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愛があれば

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「……身分の問題があるにしても、帝のする事に口出しできる人はいないわ」
 帝は何をしても許される。そう言いたいのだろう。異常に聞こえる事も、ここでは普通の事である。
「はい、もちろんですが……帝は身に覚えがないと仰っております」
「どういう事だ?」
 首を傾げながらユンが呟く。それに対してカイレンが机の辺りに視線を落としたまま、考えが合っているかどうか、慎重に吟味する様に返した。
「真っ先に考えられるのは、帝が嘘をついているという事だ」
 帝の言葉を疑うなど、本来ならあり得ない。思い切った事を口にしたものだ。ここだけの話だからこそだと思うが。カイレンは、一度息を吐いてから話を続ける。
「身分の差や政治的な思惑によって、確実にその女は辛い思いをする、それを憂い帝は嘘をついた可能性は考えられる」
 もしそうだとしたら、頭が悪い選択だ。後宮内で妊娠したら黙っていてもマズイ事にしかならない。最悪、帝以外の男との子だと判断されて処刑という話になりかねない。結局そこで自分の子だと白状するハメになる。あるいは優しさではなく、面倒だから消してしまおうと思っているのか。さすがに貴族でもない下働きの女を孕ませたとなれば、政治的な思惑で面倒が起きるのは必至だから。
 カイレンが申し訳なさそうに眉をひそめ、メイユーに顔を向ける。
「……メイユー様に確認したいのですが、一か月前に帝と夜を共にした際、帝が秘密裏に出かけて行かれた、という事はありませんか? それを口止めされていませんか?」
 カイレンはメイユーが協力者ではないかと疑ったらしい。帝を追及する訳にもいかないから、そうなっても仕方がないが。
「ないわね、朝まで一緒だったわ、途中で抜け出したという事もなかった、一晩中語らっていたから」
 メイユーから嘘の匂いはしない。本当の事の様だ。まぁだいたい、メイユーが帝を庇う意味が分からない。下手したら下働きの女が、自分の地位を脅かしかねないのだから。
「わかりました、失礼な質問をいたしました、申し訳ありません」
 カイレンが立ちあがって、頭を深々と下げる。
「そう考えるのは仕方がない状況だし、いいのよ、頭を上げて」
 そう諭されてから、しばらく頭を下げたままだったカイレン。やっと「ありがとうございます」と口にしてようやく頭を上げる。
「でも私が隠し事をしていた方が、簡単だったかもしれないわね」
 なぜか面白そうに笑うと、メイユーがこちらに顔を向ける。この人は面白がっている様だった。それを受けてため息で返事としておく。面倒なことになってきた。
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