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第二章

この衝動をどうしてくれるの

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「……害獣討伐で生計を立てる、ですか」
 ふと、思い立ったように、トーマスが呟く。過去を思い返す様に目を細めて、外を眺めながら。そんな姿に少し寂しさを覚えて、だがそれを見せるのも悔しくて、素っ気なさを装って問いかける。
「……知っていたら、その道に進んでいたかしら?」
 トーマスは「どうでしょうか」と答えた。どんな表情をしているのかは見えない。見えるのは、外に顔を向けているその横顔がほんの少しだけ。
 資格はいらないし誰かに雇われるわけでもないから、数少ないスラムの者が現状を変えられる職業だ。まぁ、もちろん害獣を相手にするのだから危険だし、その割に収入は多くない。領主や国の言う折半は言葉通りではないからだ。というのも前の人生で私も言葉通りの折半をしていなかった一人だったから、よく分かる。
 それに害獣認定されていない個体を間違って討伐してしまえば、密猟者として牢獄行き。意外と繊細で気を使う生業なのに、釣り合わない収入なのだ。手放しで薦められる職業ではない。
 危険、低収入、競争、重圧。これだけ揃っていても、今よりもマシと飛び込む者たちがいる。トーマスだってそれでも、というのであれば。
 トーマスからの明確な返事がないまま少し時間が過ぎ、そろそろこの話題を切り上げようと考えた時だった。考えるのをやめて、こちらに視線を向けてくるトーマス。時折見せるいつもの力のこもった眼がそこにあった。
「……私は、ヴィオラ様に出会うために、あそこに居たように感じます」
 あっ、キュンッ。先ほどまでの気持ちの落差のせいで、いつもより衝撃が大きかった。押し倒したくなる。これはもう押し倒してもいい案件よね。死に戻りしてよかった。こんな少年に大人の姿だったらさすがにヤバいやつだった。そういう堕落の仕方は、プライドが許さなかった、が今なら少年少女の一時の過ち。それにトーマスもキス待ちのセリフよね、これ。暗黙の了解で、この一連の流れをやったわよね。わかってるんだから。はぁはぁ。
 頭の中で自己弁護を完了した私は、座席から腰を浮かせる。
「あっ、もうすぐではないですか」
 中腰になった所で、トーマスが馬車の窓に張り付くようにして、外を眺め始める。
 行き場を失った欲情でどうしたらいいかわからず、しばらく中腰のまま、窓に張り付く無邪気なトーマスの背中を凝視するしかなかった。ちょっと待ってみたが、一向にこちらを振り返らないトーマス。悲しくなってしまい「……そうね」と静かに座席に腰かけた。
 なんだか力が抜けて、上半身が自立できず、思わず膝に肘を置いて体を支えるしかなかった。
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