5 / 10
5話 レオニー覚醒
しおりを挟む「大丈夫ですか? 倒れたようだったので、心配になって……」
レオニーが立ちあがろうとしたとき、駆けつけてきた品のよさそうな男が声をかけてくれた。
「どうも、大丈夫になりましたわ」
「掴んで下さい、立ちあがるのも大変でしょう?」
差し出された男の手を掴ませてもらうと、軽く引っ張り上げられて簡単に立つことができた。
「肩貸しますから、ぜひお使いください」
「いえ、もう大丈夫ですわ。ありがとうございまし────きゃっ!」
毛むくじゃらですばしっこい生物がレオニーの足元を掠めた。驚いて声を上げると、男は優しげに目を細めた。
「あ、すみません。驚いてしまって……」
「驚いて当然です。まだふらついてるようですし、お送りしますよ。ほら、私に寄りかかってください」
「……いえ、もう大丈夫ですので」
「どうして遠慮なさるのですか? 人が親切にしているのですから、ありがたく頼るべきではありませんか? ……さあ! こちら側に体重を預けなさい!」
レオニーが断ると男は豹変した。肩をがっちり掴んで離さない。温厚そうな声音はどんどん激しくなっていき、レオニーに命令口調で迫ってくる。
「やめてくださいっ!」
「大丈夫ですから、ね?」
完全に目がいってしまってる。ニタニタと笑っている男は、レオニーのことを拘束するように抱きしめたまま歩き出そうとした。
レオニーは、思いきり身体を捩らせて抵抗する。
その拍子に手が男の顔に当たり、一瞬で顔色が変わった。ムッとした男が手を振りかざしたので、思わず頭を庇うと人差し指から何か出た気がした。
「うわああああ────」
男の声が遠のいていく。レオニーが目を開けると、眼前にいるはずの男は地面の近くにいた。とても小さくなって。
「え!」
着ていた服は中身を失い、くしゃくしゃになって地面に落ちている。その服の中にいる男は、等身はそのままで縮まっていた。
悪い夢でも見ているのだろうかと男を手のひらにつまみ上げた。バキバキ、メキメキ音をならしながら、男の身体は形を変えていく。
「うわ、汚い!」
手のひらにいたのは野ネズミによく似た生き物だった。たった今まで小さい男だったのに一瞬で毛むくじゃらの野ネズミに姿を変えた。
レオニーは思いきり手を振り払うと、ネズミは王宮の植え込みにちょろちょろと駆けていく。野ネズミは病気を媒介するし、触るだけでも危険だ。
ここが夢の中ではないと気がついたのは、野ネズミになってしまった男を探しに出てきたらしいお付きの人が外に出てきたからだった。
男が着ていた服が地面に放置されているのを見て、ガクガクと震える手で口元を抑える。顔は一気に青ざめて、今にも倒れてしまいそうなくらいだ。
「わ、私が外に出てきたとき、既にこの状態でしたのよ……。今、警備を呼ぼうか考えていたところですわ」
とっさに思いついた嘘を並べたてて、従者にあとを任せると、すぐにその場から退散した。
189
お気に入りに追加
358
あなたにおすすめの小説
【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。
西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。
私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。
それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」
と宣言されるなんて・・・
義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です
渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。
愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。
そんな生活に耐えかねたマーガレットは…
結末は見方によって色々系だと思います。
なろうにも同じものを掲載しています。
元婚約者は、ずっと努力してきた私よりも妹を選んだようです
法華
恋愛
貴族ライルは、婚約者アイーダに婚約破棄を宣告し、アイーダの妹であるメイと婚約する道を選ぶ。
だが、アイーダが彼のためにずっと努力してきたことをライルは知らず、没落の道をたどることに。
一方アイーダの元には、これまで手が出せずにいた他の貴族たちから、たくさんのアプローチが贈られるのであった。
※三話完結
婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
婚約する前から、貴方に恋人がいる事は存じておりました
Kouei
恋愛
とある夜会での出来事。
月明りに照らされた庭園で、女性が男性に抱きつき愛を囁いています。
ところが相手の男性は、私リュシュエンヌ・トルディの婚約者オスカー・ノルマンディ伯爵令息でした。
けれど私、お二人が恋人同士という事は婚約する前から存じておりましたの。
ですからオスカー様にその女性を第二夫人として迎えるようにお薦め致しました。
愛する方と過ごすことがオスカー様の幸せ。
オスカー様の幸せが私の幸せですもの。
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
私より幼馴染を大事にする男と婚約破棄したら、王子様と結婚して幸せになれました
法華
恋愛
リゼ・リィンカーネーションの婚約者オッズ卿は、彼女より幼馴染からの呼び出しを優先してばかり。それどころか、まるで恋人同士かのようにいちゃついている。リゼはそんな婚約者に愛想を尽かして、婚約破棄を突きつける。行き場所のない彼女を拾ったのは、なんとこの国の第三王子だった。彼のもとでリゼは精神を立て直し、愛を育んでいく。
※五話完結
妹に騙された元婚約者のところに戻る気なんてありません
法華
恋愛
貴族カイルに婚約破棄を言い渡されたレイラ。妹アリスが、カイルの飼っていた鳥をレイラが逃がした、とカイルを騙したのだ。
しかし、鳥を逃がし、他にも様々な失態をやらかしていたのはアリスの方だった。それを知ったカイルはレイラに戻ってくるよう言うが、レイラにはもう新しい婚約者がいて、戻る気なんてさらさらなかった。
※二話完結
出て行けと言って、本当に私が出ていくなんて思ってもいなかった??
新野乃花(大舟)
恋愛
ガランとセシリアは婚約関係にあったものの、ガランはセシリアに対して最初から冷遇的な態度をとり続けていた。ある日の事、ガランは自身の機嫌を損ねたからか、セシリアに対していなくなっても困らないといった言葉を発する。…それをきっかけにしてセシリアはガランの前から失踪してしまうこととなるのだが、ガランはその事をあまり気にしてはいなかった。しかし後に貴族会はセシリアの味方をすると表明、じわじわとガランの立場は苦しいものとなっていくこととなり…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる