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第三章

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「禁忌?」
「はい、私の恋人は女性でした」
 私は驚きのあまり、短く肺が痙攣したように息を吸ってしまう。メイド長は女性だ。相手も女性という事は同性愛という事。もっとも忌むべき物といわれている。一つの国の決まりではなく、世の中の風潮として、穢れた行為と言われている。
「知っていますよね、同性愛者がどうなるのか」
 私は小さく頷く。酷い所では一生牢獄の中、そこまでされない所でも、噂がすぐに広まって、人々が異常者と罵ってくる。その場に留まれるわけもなかった。
「そして、バレてしまった後、彼女には……私の恋人だった人には、私に無理やり迫られた事にさせました、私の方がはるかに位が高かったおかげでそこに疑いを持つものもなく、さらに彼女の演技力もあって」
 そこまで行って、メイド長はかぶりを振る。
「いえ、たぶん私は裏切られた、演技力が高いのではなく、本気で私を切り捨てた、落ち着いて考えればそうだったと思えてきます」
 私は苦しくなってしまう。好きな人の裏切りかもしれない。そんな風に考えるのは辛い。
「そして、私は身を隠し、この地までたどり着いて、旦那様に出会った」
「お父様と?」
「はい、旦那様にはすべてお話ししました、その上でここで働かないかと言っていただきました」
 嬉しそうにメイド長が微笑む。お父様らしい対応だと思う。あの人は優しい。どんな人にだって。
「私の話はこれでおしまいです」
 きっと、自分を迎えようとしてくれる人には、自分の事をすべて話す事にしているのだろう。だからお父様にしたように、私にも自分の話をしてくれた。
「私の国に来てくれないかしら? そんな悲しい諦めなんてさせないわ、相手が誰だって、その愛は尊重されるべきよ」
「はい……喜んで」
 メイド長はとても眩しい笑顔でそう答えた。その答えを聞いて、グリネアが「新たな仲間だ」と喜ぶ。マークも嬉しそうにしていた。イズは相変わらずだけど。
「じゃあ、決まった事だし、今日はこの辺で……」
「セフィ! 誰か来ました」
 マークの声で私はすぐさま、屋敷の方を見る。誰かが歩いてくる人影が見えた。私達はすぐさま、近くの植え込みに身を隠す。こんな時間に誰が。私は目を凝らしたけど、距離が空いてしまっては、この暗い中、誰かは判別できない。メイドなら姿を見せてもいいけど。
「ノクリーア君」
 メイド長を呼ぶ声。その声はお父様の声だった。私は体を強張らせる。密着していたマークの体も強張ったのがわかった。私はより一層息をひそめる。
「旦那様……どうされました?」
「いや、やっぱり気になってね」
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