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「あっ、すみません」
 ファーリスが自分と私のつないだ手を見て、ハッとし、離れた。顔を赤くしている。私も冷静になって顔が熱くなるのを感じる。心臓の音がうるさい。
「つい興奮してしまって」
「いえ……私も同じですから、謝る事じゃあ」
 二人でもじもじしていると、ファーリスが空気を変えるように言葉を発する。
「とにかくいい案が出ました、ありがとうございます……やっぱりナナさんに出会えてよかった」
 何気ない一言を放ったファーリスは、そのまま居住スペースの方に入って行く。私は顔が熱くなっているのを感じて、しばらく立ち尽くす。出会えてよかっただなんて、嬉しい。それって好きって事なのかな、考えすぎなのかな。私はすでに彼の事が。
 私は少し遅れてファーリスを追って、居住スペースの方へ移動する。そこには図鑑を広げて、思案するファーリスの姿。
「恋の花言葉でもいろいろあるので、そこもテーマを絞らないと」
 そんな事をブツブツと言っているファーリス。私は我慢しきれなくなって、声をかける。
「さっきの……こと……ばって」
「え?」
 勢いはどこに行ってしまったのか。私の言葉は途中で聞こえないくらいにまで小さくなってしまった。私の事、好きって事でいいですか。そんな質問をしようとした。こんな事いきなり言われて、迷惑だろうし、もし好きじゃないなんて言われたら、とてもじゃないけど、私は恥ずかしくて、ここに居られない。気まずくて、ここに居られない。
 私は顔を横に振る。勘違い発言をしない様にしないと。自惚れるんじゃないわよ。私はその辺の石ころよ。私なんかじゃ。
「どうしました?」
「いえ! すみません、仕事に戻ります」
 体を店の方に向けて、歩く。ここに置いてもらってるだけで、幸せなのだから、あまり、調子に乗ってはいけないわ。私は店の中の定位置にたどり着くと、そこに置いてある椅子に腰かけた。
「つい夢中になってしまって、すみません」
 私を心配してくれたのか、店の方に戻ってきたファーリスがそう言う。
「いえ、大丈夫ですよ」
「でも、ナナさんに仕事優先って言っておいて、僕が仕事を放り出してたら、いけませんでした」
 イタズラがバレた時の様に笑うファーリス。私もつられて笑う。
「そうですね……気を付けてくださいね」
「はは、手厳しいですね、今後気をつけます」
 そう言ったファーリスを見て、私は弾けるように笑顔がこぼれる。ファーリスも同じだったようで二人で笑い合った。幸せな時間。今は好きか嫌いか、そんなのどうでもいいかな。
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