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5話 レオニー覚醒

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「大丈夫ですか? 倒れたようだったので、心配になって……」

 レオニーが立ちあがろうとしたとき、駆けつけてきた品のよさそうな男が声をかけてくれた。

「どうも、大丈夫になりましたわ」

「掴んで下さい、立ちあがるのも大変でしょう?」

 差し出された男の手を掴ませてもらうと、軽く引っ張り上げられて簡単に立つことができた。

「肩貸しますから、ぜひお使いください」

「いえ、もう大丈夫ですわ。ありがとうございまし────きゃっ!」

 毛むくじゃらですばしっこい生物がレオニーの足元を掠めた。驚いて声を上げると、男は優しげに目を細めた。

「あ、すみません。驚いてしまって……」

「驚いて当然です。まだふらついてるようですし、お送りしますよ。ほら、私に寄りかかってください」

「……いえ、もう大丈夫ですので」

「どうして遠慮なさるのですか? 人が親切にしているのですから、ありがたく頼るべきではありませんか? ……さあ! こちら側に体重を預けなさい!」

 レオニーが断ると男は豹変した。肩をがっちり掴んで離さない。温厚そうな声音はどんどん激しくなっていき、レオニーに命令口調で迫ってくる。

「やめてくださいっ!」

「大丈夫ですから、ね?」

 完全に目がいってしまってる。ニタニタと笑っている男は、レオニーのことを拘束するように抱きしめたまま歩き出そうとした。

 レオニーは、思いきり身体を捩らせて抵抗する。

 その拍子に手が男の顔に当たり、一瞬で顔色が変わった。ムッとした男が手を振りかざしたので、思わず頭を庇うと人差し指から何か出た気がした。

「うわああああ────」

 男の声が遠のいていく。レオニーが目を開けると、眼前にいるはずの男は地面の近くにいた。とても小さくなって。

「え!」

 着ていた服は中身を失い、くしゃくしゃになって地面に落ちている。その服の中にいる男は、等身はそのままで縮まっていた。

 悪い夢でも見ているのだろうかと男を手のひらにつまみ上げた。バキバキ、メキメキ音をならしながら、男の身体は形を変えていく。

「うわ、汚い!」

 手のひらにいたのは野ネズミによく似た生き物だった。たった今まで小さい男だったのに一瞬で毛むくじゃらの野ネズミに姿を変えた。

 レオニーは思いきり手を振り払うと、ネズミは王宮の植え込みにちょろちょろと駆けていく。野ネズミは病気を媒介するし、触るだけでも危険だ。

 ここが夢の中ではないと気がついたのは、野ネズミになってしまった男を探しに出てきたらしいお付きの人が外に出てきたからだった。

 男が着ていた服が地面に放置されているのを見て、ガクガクと震える手で口元を抑える。顔は一気に青ざめて、今にも倒れてしまいそうなくらいだ。
 
「わ、私が外に出てきたとき、既にこの状態でしたのよ……。今、警備を呼ぼうか考えていたところですわ」

 とっさに思いついた嘘を並べたてて、従者にあとを任せると、すぐにその場から退散した。

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