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3話 吹っ切れたソフィア
しおりを挟む「ソフィア! 待ってくれ!」
最高の気分で歩いていると、うしろから不愉快な声が追いかけてきた。無視していると、前に回り込んできてソフィアの目の前にたちはだかった。
「ソフィア! 全部誤解なんだ!」
「そうなんですね、全て誤解なんですね、分かりました」
「だから、婚約破棄も誤解だって分かってくれるだろう?」
縋るモーリスの姿は王族とは思えないほどみすぼらしいものだった。威厳がまるでない。
「たくさんの人が証人です。婚約破棄を申しつけてきたのは、誤解ではなくただの事実でしょう?」
「僕はナターシャを捨てて君のことを追いかけてきたんだぞ?」
「ナターシャに勝ち目がないから捨てたのでは?」
モーリスは権力と無駄に整った容姿を持っているせいで、言い寄ってくる女はあとを絶たない。それでも、家のためだと我慢していたせいで、とんでもない汚名を着せられそうになった。
元々、親に決められた相手だった。王族と結婚しなくとも位の高い貴族と結ばれれば、家を守ることは出来るだろうと思っているソフィアは強気だった。
「王族が人前で婚約破棄を告げた。その上いじめの疑惑までふっかけてきた。これがどれだけ私の家に影響を与えるか考えてみて下さいね」
「……っ」
「次に会うときは公の場であることを望みますわ、それでは失礼します」
その足でソフィアは家に戻ると、真っ先に父親のいる執務室へと向かったが不在だった。どこへ行ったのか教えてもらったソフィアは、父親を訪ねることにした。
馬車に乗って揺られていると、ガタンと大きな振動があって車体が斜めになった。どうしたのか外の様子を見ると、ぬかるみに車輪を取られてしまっている。
「あら、大変だわ」
御者だけで抜け出すのは困難だと判断したソフィアは、馬車を降りた。
申し訳ございません、と恐縮する御者にほほえむとそっと人差し指を車輪に向ける。
御者が車輪を押すと同時に、魔法をかける。あまりにも軽かったのか御者は首をかしげていたが、お礼を言って再び馬車に乗り込んだ。
「お父さま!」
走る馬車から父親を見つけたソフィアは、身を乗り出して手を振った。ソフィアの声に気づいた御者が馬車を止めるやいなや、飛び降りた。
気が立った状態でことの顛末を話し終えると、父親は大きな手でソフィアの頭を撫でた。
「婚約なんて破棄で構わん、これは公爵家の名誉に関わる問題だ。きちんと抗議するから、心配しなくていい」
力強い父親の声に、不安が解けていくようだった。安心したソフィアはほっと胸をなで下ろした。
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