※超注意書き※
1.政治的な主張をする目的は一切ありません
2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります
3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です
4.そこら中に無茶苦茶が含まれています
5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません
6.カクヨムとマルチ投稿
以上をご理解の上でお読みください

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
札束艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
生まれついての勝負師。
あるいは、根っからのギャンブラー。
札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。
時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。
そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。
亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。
戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。
マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。
マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。
高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。
科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる