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第二章

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 少し冷たい空気が肌に触れる。朝早いと、少し冷えるな。寒いと思うほどではないけど、何かを羽織ってこればよかったか、と思う。それを察知したらしいマークがどこから出したのか、カーディガンを私の肩に羽織らせてくれる。
「ありがとう……よく持ってきていたわね」
 私はそう言いつつ、カーディガンの袖に腕を通した。カーディガンを、肩にかけたままにするスタイルを、私は好まない。落ちちゃうし。
「少し空気が冷たかったですが、セフィはきっと何も準備せずに来るだろうな、と思いまして」
 少し馬鹿にされた様な気になる言葉だけど、まぁいい。私達が進む先には、昨日の山が見える。もう少し進めば、麓へたどり着く。
「魔物が協力的って不思議な感覚」
 グリネアがポツリと言った。テイムに関してはもう話したけど、なじみのない魔法だから、そう感じてもしょうがない気がする。魔物ほとんどは、人間に襲いかかってくるか、無視する。話は通じる知能があるけど、基本的に相いれない関係。テイム無しで協力関係を構築する例外もあるけど、少数派だ。
「私からすると、協力的なのが常識だから、その感覚わからないのよね」
 苦笑する私を見て、グリネアが「そうなんだ」と漏らした。こういう部分はわかり合えない物だ。私はその話題を切り上げて、マークに声をかける。
「そういえば昨日、夜の街をウロウロしてたけど、アルクには結局会えずじまいだったわ」
「ウロウロって」
 心配をして私の顔を見たマークは表情を暗くしつつ、言葉を続ける。
「気を付けてくださいね……商人協会には行かれましたか?」
「大丈夫よ、言伝はしてきた、今日会えたら会いたいから、昼頃、商人協会に行くって」
 マークの心配を無視して私は何でもない風に答えた。微妙な表情をするマーク。子供じゃないんだから。
「あっ、あれって」
 突然、グリネアが声をあげる。進行方向に指を指しているのが見えて、私は指し示している方を見る。そこには土が盛り上がって、オオミミズが顔を出すところが見えた。
「麓まで来てくれたんだ」
 昨日戻ってきていた風鳥には、ちゃんと伝えたか確認していたけど、実は少し不安だった。アルクへの手紙を届けられていなかった件があったから。私達はオオミミズの所まで行くと、挨拶を交わす。
「昨日はごめんなさいね、いろいろごちゃごちゃして、何もなく帰ってしまって」
「いや、気にしなくていい」
 私の言葉にオオミミズはそう返して、言葉を続けた。
「改めて言おう……我々はあなたに協力する」
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