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最終話 裁かれる罪人
しおりを挟むマリアの罪は重かった。
国家転覆を狙った犯罪計画として広く知らしめられ、国全土を揺るがすほどの騒ぎになった。
裁判にかけられたマリアの証言により、協力したとされる王宮の重鎮や、上流貴族に対しても捜査の手が及んだ。
それをきっかけに、今まで帳面表力のようになんとか保っていた関係が崩れて、賄賂や職権乱用などの悪事が次々に告発されるようになった。
そして、王族殺害計画に深く関わった数人には極刑が言い渡された。
「ほら、働け!」
燦々と陽が降り注ぐ王宮の庭で新入りに檄が飛ぶ。
汚職に手を染めた貴族たちは、牢屋に入る代わりに庭の掃除や草むしりなどの人のためになる労働が課せられた。
はじめは苦い顔をして脂汗を流していたのに、今ではすっかり慣れたものだ。
「いい働きっぷりだな、おかげで王宮の評価も上々だ。その調子で頼む」
「で、殿下! 精いっぱい努力して参る所存です!」
ルーカス殿下に褒められると、賄賂をもらって不正に取引していた男爵が元気よく返事をした。額には汗が滲んでいる。
微笑ましくやりとりを見守っていると、大事なことを忘れていたのに気がついた。
「ルーカス殿下、私はそろそろ行かなければなりません」
「あぁ、時間か。くれぐれも気をつけて」
庭を見物するルーカス殿下に別れを告げると、目的地へと移動する。
……マリアと面会するのだ。
私はルーカス殿下を傷つけたくなかったから、予知した未来を変えようと思ったのに処刑される人間が変わっただけだった。
このまま処刑されたらルーカス殿下は一生引き摺ることになるかもしれない。
そう考えた私は裁判のときから被害者として極刑に強く反対していた。
その結果、形式上の極刑が言い渡されたけれど執行されることはなくなった。
「マリア、あなたの好物持ってきたわよ」
「……」
「そんなに怖がらなくていいわよ、私が死刑の執行を遅らせてほしいと何度もお願いしてるんだから! しばらくは安心して」
当然マリアに対する復讐心など消えていない。だからこうして心の広い王太子妃を装ってはチクチクと脅かしにくるのだ。
ルーカス殿下のことまで殺そうとした女を許すわけがない。
「これ、あとで食べてね。わざわざあなた好みの若い桃探すのに苦労したのよ? 王太子妃にはいいものを食べさせたいってみなさん美味しい桃をくださるものだから」
俯いていたマリアが私を見上げた。可愛かった面影が見えないほどにやつれている。
「帰れ! この野郎! 地獄におちろ!」
「あなたが帰ってほしいならそうするけど?」
憎々しげに顔をしかめるマリアを見て、清々しい気持ちになっていく。
声に出さずに『バカみたい』と言うと、分厚いガラスの向こうでマリアが暴れ出した。
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