上 下
17 / 74
第一章

17

しおりを挟む
「言ったわね、じゃあ私と契約して、それで毒を止められたら、この土地に私の国を作らせて」
「止められるわけが」
「出来る! やって見せる」
 私はポイズンタイガーの言葉を遮るように言った。ポイズンタイガーは私をじっと見つめる。しばらくすると「わかった」と呟いた。
「よし、見てなさい」
 私はポイズンタイガーに近づく。魔力を集中して、魔法陣を展開させた。
「私はセフィア・ロドリス、あなたに私を守り、助ける者として、名を贈る」
 名前を私は考える。どうしようか。勢いで始めてしまったから、考えていなかった。ポイズンタイガー。そこから取るか。ポイズンはなんかダサイ。タイガーも同じくダサイ。いろいろ考えて私は閃く。
「あなたの名前は『イズ』この名前を受け取るならば、跪き私の手の甲に忠誠のキスを、それを持って契約は成される」
 私は右手の甲を上にして、前に突き出す。ポイズンタイガーはお座りをして、私を見つめた。少し迷ったようにすると、手の甲に口をつける。その瞬間、魔法陣が縮小して、私の手首とイズの首に紋様を付けた。
「……これで終わりか?」
 イズが恐る恐る訪ねて来る。
「そんなわけないでしょ、これからよ」
 私は集中する。イズ自身でさえ止められないほどの強力な力。それを止めなければならない。私はイズの力を感じ取る。イズ自身の昔の記憶が少し見えてきた。
「元は普通のトラだったのね」
 昔の記憶の中にあった。イズは魔法が使えた。しかもかなり強力な力だ。そして、ある日、毒魔法を習得する。適性があったのか、どんどん上達して、強大な毒魔法の使い手になっていく。それでも成長し続ける毒魔法の力は、すでに自分では止められなくなっていた。ただのトラが、ポイズンタイガーという魔物へと転じてしまう瞬間だった。毒魔法と一体化した様な状態になったイズは、自分の意志で毒を止められず、いずれ人間に追い立てられ、この地へやってくる。
 私はイズの力の源を見つけた。大きく強く光って、そして、恐れ、怯えている。防衛本能が働き続けているような状態。訳も分からず、強大になっていく毒魔法、そして魔物へと転じ、人間に追い立てられる。怯えて自分を守ろうとして当然だ。私はその力の源に優しく触れた。
「もう大丈夫……私がついてるわ」
 力の源が反応する。大きく強く光っていたのが、次第に収束していった。
「ふぅ」
 集中するのをやめて、私は意識を戻す。
「どう?」
 私はニカリと笑って、イズを見る。体から流れ出ていた毒はもう止まっていた。周辺の毒たまりも消え、空気も澄んでいる。邪魔する物が無くなった昼のあたたかな光が、私達に降り注いだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

政略結婚の約束すら守ってもらえませんでした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 「すまない、やっぱり君の事は抱けない」初夜のベットの中で、恋焦がれた初恋の人にそう言われてしまいました。私の心は砕け散ってしまいました。初恋の人が妹を愛していると知った時、妹が死んでしまって、政略結婚でいいから結婚して欲しいと言われた時、そして今。三度もの痛手に私の心は耐えられませんでした。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

私の恋が消えた春

豆狸
恋愛
「愛しているのは、今も昔も君だけだ……」 ──え? 風が運んできた夫の声が耳朶を打ち、私は凍りつきました。 彼の前にいるのは私ではありません。 なろう様でも公開中です。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

処理中です...