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第二章

こっちは手を下したくないのよ

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 その言葉で、愚物たちの顔が一斉に強張る。この程度で顔に出るようでは小悪党でしかない。
「な、何の話で?」
 愚物たちの中心にいた人物が立ち上がり、オドオドと私の前まで進んできた。こいつが愚物たちをまとめている、頭といったところか。皆の陰に隠れてしまわなかった事だけは、褒めてあげよう。
「街の方で何件か強盗が発生しているのよ、しかも負傷者が出ている、死者はいないけど」
「そ、それを俺たちがやったと、そう言いたいのですかい? へへっ」
 卑屈な笑いを浮かべる頭。印象を良くしようとでも、思っているのだろうか。全く好印象を抱けない笑顔だった。
「……そういうのいいわよ、こちらは見張りをあなた達に張り付かせていたのよ、確実にあなた達の仕業という事は分かっているわ」
 見張っていたのに、なぜ強盗を未然に防がなかったのか、なんていう者は残念ながらここにはいない。
「見張りって、俺たちを疑っていやがったのか?!」
 バレているとわかったとたん、態度を豹変させた。愚物たちが持っていた器を地面にたたきつけながら、続々と立ち上がる。こちらの兵士達がそれに反応して、一斉に剣を抜くと愚物たちに向けた。少しの間のにらみ合い。兵士は多く動員できなかったから、数的には互角ぐらいだ。それをわかっていて、愚物たちは強気になっているのかもしれない。
「当たり前じゃないかしら? あなた達みたいな愚かで馬鹿な人間でもない愚物、体力が戻ってこれば何をするか容易に想像がつく、信用する方がどうかしてるわよ、ははっ」
「愚かで馬鹿だと?! 言わせておけば! おめぇら!」
 頭の号令で愚物どもが声をあげて、臨戦態勢になる。一応武器は持っていない。自らの拳を握りしめて、それで戦う気らしい。剣を装備した兵士に対して、やはり愚かだ。それともそれだけの自信があるのか。
「はぁ……そういうのいらないのよ」
「ここにきて、許してくださいなんて通ると思ってんのか?!」
「バカなの? そんな事言ってないわよ」
 呆れ果ててため息が出てしまう。それを聞いて、頭の顔が真っ赤になった。かなり怒っているらしい。そのまま襲い掛かろうとしたのか一歩踏み出したが、力が抜けた様子でそのまま片膝をついた。何が起こったかわからない、という表情だった。
「こっちは手を下したくないのよ、どんな理由であれ大量虐殺なんてイメージが悪いものね」
 隣にいたアリードにそう問いかけると「ごもっともでございます」と返してくる。ここはこれから市場になるのだ。そんな場所で、そんな事を起こすわけにいかない。
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